今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

シンガポール永住権取得属性と難化状況 ~PRを取れる人は誰か?~

シンガポール永住権 (PR) 取得難化の背景

金融危機 (リーマンショック) 以前、シンガポールでは永住権 (PR: Permanent Resident) 取得は、先進国でありながら極めて容易でした。「在住1年超で1回目の納税を済ませるとPR申請、そこでダメでも翌年再度納税した後の2回目の申請でだいたい取得可能」というのが日本人にとっての平均的な難易度でした。また当時はPR申請を促すシンガポール政府からのインビテーションレターも盛んに発行されており、在住日本人で"お誘い"をもらった人は多数います。
ところが、金融危機以降に、「外国人がシンガポール人の職を奪っている」「シンガポールに外国人が増えすぎて公共交通機関の混雑が半端ない」等というシンガポール人からの非難が増加。ここ数年で厳しくなったEPやS Passなどの労働ビザ (Work Pass) より更に難化させて、永住権取得は厳しくなりました。2008年は取得者8万人で取得率は8割だったのが、2009年には6万人で取得率5割、2010年には3万人で取得率3割に急激に低下しています。

(Population in Briefより筆者作成)

2009年12月~2010年4月:    PR新規発行が一時凍結
 ※非公式です。発表されていません
2010年3月:  PR資格受理診断のオンラインツールが削除
2010年:  シンガポールにある国立三大学(NUS、NTU、SMU)、INSEAD、Chicago Boothなど卒業外国人へのPR付与中止
 ※中止以前はICA (入国管理局) がPRをOfferし、シンガポールで卒業後1年以内に仕事を見つけるとPRが取得できる非公開プロセスがあった
2012年4月:    富裕層向けPR付与のFISプログラム廃止
 ※FISは2004年に導入、個人資産が2,000万シンガポールドル超で、SGで5年以上1,000万シンガポールドル以上の資産保持できる外国人が、プライベートバンク経由で応募できた。

 

日本人とシンガポールPR

定義によってはタックスヘイブン国扱いされ、ASEAN事業展開の進出拠点となるシンガポールでの、キャピタルフライトや自営に脚光が集まっています。それを強力に支える"プラチナチケット"となるのがシンガポールPR。では一体、日本人でPRを持っている人はどれだけいるのでしょう?

データがあります。日本の外務省の海外在留邦人数調査統計です。長期在住者が在留届を出すとカウントされます。
強制力のない自己申告データなので、シンガポール在留終了者が届けを引き下げていない、現地採用者は届けを出さない確率が高い、PR取得者は労働ビザからの切り替えを届けていない、等があり誤差があるデータですが、シンガポール政府からの開示がないため、唯一の公的データです。
これをみると、2020年は在留邦人総数は36,200人で、永住者はそのうちの3,432人に過ぎません。つまり日本人のPRは長期滞在者のわずか9%。長期在住者の大半は民間企業関係者とその家族で73%を占めます(滞在分類があった2017年データ)。民間企業関係者は過半数が駐在員でしょう。現地採用者が増えていますが、まだ少数派。駐在員は期間限定で該当国に駐在しているため、永住権申請を許可しない勤務先が多いです。シンガポールでのPR取得日本人は、相当なマイノリティです。

2017年にシンガポール永住日本人の性別内訳は、男性1,068人で女性1,521人、比率が1:1.5で、女性が男性より5割多いです。これは在留邦人総数の男女比が53:47と、男性がやや多いのを考えると、著しく女性多数です。シンガポール在住の日本人で女性がマジョリティなグループは、シンガポール人配偶者を持つ人と、現地採用者です。世間で思われているシンガポール永住権のタックスヘイブンやビジネスドリブンな印象と異なり、シンガポールの日本人永住権者はシンガポール人男性と結婚して配偶者スキームで、もしくは現地採用から労働ビザスキームでPR取得した日本人女性が多いのが実態と推測されます。
永住者の性別に加えて、本人と同居家族に分けて開示されていましたが(2015年当時、現在は非開示)、ここからも推測が補強されます。同居家族とは「日本国籍とシンガポール永住権を持つ子ども」が中心であり、男女比は53:47とほぼ半々です。ところが、永住者本人は、男女比が1:3(男:338人、女:869人)といちじるしく女性に偏ります。ビジネスや税金目的の男性や、シンガポール人女性と結婚して当地で職を持つ男性永住者(とその家族)は、当地では相当なマイノリティなのです。

また、特に日本人にとってのPR取得難化も分かります。2016年から17年への永住者増加数は、わずかに62人。15年から16年も114人。PR返上者がいるため、実際の取得者はこれより多いのですが、新規取得者は極小です。そして新規取得者も大半は同居家族です。16年から17年では、永住者男性は7人増、永住者女性は42人減少ですが、同居家族は97人増となっています。既存のPR取得家庭が出産した分しか、ほぼ増えていないのが近年と推測できます。

(外務省 海外在留邦人数調査統計より筆者作成)


そもそも永住権とは?

