今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

シンガポールで扶養家族ビザDPで合法にフリーランスをする条件 ~LOCスポンサー企業で可能の真偽~

シンガポールウォッチャーのうにうにです。2012年から書き続けている違法就労についてです。手を変え品を変え、微妙にずらした話がポコポコ湧き上がるので、そのフォロー記事になります。

日本人にとりシンガポールは外国です。外国人の入国は権利ではなく入国管理局の許可に基づきますし、入国後の外国での就労には就労許可が必要です。「外国でカネを稼ぐには現地就労許可がいる」というのは海外居住者にとり常識であるべきですが、常識になっていないない人も、聞いたことはあっても気にしない人もいるのが現状です。
日本など他国で税金を払っていたとしても、税と就労許可は別物なので、シンガポールでの就労許可が必要です。
シンガポールでは、就労ビザで働く人の家族に、扶養ビザのDP (Dependent's Pass)が提供されます。DPが出る大まかな条件は下記です。
■DP発行資格

  • EPかS Passの法的な妻、未婚でかつ21歳以下の子ども
  • EPかS Passの月額固定給与が$6,000以上
  • EPかS Passの勤務先がスポンサーになること
  • MOM: Eligibility for Dependant's Pass

上記は足切りラインです。上記を満たしていても、DPが発行されないことがあります。月額給与が最低額に近い際や、勤務先のシンガポール人雇用比率が小さい際にそうなる可能性が高まります。

シンガポールでの外国人のフリーランス・自営

そのシンガポールにおいて、日本人の扶養家族でDP保持者が、"自己実現"や"お小遣い稼ぎ"のためにあの手この手でフリーランスをしようとする試みがあります。よくあるフリーランスは下記です。

  • お教室、お稽古 (音楽、料理、工芸、スポーツなど)
  • ネイルサロン
  • 旅行ガイド、旅行企画
  • 家庭教師、幼児教育、セミナー講師
  • ライター、ブロガー

セミナー講師については、ビザなし入国者はMOMへの申請だけで可能です。しかし、DPはこの規定を利用できません。

シンガポールでの労働には、就労許可が必要です。また、シンガポールでは、報酬が発生すれば確実に労働ですが、報酬が発生しなくとも労働と認定されることがあります。報酬が発生しない労働の例はインターンシップです。報酬は現金以外にも、物品・サービス・食事・試供品・旅行・交通手段などが含まれます。
その一方、趣味・ボランティアであれば、就労では当然ないので、就労許可は不要です。
uniunichan.hatenablog.com

DPの就労許可、LOC

DP所持者は就労許可が簡単におります。DPの就労許可はLOC (Letter of Consent)と呼ばれ、就労先が申請します。
シンガポールで最も取得容易な就労許可です。最低賃金の規定がありません。外国人雇用枠にもしばられません。S PassやWork Permitで必要な雇用税もありません。申請費用が無料という小さな特典もあります。それだけの自由度を持つLOCにも条件があります。LOCには雇用主が必要だということです。つまり、自営・フリーランスにはLOCは発行されません。LOCの発行資格は下記です。

■LOC発行資格

  • EPがスポンサーになっているDPのみ ※S PassがスポンサーになっているDPではLOCは対象外
  • DPの有効期限が3ヶ月以上
  • 雇用主が必要 ※MOMは"you must have a job offer with a Singapore employer"と明記。
  • 少数の職種制限あり ※MOMの説明と具体例は「ダンスホステスのような不快な職業は不可」
  • シンガポール労働省 MOM: Eligibility for Letter of Consent

10年ほど前までは、自営・フリーランスにもLOCが発行されていた時期がありました。外国人就労への国民からの風当たりが強くなり、就労資格の運用が厳格され、最近では自営・フリーランスにはLOCは発行されません。時折、「私はLOCを取得している」と主張するDPのフリーランスがいますが、実際に真っ当な方法で取得したLOCを提示できる人に私は会ったことありません。よくあるのが下記です。

