今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

統一教会を追い出したシンガポールのやり方(と創価学会との関わり)

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。安倍晋三元首相が亡くなって関連記事の3つ目です。

  • シンガポールでの暗殺報道

uniunichan.hatenablog.com

  • シンガポールでの反共産主義の時代

uniunichan.hatenablog.com

  • 統一教会の非合法化と対応

「日本は統一教会に今後も居場所を提供するのか」が問われています。統一教会を非合法化して追い出した国があります。シンガポールです。今回の記事は、「シンガポールがどうやって統一教会を追い出したか」を書きます。

カルト対策の踏み込み方は国の価値観

カルト対策となると、日本では「信教の自由」や「寄付は自分の意思」といった視点での議論が起きます。違法薬物を自分の意思で行っても刑事罰を受けるのと同じで、いくら本人の意思で納得していても、社会問題化すれば、どの段階で政府が介入するかはその国の価値観です。
シンガポールは政府が家父長的で、個人の価値観や社会規範への踏み込みが大きいことはよく指摘されますが、統一教会に関しては、政府姿勢が社会的影響を減らしています。
シンガポールが最大公約数としての公共の福祉を優先するあまりに、自由への制約が大きいことは知られています。ですが、自由を優先した国の一つが、自衛する自由がある銃社会でカルト大国のアメリカなのは、念頭に置かれるべきです。
日本はシンガポールになれませんし、大半の人は好ましいとも思っていないでしょう。かと言ってアメリカも、その病んでる部分をなぞるのは御免なはずです。その中で、日本はどこにしきい値をおきたいかの価値判断が、今、求められています。

シンガポールと統一教会

非合法化された統一教会

シンガポールで統一教会は禁止されています。スッパリ、キッパリ、禁止です。されて40年にもなり、シンガポールで影響は弱いです。今回の暗殺事件で、統一教会がシンガポールでも再度脚光を浴びましたが、「シンガポールでは禁止(ban)」と国内最大手新聞であっさりと解説されています。対岸の火事ですね。

カルトと批判され、シンガポールでは禁止されているが、世界的にはとりわけ日本と米国で未だに盛況な、議論がある宗教グループが統一教会
the Unification Church, a controversial religious group that has been labelled a cult by critics and banned in Singapore, but is still thriving globally, especially in Japan and the United States.

シンガポールにおいて、統一教会が禁止されるまでの概略です。

  • 1976年3月: Tongilシンガポール社という韓国朝鮮人参の輸出入企業が設立される。企業の設立は、米国人・日本人・シンガポール人の3人。
  • 1980年9月: 世界基督教統一神霊協会を団体登録。その後、国内3箇所に教会を設立。
  • 1981年中旬: 大学キャンパスで多くの人を積極的に勧誘。
  • 1982年4月: 外国での頻繁な騒ぎから、セクトとして監視していた政府が、団体を禁止。

・ストレートタイムズ紙 (1989年8月12日): How the movement took root in Singapore

シンガポールにおいて、統一教会が禁止された時に、官報が出ています。

世界基督教統一神霊協会
世界基督教統一神霊協会は、1980年9月29日に、団体法 (Societies Act) で登録された。全ての団体と通常会員が、シンガポール国民であることを憲法は求めている。外国や外国人から基金を団体が受け取らないことを、規定は要求している。
会員は国民に限定されているのだが、Tongil社の経営責任者が、外国人であり、団体運営に大きな役割を果たしていることが、調査で判明した。その者は、団体基金を管理し、講演と勧誘を運営していた。Tongil社は、統一教会の信者が設立していた。
団体の存在は、シンガポールにおける公共の福祉と秩序維持に害があるとの根拠で、1982年4月2日付けで、内務省は団体を消滅させる。
内務省
1982年4月2日

