今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

大学ランキング アジア1位のシンガポール国立大学:授業料無料の都市伝説と奨学金制度

THE アジア大学ランキング1位 シンガポール国立大学

イギリスのタイムズ・ハイアー・エデュケーション (THE) が、アジア大学ランキングを発表しました。3年連続1位を維持してきた東京大学が7位に転落し、代わってシンガポール国立大学 (National University of Singapore、地元ではNUS(えぬゆぅえす)と呼ばれる) が1位になりました。

本記事は長文なので、結論を先に提示しておくと、「シンガポールの国立大学での奨学金受領者は、国立大学学部生が14%、院生が30%(2001-2005年)。学生全員が無料ではない」というものになります
なお、シンガポール国立大学、通称NUSを"シンガポール大学"という人がいますが、シンガポール大学 (Singapore UniversityやUniversity of Singapore) は、現在は世の中に存在しません。1962年にマラヤ大学から分離した際に、"University of Singapore"と名乗っていた時代があります。その後1980年に、中華教育を行なっていたNanyang Universityと合併して、現在の名称になりました。NUSかシンガポール国立大学と呼びましょう。

3年連続1位の東大が7位に落ちたのは、他校の伸びより、ルール変更と自校の低迷

今年のランキング

今回のランキング100位の中から、1位から3位とアジア各国のトップ校を抜き出しました。
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日本より一人あたりGDPで上回るシンガポールと香港のトップ校が強いこと、国全体のGDPで日本より上回る中国が強い結果になっています。シンガポールと香港に加えて、アジア四小龍とも呼ばれていた韓国・台湾が、日本に迫ってきています。

東大の去年と今年の比較: 東大の失点

東大とシンガポール国立大学の比較

東大の去年と今年のスコア比較、また東大とシンガポール国立大学のスコア比較です。
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日本の大学の弱点として一般的に指摘される"国際観"ですが、確かにシンガポール国立大学より東大が圧倒的にスコアが低く、素点で65.9点も差をつけられています。しかし、今回の順位変動での、最も深刻な問題では実はありません。理由は傾斜配分後は、100%中で7.5%しか配分がなく、傾斜配分後ではシンガポール国立大学と4.9点の差はついています。しかしながら、東大は、1位だった去年と今年の傾斜配分後の比較では、"国際観"は0.2点しかスコアを落としていません。
東大が一位から転落した致命傷となったのは、学術論文などの"引用"で大幅にスコアを落としたことです。昨年から今年で13.8点も素点で低下しており、傾斜配分後は100%中で30%も配分があるため、シンガポール国立大学に5.6点もの差を付けられました。
同一の項目であるにもかかわらず、点数の大きな変動があったのは、素点の算出方法に変化があったためです。引用のソースが、去年のトムソンロイターから、エルゼビアのスコーパスに変わりました。また、スコーパスに変わったことで、英語刊行での引用の過大評価を減らす目的での修正が、ゆるやかになっています。
英語での引用の測定方法をゆるめたところ、東大のスコアが大幅に減少したということは、英語での引用が東大は弱かったと推定できます。
最後の指摘としては、東大は全スコア項目で、前年から素点で減点していることがあげられます。
これらが、1位から7位への凋落の原因です。

まとめ: 東大首位転落は"引用"スコアでの計測ルール変更が理由。
まとめ: 東大が国際観が弱いのは例年同様。配点が少ないため、これまでは他分野でカバーできていた。

シンガポール国立大学の都市伝説

日本人にとっての海外の大学は多くがそうであるように、シンガポール国立大学も日本人関係者がほとんどいません。そのため、関係者がエッジを効かせて一部分を切り取って出した記事(林哲矢氏)や、二次/三次情報を切り貼りしたまとめサイトなどを経由して、摩訶不思議なイメージが日本に出回っています。そのシンガポール国立大学の都市伝説を追ってみます。
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※写真はシンガポール国立大学。筆者撮影

シンガポール国立大学は学費や家賃がタダ?!

「シンガポール国立大学は授業料が無料」とは、一部のみが真実で大半が嘘です。対象が限定される事象なのに、無制限のような印象を与える「主語が大きい」表現です。
シンガポールは欧州の極一部の国にあるような大学学費無料の国ではないので、「大学は無料ではない」ですし、「シンガポール国立大学学生だからといって、学生全員が無料にはならない」が当たり前の結論です。特に先進国の日本人が優遇を受けるには各種条件をクリアする必要があります。

シンガポール国立大学の学費

シンガポール国立大学の1年間の授業料は、ここに記載があります。一部の学部を抜き出してみます。単位はシンガポールドルで、$1を80円 として換算します。
シンガポール国立大学 (NUS): Fees for Undergraduate Programmes

NUS学部と専攻 国民 永住者 学費減免留学生 減免なし留学生
人文社会、情報処理、工学、理学 $8,050 (64万円) $11,250 (90万円) $17,100 (137万円) $29,350 (235万円)
法律 $12,500 (100万円) $17,500 (140万円) $26,650 (213万円) $37,750 (302万円)
医学部医学科 $26,400 (211万円) $36,950 (296万円) $55,450 (444万円) $141,100 (1,128万円)

補助なし外国人の値段を、学費の"定価"と見てよいでしょう。
注目すべきは、

  • 噂は嘘っぱちで、学費はタダではない。
  • 国民と永住者と外国人とで学費が異なる
  • 外国人にも申請可能な政府の学費減免がある
  • 専攻で学費が異なる

ことです。専攻で学費が異なるのは、日本で国立大学では学費は一律ですが、私立大学で馴染みがあります。
学費は国民か永住者か外国人かで異なり、外国人は減免がなければ国民より3倍以上も高額です。これが減免を申請すれば、2倍前後にまで縮まりますが、それでも学費は外国人の方がはるかに高額です。社会福祉を提供する必要がない外国人の学費が、国民より高額になるというのは、割りと一般的に見られます。
シンガポール教育省が提供している学費減免制度は、Tuition Grant というものです。

  • シンガポール教育省 (MOE): TG online

Tuition Grant の受給資格は、

  • 対象校の学生
  • 永住者と外国人は、卒業後3年間のシンガポールでの就労義務があること

です。対象校は、シンガポール国立大学だけでなく、今回アジア2位にランクインしているナンヤン工科大学や、シンガポール経営大学といった国立校が対象で、大学以外でも日本の高専に相当するポリテクニク等も含まれます。シンガポールにおいて国立大 (local university) と私立大の違いは、政府が資本を出しているかどうかです(※脚注1)。資本が弱い私大と、政府が資本注入と学生補助をする国立大とへの評価は、教員・施設・学費の差に直結しており、国立大かそうでないかの格差は日本より遥かに大きいです。
Tuition Grantは対象校に在籍していると、減免額は異なりますが、申請さえすれば外国人も原則として受給できます。ハードルは対象校に入学できるかどうか、ということです。外国人受給者は、シンガポール教育省の発表(2014年)によると、ポリテクニクが6%で一学年あたり1,700人、大学では13%で2200人になります。予算規模では、外国人向けはS$2.1億 (168億円) で、高等教育予算の10%よりかは小さい程度とのことですが、相当な規模になっています。

大学院など更に進学したいTuition Grant受領留学生は、シンガポールでの就労を延期できます。年に平均250人が就労を延期させています。

制度としては、国民はTuition Grantを自動申請となり、学費の"定価"から減免を受けますが、就労などの義務がないので、義務がないまま権利を得られる仕組みです。
永住者と外国人には、卒業後3年間のシンガポールでの就労義務があります。就職先に政府の指定はなく、留学生が自分で就活して探す必要があります。逆に言うと、3年間シンガポールで働くだけで、学費の減免を受けられます。よって、対象大学の外国人学生も永住者学生も大半がTuition Grantを受けていると、シンガポール教育省は言っています(2011年)。途中で学業や卒業後の就労を中断すれば、受領したTuition Grantの金額から就業期間を減額した金額に10%の年間利息をつけたペナルティを払う必要があります。