  • 本当はLOCを取得していない。 (これが大半)
  • 「自分の業務に就労許可は不要だから、就労許可を持っている」と主張している。 (謎ロジックですが、います。本当はLOCを取得していない人が追求されると、こう強弁する人がいるのです)
  • LOCを虚偽申告で取得した。 (虚偽申告をした認識が有る人と、無い人がいます)

DPであったとしても、資本金を積んで会社設立し、DPからEPに切り替えるのが自営・フリーランスへの正攻法であり、事実上唯一の道です。DPだからといって、就労許可が簡単にとれる方法は、自営・フリーランスにはありません

LOCスポンサー企業を見つければ、実質フリーランス活動が可能?!という噂の真偽

しかしながら、資本金を積む体力がない自営・フリーランス希望者は多くいます。またたとえ、EPが出たとしても、少額の資本金では有効期限は1年であることが多く、最近はその間に黒字化を達成していないと、1年後のEP更新は困難です。そのため、EP取得以外の手段で、自営・フリーランスを目指す人はいまだに後を絶ちません。

自営・フリーランスを目指す人の中で、最近広まっているのは「LOCスポンサー企業を見つければ、実質フリーランス活動が可能」というものです。スポンサー企業とは、雇用主としてLOC発行を申請してくれる名前貸し企業のことです。LOCは、S PassやWork Permitと違って外国人枠の制限外のため、そこだけを見るとスポンサー企業にデメリットはなさそうなのがミソです。
実質的に雇用関係がないならLOCの不正取得なのですが、形式上でも不正申請がこの取得方法では実は避けられません。ですので脱法ですらなく、違法です。以下に抵触するためです。
(1) LOC申請時の住所で業務をする必要がある
(2) LOC申請時の基本月給を毎月満たす必要がある
(3) フリーランス活動の会計と、スポンサー企業の会計を統合するのはまず不可能

(1) LOC申請時の住所で業務をする必要がある

LOC申請にあたって幾つかの住所を届け出る必要があります。LOC所持者の住所、雇用主の住所、そして業務を行う住所です。雇用主の住所と、業務を行う住所が異なっている場合は、MOMのチェック対象です。ここでチェックされるのは、事業がアウトソースや派遣であるかどうかです。単に、シンガポールに幾つか事業所があって、本社と工場のように住所が異なる場合には、問題ありません。契約企業先に勤務になるアウトソース(請負や業務委託)も大丈夫です。ですが、シンガポールで外国人の派遣には、就労許可が原則おりません。派遣で働けるのは、国民と永住者PRです。(ごく一部の季節要因がある業態では派遣が認められていますが例外です) 外国人を雇うなら直接雇用しろ、という意味です。
※派遣とアウトソースの違いは、指揮命令が雇用主にあるか(アウトソース)、顧客企業にあるか(派遣)です。

フリーランス希望のDPは、LOCの"スポンサー企業"と同じ事業所(住所)での業務にならないはずです。自宅、教室会場、生徒宅でしょう。スポンサー企業の住所と異なる、自分の業務場所を正直に申請すると、アウトソースであるとの確認が入り、応じられないのでLOCは却下されます。"スポンサー企業"の住所を業務場所としてMOMに申告すると、虚偽申告になります。

(2) LOC申請時の基本月給を毎月満たす必要がある

シンガポール労働省MOMにLOC申請時に行った基本月給を、満たす必要が毎月あります。
ここで仮に月$2,000を基本月給として申請したとします。毎月の給与はDPのフリーランス活動から捻出します。たとえ、その月の利益がMOM申請金額を下回っていたとしてもです。DPフリーランス活動での利益が、MOM申請金額を下回っていると、"スポンサー企業"が身銭を切ってDPに申請給与を支払う必要があります。
これは、売上不調時のみでなく、日本への長期一時帰国時といった休暇時も含みます。シンガポールで外国人(EP/S Pass/WP/LOC)が休職するには、勤務先がMOM申請基本月給を支払い続ける必要があり、休職も解決策になりません。またスポンサー企業は、全従業員に労災(Work Injury Compensation Act (WICA) )の提供も必要になります。また、月給S$2,500以下で基本月給を申請すると、雇用法Employment Actの対象になります。残業代・有給・疾病休暇の支給が必要になります。
スポンサー企業はこれらの認識も覚悟もないはずです。これを理解していれば"スポンサー"を受けないはずです。

