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シンガポール在住DP被扶養者の、雇われ就労と自営スキーム

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
3月3日の労働省MOM発表で、DP被扶養者ビザでのLOC就労が5月1日から打ち切られると発表されました。
※LOC (Letter of Consent): 外国人への就労許可の1つ。DP等といった別のビザに追加で発行される。MOMが所轄。
uniunichan.hatenablog.com
・労働省 (MOM): FACTSHEET ON WORK ARRANGEMENTS OF DEPENDANT’S PASS HOLDERS

日本人コミュニティにとって影響が大きいのはLOC就労の終了なのですが、発表の中で「DP LOCでの自営をMOMが公式に認めた」内容があり、「MOMは自営にLOCを発行してなかったよね?!」とビザウォッチャーを驚かせました。つまり、「これまで許可してきた就労を禁止して、これまで禁止してきた自営を認める、逆転現象が起きた」ということです。

今回の記事でのポイントは3つです。
1. LOCの経緯
2. 自営LOCの基準が明確化された
3. 雇われ就労が可能な制度になっている

昔は自営にLOCが発行されていた

MOMがDPに自営にLOCを発行しなくなって、7、8年程度になります。当時は、対応がまちまちだったこともあり、「こうすれば取得できるのでは」という方法が出回っていましたが、5年ほど前には「DPでの自営にはLOCを発行しない」でMOM対応は確定しました。色んなチャネルで、DPでのLOC取得をMOMに問い合わせた人は何人もいますが、「アントレパスをとれ」などという回答しかもらえずに、撃沈しています。今のアントレパスは、「指定ベンチャーキャピタルから出資を受けていること」などの条件があり、大半の人にはEPより取得が難しいのです。EP取得に必要な資本金を積めない人が、DPでのLOC取得を希望するからです。

ところが、「自営なのにLOCを持っている」不思議なDPがいます。基本的にはこの3つです。

  1. 国民/永住者PRとの共同自営
  2. MOMが自営であることを見逃して、LOCを誤って発行した
  3. 不正申告

1.は、そりゃ発行されますよね。特に株主のマジョリティが、国民・永住者PRである時はなおさらです。
そして、MOMの今回のLOC発効要件を見ると、共同経営でなくとも、株主の30%以上を持ち、国民・永住者PRを月給$1400以上で雇用していれば、当時から実はLOCが発行されていた可能性があります。
特に日本人コミュニティでは、自営LOCとは「お教室」など日本人コミュニティ向けに地元民雇用無しでの個人事業主を意味してきました。「他の人、特に地元民と組んで事業を起こすぞ」というDP起業は滅多に無く、こういう挑戦は少なかったのもあるのでしょう。

2.は、得られてラッキーでしたね、という話です。LOC有効期限まで大事に使って下さい。ただし当然、発行数はごくわずかです。また、再現性もLOC更新時の確実性もありません。他の人が同じことをやっても、その人は却下されます。

過去の自営LOC不正申請

大半は3.「不正申請」です。
LOC不正申告を受ける名義貸し業者が存在します。仮にC社とします。C社は、下記のような業種で、自営で働きたい人にLOCをMOMに申請します。

  • お教室、お稽古 (音楽、料理、工芸、スポーツ、習字など)
  • ネイルサロン
  • 旅行ガイド、旅行企画
  • 家庭教師、語学教師、幼児教育、セミナー講師
  • ライター、ブロガー

しかし、実態は従業員ではなく、自営であり、不正申請です。理由は下記です。

  • 名義会社がMOMに申告した基本給を支払っていない。もしくはDPから給与キックバックを受けている
  • 名義会社の活動ではない勤務実態 (別住所での活動や事業目的(SSIC)外活動)
  • 経理が名義会社と別れている (領収書は名義会社でも、LOC事業の収入・支出とは会計が統合されていない)

DP LOC自営、基準の明確化へ

MOMはDP LOC自営を公言し、基準も明らかにしました。
・労働省 (MOM): Eligibility for LOC for DP holders who are business owners
下記を満たす必要があります。

  • DP所持者が、個人事業主(sole proprietor)、パートナー、30%以上の株式を持つ企業ダイレクターであること。法人はACRAに登録されていること。

また、LOCの更新までには、以下を満たす必要があります。

  1. 少なくとも1人のシンガポール人、永住者PRを雇用していること。
  2. 月$1,400 (Local Qualifying Salary) の給料をその被雇用者が得ており、年金CPFへの負担を3ヶ月以上行っていること。

3月の発表では、「LOC取得には、1人以上のシンガポール人か永住者PRを3ヶ月以上雇用し、月$1,400(Local Qualifying Salary)以上給料を支払っていること」が必要だったので、劇的に緩和されました。法人を登記すれば誰でも申請でき、1年間有効、なためです。
初回発行のLOCの有効期限は、1年かDP有効期限のどちらかの短い方です。その間は、地元民雇用をして事業継続ができるかを検討する、"お試し期間"になります。
更新以降では、LOC有効期限はDP有効期限と同じになります。

