今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

(7月16日更新)シンガポールのCOVID-19: 日経記事に在東京シンガポール大使が抗議書簡を送る

シンガポールも、新型コロナウィルス (COVID-19) の影響を受けています。
デマに負けないためには、信頼できるソースからのものを掲載しています。シンガポール政府・WHOなど国連機関、地元大手メディア(ストレートタイムズ紙、CNA)などです。可能な限り、私のブログではなく、原文にあたってください。

更新情報のサマリー

  • 日経記事に在東京シンガポール大使が抗議書簡を送る

該当記事の筆者はシンガポール人。在東京シンガポール大使から日経アジアンレビュー編集長と、日経社長宛て。
「生まれながらの国民はマイノリティになった」など確かに事実誤認を含みます。日本語では、今回の記事より更に多くの事実誤認とヘイトを含む記事があるのですが、
・英語記事
・知られている反政府論客が、記事の筆者
・影響力のある日経
が理由で、今回の抗議になったのでは。
なお、日経とシンガポール政府のつながりは強いです。「リー・クアンユー回顧録」の日本語版はは日本経済新聞出版が出版。東京で日経が主催する「アジアの未来」には、シンガポールからはリー・クアンユー氏、ゴー・チョクトン氏、リー・シェンロン氏を含め首相級が毎年参加しています。
uniunichan.hatenablog.com

  • 248人の新規感染、合計で47,126人に。新規のうち、輸入が4人、市中感染が11人。これまでに亡くなった合計は27人。

シンガポールでの最新状況

更新情報

日時(2020年) 発信者 (ソースとなるリンク) 内容
7月16日 保健省 248人の新規感染者が見つかり、合計で47,126人になった。新規のうち、輸入が4人、市中感染が11人、寮居住者が233人。新規のうち、96%が既存クラスタと関連しており、残りは追跡中。現在、146人が入院中(うちICUが0人)、施設隔離が3,697人。これまでに43,256人が回復し、27人が亡くなっている。
新規の輸入のうち、1人が国民で米国から、1人が国民・1人が永住者でアゼルバイジャンから、1人が就労ビザのインドネシア人でインドネシアから。
新規の市中感染のうち、2人が国民、5人が就労ビザ、2人がWP、2人がDP。6人が関連不明。
新規クラスタは見つからなかった。
7月16日 ストレートタイムズ紙 間違いで誤解がある主張をしているとして、抗議の書簡を、在東京シンガポール大使が日経アジアンレビュー(英字紙)編集長、日経社長に送った。シンガポール人Sudhir Thomas Vadakethが書いた記事
1.「政府の過失が4万4千人のCOVID患者を出した」←政府は迅速に多省庁タスクフォースを立ち上げた。職場、自宅、クルーズ船と同様に、人が集まるところでは感染は避けられない。死亡率は0.1%以下だ。
2.「過去20年にわたり、与党PAPはGDP成長を偏愛し、物価高・不平等の悪化・民族や階級に加えて先住民保護主義の上昇のような、負の結果を軽んじてきた」←社会的流動性の確保に取り組んできた。過去5年、上位から90%にあたる収入層は年3.9%~4.5%の上昇を見てきた。上位10%は2.5%に過ぎなかった。
3. 「政府は公団の価値は落ちないと何十年も約束してきたが、99年賃借が終わると無価値になるのが確認された」←(99年賃貸は)公団だけでなく私営でも同じ
4. 「1999年~2018年に、人口は40%増加し、生まれながらの国民はマイノリティになった」←主張は事実ではないし、生まれながらの国民と帰化の間に線を引くのは疑問。
日経は、高度の基準とプロフェッショナルな報道を今後は維持し、偏った誤解がある個人の意見を避けるように希望する。と大使は書いている。

これまでの新型コロナウイルス記事

これまでの更新情報の総集編は、こちらを参照ください。
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「健康な人にはマスクは効果がない」がシンガポール政府の立場でしたが、発症前に感染させた人が確認され、再利用可能マスクが配布。現在は、外出時のマスク着用が必須に。
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2020年シンガポール総選挙: 与党敗北は有権者の世代交代が原因。PAP支持高齢者の死亡と、若者のPAP離れ

うにうに @ シンガポールウォッチャー です。
シンガポールで総選挙が2020年7月10日に行われました。本記事では選挙結果の分析を行います。
シンガポール選挙制度の特徴については、前回記事を参照下さい。
uniunichan.hatenablog.com

9割の議席をとった与党PAPの"敗北"

長文なので、最初に私の結論を書きます。

  • PAPは、前回選挙より5万2千票、減らした。
  • PAPは、高齢者の死亡で推定6万2千票を失った。
  • 約22万人の若者が新しく選挙権を得た。彼らは野党の支持母体だ。

投票が義務の国であり、投票率は95.63%でした。
与党PAPが、93議席中83議席を獲得。野党からはWPのみが議席を3選挙区で獲得し、10議席となりました。
与党が89%の議席を獲得したにもかかわらず、得票率が61.24%にとどまり、野党が初めてグループ選挙区の2つで勝利したことから、実質的には与党敗北と受け止められています。
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選挙後のリー・シェンロン首相の会見です。徹夜明けだとしても、雰囲気がお葬式になってます。疲れを隠せないとはまさにこのこと。
www.youtube.com
それに引き換え、センカン選挙区で初の当選を果たした野党WPジェームス・リム氏の会見では、同じ徹夜明けのはずですが、指を鳴らして喜びが爆発しています。首相68歳、野党43歳の年齢差もあるのでしょうが。

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Jamus Lim

・YouTube: CNA: GE2020: WP's He Ting Ru, Raeesah Khan, Jamus Lim thank supporters after winning Sengkang GRC

