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今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

「シンガポールのワーホリビザはトップ大学のみに発行」の背景

シンガポールビザ シンガポール教育

※2015年7月27日注記
2015年にMOMがワーホリビザの申込資格を緩和しました。現在は以下の要件を満たせば申請可能です。
- 年齢: 18-25歳
- 下記の9ヶ国の大学の在学生か卒業生: オーストラリア、フランス、ドイツ、香港、日本、ニュージーランド、スイス、イギリス、アメリカ
- 設置国政府が認可した大学
- 在学生: 申請までに最低3ヶ月在籍。フルタイムのみ (パートタイム・通信課程不可)
- 卒業生: フルタイムのみ (パートタイム・通信課程不可)
http://www.mom.gov.sg/passes-and-permits/work-holiday-programme/eligibility
- 半年間有効
- 発行は同時期に最大2千人
http://www.mom.gov.sg/passes-and-permits/work-holiday-programme/key-facts

「世界ランキング200位以内」については下記の文言に変更されており、例示とのことです。200位圏外の大学ではケースバイケースでの判断になる可能性が高まると考えられますが、許可例も出ています。
Your university is recognised by the government of the respective nine countries. Examples include those ranked among the top 200 for overall academic performance in any of these rankings

 

シンガポール (SG) のワーホリビザが2012年12月1日から厳格化されましたが、SG在住日本人ネット村で恐らく最初に速報を出したのは、語学留学・ビザ等の情報を発信されておられ る"シンガポール留学支援センター"。幾度か改訂されておられるようですが、2012年11月1日のこの記事。

シンガポールのワーホリ制度が大きく変更されます

その後、2ヶ月の時を経て、BLOGOSライター(倉部史記氏)の目に止まることに。シンガポールウォッチャーの枠を超えてSGワーホリネタが、1月24日に日本人ネット界にメジャーデビュー。
【BLOGOS】ワーキングホリデーでシンガポールに行けるのは11大学の学生・出身者だけ

そしてそれをネットネタが得意のJ-CASTが1月27日に釣り上げて、三部作が完成。
【J-CAST】ワーホリビザに「東大、早慶」クラスが必要 異常に厳しいシンガポールの学歴制限

主要点は"シンガポール留学支援センター"の記事で含まれています。金融危機以降の外国人への労働ビザ厳格化の流れに、就労可能なワーホリも含まれたことです。ワーホリの話がネットメジャーデビューをした機会に、改めてシンガポールのWork Holiday Passをまとめておきたいと思います。

1. SGのワークホリディパスの概要

・シンガポールでの正式名称: Work Holiday Pass
※注:"ワークホリディ"であって、"ワーキングホリデー"ではない

・対象年齢: 18-25歳

・指定国: オーストラリア、フランス、ドイツ、香港、日本、ニュージーランド、イギリス、アメリカ合衆国

・大学限定: 下記世界大学ランキングで200位以内に3ヶ月以上在籍するフルタイムの現役学生、もしくはフルタイムの卒業生。
現在の日本の大学では、旧帝大(東京・京都・大阪・名古屋・北海道・東北・九州)・東工・筑波・慶応の10大学のみ。※2013年以降、早稲田は200位圏外
Quacquarelli Symonds World University Rankings
Shanghai Jiao Tong University’s Academic Ranking of World Universities
Times Higher Education World University Rankings

・ビザ発給枚数: その時点での最大発行枚数2千枚

・ワーホリでできること: 半年間、SGへの滞在。その間の就業自由であり、職種制限・最低賃金制限もない。

・参考政府サイト: シンガポール労働省 (MOM) Work Holiday Pass

2. SGのワークホリディパスは相互協定ではない

BLOGOS倉部史記氏、(参考)■「ワーキング・ホリデー制度」(外務省)を示してワーホリの説明を試みていました。しかし、SGのワーホリは、上記外務省ページに書いてある相互協定でのワーホリ(ワーキングホリディ)ではではないのです。シンガポールが独自の判断で、日本や他の国を対象に"Work Holiday Pass"という名前で交付しているビザです。ですので、上記外務省ページを用いた説明は不適切です。

