今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

末永恵氏のJBpress掲載シンガポール ヘイト記事

"アンチ シンガポール"な人たち

シンガポールウォッチャーのうにうにです。シンガポール在住者でもあります。
シンガポールは経済的に成功している都市国家ですが、その一方で政治体制に強いリーダーシップの特徴があるため、「シンガポールすげぇ」なヨイショがいる一方で、「明るい北朝鮮」を連呼するシンガポールアンチも入り乱れた評価が、日本にはあります。
ネットメディアでシンガポールアンチを繰り返しているライターが末永恵氏。末永恵氏は、『成長の原動力だった移民を排斥へ』(実際は外国人数増)という事実誤認や、『シンガポール ジカ熱が低迷経済を直撃、少子化に拍車』(2018年の出生数は前年比600人減とほぼ同数)との不思議な主張を、これまでもシンガポールにされています。他には、「シンガポール王朝」などと揶揄する大塚智彦氏などもいます。なぜか、両者とも元産経新聞記者とのことですが、きっと偶然なんですよね。

末永恵氏の記事では、過去に週刊朝日が以下の謝罪を行っています。

<お詫び>
2014年4月18日号のワイド特集の中の記事「マレーシア機墜落の闇 真相覆う政府の腐敗」で、CNN上級国際特派員のジム・クランシー氏のコメントとして「自国の腐敗した政治状況をこの事件で暴かれたり、国の恥を世界のメディアが明らかにしないようコントロールしている」とある発言部分を取り消します。執筆者のフリージャーナリストがクランシー氏ご本人に取材した事実はありませんでした。ジム・クランシー氏およびCNNにご迷惑をおかけしたことをお詫びします。

  • 週刊朝日: 発行日2014年05月02日 ページ152

その末永恵氏を掲載しているのはJBpress。しっかりした調査記事を寄せるライターもいますが、アンチ中韓記事も掲載しているネットメディアです。一定数いる中韓擁護派から反論があっても、アンチ中韓記事を掲載し続けているのでしょうから、ほとんど無風のアンチシンガポール記事を載せるのはなんてことないのでしょう。

専門はマレーシアの末永恵氏ですが、日本人向け一般メディアに書けるネタがなくなったせいか、シンガポール、カンボジア、フィリピンといった周辺国の記事も書いています。他国の記事への評価は知りませんが、シンガポール記事については、一般的に流れているニュースから自分の主義主張に合う部分を切り貼りしたレベルです。在住でないので、ご自身での新情報のソースはありませんし、シンガポールの専門家でもないので末永恵氏ならではのインサイトに私が気づいたことはありません。

シンガポールを理解する

耳がタコになるシンガポールヘイト

今回の記事でも、親がシンガポールに殺されたか、自分がシンガポール人に昔ふらられたかの勢いで、シンガポールをこき下ろしています。
jbpress.ismedia.jp

読んでいると微笑が私の口元に浮かびます。理由は、日本で流布するテンプレ(典型文)の「アンチシンガポール プロパガンダ」の焼き直しだからです。

  • シンガポールは「明るい北朝鮮」
  • シンガポールは「独裁国家」
  • 「報道の自由」ランキングでシンガポールは下位
  • 幸福度調査ランキングでシンガポールは世界最低
  • シンガポールの労働組合は政府公認のものが1つしかない
  • シンガポールの大学入学には反政府思想でないとの政府証明が必要
  • シンガポールの野党議員選出選挙区は行政サービスで冷遇される

このアンチ シンガポール テンプレートを、近年ネットで流布させる影響力を発揮したのは、内田樹氏ではないでしょうか。


uniunichan.hatenablog.com

末永恵氏は、アンチの中でも何番煎じも後で、わざわざ読む価値を見いだすオリジナリティがありません。上記のテンプレ批判には、後ほど解説します。

シンガポール国民は一党支配を支持している

末永恵氏の個別の文章へのファクトチェックに入る前に、シンガポールを理解する大前提を説明します。

シンガポールは独裁国家か: 一党独裁と一党支配

一部の日本人は、末永恵氏のように、シンガポールを「独裁政権」「独裁国家」というのが好きですが、これは明確に間違いです。理由は、公正な自由選挙で国民が現在の政権与党を選んでいるからです。シンガポールでの現状は、一党支配 (Dominant-party system) です。
最近の2015年の総選挙では、69.86%が与党PAPに投票しました。先進国で、7割の得票率は圧倒的です。1959年から現在まで、一度も途切れることなく単独で政権を擁立しています。強制投票制度もあり、投票率が94%の中でのことです。つまり、総有権者の64%が与党PAPに投票していることになります。
日本の2014年衆議院議員総選挙小選挙区では、投票率が53%しかなく、自民党は総有権者の24%しか得票していないのと比べると、民意は明確です。
シンガポールを「一党独裁」と批判するのは、シンガポール国民の民意と民主主義を尊重していないことになります。
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/u/uniunikun/20150926/20150926154551.jpg
uniunichan.hatenablog.com