まとめ: 国立大学の学生は政府の学費減免を受けられるが、国民・永住者・外国人で額が違う。
まとめ: 外国人が学費減免を受けると、卒業後3年間のシンガポールでの就労義務がある。
医学部進学のための誓約

シンガポール国立大学医学部医学科では、学費の"定価"との差額が、国民では年900万円にもなります。5年就学のため総額で4500万円にもなることから分かるように、相当な費用をかけて医師の養成が行われています。そのため、卒業後に、国民は5年間、永住者と外国人は6年間、シンガポール政府が指示する公務に就くことが入学の前提条件です。大半が医療業務です。この義務を途中で破棄すれば、ペナルティとして支払う必要があります。
「高等教育を受けた者が専業主ふになる是非」の議論があります。シンガポールでは有名校でも通常の学部であれば国民であれば国からの指針は特にありませんが、医学部のような政府助成が膨大なものであれば、ペナルティが明確に設定されています。

まとめ: 補助金が莫大なシンガポール国立大学医学部では、卒業後に5~6年間公務に就く義務がある。

日本では、政府が学生に直接減免する制度はなく、国民も外国人も学費は同額です。日本では、国民も外国人も学費は同額です。国籍条件が付かないような、政府から大学への交付金の構造になっている理由は不明ですが、シンガポールの学費減免の外国人は卒業後の3年間の就労義務があります。これは移民国家のシンガポールが、優秀な留学生を将来の国民候補と見ているからです。大学に4年間通い、その後3年間就労すれば、シンガポールに7年間滞在することになります。人生の1/3をシンガポールですごし、すっかり染められるわけです。しかも対象は、国立大学などに入学できる優秀な留学生ばかりですが、彼らの母国は近隣の発展途上国であることが多いです。アジアで最優秀の高等教育を受けられ、高給が稼げるシンガポールでの就労へも直結することは、近隣諸国の学生には極めて魅力的です。
シンガポールでも、最近は出生率低下から高齢化社会の進展が加速しています。これを防ぐために、移民の呼びこみを政府は決定しています。移民なら誰でも良いわけでなく、単純労働者ビザでは何年住んでも永住権の申請の権利がない国であり、社会福祉の対象になる可能性が小さく、国に貢献できると想定される人が、選別の上で歓迎されます。
uniunichan.hatenablog.com

本人の意志次第とはいえ、シンガポールの留学生は、母国に帰るより、経済的に豊かなシンガポールで永住権をとって、ゆくゆくは国民になるレールが敷かれているわけです。実際、シンガポールでの外国人奨学生は、8割以上がシンガポールに住み続けているとの国会答弁があります。

日本は移民国家ではないので、優秀な留学生→帰化、との一直線にはならないとは思いますが、国際関係での重要な人的リソース活用策として、シンガポールの留学生制度や米国のフルブライト奨学金から、学べることは多いと思われます。

まとめ: 移民国家シンガポールが外国人に学費減免を提供するのは、永住・帰化が狙い。

シンガポールでの国立大学留学生への奨学金

シンガポール国立大学の学費は無料ではない、ということが分かりました。また、シンガポール政府教育省の留学生用の減免を受けても、家賃タダどころか、外国人だと国民の2倍の学費です。それではネットの噂は、返還義務が無い奨学金を受けて学費負担が無くなるという意味でしょうか。
シンガポール国立大学での奨学金は、大学がここにまとめています。

※シンガポールで返還義務があるものは、優遇条件でも、奨学金でなくローンとして扱われます。

大学や各学部や政府や企業の大学外機関が出すものも含めて、多種多様な奨学金があります。その中でも「シンガポール国立大学は無料」という噂の出処と想定される大規模なシンガポール政府奨学金があります。ASEAN学部生奨学金です。
シンガポール国立大学 (NUS): ASEAN Undergraduate Scholarship (AUS)
シンガポール国籍を除くASEAN出身フルタイム学生はこの奨学金に応募可能です。シンガポール国立大学以外にも、ナンヤン工科大学や、シンガポール経営大学といった国立大学などでも、この奨学金の対象です。

まとめ: 政府奨学金の対象はシンガポール国立大学のみでない。国立大学生が対象だ。

近隣発展途上国から優秀な学生を青田刈りするシンガポール

シンガポールはASEAN (東南アジア諸国連合) の主要加盟国です。ASEAN加盟国は、

  • ブルネイ
  • カンボジア
  • インドネシア
  • ラオス
  • マレーシア
  • ミャンマー
  • フィリピン
  • シンガポール
  • タイ
  • ベトナム

であり、大半が発展途上国です。ASEAN学部生奨学金の受領は、卒業後3年間のシンガポールでの就業が必須なTuition Grantの申請が必須です。ASEAN学部生奨学金がASEAN出身者を対象にしているということは、近隣諸国からの優秀学生をシンガポールに吸い上げている構図があります。
奨学金は大学生のみでなく、中学1年生からもシンガポールでの留学を対象にしたものもあります。大学入学前からシンガポール政府奨学金を受けていた生徒の、シンガポールでの大学進学率は65%です。大学に進学しない35%は、高齢化社会に備えたポリテクニクでの看護師ではと私は想定しています。
シンガポール教育省 (MOE): ASEAN Scholarships
勿論、送り出し国にも、優秀な学生を金銭負担無しに先進国で鍛えられる、将来的に母国への送金や貢献を期待できるメリットもあり、また最終的に進路を決めるのは学生自身とはいえ、送り出し国には両刃の剣になっている側面もあります。

まとめ: シンガポール政府の奨学金は近隣諸国出身の優秀学生の青田刈りだ。

2001年から2005年と少し古いデータですが、奨学金受領の結論としては、奨学金受領者は学部生は全体の14%、院生では30%だと、シンガポール教育省は発表しています。さすがにデータが古く、特に院生は今ではこれより高いと思いますが、確認できる公式の値はこれになります。当然、奨学金によっては、生活費や母国への航空券付きの手厚いものから、学費の一部負担のみのものまで色々です。日本よりは返還義務なし奨学生が多いとしても、「シンガポール国立大学は無料」という言葉とは大きな乖離があります。
奨学金受領の学部生の1/3が国民、つまり2/3は外国人と永住者。奨学金受領の院生は1/4が国民、つまり3/4は外国人と永住者です。
当時は学部での奨学金スポンサーは、政府が35%、企業が54%、大学が11%。大学院での奨学金スポンサーは、政府が3%、企業が12%、大学院が79%、研究機関が6%でした。
2011年になっても、外国人留学生の35%がなんらかの奨学金を受領していると発表されています。65%はTuition Grantで減免を受けたとしても、国民よりはるかに高い学費を、自腹で払っている留学生たちだということです。
※奨学金受領率は国立大学全体での平均ですが、受領者がシンガポール国立大学生に偏っており有利であることは考えにくいです。2000年にシンガポール経営大学が国立大学の3校目として開校した直後の数字であるだけでなく、国立大学の2校目は今回アジア2位であったナンヤン工科大学であり、国内評価としての優劣は専攻によるからです。

まとめ:奨学金受領者は、国立大学学部生が14%、院生が30%。学生全員が無料ではない。
まとめ:国立大学留学生の35%は奨学金を受けており、65%は学費を自腹で払っている。留学生全員が無料ではない。

日本・シンガポール奨学金比較

日本にも外国人留学生への政府奨学金がありましたよね?