「与党敗北となった原因の政策はコレだ!」という記事が各種出てきています。
シンガポールでは、選挙期間中の世論調査、選挙中の出口調査は法律で禁止されています。それに加えて、普段から、シンガポールは政権支持・支持政党・政策支持への調査が一般的な国ではありません。そのため、「コロナ対策」「リー家の兄弟喧嘩」など、自分の関心をぬいてきた政策で「コレだ」ともっともらしいシナリオを書くことができます。
今回のように、政策に明確な争点がないが、選挙結果が動いた選挙では、複合要因を想定するのが妥当でしょう。「どの政策が選挙に影響を与えたか」の定量的な調査では、シンガポール国立大学の政策機関iPSの世論調査の発表を待つ必要があります。

シンガポール選挙の最大争点は常に「与党PAPへの信任」

今回の敗北で、与党PAPは頭を抱えているはずです。理由は、単に敗北したからではなく、

  • 大きな失策や、国民の不満がないのに、得票率が落ちた

からです。

2011年総選挙は、与党PAPにとり歴史的敗北と評価されています。得票率が最低の60.1%に落ち込み、野党はグループ選挙区GRCで初めて勝利しました。2011年選挙の敗北原因は明らかです。"移民入れすぎ問題"に国民が怒ったからです。政府は、高齢化社会への対応と、経済政策のため、よかれと思って移民を増やしました。2005年には、118万人だった外国人(永住者 + 長期在住外国人)が、2011年には192万に急増。年率8%です。国民との仕事の奪い合い、国民比率の低下と"新国民"増加での希薄化への危機感、鉄道バスなどインフラへの圧迫から、反外国人感情が高まったのです。選挙での敗北によって、政府は移民を抑制。2019年では168万人と、2011年からは年率3%の増にとどまっています。
・シンガポール政府統計局: Population and Population Structure

「与党敗北はCOVIDのせい」という記事は捨てよう

特に日本語のネットでは「選挙の争点はコロナ対策だ」や「与党敗北は移民労働者対応の失敗のせいだ」と主張する記事があります。捨てましょう。明確な争点は複合要因だとしても、COVIDは民意と明らかにずれていて、エビデンスやロジック無しに自分で理由と結論をでっち上げた"個人の感想"にすぎません。
移民労働者寮で感染爆発が起きましたが、国民は「あの寮費(月額2万円前後)だと密な環境になるのはしょうがない」程度の他人事です。密を避けるための寮環境の改善にしても、「稼ぎの成約があるから大変だろうね」と他人事、政府任せです。市中感染は食い止められているので、政府への不満にまではなりません。なにより、外国人である移民労働者には選挙権はありません。

各国比でのCOVIDへの国民からの政府評価があります。シンガポールは23カ国中8位とまずまずです。寮で感染爆発が起きたにもかかわらずまずまずです。
・BLACKBOX: A Global Public Opinion Survery Across 23 Counries

強いてCOVIDが投票に与えた影響だと、「行動制限中の投票の消毒や手袋の安全基準で、投票所に入る列に長時間並ばされて、この時期に選挙をゴリ押したPAPハラタツ」ぐらいでしょう。

前回選挙からのシンガポールでの出来事

前回総選挙から、これまでの大きなイベントです。
政府が国民から致命的に反発された出来事がありますか?ありませんね。

  • 消費税GST増税: 嫌だけど、高齢化社会対応に必要なのは理解する。
  • 偽ニュース防止法POFMA: 国民は自分が処罰対象になることはないと思っている。
  • 大統領の無投票当選: マレー系大統領が歴代いないのは事実だし、大統領に実権はないとしても、無投票当選かよ。
  • COVID-19: 感染拡大は外国人寮が中心。市中感染はくい止められているので他人事。政府の問題。

政府満足度指数 (ブラックボック社): 政府に満足のシンガポール人

シンガポールで数少ない世論調査をしており、結果を開示しているのが、BlackBox社。毎月、データをとって開示しています。
開示されている中で最も古い2017年7月と、最新の2020年5月とを比べました。
21項目のうち、満足度が低下したのはわずかに2つ、同率が2つ、残り17は満足度上昇です。
低下したのも、以前が96%と大満足だった犯罪と、94%とこれまた大満足だった環境が、高すぎてそれぞれ1%下がっただけです。ブレでしょう。
COVIDで注目されている健康も、7%満足上昇しています。

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BlackBox: Government Satisfaction Index

・BlackBox: Government Satisfaction Index

それでも与党が負けた理由は何なのか

「パンとバターを超えて」

大きな失策がなく、政府に満足しているのに、与党が得表率を落とした理由になるのは、

  • (成果はともかく)与党の"やり方"が気に入らない
  • 与党が時代についていけなくなっている

です。これだけ成果を出した与党が負けるのですから、「シンガポール人はどれだけ要求が高いんだ」というか「高度な経済や社会制度は当然あるもので、それに加えて何かを求めている」ということです。
選挙が終わった翌日辺りから「パンとバター以上のもの」(金だけじゃねぇんだよ!)という論評が増えてきました。
「与党PAPは『生活と仕事を守る(saving lives and jobs)』という選挙スローガンで経済政策と実績を訴えたが、(有権者はそんなものは当然で)それ以外のものを求めていた」
ということです。それ以外とは、社会正義であり、国会での多様な意見であり、個人に介入しまくる家父長主義への嫌悪でしょう。また貧富の格差も、悪化はなくても改善は見られません。政府満足度指数の低法科項目の中で、改善がほぼ唯一みられない項目です。
東南アジアで貧乏を経験して経済成長を成し遂げたリー・クアンユー世代と、生まれたときには豊かさがあった現代の若者の違いです。

郵便受けに入っていたPAP豪華冊子

・Channel News Asia: GE2020: Opposition vote swing shows people are looking beyond bread and butter issues, analysts say
・Straits Times: GE2020: Stern political realities call for shift in PAP governance