永住権と市民権は誤解されやすいですが、全く違います。シンガポールでの扱いは、権利と義務において、「市民権>永住権>在住外国人」の序列が明確です。

永住権 (Permanent Residence) :

在住期間・就労可否が原則無制限となる滞在就労許可です。
永住権では国籍が付与されないため、シンガポールのパスポートは手に入れられません。シンガポールを含め多くの国で、参政権や選挙権もありません。シンガポールではCPFと呼ばれる年金などの強制貯金への加入や、公営病院での医療費補助、HDB公団の中古物件取得といった社会保障へのアクセスが、永住権取得で初めて可能になります。加えて、PR取得者の子供(二世)からは兵役が義務付けられます。国民/PR/外国人でのメリット・デメリットの詳細はこちら。
国民/PR/外国人の社会保障の違いを教えてください

市民権 (Citizenship) :

国籍が付与されます。そのため、シンガポールのパスポートが与えられます。シンガポールでは二重国籍は認められていませんので、シンガポール国籍取得者は以前の国籍を放棄する必要があります。選挙権・参政権を持ちます。

PR社会保障の制限傾向

これまでPRは、国民に準じる扱いを受けてきましたが、今は外国人としての扱いを受ける印象が強まっています。PRと市民の社会保障に差がつくと共に、PRが言葉の意味そのままの「永住権」でもなくなっています。PRについてくる通常5年更新のRe Entry Permit (REP: 再入国許可証)が更新拒否される事態が発生しています。

PR (Permanent Resident): 取得困難。二世からは徴兵義務。
権利の制限は、公立学校授業料の値上げや、不動産購入についてです。AsiaX:

・AsiaX: 公立・政府補助校の授業料、外国人学生は値上げ
・AsiaX: PRには受難の時、融資限度は返済能力を考慮

取得難易度の高まりと、縮小する社会保障の中でも、PR取得希望者は絶えません。特にシンガポールでの起業を考えている人や、シンガポールに現地採用で働いており失職時の出国リスクを減らしたい人、シンガポール人家族がおりリタイア後もシンガポールで生活したい人には、PRはいまでも強みでしょう。起業希望者にPRが魅力的なのは、実績や資本が小さい起業したての起業では、就労ビザ取得が困難なためで、PRであれば労働ビザにとらわれないため無条件で起業ができるためです。

PR申請スキーム

PR取得で確認されているスキームは下記です。


1. シンガポール人とPRの配偶者 (家族スキーム)
2. シンガポール人とPRの21歳未満の実子か養子 (家族スキーム)
3. シンガポール人の高齢の両親 (家族スキーム)
4. シンガポールで労働ビザ(EP/S Pass)を所持し、居住・労働実績を積んで申請 (プロフェッショナルスキーム)

5. シンガポールで学習している学生 (PSLEやGCEといった国家試験合格が条件)
6. GIP (Global Investor Programme) (富裕層向け投資家スキーム)

・ICA: Becoming a Permanent Resident

各スキームごとで申請条件の難易度が人により異なりますし、申請条件を満たした後でも申請者の属性で難易度が異なります。どのスキームで申し込むかで、前述のREP更新基準も異なり、影響があります。日本人でPR取得を考えている大部分の人への現実的なパスは、プロフェッショナルスキームか家族スキームでしょう。

4.についてです。セカンダリースクールとジュニアカレッジで優秀な外国人生徒にはPRが付与されます。2001年~2014年までで7千人なので、年に500人です。6学年程度が対象のため、学年での外国人トップ100位に入れればチャンスがあると思われます。人数から考えると、国民と外国人を通して500人が選ばれるGEP (Gifted Education Programme) に選抜されるよりやや高い難易度と思われます。
最近(2019年?)になり、インビテーション以外での応募が可能となり、入国管理局ICAサイトで開示されています。応募基準は2年以上の在住、PSLE/GCEなど国家試験をパスしていることです。このスキームでは兵役NS免除はありません。
・Strait Times: Parliament: About 7,000 foreign students granted PR status

PR申請属性

どの属性をPR申請に、ICAが評価するのかをまとめました。(これはPR申請属性です。REP(再入国許可証)の更新属性ではありません。)