「シンガポール人は与党に洗脳されている」「飼いならされている」という見方をする日本人も、(シンガポール在住者以外を中心にいますが) 不適切です。ネットや外資メディアから、政府に不都合な情報はいくらでも入手できます。海外居住者、留学者も多数です。重国籍を許さない国なこともあり一定数の国籍離脱者はいるとされていますが、チャンスがある金持ちほど国を逃げ出す中国とは訳が異なります。
つまり、シンガポール国民は現在の与党PAPを支持しています。たとえ、男子には2年間の徴兵があり、言論の自由が他国より制限され、厳罰国家であったとしてもです。

経済成長、治安 > 男子皆徴兵、言論の自由
(経済成長と治安は、徴兵や言論の自由より大事)

ということです。

独裁国家とは、その体制下では、政権交代が起こらない国です。北朝鮮や、中国共産党と衛星政党以外が許されない中国のような国への評価であって、シンガポールには該当しません。シンガポールは、日本で自民党が長期政権を保持した、55年体制との類似体制です。
「一党独裁」を連呼する末永恵氏の記事は、それだけでも読むに値しないことが分かります。

"親日国"のシンガポールからわざわざ反感をかいたいのか

その末永恵氏がこき下ろしたシンガポールですが、実は"親日国"です。
"親日""反日"という区分自体が安直すぎて不適切だという指摘もありますが、シンガポールは"親日"です。和食店がフードコートにすらあり、日本のサブカルチャーへの理解もあり、車・家電では韓国勢が勢いを増していますがまだまだ日本はブランドを維持しています。
アウンコンサルティングの2017年「アジア10カ国の親日度調査」では「日本という国が好きですか?」という問いにシンガポールの100人中100人が大好きまたは好き、という回答を叩き出しています。2018年のシンガポールからの訪日者数では、44万人(出所:日本政府観光局(JNTO))であり、シンガポール国民は347万人のため、平均すると13%もの国民が一年間に日本を訪れています。圧倒的です。

これは、太平洋戦争中に日本軍が引き起こした、シンガポール華僑虐殺事件を乗り越えてのことです。シンガポールは中華系住民が多く、日中戦争で中国支持者が多い中華系を恐れての虐殺でした。日本が認めた数として5千人、シンガポール計測で5万人が虐殺されたとされています。
uniunichan.hatenablog.com

末永恵氏の記事は、戦後の強烈な反日感情を乗り越えてきたこれまでの先人たちの苦労を愚弄しています。日本人にも、シンガポール人に対してもです。
日本人を焚き付け、シンガポール人に日本への悪意をもたせる記事を書き掲載する、末永恵氏とJBPressの意図が分かりません。少なくとも、フェアな記事ではありませんし、友人としての長期的な視点でも提言でもありません。
"国益"に反する行為であっても、シンガポールを罵倒する必要があるという信念があるのであれば、どうぞ表明していただきたいと思います。

