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年収3,600万円以上、高所得者向けシンガポール就労ビザ、ONEパス

みなさん、稼いでますか?w うにうに @ シンガポールビザマニアです。
一般に"富裕層"というと「金持ち」ぐらいの意味でしかありませんが、ちょっと狭い定義には「(労働でなく)資産で食っている人」を指す場合があります。自分が働かなくても資産を転がすことで生活ができる人のことで、日本で知られているのは地主です。この定義だと、稼ぎの主力が自分の労働資本である限りは、上場企業の社長でも中間層になります。
この記事で紹介するシンガポール就労ビザは、資産ではなく労働資本で稼ぐ、アッパーミドル向けのONEパスです。基本月収300万円以上、つまり年収3,600万円以上ということで、ブルームバーグなどで世界的なニュースになりました。

Overseas Networks & Expertise Pass

ONEパスの正式名称は、Overseas Networks & Expertise Passです。訳すと「海外人脈&専門家パス」です。
ONEパスについて、労働省MOMの説明です。

Overseas Networks & Expertise Passは、ビジネス・芸術・文化・スポーツ・科学・技術・学術・研究を含む全産業にまたがるトップタレントのための個人パスです。シンガポールの複数企業を同時に設立・運用・就労することを可能にします。」
・労働省MOM: Overseas Networks & Expertise Pass

ONEパスを取るべき人は誰か

1. 複数企業を経営する予定の人
(永住権PRとテックパスを除くと)ONEパスでしかできないのは、複数企業経営です。シンガポール政府が意図した使い方の王道です。

2. とりあえず基本月収$3万超えている
失職時でも、滞在ビザの確保がメリットです。EPやPEPでも良いのですが、EPは失職で出国ですし、PEPより有効期間が長いです。基本年収$27万(月収だと$22,500)が必要な就労ビザPEPでも、失職後6ヶ月までは滞在できますが、PEPは有効期間3年、更新不可です。ONEパスの有効期間5年、延長回数制限無しの方が強いです。
就労ビザトランプのレアSSSなので、持ってると気分が良いはずです。「ボク、ワンパスなんだけど」という会話を聞けるのを心待ちにしています (割りと真顔

3. 勤務先や自営の実績が弱く、EPの取得に困っているが、基本月収$3万超えている人
法人としては弱いが、個人としてはバリバリ稼げるフリーランス等です。
EPは、申請者の個人の属性に加え、ビザスポンサーとなる法人も審査されます。2023年9月開始となるCOMPASSで、今までブラックホールだった法人評価がある程度明確化されます。ONEパス所持者はCOMPASSでの外国人数にも含まれないため、EPからONEパスへの移行を雇用企業も希望することになります。

4. 永住権PRを取得予定だが、PRが許可されるまでのつなぎのビザが必要な人
一昔前は「EP→PEP→PR」がビザの王道でした。それが「ONEパス→PR」で使うことになります。

5. 男子子どもの兵役NS回避理由で、永住権PR申請予定が無い
子どもの兵役NS回避で、PRを申請しない人は珍しくありません。その方々の最強ビザがONEパスです。

6. 現在、EPにもかかわらず複数企業経営の違法就労をしている人
シンガポールでは勤務先ごとに就労許可が必要です。EPやSパスも就労できるのは申請企業のみで、副業(バイト・自営)や他社での就労はできません。複数企業での経営には、役員であれば、2つ目の役員にのみLOCという就労許可がありますが、EPが発行されている資本系列会社でしか原則は出ません。子どもへの兵役NSを望まないために、PRを取得していないにもかかわらず、複数企業の役員を違法就労している人は、いくところにいけば割りと見かけます。もちろん違反なので摘発対象なのですが、ONEパス取得で合法化されます。なので、ONEパス取得に最も熱心なのはこの界隈です。なお、今までの違法就労に関しては、シンガポールでは時効がないので、今後も摘発対象です。