次世代リーダー4Gに国民からの信任はあるのか

国民からの支持が厚いリー・シェンロン首相は、70歳になるまでに首相から退くと明言しています。
今回の選挙がこれまでと違うのが「次期首相となるヘン・スイキット氏への世代交代となる選挙」だったということです。問題は、(これまでの首相選定でもそうですが) 首相選定が与党PAPの内部で行われ、国民の支持が最も高いと言われているTharman Shanmugaratnam氏が「リー・シェンロン氏から5歳しか若返られないこと」「マイノリティのインド系が首相はまだ早いのでは」と外されたことです。そして、ヘン・スイキット副首相の首相就任に、国民は納得感があるように見えません。後述しますが、今回のヘン副首相の選挙区は、落下傘候補ではあった不利は差し引くべきですが、53%の得票率に終わりました。
これを真に受けると「次期首相の選出のやり直し」となり悲惨です。政治のリーダーシップが重要で、過去の首相は10年以上その地位に就き安定政権運営をしてきたシンガポールでは、国難レベルの出来事になります。

与党の敗北は「高齢化した支持者の死亡と、若者を取り込めていない」ことだ

政策争点についてはiPS調査を待ちたいと思うのですが、選挙結果にはあまり影響はないでしょう。体制面について、現時点で指摘できることがあります。それは、

  • 与党PAPの強烈な支持母体である高齢者が死亡
  • 与党PAPは、選挙権を手に入れた若者を取り込めていない

ということです。このことは、

  • 次回以降の選挙で、与党PAPは更に苦戦する

ことを意味します。2015年選挙のような、リー・クアンユー初代首相の弔い合戦のような神風でも吹かない限り、勝利はないでしょう。
大卒で、若く、都心部在住の若者は、リベラル政党支持です。これは世界的に共通してみられる現象で、シンガポールにも当てはまります。(シンガポールは都市国家なので、全員が都心在住ですが)
与党が大勝した2015年でさえ、39歳以下にいる保守は、65歳以上の半分の比率に過ぎません。そして、39歳以下の多元主義 (Pluralist。つまり野党の支持母体)は、65歳以上の2.5倍も率が高いです。

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iPS: Cluster Analysis (Age)

・シンガポール国立大学: 政策機関iPS: IPS Post-Election Survey 2015: Cluster Analysis (Age)

シンガポールの選挙の特徴の一つは、高い投票率です。今回の選挙では海外渡航制限があったので、更に投票率が上がっていますが、例年9割超です。日本では、若者が投票に行かないことが問題になっていますが、シンガポールではその問題は無視できます。
PAPは2020年の選挙で、2015年比で5万2千の票を失いました。これにはPAPの支持母体である高齢者の死亡を主要因にあげることができます。
2015年から2019年の間の、国民と永住者の死者合計は97,642人。永住者は15%なので、それを引くと、約8万3千人。(永住者の方が年齢層が若いはずなので、死亡率は国民より低いのが実態のはずですが)
過去の選挙でのPRP得票率は、68年87%、72年70%、76年74%、80年78%です。前回選挙以降に亡くなった人のPAP支持率を75%とすると、約6万2千の票を失ったことになります。

2011年 2015年 2020年
投票率 93.18% 93.56% 95.63%
PAP得票数 1,212,154 1,576,784 1,524,781
国民人口 3,257,228 3,375,023 3,500,940
(2019年)


2015年 2016年 2017年 2018年 2019年
国民永住者の死者数 18,640 18,856 19,763 20,095 20,288
新国民(帰化) 20,815 22,102 22,076 22,550 (未開示)

・シンガポール首相府: Population In Brief

実は大きくない"新国民"の選挙への影響

他の人口動態もあります。
帰化した"新国民"です。前回選挙から約11万人が帰化したと想定されます。彼らは帰化を認めた与党PAPに恩義を感じ、与党PAPに投票していると言われています。ところが、実際にはそうではありません。
前述のiPS調査では、2015年総選挙では、保守への支持率は、生まれながらの国民より帰化はわずかに8%ほど高い程度です。2011年総選挙では、逆に帰化の方が12%も低くなっています。

理由は簡単です。シンガポールの帰化は永住権を経てなります。シンガポールの永住権は現在ではプラチナチケット。永住権の基準は、単なる在住年数より、収入・学歴です。永住者は国民より給与が高く高学歴です。つまり、帰化の母体は、リベラルの支持層です。確かに、与党PAPへの共感があるから帰化したのでしょうが、それを加味しても「国民より相対的にPAP支持なだけで、圧倒的支持ではない」が現実です。
uniunichan.hatenablog.com

保守への支持率 2011年総選挙 2015年総選挙
生まれながらの国民 36.1% 44.1%
帰化(新国民) 24.8% 52.4%

・シンガポール国立大学: 政策機関iPS: IPS Post-Election Survey 2015: Cluster Analysis (Naturalised citizens)

PAPを支持しない若者

シンガポールの投票権は21歳以上です。現在の20~24歳の国民人口は、約23万人です。iPS調査結果によると、(残念ながら世代での与党・野党の投票先は開示されていないのですが、) 率で最大の野党支持の世代が彼らです。選挙に新規参入する若者が、今の選挙結果を動かしているというのが結論です。
・シンガポール国立大学: 政策機関iPS: IPS Post-Election Survey 2015: Cluster Analysis (Age)

まとめます。

  • PAPは、前回選挙より5万2千票、減らした。
  • PAPは、高齢者の死亡で推定6万2千票を失った。
  • 約22万人の若者が新しく選挙権を得た。彼らは野党の支持母体だ。

PAPは若者からの支持を得ないと未来はない政治団体だ、というのが分かります。若者を取り込むためには、リー・クアンユー時代に培った家父長主義なレガシーや成功体験を、PAPは捨て去る必要があるでしょう。それがPAPの核心だったとしてもです。
それができなければ、「6割の得票率で、9割の議席を得る」ことがいつまで正当化されるかの議論になる日は遠くないでしょう。また、人口動態が原因なら、野党が肉薄・逆転するのは、時間の問題です。

同時に、PAP並の経済実効性を、野党が出すことは極めて困難なはずです。特に若者の野党支持は、野党が「PAP並の経済政策を出せる」ことを無言の前提にしています。野党もそこを試される日がそのうちくるはずで、有効な経済政策を打ち出せなかった時にどう支持層が評価するかが、野党の勝負どころです。