末永恵氏の記事のファクトチェック

末永恵氏の記事への見解を記します。

末永恵氏の記述 私の見解
反政府活動や野党の締め付けを強化しているだけではなく、今秋見込まれていた総選挙も来年に延期した(2021年1月期限) 議会解散は首相が大統領に助言して決まる。首相や与党は選挙日程をほのめかしていないが、選挙区再評価委員会(EBRC)が招集されたとの噂が流れ、世間が推測していた。EBRC招集は8月だった。決まっていないことなので、"延期"ではない。また総選挙期限は2021年1月ではなく、2021年4月15日
シンガポールでは、抗議活動に関する規制に違反すれば、最長6カ月間の禁錮刑に科される可能性もあるのだ。 治安法 (Public Order Act) のことであれば、禁固刑の最長は12ヶ月。また罰金の最大はS$2万で、禁固刑と両方の可能性がある
多くの企業が混在する金融先進国のシンガポールでは、政府公認の組合が唯一スト権を保有し、いわゆる労働組合は事実上存在せず、活動していない。 「政府公認の組合」と「いわゆる労働組合」の違いが不明。シンガポールでは労働組合は政府に登録されており、67組合ある。登録組合は合法ストの実施が可能(Trade Unions Act)。
大学入学希望者は「危険思想家でない」という証明書の交付をシンガポール政府から発行してもらう必要がある。反政府や反社会的な学生運動などは存在しないのが実情だ。 治安維持法第42条なら、入学には学校許可に加え官庁の証明書が必要で、国の治安を損ねる場合に拒否されるという内容。ただし、NUS/NTU生に聞いても「そんな証明書類、手続きした記憶がない」と言われる。入試の申請書類にも記載がない。この条項での入学拒否者を探しても出てこない。入学願書の条項に「教育省MOEに大学が問い合わせするのを認める」の宣言があるので、それの可能性がある。つまり、「証明書の交付」を入学者が政府に直接発行してもらう運用では少なくともない。
筆者の取材によると、今年9月、米エール大とシンガポール国立大学(NUS)の共同設置の「エールNUSカレッジ」で、反政府活動を扱うカリュキュラムコース「シンガポールでの反対意見と抵抗」の開講の中止が決まった。 『筆者の取材によると』が虚偽。2019年9月14日に、シンガポール最大手ストレートタイムズ紙が報道済み。末永恵氏の記事の12月10日より3ヶ月前に報道されている。
選挙で野党候補者が当選した選挙区には、政府による“懲罰”が科され、公共投資や徴税面で冷遇されることでも知られている。 徴税面の冷遇が具体的に何を指すのか不明。地方税がないシンガポールは、住所で税を変更できない。野党選出選挙区での公共サービスの冷遇は、類似の出来事が世界中で行われている。日本では、ダム反対地方自治体への公共工事削減などの行政圧迫が有名。
形の上では公正な選挙で選ばれたように見えて、その実、選挙区割をはじめ選挙システムなど与党による独裁が守られる「仕かけ」が施されているのだ。 これも世界中で見られる。日本では1票の格差問題が有名。シンガポールでは前回総選挙では一票の格差が最大1.98倍、一方日本では2017の最高裁が格差3.08倍に合憲判決。米国では、前回大統領選挙で得票数で上回るヒラリー・クリントン氏がトランプ氏に敗れています。シンガポールで野党が抗議をしているのは、選挙区割でのゲリマンダーが中心。投票操作への抗議はない。そのため、シンガポールでは議席占有率ではなく、得票率でみる。ゲリマンダーで議席数は操作できても、得票率は操作できない。
政府批判勢力には、国内治安法により逮捕令状なしに逮捕が可能で、当局は無期限に拘留することも許される。 現行犯逮捕同様に令状不要。日本には人質司法がありますが、シンガポール治安維持法でより深刻なのは裁判無しの長期勾留。マフィアに大打撃を与えた政策ですが、政治的にも使われた。
新聞、テレビなどの主要メディアは政府系持株会社の支配下にあり、独裁国家のプロパガンダを国民に刷り込むことに一役買っている。 テレビ局のメディアコープは(政府系持株会社ではなく)政府系投資会社TEMASEKが所有。新聞社SPHは大統領を輩出するなど政府と人事が近い。これらは自己検閲を行っている。国民は外資メディア・ネットニュースの閲覧が可能。また反政府系はネットを中心に活動。なお、末永恵氏が前述したエールNUSの授業中止を最初に報道したのは、末永恵氏が罵倒するSPHの新聞ストレートタイムズ。
筆者の取材にシンガポール政府安全危機管理関係者は、「香港の民主化に感化され国内に混乱が発生した場合の『危機管理スキーム』を作成し、暴動クライシスへの対策を取りまとめた」という。 『筆者の取材に』と書いているが、危機管理計画は11月3日のフィナンシャル・タイムズ紙が報道済み(和訳の日経掲載は11月5日)
そしてもう一つの大事な点が、国民の自由を剥奪してきた政策が至る所で綻びを見せ始めているという現実だ。国政メディアは決して伝えないものの、経済発展を果たしたいま、自由を求めて国民の不満が高まり、じりじりマグマ化してきている実態が明らかになってきた。 根拠がない。私の実感でもない。シンガポールで唯一合法にデモを行えるのはスピーカーズコーナーだが、香港関連をテーマにしたデモは開催すらされていない。香港騒動後に人が集まったデモは、気候変動がテーマで、主催者発表で2千人が参加
「シンガポール初の全国規模のホームレス調査」(シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院)だ。人口約570万人のうちホームレスの数が約1000人だったことが明らかになった。(略)日本の首都・東京では、人口約1350万人でホームレスは毎年減少傾向で、1126人(今年1月現在)ほど。これに対し、人口約570万人と東京の半分にも満たないシンガポールのホームレス数が東京並みで、かつ増え続けているのだ。 「ホームレスは人口比でシンガポールは東京の倍」と聞くとシンガポール居住者は違和感を持つはずです。理由は、ホームレスを見たことがない人が大半だから。数字の違いは、計測方法の違いと私は推測します。日本は対象が「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」で、地方自治体の巡回での目視。シンガポールは対象が「全ての街の通り」で「23時半以降に寝ようとしている人」を、ボランティアとNGOが確認です。明らかに調査の精度が違います。よって、発見場所も全く異なります。シンガポールでは3割強が公団住宅1階の待合場所(ボイドデッキ)で、3割弱が商業ビルです。日本では住居やビルは調査外です。
シンガポールの一党独裁の歪は、政治的統制、様々な規制、能力至上主義社会を反映し、米調査会社ギャラップの日常生活の「幸福度」調査では、シンガポールが148カ国中、最下位だったこともある。 典型的な、自説に都合が良いデータだけをつまみ出した議論の展開。国連「世界幸福報告書」で、シンガポールは世界22位、アジア1位の幸福度。gallup調査は「ポジティブ・ネガティブへの感受性」がとおりがよい"幸福度調査"と誤って各所で引用されており、「感情を表に出さない」と理解すべき。だいたい、シンガポール関係者であれば「シンガポール幸福度が世界最低」は体感と違っておかしいので原典をあたるべき。
シンガポールは一党独裁でありながら経済成長を果たした背景から、「明るい北朝鮮」とも呼ばれる。リー・ファミリーが政治権力だけでなく、富も独占的に保有してきたからだ。 「明るい北朝鮮」と"呼ばれる"のではなく、呼んでいるのは日本人だけ。"Bright North Korea"でグーグル検索しても、用語として出てこない。知日派シンガポール人からすら反感をかう言葉だから使うのは止めるべき。フォーブス「シンガポール長者番付」は50位までランクされているが、リー家は未掲載。首相とサラリーマンCEOがいる裕福な家族なのは確かだが、「富も独占」は根拠がない。
2015年3月に建国の父、リー・クアンユー氏が亡くなった時、旧知の間柄だった台湾の李登輝元総統はこう言い放った。「我々、台湾は自由と民主主義を優先させたが、シンガポールは経済発展を優先させた」 出所不明。私は中国語が読めないので、日本語英語の資料になりますが、「シンガポールは中国に頼った」と李登輝氏は発言している。続けて「台湾は自分の足で立ち上がっていた」と中国との関係性の違いを発言。「シンガポールが経済発展を優先させた」との発言は見当たらない
言論の自由

