今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

テレ朝news(眞方富美子氏)報道「シンガポールのコロナ対策違反で強制退去になった日本人家族」は存在しない

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
2021年2月2日にテレ朝が報道したシンガポール報道に誤報が含まれています。そのファクトチェックを行います。

  • テレ朝 news: “罰金”で抑え込み成功 シンガポールのコロナ対策

https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000205915.htmlnews.tv-asahi.co.jp

私のこれまでのファクトチェック記事については、こちらを参照下さい。もっとも反響があったファクトチェック記事は、下記です。
uniunichan.hatenablog.com

コロナ対策違反で強制退去にあった日本人は存在するのか

結論から始めます。
「コロナ対策違反となる6人以上でバスケットボールとバーベキューをした、シンガポールから強制退去になった日本人居住者は存在しません」

テレ朝の引用

テレ朝のニュース動画から、該当部分を引用します。

集まれる人数の制限に違反した日本人が、強制退去に追い込まれたケースも。
日本人家族の子どもがコンドミニアムの中で、6人以上でバスケットボールをしていたために労働ビザが剥奪されて、家族全員強制退去となった事例がありました。
その他にも、6人以上でバーベキューをしていたことが発覚して、家族全員強制退去となりました。

上記の口頭での解説の間に、「シンガポール在住 眞方富美子さんから」という説明が映像に流れています。これは、テレ朝はこの事件の裏をとっておらず、眞方富美子氏に責任を押し付けていることを、暗に意味していると私は理解しました。

噂が拡散した経緯

この噂がシンガポール在住の日本人コミュニティに飛び込んできたのは11月28日です。下記のスクリーンショットとともに、SNSやLINEなどで拡散しました。私の和訳を付けます。

日本人村で拡散した某企業の社内メール

注意: EP (編注:就労ビザ) の破棄
シンガポールの JCメンバーへ

最近、シンガポールでの集団は5人以下の制限を破ったことで「EP破棄」のいくつかの事件が起きている。
この事件は我社の社員ではないが、現行規則に強い注意をみなさんが払い、遵守することを促します。家族がいる人には、全ての家族にも伝えて下さい。

最近報告された事件:
1. 日本人の1家族が日本に送還された。家族の子どもが、コンドミニアム内でバスケットボールを5人以上で遊んでいたからだ。
子どもの父親のEPは破棄され、家族全員が72時間でシンガポールからの出国を命じられた。
2. Soleil Condoで、いくつかの日本人家族が日本に送還された。5人より多い人数で、コンドミニアムのバーベキューピットで夕食をとったためだ。

上記の状況に注意をして下さい。常に規則に従って下さい。何か質問があれば、お問い合わせ下さい。

※注: 発信企業名を塗りつぶしたのは私の編集です。

拡散したものは、発信企業名が塗りつぶされていませんでした。発信企業名は、信用が高い多国籍大企業です。そのことも信憑性を高め、「これは大変」「教えなくちゃ」と一気に拡散されました。
その一方で、シンガポールの事情に詳しく日本人村のゴシップ耐性がある識者・古参・ヌシは、このメールを確認しながらも黙殺、もしくは疑問を投げかけました。いくつも疑わしい所があったからです。

1. コンドのBBQピットは利用不可だった
2. 国外追放の政府発表・報道に日本人は今まで一人もいない
3. 追放された家族を具体的に知っている人が誰もいない

つまり、「某企業がこのメールを社員宛に出したのは本当だとしても、某企業はメールの内容が事実かの確認をとっていなかった」ということです。

「なかったことを証明するのは、悪魔の証明」です。が、下記の理由で、バスケットボールとBBQの日本人追放家族は存在しないと判断できます。

1. コンドのBBQピットは利用不可だった

当時、BBQピットは利用不可で、コンドマネージメントが閉鎖していました。
BBQピットが利用可能になったのは、2020年12月28日(活動再開フェーズ3)からです。
フェーズ2の利用可能なコンドファシリティには、BBQピットが含まれていません。