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PR申請での重要属性

勿論上記は、私が見聞きしている限定された話の中での、私の判断です。つまり主観です。上記に外れて取得できる人も、取得できない人もいます。また基準は今後も変わり続けるでしょう。EPやS Passと違って、PRでは取得可能正診断ツールは現在ありません。そのため、経験値でのPR応募データと数少ない公開資料、政府見解から現行基準を推測していくしかありません。

シンガポール政府の基本的な考え方: Singapore rootsもしくは優秀人材

金融危機前後までシンガポール政府がPRに求める属性は「一に収入、二に学歴」でした。それが金融危機以降は方向転換をしています。それは
「今後シンガポール国民になる人をPRに迎え入れる」
というものです。在シンガポール外国人へのシンガポール人からの風当たりの強さから、政府は「彼らは優秀だから(金を稼げるから)国に貢献してくれる」とこれまでの経済一辺倒での説明ではなく、「PRは今後シンガポール国民になる人達だから」と説明しています。国民になるかを判断する有力の属性は、シンガポール在住年数です。数年住んでPRを申請しても「ほんとにこの後もシンガポールに住み続けるのか?国民になる気はあるのか?」と疑います。
これらはSingapore rootsとして、「何がシンガポール人らしさか」「何を持って移民国家のシンガポールでシンガポール人というのか」という議論が最近政府でも国民でも活発です。ここではシンガポールとの親和性が高いことが重要、との理解が必要です。

現在では揺り戻しがあり、収入・学歴・職歴で高い地位を持つことが再度重要になりました。これは親和性が高いはずであるシンガポール人配偶者スキームでのPR申請も半分強が申請却下されていることからも分かります。

これをまとめると「シンガポールとの親和性が高いか、優秀人材がPRとして歓迎される」ということです。このどちらかの枠に入ることが必要です。つまり、「国民と結婚」「高所得」が二代属性です。

国籍・民族

実は、PR取得において、日本人は不利な国籍です。シンガポール人との親和性が高い国籍と民族が他にいるからです。マレーシア国籍であり、シンガポール主要民族の中華系・マレー系・インド系です。
元々マレーシアとシンガポールは同じ国で、マレー人優遇政策をしたかったマレーシアが、中華系中心のシンガポールを切り出して、独立させられた歴史的経緯があります。地理的にも隣国であり、PR返上などせず、生涯にわたってシンガポールに住み、帰化する可能性が高いです。親和性という意味では相当高いです。その中でも中華系マレーシア人は、シンガポールと親和性が最も高いとみなされています。中華系マレーシア人は最強属性で、他外国人とは異なるPR基準がとられており、他国籍・多民族からではとっくに不可能となったSパスからでも、PRが取得可能です。その点で、PRからのシンガポール国籍への帰化が年に数人しかいないと言われている日本人からは、PR取得が難しいのは当然です。
ですので、本文書で私が書いているPR属性とその評価は、基準が違う他の国籍へは当てはまりません。日本人のみが対象です。

 

属性:在住年数

シンガポール在住年数は長いほど有利です。ですが多少有利にはなっても、PR承認の決定打にはならない印象です。在住年数が10年超になっても、収入・学歴・職歴に短所があれば、PRは取得困難でしょう。

PR取得者の在住年数は私が調べた限り開示が確認できなかったのですが、シンガポール市民権取得者の在住年数は開示されています。国籍に対しては、在住5年、10年という時間を意識していることが分かります。
・Straits Times: Eight in 10 new citizens last year lived in Singapore more than five years

シンガポール市民権申請には2年以上PRでいることが規定上から必要です。
未成年を除く市民権取得者では、10人中8人は5年以上シンガポール在住、10人中5人は10年以上在住です。つまり、10人中2人は5年以内の在住でPRを経てシンガポール市民権を取得しています。シンガポール在住5年未満の市民権取得者は、海外でシンガポール人と結婚し、シンガポールに移り住んでから市民権申請をしていると推測されます。

2013年頃には「5年以下の在住者が足切り」という基準があるのでは、と思わせる審査結果が見られたのですが、現在では足切りが適応されない人が多くなってきました。特徴的なのは月収$2万を超える人達が、在住数年で取得していることです。