ビザとしてのONEパスの特徴

ビザスポンサー不要

ONEパスは、勤務先のビザスポンサーが不要です。勤務先がビザスポンサーなEPとは違って、個人の属性のみにもとづいて発行されるビザです。
複数企業就労が可能であり、勤務先が変わっても、ビザの再申請は不要です。これはPEP (Personalised Employment Pass) と同様です。
ですので、Sパスのような外国人割当枠の制約も受けません。COMPASSも除外ですし、求人広告義務もありません。

複数企業の自営が可能

複数企業経営が可能です。
EPで複数企業のダイレクターになるには、LOCの取得が必要ですが、EP発行企業の関連会社などといった制約があります。
複数企業就労はPEPでできましたが、PEPでは役員 (ダイレクター) になれません。
複数企業の経営ができたのは、永住権PRのみでした。これが可能になったのがONEパスです。男子子どもを兵役NSに行かせたくないためにPRを取得しなかった人は、合法での複数企業経営がまず無理でしたが、それがONEパスで可能になります。

家族ビザ

家族にも滞在ビザがでます。両親も滞在可能です。EPと同じなので、あまりメリットには感じないでしょう。

  • Dependant’s Pass: 法的に結婚している配偶者 (事実婚、婚約は不可)。実子・養子 (21歳未満)。
  • Long-Term Visit Pass: コモンローでの配偶者。21歳以上の未婚の障害がある子ども。未婚の継子 (21歳未満)。両親。
配偶者も就労可能

配偶者も就労可能です。これにはLOC (Letter of Consent) という簡易手続きで就労許可がでます。EPと類似なので、あまりメリットには感じないでしょう。
雇用されても働けますし、自営も可能です。自営の場合には、EP/SパスのDPと同じように、1年後の更新時に、地元民(国民か永住者PR)雇用を求められます。そのため、ONEパス所持者が役員となり、配偶者は従業員として働くようになるのでは、と想定されます。
就労許可が出るのは配偶者のみです。子どもなど他の家族には出ません。自力で就労ビザを取るように、とのことです。
・労働省MOM: Working in Singapore for Dependant's Pass holders of Overseas Networks & Expertise Pass holders

活動報告義務

大きな自由があるONEパスですが、EPやPEPにはなかった活動報告義務もあります。下記の報告が毎年求められます。この報告は、次回のONEパス更新で利用すると労働省MOMは宣言しています。

  • 過去1年に渡るプロフェッショナル活動の詳細
  • 全プロフェッショナル活動から得た1年の給与所得

ONEパスを申し込める人は誰か

ONEパス申請基準

給与
  • 過去一年で固定月給$3万以上。

もしくは

  • シンガポールに移った後の雇用で固定月給$3万以上を稼ぐ人。

よくあるのが「インセンティブやボーナスを入れると$3万超えるんだけど、ダメ?」「自営で、配当入れると$3万超えるんだけど、ダメ?」という話です。もちろん、ダメです。
ONEパスは、EPのトップ5%をターゲットにしていると政府が語っています。一般的に、月給$3万を超えるとなると、収入の過半数はボーナス・インセンティブといった可変給や自営での配当が一般的なはずです。(配当はキャピタルゲインなので除外して、) EPの中でトップ5%を固定給で区切った結果が、$3万なはずです。つまり、ONEパス基準を、固定月給でなく、給与総額の上位5%で設定すれば、軽く倍以上の月$6万~$9万になっていたと想定されます。年収7千万円~1億円ラインです。ONEパス規準に可変給を含まずに、固定給のみにしたのは、収入の変動での影響を避けるためでしょう。

シンガポールで自営の配当は、キャピタルゲイン扱いで所得税無税です。それを利用して、EPが取れる最少額の基本月給$1万程度に給料を設定して、配当を増やすのは税対策の定番です。その方々がONEパスに応募するには、固定給料を$3万に増やし、配当をその分減らすことになります。そうすると、所得税の納税も増やす必要があります。所得税は、年収$12万で$7,950、年収$36万で$53,350です。差額の所得税$45,400がONEパスに見合うかは、その人のONEパスの使い方次第です。
エゲツナイことをしようと思えば、ONEパス申請の直前1年のみ年収$36万にして、ONEパス取得後の5年間は年収$0でも就労・滞在ができます。5年経ってONEパス失効後は、EPを申請すればよいので。EPが通るかどうかは、謎ですが。