選挙イベント

選挙に関して起きたイベントを振り返ります。

リー・シェンヤン氏野党入党

リー・シェンロン首相の弟のシェンヤン氏が野党PSPに入党しましたが、立候補はせずに終了となりました。父親のリー・クアンユー氏の住居の取り壊しを巡って、兄弟喧嘩が表面化しています。
弁護士の妻は遺言書をめぐって、懲戒特別法廷にかけられています。
ハーバード大学経済学助教授の息子のShengwu氏は法廷侮辱罪で罰金判決を受けました。
シンガポールは、何十年も法律は適応されていませんが、男性間同性愛が刑法犯になります。息子のHuanwu氏は南アフリカで同性結婚をしています。

与党PAPのアイバン・リム氏。立候補表明した途端、周囲の人間から非難轟々で出馬取り下げ

与党PAPのアイバン・リム氏。立候補を表明した途端、彼の全時代(学校・徴兵NS・職場)の周囲の人のみでなく、近所からも「あんな自己中心的で傲慢なやつが国会議員なんて、止めてくれ!」と非難殺到。反論をしましたが、ネット請願も始まり、出馬取りやめに。
PAPの候補者選定プロセスが疑われることにもなりました。
・VULCAN POST: GE 2020: How The Ivan Lim Scandal Sparked A "Trial By Internet"

ニコル・シアー氏、政界に復活
次期首相の"イーストコーストプラン"

選挙前に最も期待された政治家は、ニコル・シアー氏のWPからの出馬です。
2011年に大旋風を巻き起こした女性ですが、落選。2015年は出馬せずでした。

そのニコル・シアーが出馬したイースト・コーストの対抗馬として、次期首相となるヘン・スイキット副首相を土壇場で国替え出馬させる選挙戦術に、与党PAPはでます。
「ヘン・スイキット」の手書きでの立候補届が「ニコル・シアーに絶対に勝たせない」という生々しさを物語ります。戦慄です…


出馬後の会見は、イーストコーストGRCへの立候補準備が全くできていないのが露呈。

For our East Coast residents, we also have a plan for the East Coast. We have a East Coast, Singapore, we have a together and East Coast plan. We care at East Coast"
www.youtube.com

という名演説でシンガポールを爆笑に導きました。


"イーストコーストプラン"は伝説になり、タイやマレーシア政府からも「うちの国の"イーストコーストプラン"に観光においでよ」とネタにされる始末。
Malaysia and Thailand tourism bodies get cheeky with 'East Coast plan'

今回の選挙運動ではニコル・シアー氏は(2011年と異なり)ほぼ話題になりませんでしたが、結果は53%でヘン・スイキット副首相が辛勝。ニコル・シアー氏はそれぐらい強敵でした。
次期首相落下傘の選挙戦術がなければ、PAPはグループ選挙区GRCをイーストコーストGRCでも落としていたでしょう。

野党勝利の立役者、ジェームス・リム氏

今回の選挙で最も評価を上げたのは、私の記事の冒頭で指を鳴らした野党WPのジェームス・リム氏です。
7月1日にテレビ放送された多党討論会では、WP代表としてPAPの現役大臣相手に、冷静かつ建設的に互角の討論を行い評価をあげました。野党には辛辣なことが多いストレートタイムズ紙も「スター」と評価しています。
www.youtube.com
出馬したセンカンGRCで、初の当選を果たします。
センカンは、新しい選挙区です。60%以上が45歳未満と、人口動態から野党支持が強いと推測されていました。
・日本経済新聞: 中野貴司氏: シンガポール、社会の変化映す野党「エリート」候補

WP候補者が人種宗教差別発言

これは、野党のとんでも主張と違って、投票に影響を与えた可能性がある事件です。
野党WPのジェームス・リム氏と同じ選挙区で出馬した、ライザ・カーン氏の過去のSNS投稿が掘り起こされました。

  • 40億円を着服した教会リーダーは無罪なのに、シンガポールはマイノリティを刑務所にいれ、イスラム教リーダーに嫌がらせをする。
  • ブラウンウーマンなことはタフだ
  • (COVID下に集団で飲んでいた事件で)「金持ち中華系と白人に法の適応は違うのか」

・VulcanPost: GE 2020: How 298A Of S'pore's Penal Code Failed Raeesah Khan

シンガポールで、人種・宗教へのヘイト発言は刑事事件です。警察に通報がされ、警察は調査中と発表します。ライザ・カーン氏は謝罪し、WP書記長は「選挙後に調査する。選挙活動は続ける」と発表。これにPAPは「立ち場をはっきりさせろ」と声明を発表。
警察対応は政府の嫌がらせと判断した、野党支持者は激怒。#IstandwithRaeesah のハッシュタグで支援を表明します。

反政府への行政圧力は、シンガポールでは頻繁に見受けられます。
AHPETC (アルジュニード・ホーガン・ポンゴル・イースト・タウンカウンシル) という、野党WP選出区のため野党が管理している町議会で不正会計疑惑が起こり、2017年に野党幹部が起訴されました。2018年には弁護士費用を払うために、野党は寄付を呼びかけ、S$100万を集めています。
2015年の総選挙前から、マスコミなどでこの疑惑が追求されてきましたが、野党は同地区での議席を守りました。つまり、行政圧力で有権者の投票行動は変わらない時代にシンガポールは突入しています。
今回、ライザ・カーン氏に「調査中」とした警察によって、同じ過ちを踏んだと野党支持者は考えています。肝心なのは、これに正面から反発するコアな野党支持者以外に、この反発への共感が一般市民にどこまで広まったかですが、それは不明です。

「人口ターゲット1千万人」と野党がとんでも主張

議席を持たない野党SDP党首が、「政府はシンガポールの人口を1千万人にする計画がある」と7月1日のテレビ放送での多党討論会で主張。同席したPAP大臣が即座に否定。
政府は、偽ニュース防止法POFMAを発動しました。
・シンガポール政府: Correction and clarifications regarding falsehoods on population target and HDB CEO’s remarks on living density
・POFMAオフィス: Alternate Authority for the Minister for National Development Instructs POFMA Office to Issue Correction Directions and Targeted Correction Direction
選挙だと、とんでも野党に対応せざるを得ない政府、おつかれ。