月に$503を払うことで、自営も就労もできる

他に経理費用などもかかりますが、月に$503で、自営も雇われての就労もできます
MOMがなぜこんな制度にしたのか、クビをひねります。今回、MOMが禁止に踏み切った雇われ就労が、今後も可能になるからです。労働大臣が「通常の就労ビザ要件を満たせないDP所持者は、シンガポールで働けなくなる (Those that do not will have to cease working in Singapore.) 」と国会で明言したことに、反しています。
・Today: From May 1, dependant’s pass holders will need to obtain work passes if they want to work in S’pore

今の制度で継続するかは謎ですし、MOMに想定されるスキームについて問い合わせましたが、有意義な回答は得られませんでした。
自営LOCが5月1日にスタートする以前と、その後に、「このスキームは有効か」と私がMOMに問い合わせて、「懸念は確認した」との回答を得ましたが、正式発表でも対策はとられていませんでした。発表後に「今の制度だとこのスキームが使えるが、本当にそれでいいのか?」と再度問い合わせましたが、MOMは「誰がこの手段を使っているのか」との逆質問のみで、合法かどうかへの回答は得られませんでした。5月1日に始まった制度で、記事にするのに2ヶ月もかかったのは、MOMの姿勢の判断に時間を費やしてしまったためです。

LOC取得スキーム

今から紹介するスキームは、MOMが意図した制度の使い方ではないが、制度的に合法のはず、ということです。つまり、いつ対策がとられるかも分からないし、違法として突然摘発されるリスクもあります

  1. 自営や被雇用を希望する人を3人集めます。
  2. 3人で1つの企業を設立します。3人は役員ダイレクターになります。1人につき、30%以上の持ち株にします。
  3. 3人はLOCを申請します。LOC許可後、仕事を開始します。
  4. 3人のLOC有効期限の3ヶ月以上前に、シンガポール人か永住者PRを1人集め、新規設立企業で雇用します。
  5. 毎月$1,400の給与を従業員に払い、他にCPFも払います。CPFは65歳以上であれば、企業負担率7.5%のため、$105です。55歳未満であれば、17%で、$238です。また、SDLという能力開発費の拠出も必要で、これは0.25%なので$3.5です。つまり、1人平均、(1400 + 105 + 3.5)/3 = $503以上の負担です。
  6. 設立者3人は、自営や勤務先からの売上(給料)を、設立企業への収入とし、被雇用者への給与+CPFを払った残りを、インセンティブとして受け取る報酬形態にします。

被雇用希望者は知人・求人広告・Carousellなどで募れるでしょう。
このスキームの需要が明らかになれば、被雇用希望者の斡旋と会計を提供する業者も出てくると思われます。それが健全かどうかは謎ですが。
SパスやWork Permitでは、雇用企業は政府に労働税Levyを収めています。その納付が、税として国に支払うのでがなく、被雇用者に直接するものと言えるかもしれません。

自営LOCでの雇われ就労の仕方

「DP LOCは自営向けなのに、どうして就労ができるのか」と思われた方。簡単です。設立法人が、勤務先とアウトソースや個人事業主契約を結べばよいのです。
そのため、ご自身の給与を支払う勤務先はあくまで設立した自社になります。日本で言う、派遣や個人事業主と同種の働き方です。あくまで"実質的に"雇用だということです。

このスキームのデメリット

デメリットは下記です。

  • MOMはDP LOC条件にダイレクターであることを求めているが、会計企業規制庁ACRAは「DPは株主になれるが、役員になれず、役員の雇用が必要」との規定があり、違反行為になる。

・ACRA: Can a dependant pass holder register a company in Singapore?
MOMとACRAの規定は矛盾しています。こういうケースでは、MOMに問い合わせても、ACRAに問い合わせても、通常は有意義な回答を得られません。回答になっていない回答を渡されて、うやむやにされるパターンです。つまり、MOMかACRAのどちらかの規定に違反するリスクを負う必要があります。

  • 他の共同経営者2人が失敗や損失を起こすと、設立企業の責任になる。

例えば、十分な量の仕事がなく被雇用者に払う給料分の収入($503)を得られない役員がいた場合、他社からのクレーム対応や損害賠償請求、労災が発生した場合などです。これを避けるには十分な資本金を3人で準備することです。また、共同経営者と組まずに、1人で起業すれば避けられますが、その場合は、被雇用者の給料と社会保障費($1508.5以上)を1人で全額払うことになります。また、被雇用者に労災が起きると、負担を避けられません。