シンガポールでの留学生向け奨学金の話をすると、「日本でも外国人留学生への奨学金での大盤振る舞いがあったよね」という話になります。文部科学省の奨学金です。

これとASEAN学部生奨学金を比べてみましょう。

日本とシンガポールの政府奨学金比較
文部科学省奨学金 学部留学生(日本) ASEAN学部生奨学金(シンガポール)
人数 150名 (総数11,266人) 未公表(全ての政府奨学生の新規選出900人)
学費 免除 支給
語学教育 日本語1年間 なし
奨学金 月額11万7千円(年140.4万円) 年S$5,800 (年46万円)
その他 往復航空券、宿舎 なし
奨学金継続条件 なし 3.5/5(評価B)以上の成績
義務 なし 3年間のシンガポールでの就労

日本がシンガポールより手厚いのが分かります。
日本の文科省奨学金では、学費・宿舎・往復航空券が提供されるのが共通で、奨学金によって支給期間・奨学金金額・日本語教育期間が異なります。研究留学生(院生)や高専などを含め、総数で11,266人の留学生が奨学金を受けてます。
日本の文科省奨学金では一度奨学生になると期間を通しての支給が決まりますが、シンガポールの奨学金では支給継続に成績が条件になります。母国では最優秀だった学生でも、母国語での学習から、英語での学習に切り替わり、異国での暮らしになることから、B以上のグレードは楽々とはいきません。
学部の外国人留学生に付与されるシンガポール政府奨学金は、年に900名とのことです。付与の内容は、学費・住居費・生活費等であり、一人あたりの政府支出は平均S$2.5万と発表されています。

2014年の政府奨学金総額はS$3,652万 (約300億円) でした。教育省とNUS/NTUは、奨学生の卒業後の就労義務違反者に履行を促す不徹底があったとして、会計監査院に指摘されています。

次に、外国人留学生の政府予算を比べます。

外国人留学生向け政府予算 比較
日本政府 文部科学省 シンガポール政府 教育省
対象人数 19,336人 (*1) 推定17,500人 (*2)
予算額 242億円 推定240億円 (*3)

(*1) 11,266人(国費留学生) + 8,070人(留学生受け入れ促進) = 19,336人
(*2) {政府奨学金(900人×4学年) = 3,600人 + Tuition Grant 13,900人(ポリテク1,700人×3学年、大学2,200人×4学年)} = 17,500人 ※ポリテクには2年、大学には3年で卒業の専攻もあり、大学院の人数は不明
(*3) 168億円(Tuition Grant) + 72億円(奨学金:900人×4年×S$2.5万=S$9,000万) = 240億円
文部科学省: 平成28年度文部科学関係予算(案)主要事項

日本政府はシンガポール政府と同等の規模で、外国人留学生に支援をしています。シンガポールでは未公表の大学院留学生が加わると、シンガポールの規模が日本を上回るでしょう。GDPで日本はシンガポールの14倍(IMF 2015年)であることを考えると、シンガポールは相当積極的な予算を留学生に組んでいます。

高まる反移民感情「外国人留学生に金を使うより自国民の学費に!」

シンガポールでは、増え続ける移民に対して、2009年の経済危機(リーマンショック)以降、国民がアレルギーを示すようになってきています。シンガポールでは人口の1/3が外国人で、現在も増えています。しかし、2011年総選挙で与党は勝利しながらも得票率が低下する打撃をうけたことで、移民のビザ発給が厳格化され伸びはゆるやかになりました。このネガティブな感情は、留学生に対しても同様です。
uniunichan.hatenablog.com
留学生比率は、国立大学ごとの公式数値は不明です。(2018年2月16日追記:NUSの外国人学生比率は、2013年23.3%、2017年17.3%とToday紙にて報道されています)
シンガポール教育省によると2011年には当時3つしかない国立大学の平均として、外国人留学生が18%であり、同様に外国人ですが永住者は4%でした。外国人留学生比率が20%を超えないように調整しているとのことです。

東大の留学生比率は、学部で2.4%、大学院で19.4%、研究所で38.9%、総計で10.9%とのことです。

野党からの批判

非選挙区選出議員 (NCMP) を以前務めていた元野党議員は「second upper class honours以上の成績の外国人奨学生は68%、学生全体では38%なのでそれより高いと政府は言う。しかし、外国人奨学生は人数が多く、シンガポール人向け政府奨学金PSCはsecond upper class honours以上が97%と比べると、成績が十分ではない」「外国人奨学生受け入れには反対しないが、シンガポールの大学は世界水準になったにもかかわらず、奨学生受け入れ基準が低すぎる」と自身の国会質疑に基づいて主張しています。
Yee Jenn Jong: Time to review our scholarship framework for international students

シンガポールでの自国民への政府奨学金

シンガポールで国民が外国人奨学生に反発するのは、言うまでもなく、自国民の教育環境と比べているからです。シンガポールでの国民への奨学金は、人数が少数限定された、シンガポールらしいエリート主義あふれるものです。シンガポールで国民への政府奨学金と呼ばれるものは、各省庁が提供しているものや公務員局 (PSC) が提供しているものがあり、その中でも最高峰のものがPSC奨学金の一部である大統領奨学金 (President's Scholarship) です。PSCの対象になると、氏名・出身校・進学先と専攻が公表され、大統領奨学生は地元ニュースでも大きく報道されます。2015年はPSC奨学生は75名大統領奨学生は4名でした。大統領奨学生はシンガポールの各界でのトップリーダーへの登竜門です。
勿論、義務 (bond) があります。シンガポールを含めた留学国によって異なる卒業後4年から6年の官僚としての就業義務です。これは、官僚に興味があればまたとない出世コースですし、興味がなければ応募をためらわせます。公務には軍役も含まれますが、応募時にジャンルの希望があるので、軍役を希望するものしか軍役に配属になりません。外国人奨学金は周辺国の優秀生をシンガポールに吸い上げる仕組みですが、国民向け政府奨学金は自国民の優秀者を官僚に吸い上げる仕組みということです。また、永住者もPSC奨学生に応募可能ですが、支給が決まった段階で、国民に帰化することが受領の前提となります。外国人は応募不可です。

PSCに加えシンガポールの各省庁が独自で出す奨学金もあるとはいえ、国民への奨学生の人数は、外国人奨学生の900人には及びません。先ほど、紹介したように、「奨学金受領の学部生の1/3が国民、つまり2/3は外国人と永住者。奨学金受領の院生は1/4が国民、つまり3/4は外国人と永住者です」。