野党候補者が「移民労働者のCOVID診察を政府が妨げた」と発言、政府に即切りされる

・1. COVID検査に外国人労働者を連れてくると、就労ビザ雇用を取り消すと、MOMは文書を出した。
・2. 労働者の検査をMOMは積極的に断念させた。
と、野党候補者が、討論会で主張。報道した政府系テレビ局CNAなどが訂正勧告を受けました。

下記が政府の説明。
・背景: 2月8日に、とある建設業企業が全従業員をチャンギジェネラルホスピタルの救急外来に送り込んだ。症状がないにもかかわらずだ。企業は非感染と就労可能とのメモを求めた。2月12日に、MOHとMOMと他省庁は、不健康でなければ寮居住の労働者が働くのを止める必要はないと建設業に勧告
・MOM文書では「緊急でなければ、一般医GPに最初にかかれ」だった。
・MOM文書では「緊急時のみ、緊急医療を使え」だった。
・シンガポール政府: Clarification regarding falsehood published by the National University of Singapore Society (NUSS), The Online Citizen Asia (TOC), CNA and New Naratif on MOM’s advisory on testing of migrant workers

選挙だと、とんでも野党に対応せざるを得ない政府、おつかれ。

あわせて読みたい

過去のシンガポール選挙の参考記事
uniunichan.hatenablog.com
uniunichan.hatenablog.com

付録

前回選挙からの主な出来事

2016年 ・ブキバト補欠選挙で61.2%を獲得し与党勝利。
・ヘン・スイキット財務相が脳梗塞で閣議中に倒れ、6週間入院。
・ジカウイルス発生。
・スピーカーズコーナーでの外国資本スポンサーが許可制になる。
・MRT車両にヒビが見つかり、修理のため中国に輸送される。
・クアラルンプールまでの高速鉄道計画が発表。
・オリンピックで初の金メダル。
・リー首相がナショナルディラリーの演説中に具合を悪くする。
・ナザン元大統領死去。大統領選挙規定の変更が国会で可決され、立候補要件がS$5億の資本金でかつ最上位の役職経験者に変更され、次期の優先立候補はマレー系になる。
・装甲車9台が香港で取り押さえられる。
2017年 再雇用が65歳から67歳までに引き上げられる。
・MRT大規模メンテナンス終了。
・旧フォード工場博物館から昭南島の名前が削除される。
・粉ミルクの価格高騰が国会であげられる。
・リー・クアンユー邸での兄弟紛争が明らかになる。
・政府批判を含む漫画でソニー・リュー氏がアイズナー賞受賞。
・タイガーエアーがスクートと統合。
・アマゾンのサービス開始。
・シンガポール国立大学教授が、外国のために働き国の外交方針に影響を与えたとして、内務省により生涯国外追放となる。
・2022年までに4万人のプレスクール定員拡大計画。
・第8代大統領が無投票当選で決まる。初の女性でマレー系。
・政府LTAがシェア自転車企業と放置自転車の取り組みにサインする。
・チャンギ空港ターミナル4が稼働開始。
2018年 ・消費税GSTの7%から9%への増税を政府が発表。
・UBERが撤退し、Grabが買い取る。
・米韓首脳会議がシンガポールで開催。
・シェア自転車のoBikeが営業終了。
・150万人のSingHealth患者データがサイバーアタックで盗まれる。
・ムルデカ世代に医療口座への積み増しなど補助。
・EUとのFTAに署名。
・シンガポールでASEAN開催。
・雇用法が改正され、月給$4500までをカバーすることに。
ヘン・スイキット財務相がPAP第1書記長補に。事実上の次期首相の内定。
・セレター空港に導入されたISL利用にマレーシアが反発し、紛争に。
2019年 ・アナログ波テレビが終了。
・MRTクロスアイランド線の駅の計画が公開。
・HIV患者14,200人のデータが違法に漏れる。
・UNESCOにホーカー文化を世界遺産申請する。
偽ニュース防止法POFMAが可決。
・MBSとリゾートワールドセントーサの拡大が発表される。カジノ入場税が$100から$150に、年では$2000から$3000に値上げ。
・刑法改正:弱者保護、性犯罪被害者保護、レイプでの婚姻免責破棄、自殺が刑法犯でなくなる。
・リタイアは65歳、再雇用は70歳に2030年までに引き上げられる。
・国立感染症センターNCIDが開業。
・eスクーターの歩道利用が禁止。フードデリバリーが抗議。
・偽ニュース防止法POFMAで初の訂正命令。
2020年 保健省MOHが武漢からチャンギ空港到着の乗客に体温測定を実施。
・MRTトムソンイーストコーストの第一区間が開業。
・サーキットブレーカーというロックダウン開始。
・総選挙

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2020年シンガポール総選挙: COVID19下での選挙制度

うにうに @ シンガポールウォッチャー です。
シンガポールで総選挙が2020年7月10日に行われました。
本記事ではシンガポール選挙制度の特徴を書きます。選挙結果の分析は次回の記事で行います。
uniunichan.hatenablog.com


投票が義務の国であり、投票率は95.63%。
与党PAPが、93議席中83議席を獲得。野党からはWPのみが議席を3選挙区で獲得し、10議席でした。
与党が89%の議席を獲得したにもかかわらず、得票率が61.24%にとどまり、野党が初めてグループ選挙区の2つで勝利したことから、実質的には与党敗北と受け止められています。

シンガポールの一党支配は、中国と並んで評価されることが多いのですが、シンガポールは開かれた立候補者から、普通選挙で国民からの信任を得ていることが最大の違いです。

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リー・シェンロン首相の選挙ポスター

COVID-19下での選挙

シンガポールでも、COVID-19の強い影響を受けています。選挙期間中を通して、連日100人以上の感染者が出ています。"サーキットブレーカー"と政府が呼んだ事実上のロックダウンは終了しましたが、現在も在宅勤務の推奨や、マスク着用必須など、活動制限がなされています。
選挙も、従来にはなかった成約が課せられました。