  • 自営でなく雇われ就労であれば、働く先とは従業員契約ではなく、業務委託契約になる。

実際の就労先が従業員に提供する有給・健康保険などの福利厚生を利用できない。もしくは、福利厚生を業務委託内容に盛り込む必要がある。

  • 法人にカンパニーセクレタリーを指名し、会計処理を受ける費用が発生する。
  • 会計処理をさせる程度の業務しか雇用した従業員になければ、MOMが脱法行為と判断し、起訴される可能性がある。

雇われ就労が目的でも、自営との違いが、制度上で見分けはつきません。
問題があるのは「MOMのDP LOC規定と、ACRAのDP企業設立規定は矛盾しており、完全にホワイトに運用できない」「雇った従業員が仕事がなく働いておらず、MOMが制度の濫用と判断する可能性があること」です。

古典的な違法雇用 "ファントム"

「ファントム」という古典的な違法就労手口があります。この目的は、地元民を雇用しているように見せかけて、外国人雇用枠を獲得することです。手口です。

  1. 国民か永住者PRを雇用する。
  2. 企業はCPFを納付する。
  3. 被雇用者に払った給料を現金でキックバックさせる。

被雇用者は何もせずにCPFが増えるメリットがあり、企業は外国人雇用枠が増えるメリットがあります。悪魔のWin-Winです。
もちろんこれは、違法です。理由は給与をキックバックしているからです。


私が今回解説したスキームはこれと類似ですが、給与のキックバックがなければ、ファントムにはなりません。

実施前に必ずMOMに問い合わせてください

実際に利用される方は、MOMにこのスキームが問題ないことを確認とってから、実施することを強くおすすめします。また、ACRAにも、MOM規定との矛盾を問い合わせることをお勧めします。
しかし、監督官庁が「合法です」「違法です」というこちらの望んだ形での回答をする可能性は低く、最終的には申請者の自己リスクになるでしょう。今後は、何人かが恐る恐るこのスキームを初めて、摘発されない実績ができれば、一斉に数が増えると予想します。

私が説明したアウトソースのスキームは、MOMがこの制度を作った趣旨とは合致しません。ほぼ働かない従業員がいることを理由に、脱法行為と判断される可能性があります。また、「自営のために真面目に資本金を積んでEP発行を受けるより、配偶者にEPを取得させ、DPからLOCをとる方が圧倒的に容易に」なり、こちらもMOMの意図とはことなるでしょう。
DPで雇われての就労希望の方は、突然の制度変更や摘発に巻き込まれないためにも、S PassやEPで就労ビザを取得して働くことを第一に検討ください

余録: LTVPへの自営LOC

日本人のLTVP保持者は少数なこともあり、以下はかなりマニアックです。大半の人は読む必要はありません。今回の発表の背景を検討したい人は参考になると思います。

LOCを取得できるのは、DPだけではありません。他にはLTVP (Long Term Visit Pass) という長期滞在ビザにもLOCが発行されます。また、EPも「関連会社への役員就任」のために、二社の勤務を行う際には、LOCが発行されます。DPとLTVPの違いは、下記です。

  • DP: 外国人の被扶養者
  • LTVP: 国民/PRの被扶養者 (国民/PRがビザスポンサー)

DPでのLOC自営が発表されたのは3月3日です。実は、その前日の3月2日に、LTVP LOC自営の討議が国会でありました。労働省は、LTVP/LTVP+で働いているのが17,890人であることを国会で明かすとともに、なんと190人の自営がいることも開示しました。
・労働省 (MOM): Oral Answer by Minister of State for Manpower Ms Gan Siow Huang to PQ on LTVP holders in workforce
なぜ、これが「なんと」という驚きなのかと言うと、LTVPを発行している入管ICAは「LTVPのLOCは被雇用で働くものであって、自営不可」とホームページに明記しているためです。5月17日時点でも、残っています。ここから、「シンガポール人と結婚してLTVPで在住と就労は可能であっても、ユーチューバーのような個人事業主には、永住権PRをとるまではできない」となります。この190人の例外は、どういう条件によるものなのかは、国会答弁では明らかにされていません。

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https://va.ecitizen.gov.sg/cfp/customerpages/ICA/explorefaq.aspx
また、過去にストレートタイムズ紙も、「LTVPで自営ができない」という記事を書いています。
・シンガポール入管 (ICA): Home > Working under LTVP
・ストレートタイムズ紙: Aware calls for migrant spouses to be included for social assistance and benefits in Budget 2021

LTVPでの自営LOCはホームページで明確に否定していたのと同じように、DPでの自営LOCも従来は問い合わせても認めてこなかった例外的なものでした。それが、基準まで開示される方針転換が起きたということです。

※2021年8月11日追記
MOMが規制緩和をしました。DPでの雇われ就労が可能になります。方法は
「Work Permitの出身国制限を撤廃したこと」
です。そして、WP特有の健康診断などは、DPからのWP取得者は撤廃です。詳細は下記でどうぞ。
uniunichan.hatenablog.com




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