まとめ: 国民向け政府奨学金は自国民の優秀者を官僚に吸い上げる仕組み

外国人奨学金は社会福祉でない、国家の戦略投資だ

シンガポール政府は国会答弁で留学生向け政府奨学金の狙いとして以下をあげています。

  1. 地域の相互理解
  2. 地域の親善
  3. ダイバシティ (異文化スキル)
  4. 出生率低下での労働力確保

地域の相互理解や親善というのは、確かにそうでしょう。その一方で、日本では正面から論じられない、移民政策であることがシンガポールでは述べられています。

シンガポール政府の留学生奨学金の狙い

ここまでの環境の差になると、国民が奨学金の違いに怒るのは一見合理的に見えるかもしれません。ところが、自国民への政府奨学金と、留学生への政府奨学金は、同じ奨学金でも趣旨が違います。自国民への政府奨学金は、将来シンガポール政府を担っていくエリート養成であり、学費減免は社会福祉です。ところが、留学生への政府奨学金や学費減免は、少子高齢化対策であり外国人タレントハントという戦略投資の位置づけが強まります。
周辺発展途上国からシンガポールに留学するには、大半が奨学金無しでは経済的に無理なことは自明です。奨学金は一般的に2つのポリシーがあります。メリットとニーズです。メリットは優秀な学生に対して給付するもの、ニーズは就学基準を満たしているが経済的支援無しでの就学が困難な学生に給付されるものです。米国ではニーズの奨学金は外国人が原則適応除外ですが、シンガポールのASEAN学部生奨学は、外国人対象でありながらニーズの意味合いが強いです。その一方、シンガポールの政府奨学金はメリットです。この理解を持つと、シンガポールの野党議員の主張は、「これまでニーズだった留学生奨学金をメリットにすべき」という趣旨だと解釈できます。恐らく彼にとっては、フルブライト奨学金のような制度が好ましいのでしょう。
奨学金議論で「同じ財源なら外国人より自国民に給付しろ」という直感的な主張は実はズレています。留学生奨学金を外国人への社会福祉と誤認しているためです。シンガポール政府が歓迎する議論と思われるのは、「移民政策としてどんな人物を歓迎するのか」「どんな留学生に対して幾らまでなら国は学費などを投資すべきか」「成人するまでに留学生として生活をすることでシンガポールに溶け込むチャンスがあるのに、それを逃して社会人からの移民のみに頼ってよいのか」ということでしょう。
同様に日本の奨学金議論に必要なのは、「続けるのであれば奨学生に何を期待するのか」、「続けないのであれば奨学生への投資無しでそれが代替できるのか、そもそも不要なのか」のはずです(シンガポールでは目的はタレントハントであり留学生の帰化なのは明確で、目的すらあいまいな日本の留学生奨学金は批難されるべきです)。

まとめ: シンガポールの留学生奨学金は社会福祉ではない。移民政策の対外戦略投資だ。
日本の外国人留学生への政府奨学金は戦後補償が原点

シンガポールが明確に優秀な移民候補のタレントハントを目標としており、実績も上げていることを考えると、日本は政府奨学金を60年間もしていますが、お金をばらまいて終了に見えてきます。日本の政府奨学金は戦後補償が出発点ですが、具体的な成果を何にしているのか、何をもって外国人奨学生への成果として測っているのかはあいまいです。文部科学省の「国費外国人留学生制度実施要項」を見ても、制度の目的が書いていません。
独立行政法人 日本学生支援機構 (JASSO) が帰国外国人留学生へのフォローアップをやっていますが、例えば日系企業が海外進出する際に元奨学生から話を聞くであるとか、日系企業の現地幹部として活躍している、海外企業が日本進出に際し在日法人幹部となり日本人を雇用している、各国政府の知日派として日本とつないでいる、という話はまれだと思われます。せめて、各国奨学生出身の政財界著名人の公開や、連絡先開示依頼のとりつぎなどは、即座にできるはずです。米国フルブライト奨学生は、一生フルブライターとして貢献し、それを誇りにしています。
インターネットを中心に、日本の政府奨学金が叩かれていることを目にすることが多くなりました。目標と成果を公開しての活動をしていかないと、反発から規模や給付内容の修正は避けられなくなるでしょう。

シンガポール国立大学 と シンガポール教育 よもやま話

実は、日本人の一部界隈で既にシンガポール国立大学ブーム

日本人の一部界隈ではシンガポール国立大学は既にブームです。大学ランキングで上位なだけでなく、シンガポールという国が最近脚光を浴びており、「シンガポール"国立大学"」という日本人にとっての学校名のとおりの良さも大きな要因でしょう。
これを分かりやすく示すのが、シンガポール国立大学のMBAでの、日本人学生数です。フルタイム学生100人中、日本人学生数は15%前後を占めています。これは地元のシンガポール人(8%)の倍近いのです。知名度がある留学先の中で、日本人占有率が最多な専攻の可能性が高いです。その一方で、同じシンガポールにあるナンヤン工科大学は、THE大学アジアランキングで今回2位、Financial TimesのMBAランキング(29位)ではシンガポール国立大学(32位)と例年接戦しながらも今年は高ランクですが、日本人MBA学生数は2名~6名前後にとどまっています。
しかしながら、交換留学生でなく、シンガポール国立大学に学部から入学する日本人が増えている、ということは私は確認していません。日本人の学部入学者は、例年数人前後しかいないはずです。日本人の高校生で、シンガポール国立大学に入学できるのであれば、米英有名大に入学できるからでしょう。学部生で入学できる人達は、生まれや育ちがシンガポールが大半で、日本人とシンガポール人ハーフが多いです。

「学費・家賃タダ」という記事はなんなのでしょう?

シンガポール国立大学で学費は無料ではありません。返還義務なしの奨学金を取る難易度は、

  • 大学名 (有名校であれば奨学金の選択肢が多い)
  • 学生の優秀さ (メリットでは優秀である必要あり、ニーズでは入学できればほぼ無関係)
  • 学生の経済事情 (メリットではほぼ無関係、ニーズでは困窮家庭であれば有利)
  • 学部か院か (企業の寄付が集まりやすく教員の手足にもなる院が有利)
  • 専攻 (企業の寄付が集まりやすい実学系が有利)
  • 出身国 (特定出身国を対象にした奨学金あり)

などによって大きく変わります。ニーズでとれるか、メリットでとれるかです。企業の寄付がつきやすい専攻の院であれば、「学費を払っている学生はほとんどいない」という状況にシンガポールではなります。
シンガポール国立大学に在籍していた人が書いた記事は、シンガポール国立大学の一般的な内容ではなく、彼が所属した大学院の専攻での、記事の筆者の身の回りに限定される話です。「留学生の半分が奨学金を受けている」のはリー・クアンユー公共政策大学院だとそうなのかもしれませんが、繰り返しですが、奨学金受領率は、国立大学の留学生は35%であって、学部生(国民と外国人)では14%です。
なにより、リー・クアンユー公共政策大学院は、シンガポールの国立大学の中でも31年間首相であったリー・クアンユー初代首相の名前を持つことからも分かるように、シンガポールの中でも特殊で恵まれた専攻です。リー・クアンユー氏の名前が付いている学校に奨学金を出す、というのはシンガポールとビジネスをする企業にとってステータスとなることは間違いありません。理系やMBAと比べると卒業後の就職が困難な公共政策大学院は、各国政府からの国費留学生(つまり卒業後の就職先と学費が確保)がいなければ、学生を集めることが大変な専攻の一つです。シンガポール国立大学はリー・クアンユー初代首相の名前をつけるという国策に即して、私費学生確保のために奨学金をまいています。
ASEANでもない先進国出身者の日本人が、シンガポールで奨学金をとるのは難易度が高いです。ニーズでの奨学金が適応外だからです。シンガポール国立大学に在籍していた記事を書いた方が奨学金をとれたのは、その方が優秀だから、というのと、メリットベースで奨学金をとるのに敷居が低い専攻の院だから、ということに尽きます。

世界遺産の中にキャンパスがあって風光明媚なんですね

嘘です。
シンガポール国立大学にはキャンパスが3つあります。ケントリッジ、ブキティマ、オートラムです。世界遺産ボタニックガーデン近くのブキティマキャンパスにあるのは法学部とリー・クアン公共政策大学院であって、シンガポール国立大学のメインキャンパス(ケントリッジ)はそこからMRT地下鉄で30分以上かかります。
また、世界遺産ボタニックガーデンと隣接です。世界遺産の中ではありません。
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※写真はケントリッジキャンパスを走る大学の無料バス。キャンパスは広大なので、バスに乗らないと移動が大変です。筆者撮影。