上記ページにはシンガポールの名前は出て来ません。相互協定としての日本とワーホリを行なっているのは下記11カ国です。

オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、韓国、フランス、ドイツ、イギリス、アイルランド、デンマーク、中華民国(台湾)、香港

相互協定ではなく、SGが日本に一方的に付与している制度のため、逆に、日本はシンガポールからのワーホリを受け入れていません。
それが、SGが日本との交渉を経ずに、一方的に学歴等で対象を絞ることができた理由でもあります。

3. SGは自国の大学と同レベルの大学を求めているに過ぎない

日本の大学進学率は5割を超えました。SGの大学進学率は26%です。
Education Statistics Digest 2012 ※PDFの15ページ目
この出典はシンガポール教育省 (MOE) ですが、この数値は実は国立大生のみです。シンガポールは、新設校 (SMU(2000年)、SUTD(2009年)、SIT(2009年)) を除くと、国立大は2校しかありません。
・シンガポール国立大学 (通称NUS: National University of Singapore)
・ナンヤン工科大学 (通称NTU: Nanyang Technological University)
この両校を、今回のSGワーホリが指定した世界大学ランキングで順位を調べると以下の結果に。

 

  QS (2013) ARWU (2013) Times (2013)
NUS 24位 101位-150位 26位
NTU 41位 201位-300位 76位

 

今回、SGがワーホリ対象大学に基準としている ”いずれかのランキングで世界200位以内" を両校ともに満たしています。つまり、SGがワーホリに求めているのは「自国の大学生同等を求めている」に過ぎないのです。

「シンガポールは学歴社会だ」と言われますが、これは「学歴で人を評価する」という意味だけでなく、「シンガポール人に高い教育を与えることに成功している」という意味でもあります。
SGのワーホリは、以前から大学生/卒業生対象ビザなので、"自国並み"の水準の大学に絞るのは妥当でしょう。また、最近の労働ビザ(EP/S Pass)での厳格化に伴い、自国より水準が下がる外国人を受け入れる訳にもいかないお国事情もあります。

【余談】シンガポールの私立大学

SG にも私立大学はあります。大半の私大は、(ディプロマミルではなく)学位として適切に扱われていますが、SG国内での学校への評価は国立大と私大では大きな差があります。それを裏付ける のが以下の各学校卒業生の新卒平均月給です。SIM (Singapore Institute of Management)とは、私大最大手の大学です。それでも、初任給が私大卒では国立大より2割も低いことになります。

- NUS $3,112 (約23万円)
- NTU $3,152 (約23万円)
- SMU $3,388 (約24万円)
- SIM $2,400 (約17万円) ~ $2,600(約19万円)
Strait Times: SIM grads find jobs easily, but earn less
私立を含めると、SGの大学進学率は40%を超す程度と言われています。つまり、26%の優秀な国立大学生の方が、国内では大学生としてマジョリティなのです。
SGでは国立と私立とで、評価の違いが大きいので、SGの国立大に入学できないと私大を選ばずに、結び付きが強いオーストラリア・イギリスに留学する学生は珍しくありません。

4 . 世界大学ランキングで有利なのは理系ではなくて、日本の文系に競争力が無いのが実態

『こうしたランキングは基本的に、「研究成果が評価されている大学」が有利になります。例えば国際基督教大学(ICU)や、立命館アジア太平洋大学(APU) などのように、実際にはシンガポールを始め世界中に出身者を送り出しているであろう大学も、この線引きの仕方では対象外』(BLOGOS 倉部史記氏)
『一般に、世界の大学ランキングの順位には、理系の業績がより反映されやすい傾向がある。理系の学部を持っていないと、日本では先の11校と同等に評価されている大学でも、対象から漏れてしまうからだ。』(J-CAST)

この3つは世界的に著名な大学ランキングです。上記2つの記事の筆者は、本当に今回の3つのランキングでの選抜方法に基づいた上での発言でしょうか。3つのランキングの方法の概要はこちら。

  • QS:

40% 学術評価,
10% 学生を雇用する雇用主への聞き取り評価,
20% 教員/学生割合,
20% 教員あたりでの引用論文数,
5% 外国人教員率,
5% 留学生比率
Methodology: A simple overview of the QS World University Rankings

  • ARWU (上海交通大学の世界大学学術ランキング):

10% 教育の質 (卒業生のノーベル賞とフィールズ賞受賞者),
20% 教員の質 (ノーベル賞とフィールズ賞受賞教員),
20% 教員の質 (論文引用数),
20% 研究成果 (ネイチャー誌とサイエンス誌での出版論文数),
20% 研究成果 (Science Citation Index ExpandedとSocial Science Citation Indexで索引された論文数),
10% 教員一人あたりでの学術成果
ARWU-Methodology

  • Times:

30% 教育 (学習環境)
30% 研究 (量・評判)
30% 引用 (研究の影響力)
2.5% 産業収入 (イノベーション)
7.5% 国際観 (スタッフ・学生・研究)
The essential elements in our world-leading formula

確かに、ARWUは「世界大学学術ランキング」の名の通り、研究重視なのがよく分かります。しかし、QSとTimesはそうでありません。QSもTimerでも研究 以外の学生寄りの視点項目が、評価の40%を占めています。大学評価、しかも世界のトップ校への評価である以上、研究が中心なのは当然であり、学生もその恩恵を受けているとの解釈です。
また、この評価軸において、QSとTimesでは文理で理系優位ということは確認できません。日本の大学は理系が評価されており、文系評価は低い。これは特に学術の国際競争にさらされている経済・経営(MBA)で顕著に確認可能です。例えばMBAの世界ランキング(FTと Economist)にランクインしている学校は新潟県魚沼市の国際大学のみが現状。つまり、「世界ランキングで有利なのは理系なのではなくて、日本の文系に国際競争力が無いのが実態」です。
the Financial Times: Global MBA Rankings 2013 - Financial Times
The Economist: Which MBA?: 2012 Full time MBA ranking

5. 国内受験偏差値と世界ランキングは直結していない

基準が違うのだから当然。
『早稲田はよくて一橋はだめとか申し訳なくなる』(J-CAST)という感想は受験難易度に縛られすぎ(注:早稲田は2013年以降ランキング200位圏外に)。シンガポールでは、早稲田も一橋も知名度がない。シンガポールで通じるのは東大ぐらいで、それ以外の日本の大学の名前を知ってる人は、日本通と思って良い。日本人は辛うじて(名前の通りの良さから)シンガポール国立大学に聞き覚えがあるが、ナンヤン工科大学を知らないのと同じ。
日本の受験難易度では、医学部医学科が最難だが、その受験難易度に見合った"大学"かというとそれは違う。あの難易度は、職業訓練校としての医師人気の産物。

6. SGのワーホリは「トップ校大学生向けシンガポールでのインターンシップビザ」が実態

一般的なワーホリの目的は、相互協定を組んでいる該当二国間での相互理解や、参加者への国際観の育成である。しかし、SGのワーホリはワーホリという名前なだけで、制度上も実態も、他国で一般的なワーホリとは異なる。対象者や条件から考えて、「トップ校大学生向けシンガポールでのインターンシップビザ」が実態となる。
これはシンガポールで学生ビザは移民省(ICA)発行だが、ワーホリビザは就業を扱う労働省(MOM)発行なことからも分かる。

こういう制度の名前と実態が違うビザというのはSGには他にもあり、その一つが永住権 (PR)。SGの永住権は通常5年毎にRe Entry Permit (REP) という再入国許可証の更新が必要ですが、それが却下されるケースがあると言われています。「ビザスポンサー不要で自営もできる5年更新の滞在/労働ビザ」がシンガポール永住権の実態です。

 

 

※シンガポールでビザの状況は頻繁かつ予告なく変わります。最新状況はシンガポール政府ホームページなどの一次情報で確認下さい。

※本ブログの記述は、筆者の調査・経験に基づきます。記述が正確、最新であることは保証しません。記載に起因する、いかなる結果にも筆者は責任を持ちません。記載内容への判断は自己責任でお願いいたします。

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