与党PAPに投票し続けていることで、国民は現体制を支持しています。国民が支持しているのなら、なぜ他国民が批判するのですか?他国民に、そんな権利があるのですか?虐殺や強制収容所のような人権問題なら、普遍的正義として、他国が介入する口実はあるでしょう。国民の多数が支持したところで、人権を抑圧された人は救済されるべきだからです。しかし他国の介入が、宗教・民族へのヘイトスピーチを含む「言論の自由」にも当てはまるかとなると、尻込みする人が大半でしょう。

シンガポールでは「言論の自由」は他先進国より制限されています。これには「多民族国家で、国家分断につながる民族・宗教に関するヘイトスピーチを許さない」というのが大前提としてあります。例えば、ムスリム家庭の玄関に豚肉を置いた女性は、刑事事件として有罪になりました。

多数決で制限できない権利が人権

以上が、シンガポールからの見解です。上記に加えて、私からは以下を付記します。
民族・宗教へのヘイトスピーチを、とりしまる、とりしまらないは、各国で判断が分かれるでしょう。
シンガポールでの言論の自由の問題は、民族・宗教以外でも、制約を受けていることです。例えば、民事ではあっても、与党政治家への名誉毀損で高額な賠償金で破産したり、欧米マスメディアもシンガポールの政治家に過去に謝罪・賠償をしています。

政治家も、一般市民と同様に、誹謗中傷から名誉が守られなければならないということです。
私はここには同意できません。政治家は一般市民ではありません。権力を持ち、裁判を行う財力も一般市民よりあるでしょう。民事であっても、政治家が一般市民相手に名誉毀損訴訟を行うのは、言論の著しい萎縮効果があります。日本を含め多くの先進国では、政治家が一般市民相手に訴訟を行うのは恥ずかしい行為とされています。権利はあっても、行使すべきではない、という衿持です。なので、政治家でない人に名誉毀損訴訟をほのめかした民主党の小西洋之議員は激しく非難されました。別の言い方をすると、小西洋之議員はシンガポールスタイルです。国民からの罵詈雑言、流言飛語には、法律・裁判でなく、政治家は自分のチャネルを使って言論で説明・反論するのが適切と私は考えます。
シンガポールの名誉毀損の特徴は賠償金が高額なことです。破産に十分な額の賠償命令がでます。シンガポール独立後、初の野党議員となったJ. B. Jeyaretnam氏は、与党への名誉毀損への損害賠償と裁判費用で破産に追い込まれました。最近の一般人相手では、2015年にリー・シェンロン首相が、名誉毀損訴訟に勝利し、ブロガーが$15万(約1200万円)の賠償命令を受けています。
日本での名誉毀損には、懲罰的な賠償額にならず、裁判所が黒白をつけたおまけの金額程度でしかないです。賠償額より、弁護士など裁判費用が大変でしょう。(例: 牧義夫前衆院議員の朝日新聞社への名誉毀損訴訟では110万円の支払い命令)

言論の自由は人権に含まれます。世界人権宣言の第19条です。国連で採択され、172カ国が締結し、74カ国が署名した"市民的及び政治的権利に関する国際規約" (ICCPR (B規約)) を、シンガポールは締結も署名もしていません。同様の国には、サウジアラビア・アラブ首長国連邦・マレーシア・バチカン市国など少数です。(なお、人権でよくとりざたされる中国は、締結したが未署名)
人権である言論の自由は、国民の多数決や政治で権利を制限できることではなく、マイノリティも権利が守られるべきことです。シンガポール国民が現体制を支持しているのは、「自分は体制側」であり、「自分がマイノリティになる、政府と敵対することは考えていない」という前提があるからです。
「言論の自由」と経済発展・治安が本当にトレードオフなのか、シンガポールでは両立できないかこそが、検証されるべきです。