立候補届け

  • 立候補届けの用紙はネットでダウンロードし、自分で印刷すること。
  • 体調が悪い立候補者は、立候補届の提出を代理人に依頼できる。代理人は委任状を持つこと。体調不良者は、立候補センターに入場できない。
  • 入場時に体温測定をする。デジタルチェックインのSafeEntry利用が必要。他の人と1メートル間隔を空けること。常にマスクを着用すること。職員はマスク、手袋、フェースシールド、消毒薬を使う。

・シンガポール選挙局 (ELD): SAFETY MEASURES TO ENSURE SAFE ELECTIONS DURING COVID-19 SITUATION
徹底したネット活用は、うらやましく見える人もいるかもしれません。

選挙活動

  • 戸別訪問や徒歩での呼びかけのグループは、5人まで。グループ内の各人は1メートル空け、マスク着用。握手は避けること。
  • 選挙活動につかう車から、話したり、実況放送したり、音楽やビデオを流すことは禁止。群衆を作る可能性があるので、選挙後の車でのサンキューキャンペーンも認めない。
  • 選挙集会に警察許可を出さない。投票後の集計中に、集まることも許さない。
  • インターネットの利用をすすめる。ポスター、旗、冊子は引き続き利用できる。
  • テレビの政見放送を無料で提供し、以前より拡大する。候補者1人につき3分。
  • インターネットでの選挙活動が可能。メール、SNS、掲示板など。利用媒体について、選挙管理官に届け出が必要。有効広告も利用可能で、届け出が必要。
  • 割安料金で、ネット集会の設備を提供する。利用には、選挙管理官への届け出が必要。利用は任意で、この設備以外でもネット集会を開催可能。

・シンガポール選挙局 (ELD): PRELIMINARY CAMPAIGNING GUIDELINES FOR GENERAL ELECTION UNDER COVID-19

野党は大規模選挙集会に強みを持っています。そのため、集会禁止は野党に不利と不満でした。

投票は国民の義務

95.63% という脅威の投票率を支えたのは、投票が国民の義務であることです。COVID-19の影響で海外渡航の制限もあり、シンガポールにとどまっている国民も多いことから、前回総選挙の93.56%から更に上がりました。
不在者投票の制度がないにもかかわらず、棄権者はごくわずかです。棄権者にはペナルティがあります。

  • 選挙人名簿からの抹消。抹消されると、投票も立候補(国会議員/大統領)もできない。
  • 選挙人名簿への復活には申請が必要。
  • 棄権への適切な理由(投票日に海外に居た、病気・出産等)がなければS$50 (約4,000円) が課せられる

・シンガポール選挙局 (ELD): WHAT SHOULD I DO IF I DID NOT VOTE IN A PAST ELECTION?

日本でシンガポールと同じ制度をもし導入すると、手間な復活申請手続きをして事実上の罰金まで払って選挙人名簿を復活させるよりかは、二度と投票に行かない人が増え、投票する人は更に減りそうに思えます。

投票では安全距離実施や一人おきでの消毒などが行われたため、投票所によってはかなりの待ち時間ができました。下記動画は投票所に入るのを待つ行列です。
投票をできない人がでそうになったため、選挙管理官は20時だった投票締め切り時刻を、締め切り直前に22時にまでのばしています



投票日は休日に

投票は国民の権利であり、義務です。投票日は休日になります。今回は金曜日で平日したが、休日になりました。

投票の頻度が少ない

日本では国会だけでも衆議院と参議院が2つあり、しかも地方議会で県知事、都道府県議会、市区町村長、市区町村議会、と色々あります。
シンガポールでは、5年任期の国会議員(一院制)を選ぶ選挙と、6年任期の大統領を選ぶ選挙の2つしかありません。都市国家なので地方議会はもともと存在しません。それだけ貴重なので、投票に足を運ぶ義務感も強いです。大統領は権限がほとんどない儀礼的な存在で、国会議員選挙が重要です。

秘密投票

シンガポールは秘密投票です。票の不正操作もありません。

  • 投票前: 立候補者と代理人に、投票箱が空であることが示され、封をされる。
  • 投票後: 立候補者と代理人の立ち会いのもと、封がされ、開票場に運ばれる。封は立候補者もできる。
  • 開票: 立候補者と代理人は封を確認する。投票用紙が取り出され、投票箱を空にする。
  • 開票後: 立候補者と代理人の立ち会いのもと、投票用紙は封をして保管される。封は立候補者もできる。最高裁判所で6ヶ月間保管され、大統領の指示がなければ破棄される。

投票用紙にはシリアル番号があることが、「誰に投票したか分かる」というシンガポールでの"都市伝説"の根拠になっています。政府の選挙局 (ELD) は、「シリアル番号は、投票用紙を管理し、投票用紙偽造や投票人なりすましを防ぐもの」「シリアル番号が控えに記されるのは、追跡を可能にするためだが、選挙不正を裁判所が認定した時にのみ使われる」と説明しています。つまり、投票用紙と控えの両方を突き合せないと、投票内容が分からないので、秘密は守られるということです。

他国からの視点でも、米国国務省の国別人権レポートは「(2015年の)総選挙は野党にとって自由で公正で開かれたものだった」と表記しています。
※注: シンガポールは言論の自由に制限がある国としても知られています。同じ国別人権レポートでは、「憲法は言論の自由を提供しているが、権利には公に制限がある。言論の自由と政府批判を含むマスコミに著しく制限をかけている。社会と宗教の調和を弱めると政府は主張している」と酷評されています。

During the year the parliamentary general election was free, fair, and open to a viable opposition.