シンガポールでの大学への評価は給与格差

シンガポール内での大学評価は、日本のような入学時の偏差値ではありません。評価は卒業生の給与でされています。
■国民: 新卒学生給与

教育機関名 (日本の類似教育機関) 月給の平均/中央値
ITE 商業工業高校 平均$1646 (14万円)
ポリテクニク 高専 中央値$2100 (18万円)
SIM (最大手私立大学) 平均$2500 (21万円)
国立三大学 (NUS/NTU/SMU) 平均$3468 (29万円)
シンガポールの大学専攻での給与格差

日本でも文学部や社会学部の大学院に進学すると就職に困ることはよく知られていますが、シンガポールではそれが学部からになります。日本は新卒の採用にはポテンシャル専攻をするため、何を専攻し何を大学で学んだかは、それほど評価されません。しかし、シンガポールでは、専攻で専門知識を身につけ、それを活かせるインターンシップ先を探し、大学の成績で有名企業からは足切りを受け、インターンを業務経験として見せることが、新卒が仕事を得る王道です。業務に結びつかない専攻は不利なのです。
シンガポールでは教育省が、学部で各専攻の卒業生の新卒給与と就職率を公開しています。これが採用企業からの大学および専攻への評価です。日本人が初めて聞くであろう3校目の国立大学であるシンガポール経営大学が高く評価されていることが分かります。地元での評価と、グローバルの評価は異なるのです。

順位 大学 専攻 卒業者の平均月給 日本円換算($1=80円)
1位 シンガポール経営大学 法律 (Cum Laude以上) $5,313 ¥425,040
2位 シンガポール経営大学 法律 $4,997 ¥399,760
3位 シンガポール国立大学 法律 (L.L.B)(Hons) $4,910 ¥392,800
4位 シンガポール国立大学 医学部医学科 $4,729 ¥378,320
5位 ナンヤン工科大学 会計ビジネス $4,438 ¥355,040
6位 ナンヤン工科大学 ビジネスコンピューティング $4,395 ¥351,600
7位 シンガポール経営大学 経済 (Cum Laude以上) $4,380 ¥350,400
8位 シンガポール国立大学 経営管理 (Hons) $4,326 ¥346,080
9位 シンガポール国立大学 コンピューター工学 $4,252 ¥340,160
10位 シンガポール経営大学 経営管理 (Cum Laude以上) $4,130 ¥330,400
シンガポール国立大学って「日本の東大」でエリートなんですよね
シンガポール国立大学って、東大と比べると学生の質が大したことない

どちらも印象論で的外れです。シンガポールで「NUS卒業です」と言われても「おぉ、すごいですね」とはならないです。かといって、シンガポール在住の一部日本人にいるような「NUSは大したことがない」も極端です。
まず、シンガポールで最優秀層は政府奨学金で海外に行くことが多いです。そのため、地元の国立大学には進学しません。しかし、近年では政府就職への義務を嫌って、政府奨学金を断って地元の国立大学進学も増えてきました。
ですが、往々にしてシンガポールにいる日系企業の駐在員で「NUS、大したことない」と愚痴をこぼしているのは、日系企業を優秀な学生が職場として選ばないからで、それはシンガポール国立大学の問題である以上に、職場の問題です。そのため、政府奨学生クラスの人材とは(たとえ政府奨学生クラスの人材がシンガポール国立大学に進学していても)日系企業は元から縁がないので、関係ありません。
uniunichan.hatenablog.com
政府奨学金の最上位層を除いて考えると、シンガポールでは優秀層はシンガポール国立大学に集中しておらず、大学序列化は専攻によっては多少ありますが、大学間での明確な序列化はありません。優秀層はナンヤン工科大学とシンガポール経営大学にも分かれます。日本のように大学名をきけば序列が分かる、というものでは、シンガポールはありません。
日本の学生とシンガポールの受験競争をする母集団が異なりますが、比較にはPISAがあげられます。15歳を対象にしたPISA試験結果で、数学・科学・読解の全分野で、日本はシンガポールに成績が劣っています。日本の大学序列の偏差値は、入学時の難易度に過ぎず、肝心の在学中の習得や研究等を反映していないことが致命的です。

院生は中国人ばかり

はい、ご指摘通りです。米英の院も似たような学生の構造です。
シンガポールでは日本のように「理系だったら修士までいきたい」であるとか「院に進学して学歴ロンダリング」「就活失敗したから院」というような進学動機はありません。研究者志向の人を除いて、仕事を得るためには学部の学歴で通常は十分です。
結果として、自国民より、中国やインドから院生はスカウトすることになります。

留学生や外国人教員を金で買ってる

はい、ご指摘通りです。それがクリエイティブクラスに必要なダイバシティと優秀層の流入につながっています。大学ランキングでも、国際観の上昇に直接寄与しています。

シンガポールは詰め込み教育

トップ校にガリ勉せずに入れる国があると聞いたことがないです。日本の授業より、生徒・学生と教師とでインタラクティブです。
学校の勉強など特にせずとも、好きなことをやってるだけで、受験ぐらいらくらく超えられるのは日本のトップ校の学生でも限定的です。
シンガポールでは詰め込み教育批判に対応するために、国際バカロレア (IB) を地元校に導入したところ、45点満点で世界平均が29.94点のところ、41.3点をとるACS (International)という学校があらわれました。ACSは以前からの地元のトップ校です。
uniunichan.hatenablog.com

ランキング対策してずるい

はい、シンガポールの大学はランキングは相当意識しています。
日本の大学も、系列校進学・推薦入試・科目減入試と国内基準の偏差値対策を頑張っているので、世界大学ランキングでも同じように徹底対策をとる大学があらわれることを期待します。

シンガポール国立大学からノーベル賞とってないじゃないですか

はい、シンガポールからノーベル賞受賞者はいません。THEランキングでノーベル賞の数は基準ではないので、今のような結果になっています。

※脚注1:私大のUniSIMもTuition Grant対象ですが、フルタイムで仕事を持つ(つまりパートタイム学生)か2年の社会人経験がある国民・永住者に限定されます。UniSIMへのTuition Grantでの趣旨は、社会人の学士取得支援なためです。またUniSIMは私大でありながら、政府資本を受けるシンガポールで最初の大学です。


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シンガポールで外国人の副業は違法就労にも:日本人ブロガー/YouTuberの営利は困難

シンガポールの最有力紙Strait Timesで、「ブロガーは物品やサービス受領の確定申告が必要というIRAS(内国歳入庁)通知がシンガポール著名ブロガーに届けられた」という記事が出ました。IRASは日本での国税庁に相当します。私の抄訳を付けます。

香港へのスポンサー提供の旅行、試食会への家族や友人への招待、最新の美容器具のパッケージ。これらは、ブロガーや"SNSで影響を持つ人"が製品に言及するために企業からしばしば受け取るものの例だ。現在、そういった"金銭以外の利益"も来月までに収入として宣言すべきだと、税務当局は指摘した。
「スポンサーの製品を書いたり批評したりすることと引き換えに、何かしらの製品やサービスを提供することは課税対象になりうる」とIRASは今月初めにブロガーに書面にて通知した。(略)
人気ブロガーの Xiaxue は「値段をつけるのが難しい物がある。もし誰かが私に口紅をくれれば、私はコストを調べて申告する必要があるわけ?」(略)
IRASによると、そのような義務は自営業者へのものと類似だし、これまでも存在してきたとしている。
たとえば、もしある人の家族や友人が4人分の食事に招かれれば、そのライターやレビュアーは課税所得において市価を申告する必要がある。しかしながら、収入を稼ぐ過程で発生した費用はブロガーは経費になる。
例えば、レビュアーが受け取った口紅が、記述への唯一の支払いだとすると、口紅は課税対象になる。しかし、金銭で支払われていれば、口紅は課税されない。この場合、口紅取得にかかった費用は経費にならない。経費になるのは、会計処理手数料や広告費だけである。(略)