属性:学歴

シンガポール政府公表統計より、PR取得者の中学校(セカンダリスクール)卒業以下が24.2%。中学校より上の学位取得者が75.8%です。
・シンガポール政府: Statistic Booklet - Population in Brief 2012
「え?!中卒未満で1/4もPR取得できてるっていうことは、事実上学歴影響しないんじゃ?」と思った人、間違いです。申請者がビザスポンサーとなって同時にPR申請する配偶者とその子供の属性は、PR判定にあまり影響ありません。この中卒以下はPR応募者の子供と理解するのが妥当でしょう。年齢の詳細はのちほどしますが、20歳以下でのPR取得者は29.9%です。まだ就学中の子供が、中学校卒業以下でPRを取得した24.2%の大半でしょう。
中卒以下には成人者も若干は含まれているでしょうが、配偶者での申請の可能性が高いです。

在シンガポールの国立大学と一部海外有名校での学位取得者

2013年頃迄は、短期間の滞在(5年未満)でPR申請で許可のチャンスがあるのは、シンガポールの国立大学(NUS:シンガポール国立大学、NTU:ナンヤン工科大学、SMU:シンガポール経営大学など)で学位取得した人達でした。学位なら今からでも努力で取得でき、これであれば最近でも在住数年でPR取得が確認されています。以前は地元国立大の卒業生は、2009年までは卒業後1年以内にシンガポール内で職を見つけると、即PRを受領していました。シンガポールにある国立大/著名校を卒業し、シンガポールで仕事を見つけ、PRを申請ということは、「それなりにシンガポールに腹をくくっていて、シンガポールを理解して親和性が高く、そこそこ優秀である」ように見え ます。

大学か院で、学位がでればどちらでも良いです。海外校でもINSEADやChicago Booth(現在は香港に移転)といった著名な在シンガポール校で学位取得した際でも同評価を受けます。日本人にも上記の大学院MBA取得者が、このカテゴリ内でたまにいます。
しかしながら、2015年以降では、特に日本人以外で国立大卒業者がPRに落ちる自体が続出しています。日本人の地元国立大学卒業者のサンプルが少ないのですが、有利ではあっても以前ほどの下駄があるようには見えません。
なお、シンガポールにある学校でも、私立大や一般海外校の学位では、PR取得の切り札になるほどの高い評価は受けていません。通常の大卒・院卒学位として評価されます。また、コースや単科受講などは学位でないので、たとえ地元大でも、加点での有意な効果は期待できません。
・参考:「シンガポールのワーホリビザはトップ大学のみに発行」の背景【余談】シンガポールの私立大学

シンガポール外でも、米国アイビーリーグや英国オックスブリッジといった超有名校卒業生ではチャンスが高いです。
博士・修士、日本の大卒でも有名校(東大等)であれば、それだけでは決定打にならなくても、引き続き有利に扱われ、加点されているでしょう。
その一方、大卒未満は極めて厳しいです。金融危機以前のPR乱発時は大卒未満のPR取得も聞きましたが、最近はめっきりと聞かなくなりました。大卒未満では在住年数を重ねるだけでは、取得できない可能性が高まっています。

属性:家族構成

家族構成もPR取得に影響します。シンガポール政府はシンガポールに本当に永住してくれる人を求めています。独身であれば身軽ですし結婚した際に相手次第で居住国がどうなるのかは不明です。その点、シンガポールに家族を連れてきており、家族と共にPRを申請すると、独身より当分シンガポールにいてくれそうです。また既に子供がいてPRになってくれれば、少子高齢化に悩むシンガポールには願ったりかなったりです。

逆に、、、PRに応募しながら、本人と配偶者だけを申請し、子供を申請しない人がいます。この場合は、ほぼほぼ子供は男子です。はい、そうです。つまり男子子供の徴兵回避目的です。PRを申請する際に、配偶者と子供も同時に申請できますが、この際に誰を申請して誰を申請から外すかは、選択可能なのです。金融危機前後までは男子子供をPR申請から除外して両親のPR取得していた人はいることはいました。しかし最近はこの方法でのPR取得は確認されておらず、シンガポール人からのPR糾弾の一つにも「子供男子をPR申請から除外」が入っています。子供をPR取得から外すと、兵役忌避としてPR取得の致命傷属性になり、他の属性にかかわらず申請却下となります。
PR申請時には、家族全員での申請が原則で、そうでなければ門前払いということです。家族全員とは配偶者と子どもです。将来、国民になる人を探していることから考えても、家族の一部しか申請しないのは極めて不利な結果になることは明白です。

シンガポール人との結婚

シンガポール人と結婚すると、外国人配偶者は親族スキームでPRを申請できるようになります。シンガポール人親族スキームでの特徴は、滞在が短期間でも受理される可能性があること、重視される属性は申請者本人以上にPRスポンサーのシンガポール人であること、の二点です。