末永恵氏は、専門外のシンガポールには口を出さず、マレーシア記事だけを書き続けることを願っています。また、JBpressも内容を評価できない記事を掲載するのは、止めるべきです。それが、名誉を守る術です。

シンガポールでの母子無理心中から考える 海外在住の健康と危険

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。本記事の写真は全て私による撮影です。

日本人母子 無理心中

11月14日木曜日、シンガポールの日本人コミュニティに、SNSとLINEで噂が一斉に飛び交いました。
「ブキティマ自然保護区で死体が発見され、その母子は日本人らしい」
とのものです。正確には、ブキティマ自然保護区ではなく、ブキバト自然公園でした。
報道が始まったのは、華字紙の新明日報(他紙転載の全文)。そこから、フリーペーパーのToday、ネットメディアのヤフーシンガポールAsiaOne、英字紙であり最大手Straits Times、テレビ局Channel News Asia (CNA) も後追いで報道が続きます。
事件か事故かを巡って、いろんな憶測が飛び交いましたが、最終的には遺書が発見され、無理心中と思われています。

報道による事実関係

報道としては後発ですが、ネットメディアのmothershipが最も詳しいので、そこから抜粋しします。このmothership報道も、新明日報からの引用とのことです。 (私は中国語が読めないので新明日報から引用できません)

  • 2019年11月14日の朝、2つの遺体が発見された。
  • 41歳の女性と、5歳の男子で、母子。日本国籍。
  • 発見時、男子は黒のホンダ ベゼルの中で、女性はその近くに横たわっていた。
  • 新明日報によると、女性が息子を殺害した後に、自殺したと考えられている。遺書が車で発見された。
  • 運転席の窓が壊され、車の中にいた人を誰かが助けようとしたと考えられている。
  • あたりには6台の監視カメラが備え付けられている。殺害と自殺の動機は不明。
  • 外国人家政婦(メイド)によると、このあたりで日本人居住者を見たことがないとのこと。住民の大半は白人。
  • 木曜晩に、僧侶が現場を訪れ、ろうそくに火をともし、供花した。
  • 発見者は、隣接するテレビ塔の警備員の2人だった。違法駐車の車に近づき、懐中電灯で車の中と草むらを照らしたときに、遺体を発見した。
  • 午前6時42分に警察に通報され、警察は不自然死として扱った。車の周囲で6時間にわたり捜索を行った。警察調査は今も続いている。
  • 事件を調べており、シンガポール当局を支援していると、日本大使館は述べている。

※筆者注:
ベゼルはライドシェアのグラブでよく使われる車です。逆に、ベゼルはライドシェア以外では敬遠されるようになっています。シンガポールでライドシェアをするには、自営・フリーランスであるため、外国人は一般的な労働ビザではできず、永住権PRが必要になります。
・現場は立ち入り制限地域と各種記事に記載がありますが、制限地域は現場ではなくテレビ塔敷地内と私は理解しています。現場は、テレビ塔横の、15軒ある一戸建て住宅に通じる人気がない道路でした。

海外生活の光と影

シンガポールの日本人コミュニティでは、2018年9月にバンコクで二児の子どもを持つ駐妻が、自殺したことも広く知られています。

他人事とは思えないからです。
日本では、駐在員はプールやジムが併設された高級コンドミニアムに住み、駐妻は家事をメイドにまかせ、駐妻仲間とホテルや高級レストランでランチを楽しんでいると思われています。確かにそうしている人もいますが、そうではない人もいます。一見華やかな人でも、不安を抱えていることも珍しくありません。

  • 日本であった以上に濃密な日本人村の人間関係。LINEの駐妻グループが怖い。友達がいない。
  • 英語 (現地語) ができないので、日本人村界隈以外に出かけられない。外出が苦痛。
  • 旦那が近隣諸国に頻繁に出張し、帰りも遅い。何をしているのかも分からないし、話をする時間もない。
  • 子育てで頼れる人がいない。メイドは外国人で雑だし、他人を家に住ませたくないから雇えないし、もし雇えば管理が大変。
  • 子どもが学校になじめない。

不安を抱えながらも、キラキラインスタを上げ続ける強い人もいれば、押しつぶされる人もいます。
また、海外在住者は職場の支援がある、駐在員ばかりではありません。現地企業と直接雇用契約で働いている現地採用者もいます。シンガポールであれば、一部の金融職や専門職で、駐在員並がそれ以上に稼ぐ現地採用者もいますが、そんなスター現採は一握りです。将来への不安を直視しないようにしながら毎日を生き抜く人、現地結婚組であれば配偶者の親族とのストレスのもとで生活している人は少なくありません。
シンガポールには、日本人会クリニックに心療内科があり、メンタルヘルスの診療経験もある日本人医師がおり、海外の中では恵まれている環境にあります。

日本人は海外でどれぐらい事故にあっているか

安全になる世界

外務省: 海外邦人援護統計

「日本じゃないんだから、気をつけてね」
海外旅行者や、移住者によく言われれる言葉です。では、海外とはどれぐらい危険なのでしょうか。
統計があります。外務省の"海外邦人援護統計"です。最新版は2018年作成、2017年のデータに基づきます。