市場でどれだけ売られるかで、製品とサービスの課税価格は決定されると、会計士は言う。もし非売品であれば、被課税者は類似商品の価値を報告するが、主観的になる。
収入の未申告や不正確な申告は違法だ。IRASは、税の過小支払いに最低200%の追徴課税を行い、脱税や詐欺になると未払いの最大400%を追徴課税とする。

今回、IRASから税での警告が出る以前から、シンガポール在住日本人ブロガーで、収入を得ることができる人は限られています。就労ビザの問題があるからです。シンガポール在住外国人は、以下の問題が発生します。

  • 就労ビザ: 労働省MOM
  • 税金: 国税庁IRAS

シンガポール人は就労ビザの問題はありませんが、日本人は両方共にクリアする必要があります。しかし、就労ビザの条件を満たさない在住日本人が大半です。
なお、本記事はYouTuberにも当てはまります。

就労ビザ

PRのブロガー

就労ビザの扱いは滞在許可が永住権 (PR) かそれ以外かで大きく別れます。PRは就労許可のジョーカーです。PRを所持している限り、別途各業種に必要なライセンスがある場合を除き、どんな仕事にでもつけますし、自営もできますし、副業も可能です。つまりPRにはシンガポール国民と同じ労働の自由があります。
PR所持者は、営利活動としてブロガーをするのも問題ありません。

PR以外のブロガー (DP, EP, S Pass)

シンガポールの就労ビザ (EP, S Pass, WP)で副業は不可です。就労ビザ申請時に申請した雇用主のもとでのみ、働くことができます。
MOM: Can a work pass holder work in multiple jobs?
シンガポールでは、給与が発生しない無報酬でも、外国人が適切な就労許可(ビザ)無しに労働をすれば違法就労です。

PART IV - DECLARATION BY APPLICANT
I further undertake not to be engaged in any form of employment or in any business, profession or occupation in Singapore whether paid or unpaid, without a valid work pass issued under the Employment of Foreign Manpower Act (Cap. 91A).

PR以外で滞在するブロガー(DP, EP, S Pass)は、趣味やボランティアとしてのみブログを楽しみましょう。ブログを書いたことで、金銭や物品やサービスの提供や割引を受け取ることは、違法就労になります。
※就労ビザの一つのPEPは役員でなければ副業ができますが、それでもブロガーにはなれません。以下に抵触するためです。
You are not eligible for the PEP if you are:
- A freelancer or foreigner who intends to work on a freelance-basis.
- A journalist, editor, sub-editor or producer.
MOM: PEP: Eligibility and requirements for Personalised Employment Pass

シンガポールにおける違法就労

無報酬でも違法就労となる典型的な行為は、インターンシップです。
uniunichan.hatenablog.com

If you are holding a Student Pass, you are not allowed to work in Singapore during your term or vacation unless you are granted a work pass exemption. (略)
If you are a foreign student or trainee coming to Singapore under a training attachment programme, you should be holding a Training Work Permit, a Training Employment Pass, or be in the Work Holiday Programme. It is an offence for a foreign student to work in Singapore without a valid work pass.

外国人が無償でもインターンシップ(という名称での労働)をするには、PR(永住権)、ワーホリビザ、学生ビザ、TEP(Training Employment Pass)等が必要になります。各ビザの無報酬労働の条件を書きます。

シンガポールで無報酬労働が許されるビザと労働条件
  • PR: 条件なし
  • ワーホリ: 条件なし。ただし取得には、期間が半年のみ、25歳以下、最大ビザ発行数が2,000。世界ランキング200位未満の大学在籍か卒業でない場合、ビザが発行されるかどうかは運。
  • Student's Pass: MOM指定校に本籍がある在籍者のみ。交換留学生は不可、語学学校は指定校にならない。学期中の労働は週に最大16時間。休暇中は労働時間制限無し。
  • Training EP: 学校授業の一貫、在籍が著名校、シンガポールの著名企業がスポンサーであること。期間は最大3ヶ月

労働と、労働許可が不要な趣味やボランティアの境目があいまいなケースはありますが、報酬を得れば労働と判定されます。

ボランティアには労働許可が必要でしょうか?
いいえ。ボランティアに労働許可は不要です。就労関係や金銭の支払いがないことが条件になります。
例えば、金銭の支払いを受けていなければ、学校や慈善団体でボランティアをできます。

つまり、

  • 報酬を得て就労ビザ無しで活動: 違法就労
  • 報酬を得ず就労ビザ無しで活動: 内容により違法就労とMOMがみなすものがある

労働と、趣味やボランティアとの線引が微妙なケースがあります。例はフリーマーケットやガレージセールでの販売です。違法就労可どうかの最終的な判断は、MOMによります。

例1 原材料費は個人の負担の元に、個人で作った食品や民芸品をバザーで販売した。売上はすべて慈善団体に寄付した。 ボランティア/趣味
例2 個人で作った食品や民芸品、他所で仕入れた商品を定期的に販売した。利益を含む売上は打ち上げで使った(利益は収入とした)。 違法就労
例3 個人で作った食品や民芸品をバザーで販売した。経費は製作者が売上からとり、売上との差分の利益は慈善団体に寄付した。 違法就労
例4 引越しのため不要品をガレージセールで販売した。購入金額より売上が安価だった(赤字)。売上は新居での物品購入に充てた(売上は収入とした)。 違法就労???

例3は、微妙なケースに見えなくもないですが、MOM基準では違法就労です。理由はFAQでのMOM記述によると、金銭の受領があればボランティアではなく、例3では、経費でも少額でも、金銭を受領しているためです。誤解を避けたければ、ボランティアでは経費を含めて、自分の負担で実施する必要がある、ということです。

例4は、MOMが大っぴらに判断を表明したくないケースのはずです。就労関係はなく、利益もあげておらず、悪質性が無く、一般的にも行われていますが、金銭のやり取りがあるのに着目すると違法就労というなかなかに厳しい判断になります。

なお、学生へのインターンシップではなく、従業員をシンガポールでOJTさせるには、就労許可が必要です。
If you take up any on-the-job training, you require a work pass.