シンガポール人と結婚をし(あるいはシンガポール人の子供を持ち)、シンガポール人配偶者スキームでPRを申請するのは、シンガポールとの親和性として強い属性です。親族スキームではシンガポール居住年数にとらわれず申請できるなど、有利は有利になるのですが、取得率は圧倒的ではありません。2008年 から2012年までの間に、親族スキームで応募したうち、平均で4,100人はPR承認されていますが、4,400人はPR却下されています。

・Straits Times: Eight in 10 new citizens last year lived in Singapore more than five years

2009年~2018年の10年間では、毎年8600人のシンガポール国民の配偶者の外国人から永住権PR申請を受けました。年平均4200人がPRを付与され、許可率は49%でした。親族スキームでも半分が却下です。
・シンガポール内務省 (MHA): Written Reply to Parliamentary Question on Permanent Residency Applications, by Mr K Shanmugam, Minister for Home Affairs and Minister for Law

2019年~2021年の平均では、国民配偶者への許可率は62%でした。家族スキーム全体では50%です。許可は5千人程度であり、これはPR許可の全体での2割です。
同時に、PRに加え、帰化の許可率も開示されています。配偶者と子どもの帰化の許可は9割超です。「PRは難しいが、帰化は楽勝」の噂通りです。

・シンガポール内務省 (MHA): Written Reply to Parliamentary Question on the Number of Permanent Resident and Citizenship Applications Received Per Month in the Past Three Years

配偶者スキームでは本人属性以上に、家族となるシンガポール人の属性が重要と以前から言われていました。結婚相手のシンガポール人の属性(学歴・収入額や継続して税を納めていること・CPF口座残高)が審査に与える影響が高いと言われています。これは結婚相手が事実上のビザスポンサーになるためです。経済的に不安定であったり、学歴が劣るシンガポール人との結婚では、PRが取得できずLTVPでの滞在、自分の属性でのEP/S Pass申請になるケースは、取得率から言っても珍しくありません。これは、経済困窮から偽装結婚の可能性がある婚姻相手に、PRを付与しないためでもあります。

「男子子どもをNS兵役に捧げるとPR取得は容易」は都市伝説?!

「男子子どもを含んでのPR取得は容易」というのを、よく聞きますが都市伝説と判断しています。理由は3点です。

  1. NSを終えずにPRを返上するPR男子2世が、3割もいる
  2. 軍以外にも警察・消防に人を配属し、女性NSを断るぐらい、NSは人員が充足している
  3. 男子2世を含むPR申請・PR取得後に出産した男子2世へのPR申請却下は珍しくない

統計としては、「過去5年で7,200人男性PRがNS兵役に参加し、同5年間に2,600人の男性PR2世がNS兵役を修了せずにPRを返上した」と国防省MINDEFが2014年に開示しています。PR2世男子の3割も、PR返上でNS兵役を回避しているため、男子がPR申請に含まれていても、NS理由で女子より加点する理由には乏しいです。

・シンガポール国防省: Reply by Minister for Defence Dr Ng Eng Hen to Parliamentary Question on Children of Permanent Residents Serving National Service

子どもがいる家庭には加点がありますが、子どもの性別で「男子ならPR取得容易」を裏付ける統計もありませんし、私の観測範囲とも異なります。男子子どもを含むPR申請却下や、親のPR取得後に生まれた男子二世へのPR却下を聞くのは珍しくないです。そもそもNS兵役は、軍以外に警察・消防にも人を回し、女性のNS参加を「男子のみの現時点でバランスが取れているため不要」と国防省MINDEFが断るぐらい、人数は充足しています。

なお、NS兵役を終了せずにPRを返上するのは、長期滞在ビザ・就労ビザ取得に影響があると政府は公言しています。その後、シンガポールに住めなくなるため、「PRは申請するが、NS兵役適齢になるまでにはPR返上」を計画している人は、リスクを考慮すべきです。

属性:収入

シンガポールでの就労ビザの種類は基本給与によります。EPかS Passかは学歴や勤務先にも依存しますが、最重要は月額基本給与です。プロフェッショナルスキームでPRに応募できるのは、EPかS Passです。日本人は原則対象外の単純労働職対象のWP (Work Permit) からはPRに申請できません(注: ダンサーなどエンターティメントの職種であれば、日本人もWP取得者あり)。