既存のEP所持者で在シンガポール企業勤務者は、どんな企業からの給与でも基本月給$3万以上なら可です。1年以上勤務していることが必要になります。
ONEパスは海外在住者も申請可能ですが、シンガポール外就労者の申請時には、「1年以上のestablished企業での就労」が前提になります。establishedは定義されており、

  • 市場価値がUS$5億以上

あるいは

  • 売上US$2億以上

です。日本でいうと上場企業のサイズです。つまり、日本の中小企業の自営オーナーで固定月給$3万を得て納税証明を添付しても、申請できません。その場合、シンガポールではEPから初めて、1年にわたって$3万以上の固定月給を受け取り続けた後に、ONEパスを申請することになります。

・MOM: Eligibility for Overseas Networks & Expertise Pass

$3万を超えなくても申請可能: 文化・芸術・スポーツ・アカデミア・研究

科学研究や他のアカデミア研究で、影響がある成果を持つ証明された記録がある人は、アカデミアと研究トラックで申請ができます。これには、科学とアカデミアリーダーシップの国際的承認を含みます。つまり、給与規定がありません。

ONEパス更新規準

ONEパスの有効期限は5年。5年経つと更新になります。更新条件です。

  • 被雇用者: シンガポールでの過去5年での平均基本月収が$3万あったこと
  • シンガポールでの自営: 5人以上の地元民 (local) を、$5千以上で雇用していること (ただし、$5千はEPの最低金額であり、今後EP最低金額が上昇すると上がる)

被雇用者については、更新が申請時とほぼ同基準なので、よいでしょう。
自営の場合は、難易度が上がります。シンガポールで(外国人でなく)地元民を5人以上雇用するのは、結構な難易度です。たまにある「節税目的でシンガポールに"移住"し、滞在するビザ目的に飲食店に投資しオーナー・役員になる」では大変です。地元民雇用が必要なので、フリーランスや投資収入中心の人は更新できません。ONEパス更新規準をクリアできなければ、EPを申請することになり、EPでは複数企業の役員にはなれないので、事業縮小をする必要があります。

PRとの比較

ONEパスは就労ビザですが、最強就労ビザなので、永住権PRとの比較も簡単に触れます。
「ONEパスは就労ビザ最強だが、PRには勝てない」が結論です。
シンガポールは、「外国人は社会保障費を払わず、社会保障を受けない」が原則です。その数少ない例外が、コロナワクチン無料接種やパンデミック時の入院治療費無料などの感染症対策でした。
永住権PRにできて、ONEパスができないことを列挙します。

  • ABSD (不動産購入時の追加印紙税) 減税
  • ローカル校への学籍確約と学費減額
  • CPF (年金) 加入
  • 中古HDB購入権
  • 公立病院での医療費補助

ONEパスをとられる人は、国からの社会保障をあてにする人は少ないと思いますが、経済的に最も差が出るのは不動産購入時の印紙税ABSD減税措置でしょう。不動産高騰対策で、現在、外国人がコンドを買うとABSDが30%支払うことになります。正気では不動産購入ができません。これが理由で、外国人のシンガポール不動産購入は極めて限定されています。これが、永住権PR持ちだと、ABSDはわずか5%になります。シンガポールで不動産を買うのは、PR取得が前提なのが現状です。
インター校への興味が大きい層ですが、真の学才エリートに挑戦するスパルタ家庭なら、ローカル校への入学にも興味があるでしょう。今は、外国人のローカル校入学は運です。小学校1年でのローカル校進学はクジという扱いになっていますが、学籍が確保できる外国人家族は2,3割程度では、と言われています。つまり、お金ではローカル校の学籍は買えないのです。PRは希望すれば、学籍を必ず確保できます。
その一方で、男子二世には2年間の兵役NSが永住権PRにはあり、該当する家庭には悩ましいのです。

応募に際して
コロナワクチン接種は必須

Covid-19ワクチンの完全接種は必須です。対象となるのは、ファイザー・モデルナ等を含むWHO EULで承認されているものです。
応募は、申請書類の準備が完了していれば、独力で簡単に申請できます。
・労働省MOM: Apply for Overseas Networks & Expertise Pass