PR以外は副業不可、就労許可がなければ労働不可

EPとS Passの就労許可は、MOMに申請した雇用主の勤務地での申請職種のみです。複数の勤務先にMOMがEPを発給していることを、現在では確認できません。そのためEPでは副業できません。
MOM: Employment Pass Application Form (For Sponsorship cases)

DPはLOC (Letter of Consent)を勤務予定先経由でMOMから取得すると、勤労可能になります。しかし、ブロガーを含めフリーランス(Sole Proprietorship等)や自営へのLOC発行は、現在確認できません(2021年3月11日追記: MOMがDPの自営LOC基準を発表したので、これを活用できる人がでてくるかもしれません)。LOCは複数発行されませんので、副業できません。
※取得者は少数ですが、PRの他に、PEP(役員不可)、ワーホリビザ、Student's Passでは副業可能です。なお先述したように、ブロガーはPEPの対象外職種のため、できません。
※PRのような適切な就労許可を取得したとしても、自宅コンドでの事業は都市開発庁URAからの規制があります。

出張者の入国目的は「ビジネス」なのか

労働許可がなければ就業(副業)できないのは、従業員としての勤務のみならず、役員としての会社経営、お教室、企画旅行、家庭教師など労働に関する全部です。
シンガポールに入国する時に、入管で「シンガポールに何をしに来たのか?」と聞かれた際に、「ビジネス」と出張者が答えるのはもめる可能性があります。「会議への参加」などと適切に答える必要があります。
シンガポールでは就労ビザが不要な業務を明記しています。ここに無い行為へは就労ビザが必要です。
就労ビザが不要で、MOMに事前通知も不要な行為

  • 社内会議、ビジネスパートナーとの会議の参加
  • スタディツアー、研修、セミナーへの受講者としての参加
  • ビジターとしてのトレードショー参加

就労ビザが不要だが、MOMに事前通知が必要な行為 (一部のみを抜粋)

  • 展示会の主催者 (展示会期中に限った情報提供、販売)
  • ジャーナリスト (政府や公的機関が主催するイベントへの取材)
  • セミナー、カンファレンス、ワークショップでのスピーカー、司会、トレーナー
  • MOM: Eligible activities for a work pass exemption

シンガポールでの社内会議にでた後に、ホテルで出張者が日本業務に指示を出すのは、厳密には違法就労ですが実際には幾らなんでもおとがめにならないはずです。問題になるのは、シンガポールに新規オープンした店舗のヘルプを、日本からの出張者が就労ビザ無しでするケース等です。

税金

今回のIRASの発表は、「金銭でなく物品やサービスでも収入は収入。この規則は以前から存在していたが、ブロガーが適切な申告をすることが無かったので、改めて周知した」、という趣旨です。
原文を参照頂きたいのですが、主要点をまとめました。

  • ブログやSNS(Facebook/Twitter/Instagram/YouTubeなど)で金銭や物品やサービスを得た場合、課税対象で申告が必要
  • 以下の2つを共に満たせば、課税申告から免除となる
    • 製品やサービス提供が、一度の消費やテストのために、単発で提供される
    • 製品やサービスの価値が$100を超えない
      • つまり$100未満でも複数回発生するようなものは申告対象。例: 雑誌の複数回購読、鞄(一度で消費できない)の提供は、$100未満でも申告対象
  • 利益が年$6,000を超えれば、自営収入として申告が必要。
      • 契約やサインがなくても、利益供与を受ければ、申告対象。
  • 認められる経費がある。
  • IRAS: Income Received from Blogging, Advertising & other Activities Performed on Social Media Platforms

このIRASは金銭以外の、物品やサービス提供にしぼって記載されています。広告主からの金銭報酬や、Google AdWordsといったアフィリエイトなどの金銭収入は、これまでもこれからも申告が必要です。

※注: 日本に納税するかどうかの判断については、本記事の範囲としません。
(参考) 国税庁: 非居住者に対する課税

結局、日本人ブロガーは、どうすればよいのか

  1. 金銭や物品サービス提供を受けていない趣味のブロガーは、今後も何の問題もなく続けられます。
  2. 金銭や物品サービス提供を受けている営利のブロガーは、違法就労ですので、活動を止めるか、無報酬に切り替えましょう。それかPR取得など、適切な就労資格を満たしましょう。
  3. ブロガーでなくても、EP/S Passでの副業や、LOCを持たないDPでの労働は違法です。止めましょう。
  4. PRなど、就労資格を満たしているブロガーは、年$6,000以上の利益があれば、税務申告しましょう。$6,000未満であれば税務申告は不要です。

FAQ: 副業でのよくある質問

堂々と副業してる日本人EP、自営しているDP。有名人も含め結構見かけますが?

PRでなければ、まず違法就労です。単に通報されておらず、MOMが摘発していないだけです。堂々としているのは、違法なのを知らない、勤務先から副業は問題ないとの回答を得たが外国人を対象にした回答をしていない、ビザを適切に理解していない(間違ったアドバイスを得ている)、他に同じことをやっている人を知っているので自分が摘発されると思っていない、からです。つまり、知識に問題があるか、間違った人を頼っているか、倫理観に問題があります。
MOMとIRASは通常は連携をとっていません。そのため、IRASでの税の問題と、MOMの労務問題は別々に扱われることが多く、MOMは通報がなければ特定事案以外はプロアクティブにチェックしません。
EPでは、EP申請時に申請した勤務先での就労のみが許可されています。勤務先は IC (EPカード)に記載されています。複数の勤務先には、それぞれにEP申請が必要ですが、現在MOMではEPの複数発行をしていません。
DPでは、MOMがLOCを個人事業主やフリーランスに対して出す話しはかつてはありましたが、現在は本当にLOCが発行されているとの事例を確認できません。法人をたてて、資本金を積んで、EPへの切り替えが必要です。
ですので、現在、副業にはEP/S Pass/DPでは無理です。従業員の副業であればPEPかPR、自営の副業であればPRの取得が選択肢になります。
なお、外務省海外在留邦人数調査統計によると、シンガポールに日本人の永住権保持者は、わずか2,250人しかいません。これは男女子ども老人をいれた全ての人数です。そして、シンガポールで日本人永住権保持者の多くは、以前詳述したように、現地でシンガポール人男性と結婚した女性です

永住者本人男性 234人
永住者本人女性 701人
永住者同居家族男性 706人
永住者同居家族女性 609人
IRASは「年$6,000以下のブログ収入は"趣味"」と書いているので、労働ではなく、外国人もできるのでは?

IRAS文書の誤読です。そんなことは書いていません。「ブログ活動は収入がなければ趣味」、「$6,000以上の純利益があれば税申告必要」というのが内容です。下記に私の訳を付けます。

a) 私は情熱からあるいは趣味として書き物をしており、書き物から多くの収入は得ていません。しかしながら、スポンサーから商品を受け取ることがあります。業務やビジネスをしているとみなされますか?
回答: 一般的に趣味としてのブログはビジネスとみなされません。しかしながら、もしブログ活動が金銭や金銭でない利益との交換で、繰り返し習慣的に行われており、毎年の純利益が$6,000を超えていれば、自営収入としてブログ活動利益を申告する必要があります。
a) I am writing out of passion/as a hobby and do not receive much income from it. However, I receive sponsorship products occasionally. Am I considered to be carrying on a trade or business?
Answer: In general, blogging as a hobby is not considered a business. However if blogging activities are performed repeatedly or habitually in exchange for monetary and non-monetary benefits such that the annual net business income earned is more
than $6,000, this income should be declared as self-employed income.

外国人は、Employment of Foreign Manpower Actを満たさなければ、MOMで摘発されるのでご注意を。

シンガポールでヤラセやステマは違法ではないのか?

日本では、広告主がいることを隠して記事にしたりネットに記載する、ヤラセやステマ(ステルスマーケティング)は違法とされています。不当景品類及び不当表示防止法の優良誤認に該当するためです。
シンガポールでは、違法性を私はこれまで聞いたことがなく、ブロガーと広告主の倫理上の問題の範囲と私は認識しています。


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シンガポールの湯の森温泉:「水道水を沸かした風呂」と記事にしたNHK

2016年5月、シンガポールのスポーツハブ内にあるショッピングモール、カランウェーブモールに"湯の森温泉&スパ"が開業しました。公式サイトによると『湯の森温泉では様々な温泉のタイプを御用意させて頂いております』とのことです。英文表記でもOnsenを利用しています。

  • 住所: Kallang Wave Mall 397628(1 Stadium Place #02-17/18)
  • 営業時間: 10時~23時
  • 利用料金: 大人 = S$38 (GST別途)、子どもと65歳以上 = S$28 (GST別途)
  • 公式サイト: http://www.yunomorionsen.com/2015/sg/

"温泉"と名前が付いているのに、驚く人もいるはずです。シンガポールで地中から湧き出る温泉は、空軍基地内にあるセンバワン温泉しか知られていないからです。

センバワン温泉は(略)、シンガポール本島におけるただ一つの天然温泉 (hot spring) であり、明らかな治療特性で人気がある。
The Sembawang Hot Spring lies off Gambas Avenue near the junction of Sembawang Road and Gambas Avenue, along Jalan Ulu Sembawang. It is the mainland's only natural hot spring and is popular for its apparent curative properties.