コンドにあるBBQピットの利用は予約制です。コンド管理者はこの予約を11月に当然受け付けていません。BBQピットが利用されると、利用者のみでなく、管理者も責任を問われるため、コンドマネージメントは非常線などで封鎖し、利用できないようにしていました。
つまり、コンドのBBQピットで摘発された日本人家族の話は嘘です。起こり得ない話です。

2. 国外追放の政府発表・報道に日本人は今まで一人もいない

シンガポールは厳罰国家として知られます。厳罰なだけでなく、起訴され裁判となると、事件と被告人の詳細が報道されます。
大きく報道されたものの1つが、ロバートソンキーでの欧米人飲酒です。シンガポールでは"サーキットブレーカー"と呼んだロックダウン期間中にもかかわらず、外で集まってマスクなしに飲酒をしていた写真がSNSとで拡散し、実名・年齢・写真・国籍(英国・米国・オーストリア)が報道されました。就労ビザが取り消しになり、国外追放になっています。

政府(労働省MOM)は、コロナ対策関連の違反で就労ビザを破棄した統計の一部を公開しています。昨年5月1日から6月25日の間に、サーキットブレーカー規制・隔離SHN・検疫QO違反で、140人の労働ビザを破棄したと労働省MOMは開示しています。
また、隔離SHN違反では、44人の就労ビザを取り消していることが、11月20日に発表されています。
最近でも、12人で島に集まった写真がSNSで拡散した事件で、外国人が就労ビザの破棄と、今後のシンガポールでの就労の永久禁止を受けています。
しかしながら、これまで新型コロナ対策違反者として国外追放を報道された日本人は一人もいません。なぜ、私が「報道・政府発表がなかった」と言えるかというと、2020年1月以降に、これまで30万字を超えて、シンガポール状況のアップデートを毎日行っているからです。

3. 追放された家族を具体的に知っている人が誰もいない。

このメールには伏線があります。「(国外追放でなく)入国拒否にあった日本人がいる」ということです。
日本からシンガポールへの入国に、通常のビザに加えて、渡航許可も追加で3月16日から必要になりました。規制開始直後の3月20日に、渡航許可なしにシンガポールに入国しようとした日本人が入国拒否にあい、職場は1年間の新規就労ビザ発行停止処分を受けています。これは事実です。職場も含めて特定されており、関係者の証言や監督官庁文書があります。
これが元になって派生した噂には、「サーキットブレーカー期間中に出社した日本人がビザ取り消し」というものが飛び交いました。私はガセ判定をしています。理由は、当時、職場の業務許可がでていない企業への罰則には、罰金と警告しか労働省MOMが発表していないからです。
このように事実とガセの判定には、噂のソースを確認する以外にも、制度への理解と、政府発表・メディアと丹念に突き合わせていく地味な作業が必要です。

日本人家族の摘発は、メール流出前に日本人村で噂として流れていました。その噂を、某企業が裏をとらずに社内メールで出したところ、社外に流出し大騒動になったのが本件です。それが、海外在住日本人村のうわさ話を飛び越えて、日本で「事実」として報道されるのですから驚きです。

シンガポール在住日本人は3万7千人です。日本人村は、狭く濃厚です。なにかあると、たちどころに噂が広まりますし、歪曲され、尾ひれもつきます。その中でも「駐在網」「駐妻ネットワーク」の類は魑魅魍魎が跋扈する取り扱い要注意の世界です。海外在住者は、日本人の間での人間関係に依存して仕事をする機会が(人によっては)多く、彼らには付き合いは欠かせません。それに加えて、英語や現地語が苦手、できなくはないが日本語の方が楽、などの理由で、現地情報を自分で確認しない日本人は多くいます。日本人の噂話ならそれで終わるのですが、現地行政にかかわることでは、自分で裏をとって確認できない人は失敗をします。
私が調べた限り、ニュースの追放日本人家族を特定することはできませんでした。また、本人や勤務先を「知ってる」という人もいませんでした。いたのは「その話を聞いた」「こわいねぇ」という人だけでした。