申請の途中で、シンガポールでのONEパス所持中の職業人としての計画を聞かれるので、そこは書類に加えて、事前準備が必要です。
Please share briefly the candidate’s professional plans (e.g., plans for employment, set up companies, sit on the Board of companies) in Singapore for the next 5 years. If the candidate has plans to take on multiple roles, please briefly describe each role. (2000 characters)
ONEパスの申請結果がでるまで1ヶ月と書いていますが、EPは最短数日、最長3ヶ月、却下されてアピールを続けると半年以上になるので、実際どれだけかかるかは謎です。申請結果はネットで確認できます。
・労働省MOM: Check work pass and application status

必要書類

給与証明

4パターンあります。

  • シンガポールに過去1年滞在した人の給与証明
    • 過去12ヶ月分の給与明細
    • 最新のIRASからの税通知
    • 基本固定給以外の収入があれば (対象者のみ)
  • シンガポール国外就労での給与証明
    • 過去12ヶ月分の給与明細
    • バックグラウンドチェック企業が証明した就業証明 https://www.mom.gov.sg/faq/work-pass-general/what-are-the-requirements-for-a-verification-proof
    • 基本固定給以外の収入があれば (対象者のみ)
    • 企業価値や売上を示す書類。過去3ヶ月以内のもの。ソースとなるもの: Pitchbook, Yahoo Finance, Crunchbase, Bloomberg, Google Finance, Venturecap, preqin, QCC.com, chinaventure.com.cn, itjuzi.com。ここに記載がなければ、最新の監査済みP&L。
  • シンガポールで固定月給$3万を得る予定の人
    • シンガポール法人との雇用契約書
    • 企業価値や売上を示す書類。過去3ヶ月以内のもの。ソースとなるもの: Pitchbook, Yahoo Finance, Crunchbase, Bloomberg, Google Finance, Venturecap, preqin, QCC.com, chinaventure.com.cn, itjuzi.com。ここに記載がなければ、最新の監査済みP&L。
  • 芸術、文化、スポーツ、アカデミック、研究で卓越した業績を持つ人
    • 最新の付きの給与明細
    • 基本固定給以外の収入があれば (対象者のみ)
    • 主要な業績をハイライトしたCV(履歴書)
      • アカデミックと研究では、CVは過去5年での重要な出版・特許・技術開示をリストすること。
      • アカデミックと研究では、招へいするシンガポール研究機関(国立大学やA*STAR等)でのポジションへの推薦書。
テックパス

2023年1月から開始のONEパスに先立って、テックパスが2021年1月に始まりました。所轄はONEパスの労働省MOMではなく、シンガポール経済開発庁EDBです。
対象者は下記。必要な固定月給が$2万以上とお安めですが、技術企業での前職に限定されています。
1. 過去1年での最後の固定月給がS$2万
2. 5億米ドル以上の市場価値か、3千万米ドル以上の資本金がある技術企業で、計5年の指導的役割
3. 月10万以上のアクティブユーザーか、1億米ドル以上の売上がある技術企業で、計5年の指導的役割

テックパスでできることです。
a. 起業
b. 複数企業で就労
c. 大学で教鞭
d. 役員就任
e. 出資
f. スタートアップ起業へのメンターやアドバイザー(顧問)
g. 企業にトレーニング提供
・EDB: Tech.Pass

ONEパスとの違いは、ビザ有効期限が2年であることと、更新が一度で2年間有効です。更新を一度して、その後もシンガポールで就労継続希望なら、EPやPEPなどの就労ビザ取得が必要になります。
ONEパスの方が有利ですが、基本月収$2万以上$3万未満で技術業界で、複数企業経営をする人は、テックパスも検討対象です。

2021年11月の時点で、テックパス取得者は150人でした。テックパスには最大枠があり、500人です。
2022年7月の時点で、テックパス取得者は250人でした。応募者は450人だったとのことで、半数近くが不許可と結構多いです。
テックパスはONEパスと統合する、というニュースが流れています。興味がある方はお早めの申請を。

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