官報から分かるのは、禁止した建付けとしては外国人の介入だが、主旨は社会問題の防止だということです。
シンガポールは、内政干渉、外国と外国人の介入をかなり嫌っています。集会の自由が制限されているシンガポールでも、ホンリョン公園という特定された場所では、集会を開くことができますが、集会に参加可能なのは国民のみです。永住権保持の外国人は、聴衆としては参加できますが、スピーチや表現活動はできません。永住権がなければ、外国人は聴衆としての参加もできません。これには、LGBTなどの権利運動も含まれ、過去にはイベントへの寄付や協賛を行っていた外資企業のグーグルやゴールドマンサックスも、ホンリョン公園でのイベントへの寄付や協賛もできなくなっています
つまり、受容度が高い日本では、外国人による反捕鯨デモ・中国人本土派や香港人民主派による香港に関するデモなどが行われていますが、主旨を問わず、シンガポールでは国籍制限で外国人はデモをできない、ということです。外国人がデモを行うと、「外国人は自国の問題をシンガポールに持ち込まないように」という警察声明がこれまでも繰り返し出ています。

1982年に禁止された統一教会ですが、その後1989年にも社会問題になっています。宗教団体としては解散させられましたが、企業としては活動継続をしていました。もちろん、企業では宗教活動はできないのですが。

統一教会の活動にシンガポール人は距離を置くようにと警察は警告している。メンバーは「ムーニー (Moonies)」と一般に呼ばている。
文鮮明牧師を代表にする教会はシンガポールで禁止されている、関わりを避けるように勧告すると、警察広報は今週語った。
団体法 (Societies Act) において、非合法団体の運営者は、最大5年の刑務所になる。集会に参加した会員は、最大$3千の罰金か、最大3年の刑務所か、その両方になる。
1982年に禁止されたムーニー活動が、8月20日~23日のロンドン大会に若者を積極的に勧誘しているのを、本紙が報じ、警察の警告が続いた。
(中略)
同時に、シンガポールでのムーニー活動のリーダーが、本紙に抗議文を書いた。
統一教会のメンバーだと公言しているその人物は、朝鮮人参輸入企業のTongilシンガポール社の役員であり、統一教会への偏見だと政府役人の意見を引用した本紙を非難した。

文鮮明は、Sun Myung Moonとなることから、ムーニー (Moony) です。

シンガポールで統一教会はカルト。出版は制限

シンガポールでは、輸入出版物への若者への規制があります。統一教会はカルトと評価されており、名指しで規制対象になっています。日本で言う有害図書扱いです。

序文
4 以下は許されない:
(ii) エホバの証人、統一教会 (ムーニーズ)、神の子供たち (ニューワールドビジョン、愛の家族)、サイエントロジーといったカルトの出版物。

シンガポール憲法での、信教と結社の自由への制限

シンガポールでも信教の自由は憲法に記されています。ところが、権利に制限があることが憲法に記載されており、詳細は一般の法律で行う作りになっています。
シンガポールの憲法には結社の自由もあります。そして、案の定、憲法にある結社の自由は、法律での制限を受けます。
シンガポールで、統一教会を規制するツールとして政府が使ったのが、団体法です。

創価学会をフランスはカルト認定したが、シンガポールでは政府と共存

統一教会は、フランスでカルトとして分類されています。フランスでカルト分類された中には、創価学会も含まれています。
シンガポール政府は統一教会を非合法化しましたが、創価学会とはシンガポール政府は親密です。歴史も古く、シンガポール建国からわずか7年後の1972年に適法に団体登録されています。

シンガポールで、最も重要な政府行事は建国記念日パレード(NDP)です。それに40年前から参加しています。昨年も参加し、"SINGAPORE SOKA ASSOCIATION"のクレジットが全国放送されました。また、国内に"創価幼稚園"もあります。
慈善団体として登録されているものに、"Soka Gakkai Singapore"があります。団体の目的としては、「日蓮仏教の理解と実践の促進。平和・文化・教育を促進するコミュニティプログラムを通じて、仏教の人間主義の精神に基づく、社会の幸福を促進」とのことです。財務状況も公開されており、2021年には、約S$1,300万(13億円)の寄付を集めています。