EPも旧P1(基本月給$10,000)程度でなければ、取得困難になっています。逆に、外資金融・ファンドなどの勤務で、東京からシンガポールにポジションが移ったことでの移籍・転籍での高額所得者が増えており、旧EP P1をはるかに超える年収(月給$20,000前後以上)であれば短期間の滞在でも、PRを取得する人が増えています。
注意すべきはS Pass所持者です。リーマンショック以前にはいたS PassからのPR取得者を、日本人では見かけなくなりました。PR申し込み要件は改訂されていないため、S Pass保持者はPRへの申請は可能ですが、マレーシア国籍中華系でもなければ取得はまず無理です。現在、配偶者ビザDP取得に必要な最低基本月給は$6,000です。より権利が大きい、PRがこれ以下の基本月給で取得するのが難しいのは自明です。S PassでPR取得困難なのは、シンガポール有力紙Starit Timesの「S PassからのPR取得は困難」との記事も裏付けます。

属性:年齢

年齢は重要属性の一つです。2020年の新規PR取得者の年齢グループは以下になっています。

40歳以上 9.1%
31~40歳 31.2%
21~30歳 37.1%
20歳以下 22.7%

・首相府戦略グループ: Population in Brief 2020

40歳を過ぎると、新規PR取得者に占める割合が急減します。これは40歳以上での応募者が減ることも考えられますが、40歳以上だと評価に足を引っ張っていると考えるのが自然でしょう。高齢化すると、シンガポールに貢献できる期間が減り、逆に社会保障受益者となるリスクが高まります。若ければ有利、年をとれば不利です。
40歳代での取得は、優先度が高い親族スキームやGIPスキームでなければまず無理と推測されます。プロフェッショナルスキームでの取得は、多少の高給与では、細い穴に糸を通すチャンスでしょう。

属性:資格/職業

会社員にとって、現在の勤務先の影響は小さいです。シンガポールで大企業に勤めているから有利、中小企業だから不利とはPR申請では即座に言えません。これはEP/S Passの申請とは大きく異なります。EP/S Passの就労ビザでは、「本人属性×ビザスポンサーと成る勤務先属性」の掛け算で結果がでます。PR申請では勤務先属性単にいくつかある属性の一つにすぎません。理由は、EP/S Passはその勤務先での就労にのみ有効なものですが、PRになると取得後も生涯有効なためで、勤務先は一時的な属性にすぎないからです。確かにシンガポール政府勤務で公務員や、政府系企業勤務者は取得率が高いように見えます。ですが、多国籍企業を含め民間企業では有利/不利はあまりないでしょう。なので、現在の勤務先はPRで判断ポイントとなるマイナー属性(査定対象だが決定的に重要とは言えない)の一つです。

自営業については、応募の母集団が多くないのでコメントは難しいのですが、EP申請時と同様に国民雇用と法人税/所得税納付が、重要です。雇用はシンガポール人でなければなりません。雇用の中心が外国人だと評価が下がります。事業の継続性をアピールする最大の手段は、儲けて法人税をたくさん収めることです。PR取得のためにも、いっぱい現地民を雇って、いっぱい税を収めましょう。

シンガポールが欲している職業があります。今後の高齢化に備えた医療職です。特に医師は有利です。看護師は年に700人しか取得できておらず、少ない人数から大半が家族スキームと推測されます。看護師は所得と学歴の面で、今の水準では不利です。

日本で資格と言えば士業であり、医師以外では弁護士・公認会計士が代表です。シンガポールでも弁護士はプレミアムですが、弁護士資格所持者でのPR申請者は私には情報不足しており、有利になるかは不明です。公認会計士はシンガポールでは会計の専門職がとる資格で、日本のようなプレミアムな資格ではなく、優遇は小さいです。

不利になる可能性があるのが駐在員です。「シンガポールに駐在ビザって無いので誰が駐在員かわからないのでは?」と思われた方。惜しいですが、シンガポール政府には分かっています。EP申請時に「シンガポール以外の国での給与所得があるか」をマークします。それで判断可能です。金融危機前後までは駐在員にもPRインビテーションレターがバンバン届いていました。日本の給与水準に加え、更に各種駐在手当があるので高給取りに見え、当時のPR基準から言って当然でしょう。しかし、駐在員はそのうちに帰国する人達です。永住したり国籍変更する可能性は小さいのです。そのため減点対象になる可能性があります。なお、駐在員は本社に帰ることが前提であり、PRになるとCPF負担も発生することから、通常PR申請を駐在員に認めていない企業が多いです。

属性:英語力

PRのみでなく、シンガポールの全てのビザ及び市民権取得に関しても言えることですが、英語力で結果が左右されることは基本的にありません。理由はインタビューが原則無く、オーストラリア永住権でのIELTSのような英語試験結果を求められることもないためです。判断は申請書類に基いてなされるのが原則です。インタビューされる人はまれにいますが、それも語学力チェックではなく個別事情の聴取です。よって、PRの取得属性に英語は入りません。英語力に不安がある人は、PR申請代行の業者に書類記入を依頼すればハンデはありません。