(3) フリーランス活動の会計と、スポンサー企業の会計を統合するのはまず不可能

上記(1)での基本月給を支払う、というのは具体的にはどう支払うのでしょうか?自分の事業の売上を自分に支払う、では不正確です。自分の事業の売上を、スポンサー企業の会計に取り込んで、スポンサー企業が自分に基本月給を毎月支払う必要があります。基本月給は、毎月、絶対に支払うのが義務です。

"スポンサー企業"と真っ当な会計処理は可能か?

毎月、基本月給を払う真っ当な会計処理をするには以下の方法が考えられます。
A. スポンサー企業が基本月給を払うリスクに同意する
B. フリーランスがスポンサー企業に資本金を出資する
A.は、スポンサー企業は「(好意あるいは何らかのフィーで)名義を貸している」程度の認識しかないのに、自分が損をするリスクを負うことに同意する企業はないでしょう。この時点で破綻します。
B.は、リアリティはないのですが、理論上は不可能ではないです。例えば、基本月給$2,000で申請したので、1年間分の活動費の意味で、$24,000を資本金として出資するということです。LOCはダイレクターに規定上ダイレクターになれない(ならない)ですが、出資ですのでDPは株主になります。スポンサー企業が利益を上げれば株主配当も受けます。単に名前を貸しているだけなのに、面倒な出資手続きを行い、共同出資者になることを想定しているスポンサー企業はないでしょう。また、フリーランスとしても、それだけのまとまった資金を出せないから、真っ当な企業設立での就労ビザ取得ではなく、フリーランスを取りたいのに、満たせる人は少数でしょう。

なお、出資を回避するよくある手段は「自分・親族・知人への"コンサル費用"として入金があったことにして、そこから自分の基本月給を捻出する」(自分から自分への支払いになるので、プラスマイナスゼロで負担がなく帳簿上の数字で済む)というものですが、存在しない行為での売上水増しは典型的な不正会計なので、止めましょう。

違法フリーランスの見分け方

「違法就労には関わりたくない」「違法就労の支援をしたくない」というのはもっともな感情です。違法フリーランスの見分け方です。
1. 法人を確認する
領収書から法人名を知ります。シンガポールに登記されている法人はBizFileで確認できます。
領収書に法人名がなければ、法人成りをしていない個人事業ということです。日本人で法人成りをしていない個人事業主として活動可能なのはPRです。外国人の就労許可は法人と紐付いており、法人名がなければPR以外は違法就労です。
2. 就労許可を確認する
法人名を確認できれば、次に就労許可の確認になります。PRかEPかLOCかになります。DPとS Passは役員にはなれません
PRかEPであればIC (Identity Card: シンガポールの身分証) を確認しましょう。EPには、ICの勤務先が領収書の法人名と一致しているか確認しましょう。EPは、1社目と株式関係にある関連企業の役員(director)に限っては、副業(複数社の兼業)が可能で、その場合にはLOCをMOMが発行します。
LOCはICで確認できないので、LOCの閲覧が必要になります。
3. 職業資格を確認する
例えば、旅行ガイドには就労ビザとは別の業務ライセンスが必要です。
4. URA登録
業務の提供が自宅であれば、URAに自宅への登録がされている必要があります。URA登録を請求しましょう。

上記全てをフリーランスに問い合わせ、回答を得ることは現実的ではないでしょう。できてICの確認ぐらいまででしょう。現実的な対応としては、DPで滞在している人のフリーランス・自営活動には関わらないことです。
EPを取得していないDPでのフリーランス・自営は、まず違法就労です。私は合法に就労されているフリーランス・自営のDPにお会いしたことはありません。


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