シンガポールは"明るい北朝鮮"だからできたのか (追記)

追記です。
コメントが"明るい北朝鮮"祭りになってうんざりしています。
まず、シンガポールを"明るい北朝鮮"と呼んでいるのは日本のみです。世界的にシンガポールは"明るい北朝鮮"と呼ばれていません。"bright North Korea"あたりでググって下さい。日本発の文書しか出ませんから。一般のシンガポール人すら、そんな呼称は知りません。知っているのは、日本関係のシンガポール人のみで、日本人からわざわざ聞かされるとウンザリしています。
「シンガポールは"明るい北朝鮮"と呼ばれている」とのコメントですが、呼んでいるのはあなた自身です。価値観を含む呼称への責任を、世間に押し付けないで下さい。
シンガポールを"明るい北朝鮮"と呼びはじめたのは、日本の某大新聞だという話を聞いたことがあり調べましたが、裏が取れていません。

"北朝鮮"呼称が間違っている理由ですが、政権が普通選挙で決まることです。シンガポールは建国以来、50年以上、与党PAPが選挙で勝ち続けており、一党支配になっています。選挙は投票の秘密は守られ公正で、つまり、国民は与党PAPを選挙で信任し続けており、一党支配は国民の選択なのです。日本も自民党が勝ち続けていますが、強制投票制度もあり100%近い投票率で、日本より積極的に政府が信頼されているのがシンガポールの状況です。
uniunichan.hatenablog.com

選挙で選ばれるシンガポールの国会議員MPは、エリートであると同時に、国民への奉仕者です。多くの議員は、毎週数時間、決まった時間を特定・公開して、選挙区民と一対一で会い、あらゆる陳情・苦情を聞き、行政が解決できないかの相談にのっています (Meet the people session)。ご近所トラブル、経済的困窮、医療補助、年金、住居(HDB)などなどです。世話をすることで、次回選挙での勝利も与党は呼びこむ狙いもあります。シンガポールでの選挙戦は、日本の街宣車での名前連呼ではありません。日本では10年程度の期間で、政治家と話したことがある国民はほぼいないでしょう。あっても、業界団体や宗教団体経由での集団挨拶が大半なはずで、個人として相談・陳情をしたことがある人はまずいないでしょう。(日本でもっとも近いのは共産党の活動だとは思いますが、共産党なので利用にはためらいがあるでしょう)

シンガポールでの統一教会の非合法化も、「公共の福祉に害がある」との目的のために、使える法律を運用した印象がぬぐえないのは確かです。シンガポールは政府の権限が大きいのですが、それが国民の大半には良識をもって適切に運営され、国民も信任しているマレな国です。それを飛び越して、"明るい北朝鮮"というのは脳内停止です。実態と大きくずれた呼称なだけでなく、ラベリングで「シンガポールを分かったような気になる」ことでタチが悪いです。

シンガポールのトップダウンのやり方を、日本で実装できないのは同意ですが、「明るい北朝鮮だからクソ」と元首相暗殺にまでになり、失敗した日本が言う立場にはないでしょう。なぜに失敗した日本が、社会的影響を抑えるのに成功したシンガポールにふんぞり返れるのか。日本が「シンガポールは明るい北朝鮮だから、社会的影響を排除できてもクソ」と言い切れるのは、「(たとえ元首相を失い、社会的影響を被っても)信教・結社の自由は今後も絶対だ」という固い決意がある場合のはずですが、そうではない意見が盛り上がっています。
日本が今後も現状のままなら、社会的影響は排除できず、関係者は自己責任におかれ、2世信者や信者家族を代表とする自己責任ですらない人への影響は継続します。そういうケースであっても、信教・結社の自由を日本が優先するかが問われているのが、元首相暗殺の一側面だと理解しています。
日本は日本のやり方で、自由と公共の福祉のバランスをとって欲しいと思っています。


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