今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

岸田文雄首相のシンガポール訪問

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
岸田文雄首相がシンガポールを訪問しました。2022年6月10日と11日です。出来事を在住者視点でまとめます。私の感想は「これだけのことをしてもらえる日本って、なんのかんの言って大国だよなぁ。すげぇ」というのと、サプライズなどの話題性には欠けていましたが、それでも同党議員の買春スキャンダルでかき消されたのが、在住者として残念でした。
映像としては、シンガポール首相インスタのリールを見て頂くと、良いサマリーになっています。


なぜ岸田首相はシンガポールを訪れたのか

岸田首相の訪問は、立場で言うと「シンガポール政府が招いた国賓」ということになります。

https://www.facebook.com/photo?fbid=565680428251424&set=pcb.565693794916754

(いらっしゃ~い)

今回のシンガポール訪問に至るまでに、日本とシンガポールとの長期間の国交がありますが、岸田首相の観点では、外相時代にも、自民党での政調会長時代にも訪問しており、馴染みがある国です。

外相時代のシンガポール訪問
政調会長時代のシンガポール訪問

パンデミック前での最後の訪問だった2019年については、シンガポールのリー・シェンロン首相も、ビビアン・バラクリシュナン外相も、自民党総裁・首相になった時に触れています。

岸田首相就任直後からのシンガポール招待

リー首相による岸田首相への招待は、2021年11月22日の首相になってから初めての電話会議で、すでに行われていました。

Prime Minister Lee invited Prime Minister Kishida to make an official visit to Singapore.

ゴールデンウィーク中に、首相がASEAN(インドネシア/ベトナム/タイ)訪問を行いましたが、ここにシンガポールが入っていませんでした。なぜかと思っていたところ、5月7日に産経が「岸田首相、アジア安保会議出席へ調整 対中露念頭」というリークを出します。


これで、連休中の外遊先にシンガポールが入っていなかった答え合わせとなりました。

日経主催の国際カンファレンス「アジアの未来」

6月11日でのシンガポールでの首脳会談に先立って、5月26日にも首脳会談が行われています。場所は東京で、日経主催の国際カンファレンス「アジアの未来」出席と合わせてでした。
「アジアの未来」は今回で第27回の開催。シンガポールと日本との間で、極めて重要なカンファレンスになっています。これまで、シンガポールからは何度も首相が登壇しており、今年はリー首相が基調講演を務めました。
パンデミック後の本格的な外交再開ということもあり、シンガポールからは大規模な外交団が作成されました。同行は、首相・首相夫人・外相・労働相・情報通信相・保健相です。
リー首相の訪日でのシンガポール記者団への取材に対し「遠からず、岸田首相をシンガポールにお招きして、今回の議論を続けることができると望んでいます」と、招待について触れています。以前からのシンガポールからの招待と、シンガポール首相の訪日を受けて、岸田首相がシンガポールに訪れた面もあったことが伺えます。

It was a good discussion and we had a very lively exchange and I hope that before long I will be able to invite Prime Minister Kishida to Singapore and we can continue the conversation.

なお、リー首相の「アジアの未来」での動画と講演スクリプトは下記にあります。

シャングリラダイアログ

シャングリラダイアログはなぜ重要か

シャングリラダイアログ (アジア安全保障会議) とは、シンガポールで行われる国際政治イベントで最大級のものです。一般に、シンガポールで一般に最も知られているものはF1開催だと思いますが、政治でのF1ぐらいの重要性があります。(なお、国内政治で最も重要なイベントは建国記念の"ナショナルディパレード"です。パンデミック中すら、規模縮小しながらも開催しました) テーマは防衛であり、各国から防衛大臣や上級将官がこぞって参加するためです。単に各国が主張を講演で垂れ流すだけでなく、閣僚・将校が顔を突き合わせて話をする機会、というのがウリになっています。今年は、40ヶ国から500人が集まりました。オンラインでは代替できないため、パンデミックで過去2年間、開催されていませんでした。
日本の首相の参加は、2014年の安倍晋三首相(当時)が最後でした。昨年、菅義偉首相(当時)も参加を検討していましたが、パンデミックのため、開催が中止され、出席がなりませんでした。
主催はシンガポール政府ではなく、イギリスの独立シンクタンクIISSです。シンガポール政府が全面協力しています。

岸田首相の基調講演

岸田首相の基調講演は、スクリプト全文と動画が開示されています。

要約です。

  1. 「平和のための岸田ビジョン (Kishida Vision for Peace)」を提起。
  2. 「平和のための『自由で開かれたインド太平洋』プラン」を来年春まで作成。
  3. インド太平洋諸国に、今後3年間で少なくとも約20億ドルの巡視船を含む海上安保設備の供与や海上輸送インフラを支援。
  4. 本年末までに新たな国家安全保障戦略を策定。日本の防衛力を5年以内に抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保。
  5. シンガポールとの間で、防衛装備品・技術移転協定の締結に向けた交渉を開始。

岸田首相自身による基調講演への評価としては、

5本柱からなる平和のための岸田ビジョン、これを進めて外交・安全保障面での役割を強化していきたい、こうした決意を表明いたしました。受け入れられたのか、評価されたのかということについては、終わった後の夕食会、多くの方々から声を掛けられ、講演の中身を評価する言葉をずいぶんとたくさん頂きました。