日本人には当然に見えますが、東南アジアで公正な選挙ができている国をあげるのは難しいはずです。あまりに同じ党が長期間にわたって政権を持っていて強いので、事情を知らない人は不正を疑うのですが、秘密投票で票の不正操作もなく長期政権を実現しています。
確かに数十年前では「野党に投票して大丈夫だろうか」「野党に投票した公務員が解雇された(ただの偶然なのに)」という噂もありましたが、大丈夫なことは確定しています。投票・開票作業には、野党を含む立候補者と代理人が立ち会い、票の不正操作を訴える対立候補もありません
反政府論調のニュースサイトすら「秘密選挙で安全だから、野党に入れよう」と説得している記事もあります。

投票には、投票券(投票所で公式の投票用紙に交換される)とICという国民背番号制の写真付き身分証明書の2つが必要です。今回の選挙では、郵送での投票券に加えて、政府のID用携帯アプリ(SingPassMobile)でのプロファイルでも投票券とすることができました。
日本は、郵送の投票券で投票ができるためポストからの盗難があり、身分証明書が不要なため、替え玉投票が容易で、シンガポールの方が厳格です。

グループ選挙区 (GRC)

それではシンガポールの選挙が常に公平なのかというと、そんなことはありません。野党は選挙制度に様々な不満を持っています。例えば、選挙区です。今回は93議席の内、14の小選挙区(SMC: Single-Member Constituency)、17のグループ選挙区 (GRC: Group Representation Constituency) で争われました。(2015年は13のSMC、16のGRC)

一般的に、大選挙区では、得票率に準じた議席が獲得されるるが、小政党が乱立し意思決定に弱くなる。小選挙区では、死票が増えるが、二大政党制に近づきます。シンガポールでは小選挙区制度を更に進めたグループ選挙区という制度があります。
グループ選挙区では、1つの選挙区に4人か5人の議席が割り振られ、その選挙区で最多の得票を得たチーム(党)が議席を全部取る、というものです。導入は1988年です。
シンガポールでは有権者1.9万人から3.7万人に1人の割合で、1人の議員が割り当てられます。

一票の格差

グループ選挙区でも、議員や有権者数を増減することで、一票の格差は大きくならないように組まれています。シンガポールで一票の格差は、最大1.88倍です。

選挙区 議席数 有権者数 議員一人あたりの有権者数
Potong Pasir SMC 1 19,740 19,740
Bukit Panjang SMC 1 35,497 35,497
Bishan–Toa Payoh GRC 4 101,366 25,342
Sengkang GRC 4 120,166 30,042
East Coast GRC 5 121,772 24,354
Ang Mo Kio GRC 5 185,465 37,093

日本では、2018年の第48回衆議院議員総選挙で1.98倍です。衆院選より参院選の方が、一票の格差が大きく、2014年参院選では4.77倍もありましたが、2016年参院選では3.08倍と引き続き高いものの是正傾向です。最高裁が違憲状態と判断した2016年衆院選は2.129倍、2013年参院選では4.77倍です。
日本よりシンガポールの方が、フェアと言えるでしょう。

グループ選挙区の趣旨は、最低1人のマイノリティ民族の候補者を入れるのを義務付けることで、議員の多様性を確保することです。シンガポールは多民族国家です。国民と永住者では、中華系が74%、マレー系が13%、インド系が9%です。一般論として、中華系は最多である同一民族の中華系から共感を得やすく、少数派のマレー系・インド系は国民から多くの共感を得るには他民族である中華系等からの支持も必要でより困難です。そのため、グループ選挙区によって、(民族の代表ではなく)党や国民の代表を選ぶ意識となり、人口比に沿った民族の数の議員が選ばれる、との2つの意義を達成できます。

グループ選挙区の問題点です。
議席1つの小選挙区でも小政党には難しいのですが、グループ選挙区では更に議席取得の難易度が高まります。選挙区が大きくなり、1つの党(グループ)だけが議席を総取りするとなると、小選挙区以上に大政党が有利になるからです。
2015年の選挙で、30%の得票を得た野党が7%しか議席を得ていないのは、グループ選挙区が最大の理由です。つまり、グループ選挙区とは小選挙区が狙いとする二大政党制を超えて、強力な一党政権(ヘゲモニー政党制)を作り出す制度です。

シンガポールのリー・シェンロン首相は、国が小さいとの理由で二大政党制を否定しています。

二大政党制が機能しない最も重要な理由は、2つの優れた"Aチーム"を作るほどに十分な数の優秀な人を、シンガポールが持っていないからだ
the most important reason why a two-party system is not workable is because we don't have enough talent in Singapore to form two A teams

他の問題点には、大臣経験者などを看板にして立候補者が組まれるため、そこに新人や魅力的でない立候補者がいても、有力者に便乗して当選してしまうこと。また逆に、有力者が引きづられて落選してしまうこと (2011年現職外務大臣ジョージ・ヨー氏落選)などがあります。
2020年選挙では、強力な野党候補者がいたイーストコーストGRCに、次期首相が内定している与党候補者が、立候補受付の最終段階で落下傘候補となったのがその代表的なものです。

偽ニュース防止法 (POFMA)

シンガポールには偽ニュース防止法 (POFMA) という強烈な法律があります。事実誤認があるインターネットのニュースや記述に、政府が訂正命令や、従わない場合にFacebookやツイッターなどのサービスプロバイダーへの強制もできるため、国際的にも話題になりました。

POFMAの目的の一つは、「フェイクニュースが選挙に影響を与えないようにすること」です。2019年に法律が施行されてから、今回がはじめての選挙です。
そのPOFMAが適応された事件が、選挙中に発生しました。
野党候補者の討論会をそのままYouTubeにのせたため、政府系テレビ局CNAまで訂正勧告を受けています。

“NUSS Pre-General Election Forum 2020”について、主催のNUSS、テレビ局CNA、ネットメディアTOCとNew Naratifが発表したYouTubeと記事で、Dr Paul Tambyahの発言に虚偽と政府は発表。

記事の内容 政府主張
COVID検査に外国人労働者を連れてくると、就労ビザ雇用を取り消すと、MOMは文書を出した。 MOM文書では「緊急でなければ、一般医GPに最初にかかれ」だった。
労働者の検査をMOMは積極的に断念させた。 MOM文書では「緊急時のみ、緊急医療を使え」だった。