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海外邦人援護統計
※海外邦人援護統計には在外公館活動である"所在調査"が含まれていますが、リスクではないので、表から除外しています。

これは、在外公館 (大使館などですね) で把握している数です。つまり、旅先で窃盗にあったとしても、現地の警察にすら届けないのが大半ですし、更にメリットがない日本大使館に届ける理由はありません。盗難物がパスポートか、盗難保険加入者でもなければ、戻ってくる期待もできない中で、言葉が不自由な現地警察に届ける動機も時間もないので。
その一方で、重大事故・犯罪の被害者にあった時や、自分が加害者として逮捕された時には、大使館に連絡が入ると想定されます。軽い事故や犯罪での報告数は氷山の一角であり、重大事故・犯罪や加害者についてはカバーされている割合が高いというのが、私の推測です。
着目すべきは、実数より、増加や減少の傾向はどうかということです。先進国はスリなど軽犯罪が頻発し、テロや内戦が多発する世界というのがマスコミ報道から想像される印象ですが、事故件数は過去10年で2割減と減少傾向が実態です。日本人が訪問する国は、日本人にとり年々安全になっていると言ってよいでしょう。

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海外邦人援護統計-死亡者数
2017年には、自殺と自殺未遂は54人におきました。そのうち、35人が死亡しています。犯罪被害で亡くなった13人よりずっと多いです。
2017年の死亡者総数は、477人。過半数の266人が傷病です。事故・災害は83人と17%。自殺の35人は7%です。
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海外邦人援護統計-負傷者数

なお、邦人援護件数で多いツートップが、タイとフィリピンです。国別在留邦人数(2017年)で、4位のタイと、17位のフィリピンが、援護件数で1位と2位になっているというのが、その国で日本人にかかる環境をうかがい知れます。

シンガポール人の印象

遺書が見つかったと報道される前の段階での、シンガポール人の反応です。

  • 「シンガポールはもはや安全とはいえない。ジョギング中にレイプされる事件が以前にもあった。自殺なわけないだろ」
  • 「(富士の樹海からの連想で) 日本人は人気のない山の麓を選ぶ」「あの場所は第二次大戦の昭南忠霊塔の隣だね」

というものです。

昭南忠霊塔

昭南忠霊塔とは、第二次大戦中のシンガポール攻略戦闘での日本人戦死者を弔う記念碑です。12メートルの高さの木製でした。その裏には、3メートルの高さの英国記念碑の十字架がありました。日本の敗戦で、日本軍が破壊し、跡地として残されています。
詳細を知りたい人は、シンガポール国立公文書館を訳していますので、こちらを参照ください。
uniunichan.hatenablog.com

死に近い場所で、しかもそれは日本の第二次大戦のいわくつきです。
大通りから、昭南忠霊塔までは、参道を思わせる真っ直ぐな道路がひかれています。そのすぐ右手にあるテレビ塔も見えます。

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Lor Sesuai
その小高い丘の上にあったのが、昭南忠霊塔です。テレビ塔が隣りにあるのは、電波の発信には高さがあるのが有利だからでしょう。
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昭南忠霊塔 跡地
跡地には記念碑が置かれています。
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Bukit Batok Memorials1
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Bukit Batok Memorials2
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日本人が持つシンガポールのイメージは、マリーナベイサンズに代表される大都会の金融国ですが、ジャングルがいまだに残されている地域がブキバトです。
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社会保障を受けられる日本に帰ろう

motherhshipの記事は「精神的苦痛の中にいる人を知っていれば、助けを得られるホットラインがあります」として、メンタルヘルスの診療や、NGOへの電話問い合わせ先が記載されています。
シンガポールでも自殺はありますが、日本ほどではありません。人口10万人あたりの自殺率は、日本が20.5人のところ、シンガポールが11.1人と約半数にとどまります。(2016年 WHO)
最近まで、シンガポールで自殺は刑法での犯罪でしたが、改正され犯罪ではなくなりました。日本では、自殺幇助が犯罪ですが、更にそれを厳しくしたものだったと言えます。

自殺の引き金となるのは、精神疾患のみではありません。「自分の生命保険で、借金を返して、残りで家族が生活を立て直して」という"合理的な判断"でもおきます。そうならなくていいように、破産があり、生活保護といった制度があります。また、行政に加えて、家族、親族、友人、地域というセーフティネットがあります。ただしこれは、母国であればの話です日本国籍を持って生まれてきたのは、生涯に渡って宝くじを握りしめているのと同じ、またとない幸運なのです
シンガポールでも、外国人も破産できます。永住者PRであれば生活保護 (ComCare) を受けることも可能ですが、内容によって世帯にシンガポール国民がいることなど基準が厳しく、金額も国民と異なります。永住者でない就労ビザでの外国人、観光目的の外国人からは、社会保障費を取らずに、社会保障を提供しないのが、シンガポールです。