人口白書: 新規PRの上限数

重要でかつ悲しいお知らせがあります。2013年2月の人口白書を巡る議論で、これ以上の外国人に耐えられないとするシンガポール国民の怒りが爆発。政府は新規PR付与を年3万人にし、PR総数を50万~60万人に抑制することを表明しています。2013年のPR総数は53.1万人です。

AsiaX: 人口白書、政策の目標年を2020年に変更

なぜPR3万人という枠に設定したかについては、2万人に設定されている新国民と関連があります。興味がある方は、下記の記事を参照下さい。


移民と年金:「日本のような高齢化社会にシンガポールをしてはならない」と指摘するシンガポール首相 - 今日もシンガポールまみれ


それに加えて、シンガポール政府は現在の民族比率を維持することを表明しています。シンガポールは中華系・マレー系・インド系が主要民族です。現在の国民とPRを含む民族比率は、中華系74%、マレー系13%、インド系9%で合計97%、その他民族がわずかに3%です。日本人は民族としてその他に分類されます。つまり、PR総数3万人枠の3%=900人の枠を日本人は他民族と争っていることになります。実際には、その他の民族に900人より多くの割当がある印象ですが、それでもこの中で日本人がPRを取ることはいかに難易度が高い状況かの想像は容易です。この数には、GIPや親族スキームでの申込も含まれるので、労働ビザスキームでの取得には更にスペック競争になります。

・Today: We will maintain racial balance among S’poreans: PM Lee

 

以上から、本記事で論じている属性基準も絶対値ではなく、PR申請母集団の質が向上すれ ば、発行数に上限があることから更に取得が難化する相対的なものです。応募者は、スペックが上の人から許可されます。今後もPR 取得は一方的に難化し続ける可能性が高いということです。逆に、多くの外国人が帰国したコロナ禍では「チャンス」としてPRに申請する人たちもいましたが、もともと厳しい属性の人たちの取得例はまだ聞きません。

PR申請への戦術

ここまでで、誰がPRを取得できるかについて書いてきました。どのようにPRを申請すべきかを記します。

家族スキームやGIPを使える人は、PR取得を思い立った時に申請しましょう。留意点は申請者の子息に男子がいれば、徴兵対象になることです。

難しいのが、プロフェッショナルスキームでの申請です。原則として私は相談されれば「興味があるなら出してみれば」と言っています。これは申請にペナルティは無いからです。それで却下されても、過去の却下が理由で、将来の申請が不利になることはPRではありません。
それでもまずは居住丸2年を満たしましょう。2年以下では、有名大卒で高給職についた20歳代でもない限り、現実的な可能性は低いです。
居住丸5年以降の申請が二度以上却下されれば、PR取得は極めて困難で、現在の基準が続けば今後もPRを取得できない可能性が高いです。応募母集団の中で、ハイスペックな人を上からとっている相対基準なため、居住年数を満たした後は加齢などで一層不利になるからです。

どうしても取得したければ、シンガポール人と結婚して親族スキームで申請する、NUS(シンガポール国立大学)/NTU(ナンヤン工科大学)などの地元大学院修士をパートタイムでもよいので卒業する、給料を爆上げさせる、シンガポールの国への魅力が減少しPR申請者が減るような危機を待つ、などが対策になります。

永住権申請コンサルを使うべきか

「永住権コンサルを使っても有意な加点はない」が私の印象です。コンサルの提案は、

  • ボランティアをしよう
  • 中国語を学ぼう
  • 不動産を取得していれば書こう
  • 辞令や勤務評価をつけよう
  • 寄付をしよう

程度です。これらは、書いて悪い話ではないのですが、書いたところで有意な差にはなりません。プロフェッショナルスキームで最重要は、

  • 給与収入
  • 職歴 (職種)
  • 学歴

です。これらで大半が決まります。次に、年齢・家族構成です。PRは、動かしにくい変数(収入・学歴・職業・年齢)に基づいて、書類で評価されます。

コンサルに日本人はいないので、PR申請に英語が不得手な理由だと、日本人がコンサルを入れる理由にはなりません。
取得率を誇るコンサル会社もありますが、「最初から客を絞っているのでは」というのは私の推測です。国籍・民族で取得難易度が変わるので、中華系マレーシア人の実績を持ち出されても参考になりません。日本人の申請実績が必要ですが、私は対応できるコンサルを知りません。