背景: 2月8日に、ある建設業企業が全従業員をCGHの救急外来に送り込んだ。症状がないにもかかわらずだ。企業は非感染と就労可能とのメモを求めた。2月12日に、MOHとMOMと他省庁は、不健康でなければ寮居住の労働者が働くのを止める必要はないと建設業に勧告
・シンガポール政府: Clarification regarding falsehood published by the National University of Singapore Society (NUSS), The Online Citizen Asia (TOC), CNA and New Naratif on MOM’s advisory on testing of migrant workers

選挙区割はゲリマンダーと訴える野党

シンガポールでは選挙区はシンガポール選挙局 (ELD) が策定します。総選挙の前に行われる選挙区の再区割りでは、「新しく公団 (HDB) ができた」といった人口動態などに基づいて行われているとの説明です。しかし、シンガポール選挙局は、行政機構として独立しておらず、スタッフは政府が任命し、首相府の直属になります。

この点から、与党の影響力の行使や忖度を野党は疑っています。選挙で特定の政党や候補者に有利なように選挙区の区割りが行われることはゲリマンダーです。
2015年の選挙で、従来グループ選挙区だったFengshan地区が小選挙区になったのはゲリマンダーだ、と野党WPは訴えています。

2020年の選挙区割には、野党からのゲリマンダーとの大きな抗議は上がっていません。

一般的にゲリマンダーでは、議席数に偏重を付けられても、全体の得票率は操作困難です。与党が勝ち続けているシンガポールで、与党得票率が特に重視されるのは、議席以上に得票率が与党への信任をあらわすためです。

非選挙区国会議員(NCMP)の罠

シンガポールにはNCMP (Non-Constituency Member of Parliament) という落選野党のための議員制度があります。日本語に訳すと「非選挙区国会議員」です。
シンガポールでは与党が選挙で勝ちまくるのですが、一定の野党支持者も当然いるため、その声をすくい上げるために1984年にできた制度です。
NCMPになれる条件です。

  • 野党所属
  • 選挙で得票率が高い者から順番に。ただし、最低15%の得票率が必要。グループ選挙区GRCの場合は2名まで。
  • 野党の通常の国会議員と含めて12名まで (2015年選挙では9名だったので拡充)

NCMPでできないのは、憲法改正決議、予算案、内閣不信任案への投票でした。それ以外へは国会で投票もスピーチもできます。それに加えて、今回の選挙でのNCMPからは、今まで制限されていた事柄への投票も可能になります。職務範囲は異なりますが、力は同様のものを持ちます。
・シンガポール国立国会図書館: Non-Constituency Member of Parliament (NCMP) scheme

この、一見オイシイ制度は「罠」だと野党からは非難されています。
「野党は国会に参加できるし投票もできるんだから、野党に投票する必要なんてない」
という説得の仕方を与党がとれるからです。実際に、与党PAPの現職議員Indranee Rajah氏が

野党が国会議員に選出される必要なんてないのよ。PAPが全議席とったって、彼らは(予算議決権がない)非選挙区議員NCMPが12人保証されていて、発言できるんだから
・シンガポールヤフーニュース: No need to vote opposition as NCMP scheme ensures their voice in Parliament: Indranee Rajah

と選挙期間中に発言し、物議をかもしました。
NCMPには、野党だけでなく、一部与党からも異議があがっています。

  • 国民の信託を受けていない落選議員が力を持つのは民主主義ではない。
  • GRCを小さくし、SMCの数を増やすことで、野党議員を増やすべき。

このため、NCMPに選ばれながらも、辞退する野党議員もこれまでいました。

野党選出選挙区は公共サービスで不利に

野党選出選挙区は公共サービスで後回しになることがあります。ウォール・ストリート・ジャーナル紙から引用します。

以前の選挙で野党議員を選出したホーガンやポトンパシのような地区は、公共サービスの提供で冷遇されてきた。例えば、公団設備をアップグレードする時に、計画順番でPAP議員を選出してきた地区の後回しにされた。
For instance, wards that elected opposition members of parliament in previous elections, Hougang and Potong Pasir, have been discriminated against in the provision of public services such as upgrades to public housing estates—by being placed toward the end of the queue of projects, behind wards that return PAP members.

同じウォール・ストリート・ジャーナル記事で、2011年の選挙期間中に、初代首相リー・クアンユー氏が以下のように言ったことを引用しています。この発言で、国民から怒りをかったことが、2011年の"歴史的敗北"の原因の一つにあげられています。

「我々は国民の評決を受け入れるが、国民もまた自分の行為への結果を受け入れなければならない。PAPはPAP選出選挙区を最初に気を配るのを予期すべきだ。」もしアルジュニード選挙区がPAPを受け入れないなら「後悔して暮らす5年間になる。」
"We accept the verdict of the people, but they must also accept the consequences of their actions. You must expect the PAP to look after PAP constituencies first." If Aljunied rejects the PAP it "has five years to live and repent."

リー・クアンユー氏は野党を選出した選挙区ホーガンの例を強調した。「もし人々が間違った政府を選べば、人々の不動産価格は徹底的に下落する。ホーガンで不動産価格がなぜ近隣ほど高くないか聞いみるとよい。」
He highlighted the example of opposition-held ward Hougang where, "If you have the wrong government, your property prices go right down. Ask why in Hougang the property is not as high as their neighbours."
Yahoo! Singapore: Aljunied voters will regret choosing WP: MM Lee

※野党選挙区の不動産価格が下落する、というのは事実ではない、という主張があります。 Today: PAP or Opposition ward? No difference to home value

日本でいうなら、細川内ダム建設計画に反対していた木頭村が、国からの補助金が削減されたのと同じ状況です。

「これら肯定・否定があっても、多数の国民が圧倒的に支持をしているのがシンガポールの与党PAPだ」という複雑な前提でシンガポールを把握する必要があります。


次回の記事では、今回の選挙結果の分析を書きます。