(参考) GOTRIP!: 都市国家シンガポールにある唯一の「天然露天風呂」センバワン温泉

シンガポール政府資料では、センバワンがシンガポール本島で唯一の温泉と明記されています。それでは、この湯の森温泉が、センバワンからお湯を輸送しているのか、あるいは他の場所から輸送しているのかというと、湯の森温泉の公式サイトには、関係する記述はありません。

NHK「水道水を沸かした風呂」

日本のNHKがこの湯の森温泉を報道しています。NHKなので、湯の森温泉とは記事中に明記ありませんが、榎川雄也支配人の名前から、湯の森温泉の記事と断定できます。

施設内には水道水を沸かした湯加減などが異なる6つの風呂が設けられ、浴衣の無料貸し出しのサービスがあり、大人1人、日本円にしておよそ3000円で日本の温泉文化を気軽に楽しむことができます。このほか、レストランやマッサージのコーナーもあって、いわゆる「スーパー銭湯」のような趣です。

NHKでは『水道水を沸かした風呂』と書いています。お湯の源は水道と明記されています。
NHK記事には温泉という言葉がでてきていますが、温泉"文化"や『シンガポール人が日本で体験した温泉』という内容で使われており、湯の森温泉&スパが温泉だとは書かれていません。

水道水を沸かした風呂は温泉か: 温泉法

日本人の感覚では、水道水を沸かした風呂は、ただの風呂です。不特定多数が入浴できるなら、それは公共浴場であって銭湯です。温泉ではありません。
水道水を沸かした風呂を温泉と言うのは、日本の法律では明確に詐称です。
日本には温泉法があります。指定される物質を含んでおり、25度以上の地中から湧き出る温水が「温泉」です。

第二条  この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。
別表
  一 温度(温泉源から採取されるときの温度とする。)
                       摂氏二十五度以上
  二 物質(左に掲げるもののうち、いづれか一)

2004年の温泉偽装問題

日本では2004年に、温泉偽装問題が大きな話題となりました。
白骨温泉での入浴剤利用や、伊香保温泉の一部で水道水を沸かした風呂を温泉と称していたことなどが取り上げられました。景品表示法に基づく立入検査及び注意を当局が行いました。

現在、日本では温泉分析書で温泉成分分析の結果の掲示が必要です。(温泉法第十八条2)
これらに照らし合わせてみると、水道水を風呂に利用してるなら、湯の森温泉が温泉と称するのは日本ならば詐称で違法行為だ、ということになります。

和牛とWagyu

ところが、日本の法制度の枠組み内では詐称でも、日本の外に出ると問題がないケースがあります。その一つが Wagyu です。
日本人が和牛と聞くと、日本で出生し飼育された黒毛和種の牛肉と認識されています。農林水産省ガイドラインもあります。海外産の牛を和牛と言えば問題になるでしょう。
ところが、シンガポールで Wagyu と言うと、大半はオーストラリア産です。日本産以外の肉でも、和牛種を Wagyu といって販売しているのです。そしてそれで問題ありません。
更に、日系企業がWagyuの扱いで責められる事件すらおきています。モスバーガーです。2015年10月23日に、シンガポール発でBBCが報じました。

シンガポールのモスバーガーは「Wagyuバーガー」をわずかS$4.85 (400円) で販売。BBCは牛の情報についての情報提供を求めたが、モスバーガーはコメントしませんでした。あるレストランは「格安Wagyuパテは混ぜ物の可能性がある」とコメントしています。シンガポールでWagyuはオーストラリア産が主流です。オーストラリア産Wagyuは5段階の格付けがあり、最低でも和牛遺伝子が半分必要です。「シンガポールのモスバーガーの格安Wagyuバーガーは混ぜものだろう」と、豪州産Wagyuを扱うステーキハウスに指摘されています。

シンガポールでは、メイドインジャパンの和牛と、和牛種のWagyuが共存しており、しかもWagyuの扱いについてオーストラリア産Wagyuを使うレストランが日系企業を責めるという地獄絵図が繰り広げられています。

"湯の森銭湯"じゃダメなんですか?

文化輸出と現地化

湯の森温泉が定着すると、シンガポールでは和牛とWagyuの区別がほぼなくなったように、温泉と銭湯の区別もほぼなくなるでしょう。
シンガポールでは温泉体験自体が限定されるので、温泉文化はありません。温泉を名乗っていますが、NHKによると湯の森温泉は、日系企業ではなくシンガポール企業とのことです。また、温泉での入浴文化は、日本は確かに著名ですが、日本のみの風習でもありません。
※ただし、在シンガポールで日系企業コマースグループが、タイで湯の森を運営しているオーナー、ジョン・スミス氏とジョイントベンチャーを組んでONSEN RETREAT AND SPA (SINGAPORE) PTE. LTD. (201425725W)を運営しているというのが正確なようです。コマースグループは、在シンガポール日本人にはお馴染みの、らーめんチャンピオンや、散髪のEC Houseを運営している企業です。

文化は輸出されると、その地で独自に発展します。中国で生まれたラーメンは、日本独自な食べ物になりました。日本で生まれた寿司が、世界各地で日本と異なる寿司として発展しています。独自発展した寿司を日本人がすしポリスのように認めようと認めまいと、それが現地で好まれれば、まずは好まれているということを受け入れる必要があります。
そう考えると、銭湯と温泉との間に海外の一部で差がないことも、日本人は受け入れなければならないのかもしれません。

湯の森温泉のサイトの英語記述では、Onsenは頻繁にでていますが、hot springという単語の利用を自社施設に使うことは避けていて、「日本の入浴文化と歴史」の紹介で出てくる程度です。日本人の感覚でも日本の法制度でも、銭湯と温泉は決定的に異なります。しかし、シンガポールの現行法や制度で、湯の森が英語でない"温泉 (Onsen)"と称するのは、問題無い行為なのでしょう。そして、シンガポールでも湯の森温泉が hot spring と称するのは、問題ある行為なのでしょう。
しかしながら、言葉の豊かさは文化の豊かさです。温泉 (hot spring) と銭湯 (public bath) の区別は、日本文化に理解が深いシンガポールにとってもプラスに働くと信じています。温泉偽装問題後に、源泉掛け流しを強くアピールすることで、価値を訴える温泉が出てきています。その一方で、銭湯もスーパー銭湯などで、日常での娯楽としての価値を生み出してきています。
湯の森も、"湯の森銭湯"として銭湯の価値を、シンガポール人、シンガポール在住日本人、シンガポールに旅行で訪れる人々に、追求して欲しいと願っております。

uniunichan.hatenablog.com

関係者各位へ

本記事に事実誤認がありましたら、ご連絡下さい。本ブログでの他の記事同様に、指摘内容に応じて検討の上、加筆、修正、削除を筆者の判断での実施を検討します。なお、NHK記事に関する事項で事実誤認には、NHK記事の加筆、修正が確認できるようになった後に、ご連絡下さい。

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