とのことです。

シャングリラダイアログでの成果

岸田首相に加え、岸信夫防衛大臣も参加していました。岸大臣は公表されただけでも、三国間協議を2回、防衛大臣会談を6回と、わずか3日間で大忙しでした。非リアが「絶対に関わりたくない」と泣き叫ぶような、こういう強烈な絵面になります。

防衛装備品・技術移転協定

今回のシンガポール訪問で最も大きい影響は、日本とシンガポールとの間の防衛装備品・技術移転協定でしょう。防衛装備・技術協力については、防衛装備庁が詳述しています。これまで12カ国と同様の取り決めがあり、ここにシンガポールが将来的に追加されることになります。

日本の防衛省の発表では具体的でない、2009年に行われた「日本国防衛省とシンガポール共和国国防省との間の防衛交流に関する覚書」の強化 (後方支援・技術交換・CBRE防御・戦略的コミュニケーション・海洋安保を新領域に含む) を、シンガポール発表では確認できます。

ゼレンスキー大統領講演

シャングリラダイアログでは、時の人であるウクライナのゼレンスキー大統領もビデオで講演を行いました。着ていたTシャツは、シンガポール人女性16歳がデザインした、シンガポール製です。


ロシアの侵略を非難し、スピーチ名手らしく、シンガポール初代首相のリー・クアンユーを引用します。

『「もし国際法がなく、大きな魚が小さな魚を食べ、小さな魚がエビを食べるなら、、、我々は生き残れない」リー・クアンユーの名言だ。』1966年のスピーチをゼレンスキー大統領は引用した。

「エビにも毒を持っているものがいる」「近隣諸国(小さい魚)に囲まれ、巨大な世界の力(大きな魚)に囲まれて、若い国が生き残るためには、防衛を固め、大きなものに付く生物のように、より強い国々と提携をするかだと、当時、リー・クアンユー氏はつなげています。

日本・シンガポール首脳会談

国賓として招かれているシンガポール首相およびシンガポール大統領と会談を行っています。

岸田首相はシンガポールの滞在が20時間程度でしたが、リー首相はかなりの時間を同行しており、まさに国賓待遇でした。
2010年に岸田首相がマーライオンの前で撮った写真を見たことから、リー首相は岸田首相をマリーナ・ベイに連れ立ってます。
共にした朝食ではロティプラタ・カヤトースト・豆腐花(豆乳プリン)、公式昼食会ではチリクラブケーキ・オタ(かまぼこ。スパイシーココナッツソースで)だったことを、リー首相は明かしています。

https://www.facebook.com/photo?fbid=565683851584415&set=pcb.565693794916754

(なに食べちゃおっかなー)

シンガポールでの評価

基調講演について、ストレートタイムズ紙は好意的に評価を載せています。

シンガポール元外務次官 ビラハリ・カウシカン氏は、安倍晋三元首相からアジアの安全保障の枠組を日本は再構築していると言う。「より積極的な日本は、アジアと世界の秩序での安定維持に、大きな意義がある」
今回のシャングリラダイアログに使節団として派遣されている、マレーシアのLiew Chin Tong元防衛副大臣は「アジアと世界は、転換点にある。より実践的なリーダーシップは、夢遊歩行よりよい」「戦争を避けるためには、緊張関係を率いて管理するリーダーをアジアは必要としている」

経済に加え、アジアでの安全保障の貢献も日本に期待するシンガポール

岸田首相とシンガポール首相の共同記者会見での、シンガポール首相の発言です。

東京での日経カンファレンスで私が述べたように、日本によるアジア太平洋での経済貢献ばかりでなく、地域の平和と安定への貢献も、シンガポールは期待しています。
年月と世代を通じて、新しい戦略環境において、日本が過去と折り合いをつけ、長く残っている歴史問題に区切りをどうすれば付けられるかの最良の方法を、考えるべきです。これによって、日本は地域での安全協力により大きな役割と日本がとることができ、開かれて包括的な地域の基本設計を、完全に作り支えることができるようになります。

「アジアの未来」でのこの発言が報じられて、いつものようにネトウヨ界隈では、脊髄反射的な反応が起きています。

「華僑のシンガポールは中国の衛星国」←賢いシンガポールは、中国と米国(日本)との間で、バランスをとって美味しい所を取れると考えている国です。シンガポールは歴史的由来で反共国家で、中国からのスパイも追放するなど、中国への警戒も強い国です。
「いつまで歴史問題を持ち出すのか」←シンガポールと日本の間では、1967年の血債協定で終了しています。シンガポールが補償や謝罪を要求しているわけではありません。これは「日本は中韓とのゴタゴタを片付けずに、安全保障で前に出ると、中韓から刺されるぞ」という警告です。

新種の蘭「キシダフミオ」

シンガポールでの儀礼として、新種の蘭にその人の名前をちなんで贈る、ということを行っています。蘭はシンガポールの国花です。これまでに200人に行われています。
日本の皇族に対して、Renanthera Akihitoや、Masako Koutaishi hidenkaという新種の蘭が贈られています。
今回、初めて首相に蘭が贈られました。「デンドロビウム・キシダフミオ」と名付けられ、命名式にはリー首相が立ち会いました。


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