コンサルでの苦情が多いようで、ICAは警告をしています。コンサルに金を払ったあげくに、ボランティア・中国語学習などで時間を使い、寄付で更に金を使ってPRをとれないとなると、ICAにカチこむ人がいるのでしょう。

 

 

富裕層のPR申請

シンガポールに増えてきている日本人プチ富裕層が移住する時に「GIPに出せるほど資産があるわけではないが、安心のために永住権が欲しい」と移住コンサル・進出コンサルに相談することがありますが、無理です。居住実績なしでは、PRはでません。シンガポールにはプチ富裕層がわんさかいますが、将来帰化する見込みが不明な人に出すほど、永住権枠は余っていません。

自分で設立した企業から自分に給与を払い、利益を出して法人税を払い、シンガポール人を雇用することを、数年は地道に続けることが必要になります。当地で、ビジネス目的でなく、アーリーリタイアを兼ねて税目的で移住した日本人が、法人税を払い現地人を雇用するのは、かなりの労力が必要です。それはアーリーリタイアと税目的に合致しないので、結局はEPで滞在続けるプチ富裕層が多いです。それが、税目的富裕層日本人のPRが少ない理由です。
「GIPに申請できるほどではない」と稼ぎと資産をぢっと見つめ直すことになります。

 

TIPS

下記リンクでPR申請後のステータスは確認可能です。

ICA: iEnquiry

 

 

余録: 子供のPR申請が却下される

既に両親がPRを取得しており、出産を経て、子供のPRを申請するが、何度申請しても却下される状況を耳にするようになってきました。申請する動機は、子供の医療費補助や、ローカル校への小学校入学枠のためです。ローカル校進学には、子供のビザがDPやLTVPだと学籍確保が困難で、高額な日本人学校やインター校の選択や、帰国しての進学を余儀なくさせられるからです。

却下のケースではほぼほぼ親が、何年もシンガポールに在住し、金融危機以前の現在の難化する前にPRを取得しているケースです。つまり、現在の難化しているPR基準では新規にPRを取得できない家族です。例えば、2010年以前は月給$3,000やまれに大卒未満でPR取得をしている人もいましたが、その後から現在に至るまで、給料や学歴で目立った自分へのアップグレードが無いと、現在のPR基準では家族のPRを新規に取得できません。
PRの年間枠は3万人に限定されています。全応募者のプールから、相対比較されて3万人が選ばれます。国民親族へのPRは優先対象ですが、PR親族へのPRへの優先はほぼないでしょう。「自分がPRだから、子供もPRになれる」という明記されていない"既得権"は、シンガポールにはありません。PRの子供が持っているのは、就労スキームでなくても、親族スキームでPRを"申請"できることであり、取得は保証されていません。

子供のPR却下への対策

収入を増やす

子供のPR申請は、就労スキームでのPR新規申請ほど属性は厳しくはなく、多少の下駄は履かせてもらっていますが、新規取得者の属性とリンクはしている印象です。では給料が幾らであれば子供へのPRがでるか、と言うのはサンプルが少なく言い難いです。参考になりそうなのは、シンガポール居住者(国民とPR)の月額所得中央値は$8,292(2014年)ということです。しかし、これを上回る所得があっても、まだ子供のPRを取得できない家庭も聞きます。「中央値であって最低クリアライン」と考えるのが良さそうです。

・シンガポール統計局: Key Household Income Trends, 2014

専業主婦の家庭であれば、子供のPRがとれるまでの一時的な間だけでも共稼ぎにスイッチしましょう。

 

資料

リタイア後のREP更新

リタイア後の REP (再入国許可書) 更新について、内務省の国会答弁があります。何歳でリタイアとみなされるか (プロフェッショナルスキームでのPR取得者が、無職でもREPを更新できうるか) は答弁にありませんでしたが、CPF支給開始が55歳からです。

1. 永住者PRの再入国許可REPは、更新の基準を満たしている時に更新される。有給の仕事についているか、シンガポールに貢献しているか、家族との繋がりがあるかだ。リタイアしたPRには、シンガポールへの過去の功績を認めることで、一般的にREPを更新している。
2. 過去5年間に52,400人がREP更新を申請し、約2%が却下された。長期間シンガポールを離れていたか、当地での家族とのつながりがなくなったかが、理由の大半だ。2010年から2014年も却下の比率は似ている。

 

※シンガポールでビザの状況は頻繁かつ予告なく変わります。最新状況はシンガポール政府ホームページなどの一次情報で確認下さい。

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