テレビ朝日と眞方富美子氏は、「どうやってバスケットボールとBBQで追放された日本人家族を知ったのか」

現地政府発表や現地メディアでも報道されていないにもかかわらず、シンガポールに特派員も支局もないテレビ朝日や、シンガポールに住みだしてわずか5ヶ月の眞方富美子氏は、「どうやってバスケットボールとBBQで追放された日本人家族を知った」のでしょう?「国外追放された日本人家族」が事実であるには、「国外追放された日本人家族から直接取材を行っていた」場合のみでしょう。
SNSで回覧されたメールがニュースの根拠なのであれば、報道を撤回・訂正すべきです。

製作費がか細いネットニュースでは、適切な資質を持たない人がライターとなり、問題ある海外記事を出すことを見かけます。その波がテレビにも押し寄せてきたように見えます。渡航制限も加わり、海外報道が困難になっている苦肉の策でしょうが、「現地在住者によると」というソースは、メディアも事実確認を行ったものが報道されることを願います。

シンガポールは路上喫煙や食べ歩きに罰金があるのか

路上喫煙や食べ歩きに罰金を課すシンガポールでは

との説明もありましたが、不正確です。
屋外での喫煙はいまだに広範囲に可能です。禁止されているのは、繁華街オーチャード、バス停や教育機関周辺など一部です。屋内禁煙は徹底されていますが、歩きタバコだけでは罰則の対象でなく、マナー違反の認識はシンガポールでは薄いです。

飲食で罰金になるのは、公共交通機関です。食べ歩きは、日本以上に一般的です。なお、バス・鉄道MRTでも、乳児への授乳は可です。

シンガポールでの就労許可

眞方富美子氏は、"駐妻"として扶養ビザDPでシンガポールに滞在しながら、就労許可にLOCを取得し、フリー アナウンサーをしていると公言しています。テレ朝の中でも「シンガポール在住 フリーアナウンサー」として紹介されています。海外で働くには就労許可が必要です。シンガポールでも同様です。シンガポールでDPが、どうすればフリーランスとして働けるのかを考えてみます。

DPはフリーランスになれない

シンガポールは、「無償の労働(例:インターンシップ)にも就労許可が必要」な厳しい国です。その一方で、高所得就労ビザの配偶者に雇用での労働を認める、外国人ホワイトカラーを優遇している国でもあります。
ですが、シンガポールで、DPで居住する配偶者の外国人がフリーランス(収入があるユーチューバー・ブロガーを含む)をすることは困難です。法人は簡単に作れてても、配偶者ビザDPには自営での就労許可LOCがおりないからです。入管ICAが管轄の長期滞在ビザLTVPでも、就労にLOCが必要ですが、「LOCで自営不可。雇用での労働のみ」と明記されています。労働省MOMでも、DPが自営でLOCを申請すると、却下します。

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LOC
  • シンガポール入国管理局 ICA: FAQs: As an LTVP+ holder, can I set up a business by applying for an Letter of Consent (LOC)?
フリーランスを合法でするには
  • 設立した法人に資本金を積んで、EPを取得
  • 永住権PRを取得
  • テックパスを取得

この3つが正攻法です。どれも壁が高いです。これ以外では、

  • 自営をしている配偶者の法人からLOCを取得

ですが、実質DPでの自営なので、労働省MOMが気づくと却下されます。

どうしてもフリーランスをあきらめられないDPが、LOC発行に名義を貸す会社を使って、LOCを取得することがあります。

  • 就労実態が名義会社の活動ではない。 (別住所での活動など)
  • 名義会社がMOMに申告した基本給を支払っていない。もしくは、DPから基本給をキックバックさせている。
  • 経理が名義会社と別れている。(領収書の発行が、名義会社でなく、個人)

このいずれかにひっかかるので、適切なLOCの取得ではありません。
また、LOC申請以外の勤務先で労働をする副業は、就労許可がでていないので、違法就労です。

追記

9月8日のニュースステーションに、眞方富美子氏が再度出演されておられました。

uniunichan.hatenablog.com


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