健康・精神・経済的に困窮し、現地での打つ手がなくなれば日本に帰るのが選択肢の一つになります。海外で経済的に困窮して自分で打つ手がなくなったのであれば、日本大使館に駆け込んでください。「海外邦人援護短期貸出金経費」による送金が届くまでの一時的な貸し付けや、「困窮邦人帰国対策費(国援法・送還費)」による帰国費用の貸し付けの制度があります。

「この子を残すと不憫」という考えに至らないように、自国民に選択肢を提供できるのが、先進国だと私は信じます。


真っ暗な中、今まで育ててきた5歳の子どもを乗せて車を走らせ、人気のない場所を選んだお母さんの心中を思うと言葉を失います。ご冥福をお祈りします。


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韓国紙『河野外相、シンガポールの英字紙にも韓国批判の寄稿文』の寄稿を全訳してみた

シンガポールウォッチャーのうにうにです。
日本のメディアは、来る日も来る日も韓国ニュースがひっきりなしで、「日本も国力が相対的に減退し、これまでのようになあなあではなく、韓国と向き合わざるをえないのだな」とシンガポールにいながらにして思います。

日本に迫る韓国経済力

経済力で比べましょう。
国民総生産GDP(名目)では、1970年には、日本は韓国の25倍でした(日本2107億米ドル、韓国82億米ドル)。
それが2016年では、3.8倍にまで詰め寄られています (日本4兆9111億米ドル、韓国1兆2847億米ドル)。

一人あたりGDP(名目)では、1970年には10倍(日本米ドル2037、韓国209米ドル)。
2016年には、1.4倍にすぎません(日本38,972米ドル、27,608米ドル)。

河野外相のシンガポール紙への寄稿

その韓国との関係で、河野太郎外務大臣が、シンガポール最有力の英字紙ストレイトタイムズに「最近の日韓紛争の背景」を寄稿しました。テーマは、徴用工補償問題が中心で、GSOMIA (日韓秘密軍事情報保護協定) にもふれています。
シンガポールの読者を対象にしていることから、日韓請求権協定に振り返り、日本政府の考え方を説明しています。日本人にとっても、おさらいに役に立つでしょう。
要点です。

  1. 日韓請求権規定により、徴用工への日本の補償は「完全かつ最終的に解決した」。
  2. 日韓請求権規定により、韓国政府に3億米ドルの補償と、2億米ドルの借款を日本は提供した。
  3. 日韓請求権規定の協議中、日本は個人への直接の補償を韓国政府に提案したが、韓国政府は「韓国政府の責任で補償する」として断っている。
  4. 日本企業への賠償を命じる韓国の裁判所判決は、日韓請求権規定に違反している。
  5. 日韓請求権規定で日本からの賠償を受けたことで、賠償を配分する責任は(日本から)韓国政府に移っており、それは2005年に韓国政府が再確認している。
  6. 韓国への輸出管理の運用の見直しは、異なる問題であり、関連付けてGSOMIA終結を判断した韓国政府は誤解をしている。

外務省が頑張っているのですが、河野外相のこの寄稿文は日本の主要メディアは取り上げていません。
本件でシンガポールは直接関係はない第三国なのですが、ストレート・タイムズ紙への外務省寄稿は、重要事項に限って時々行われます。2013年には在シンガポール日本大使館が「尖閣諸島をめぐる領土紛争は存在しない」という寄稿がありました。

河野太郎外相とシンガポール

実は、河野外相は、シンガポールに土地勘があります。
衆議院議員になる前の社会人時代に、富士ゼロックスで勤務していました。その際に、シンガポールの富士ゼロックスアジアパシフィックに赴任しています。
外相時代でも、公務でたびたびシンガポールに訪れています。



韓国紙 中央日報の報道

韓国メディアの中央日報が河野外相の寄稿を報じています。

抜粋します。
前半は寄稿の要約をしています。後半では、寄稿への論評、つまり中央日報の意見が入っています。抜粋し、意見の箇所を私が太字にします。

日本政府が韓国だけを狙って輸出規制措置を発動したことは徴用賠償判決と関係がないという強引な主張

韓日対立は韓国が1965年の韓日請求権協定の時の約束を守らずに起きたという「ごり押し主張」

特に「過去の民間労働者」という表現を使って徴用被害者に強制性がないというイメージを与え韓日対立の原因が韓国政府にあるという印象を植え付けるのに注力した。

いい時代になりました。国家間対立で論点への視点の違いを、対立国のメディアが母国語に翻訳して読めるのですから。自国メディアのバイアスを通していないというのが大事です。日本の左派メディアが「情勢はXなのだから、日本は謝罪すべきだ」、右派メディアが「情勢はYなのだから、日本は抗議すべきだ」と書いても、いつもの自社読者向け論評であって、一次ソースにさかのぼる根性がない下々にはまず参考にもなりません。参考になるのは、左派メディアが「日本は抗議すべきだ」、右派メディアが「日本は謝罪すべきだ」と言う場合です。

韓国紙は、自紙の邦訳で、結構な閲覧数があると推測されます。自国と自紙の考え方を伝えることで、経済的にも潤うのですから、(一部の日本人読者に反発されようが)本望でしょう。日本のマスコミは(誰が読者なのか謎の)英字紙を作るプライドはあるのですが、こういう「対立国の言葉で自国と自紙の考え方を伝える」アプローチの方が、実は影響力も持て、稼げるのではないかと思えます。一番コストがかかる元の記事は、自社ですでにあるのですし。どうですか、日本のマスコミさん?

それでは、全訳です。
www.straitstimes.com

最近の日韓紛争の背景

河野太郎からストレイト・タイムズ紙へ


日本と大韓民国 (ROK: 韓国) との間の協調は極めて重大である。両国が隣国からなだけではなく、地域の平和と安定への必要条件だからである。これは北朝鮮問題への取り組みも含む。しかしながら、協調関係は当然のものではない。日本と韓国が長年に渡って努力してきた、絶え間ない注意と配慮を必要とする。


長い期間を経て、両国は親しく友好的で協力的な関係を築いてきた。これは、1965年に国交正常化した時に、両国が結んだ日韓基本条約に基づいている。しかしながら、第二次世界大戦での朝鮮半島からの元・民間人労働者 (former civilian workers) の問題に関して、両国は障害に直面している。


多くの読者はこの話題に熟知していないかもしれないので、簡単な背景を説明したい。


1965年、厳しい交渉の14年間の後に、日韓請求権並びに経済協力協定を両国が締結した。


1965年の同意の条項において、3億米ドルの助成金を提供し、2億米ドルの貸与を日本は同意した(韓国の当時の国家予算の1.6倍にのぼる総額だった)。二国間とその国民との間での要求に関するすべての問題は、「完全かつ最終的に決着した」と確認されていた。


交渉において、日本に対する韓国の請求への概要を韓国は示していた。8項目が記載され、「徴用された韓国人への戦争でおきた損害への賠償」と「徴用された韓国人への未払い給与」が含まれていた。1965年合意での「完全かつ最終的に解決した」との請求には、これら8項目の領域内のあらゆる請求を含むことが、1965年合意での両国が同意した議事録で明確に述べられている。


しかも、1965年合意を交渉していた時に、韓国は全ての"徴用された"労働者への補償を求めており、物理的かつ心理的な苦痛への損害を補償は含むべきだと提示していた。それに応じて、日本側は個人への支払いを提案した。しかし、国家としての損害賠償を要求し、韓国内での支払いへの責任を韓国政府がとると韓国代表は主張した。


40年後の2005年8月、1965年合意で日本から得た3億米ドルの助成金は"強制動員"の犠牲者への"苦痛への歴史的な事実"への補償を含んでいたことを、韓国政府は再確認している。


その際、"強制動員"の犠牲者への救済手段を提供するために受け取った賠償の適切な額を配分する道義的責任を負っていると、韓国政府は明らかにしていた。


二国間政府でのそのようなやりとりにもかかわらず、韓国国民の中には、朝鮮半島が日本統治下にあった第二次世界大戦で日本企業による"強制動員"に従ったと主張し、2つの企業、日本製鐵と三菱重工業への損害賠償への支払いを求める訴訟を起こした。


昨年、韓国最高裁判所は、2つの日本企業への一連の判決を言い渡し、前民間労働者 (former civilian workers) に"損害賠償"の支払いを命じた。事実から明確なことだが、これらの判決は、1965年合意を明確に反している。


1965年合意は二国間の外交関係を正常化させた法律的な土台になっているが、50年以上もたった今になって、二国間での誓約を韓国は一方的に破棄した。


判決は極めて遺憾で全く受け入れられないとの立場を、日本政府は伝えている。日本政府は、韓国に適切な処置をとるように強く促しているが。これには、国際法違反を是正する即座の対応も含まれている。


しかしながら、韓国政府はどんな具体的な処置をとっていない。


日本政府は公式に外交会議を求めており、1965年合意の中に備えられていた、独立した客観的な裁定のために争議仲裁を呼びかけている。しかし、韓国は仲裁への参加を拒否しており、国際法違反を重ねている。


未来に向けた二国間関係を確固たるものにするステップを我々が共に再びとるために、韓国政府が1965年合意を遵守し、国家間に加えて国際法の立場からもこの問題に取り組むこと、そして国際社会の責任ある一員として具体的な行動をとることを、私は強く希望している。


最後に、ソウルが終結を決めた、日韓秘密軍事情報保護協定 (GSOMIA) にふれておきたい。これは、二国間の安全保障を高め、地域の平和と安定を確保するのに、2016年以降、貢献してきた。


北東アジアにおける安保情勢への韓国政府の完全な誤解を反映したのがこの決断だと、私は言わなければならない。韓国向け輸出管理の運用を日本が見直したことを、韓国政府は自国の決断に結びつけた。しかし、これらの2つの問題は性質が異なっており、共に関連づけるべきではない。

  • 河野太郎は日本の外務大臣

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