今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

世帯年収900万円,出産祝い170万円,保育所に楽々入所のシンガポールは、日本より出生率が低い

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
ツイートがバズりました。リツイートが数千いくと、通知が鳴り止まず、携帯が熱くなり電池がどんどん減るのは本当ですw
桜田前五輪相の「子ども最低3人産んで」というニュースから始まった話題です。
日本は政府が少子化に無策であり、国民に責任を押し付けているとの怨嗟がSNSを駆け巡ります。いつもと同じネットの風物詩です。

そんな中で、


このツイを投稿すると、建設的な指摘、感想、クソリプが次々と寄せられました。「言われたらそうかも」や、「だから、支援が十分でない日本には子育て支援が必要なんだ」というトートロジー。「都市国家と比べるな」という無効化(「その指摘はあたらない」)の反応もありました。しかしながら、日本の育児環境で強い要望(収入・補助金・保育所・育児家事アウトソース・学費・子育てへの理解)をクリアしている国で、この惨状です。

シンガポール人の言い分

日本からすると恵まれている環境への、シンガポール人の言い分です。


これ以外では、

  • 人生最大の試験が小学校卒業試験 (PSLE)。12歳と人生の早い段階で来るため、親も積極的に協力する。準備のために退職する親もいるプレッシャーの中で、子どもを2人も持てない
  • 公教育は安価でも、塾通いの負担が大きい

などです。

なぜ出生率は低下したのか

日本での出生率低下の原因として、ネット界隈でよく持ち出されるのはこのあたり。

  • 金が無い。日本は貧乏になった。
  • 金が無いから働かないといけないのに、保育園に空きがなく入れない。日本死ね。
  • 育児に疲弊しても、旦那は帰ってこない、帰ってこれない、手伝わない、手伝えない。
  • 世間は育児に冷淡。ベビーカーで外出すると、舌打ちされる、けられる。

日本でよく持ち出される課題を、かなり解決しているのがシンガポールです。

日本 シンガポール
世帯所得中央値 年427万円 年約900万円
保育所 激戦、保活 (新興住宅地以外は)すんなり入れる
育児の担い手 母親、(お手伝いで)父親 母親、まぁまぁ父親、メイド、祖父母
世間の風当たり 冷淡 子ども好き、妊婦はかなりの確率で電車で席を譲られる

シンガポールに駐在となった家庭で、子育てをしている日本人の母親は、育児への理解でシンガポールが圧倒的と口をそろえます。最近、ツイッターでバズった動画です。オジサンが電車(MRT)で子どもにトムアンドジェリーの動画を見せていて、キュートです。


ポイントは、通りすがりで、異民族間であっても、子どもには寛容ということです。バズるぐらいなので、そこまで他人の子どもをあやすことは普通はないのですが、妊婦に席を譲る、ベビーカーを運ぶのを手伝うのはよく見かけます。日本での過酷な仕打ちをうけた母親には、天国です。

日本で所得が最も低い沖縄が、出生率が最も高い

日本で最も出生率が高い県は、沖縄です (2016年)。最も低いのは東京です。合計特殊出生率は、沖縄が1.95もありますが、東京は1.24しかなく、全国では1.44です。

その沖縄は、一人あたり県民所得は全国最低で216.6万円。一方、東京は全国最高で537.8万円。全国平均は319万円です。(2016年)
ネット世論の「カネがないから子どもを産めない」とは真逆の結果です。

日本 東京 沖縄
一人あたり県民所得 319万円 537.8万円 216.6万円
合計特殊出生率 1.44 1.24 1.95

※注: 県民所得は県民雇用者報酬に加えて、財産所得と企業所得も含まれます。そのため、体感より高い数値となります。

「子育ては趣味」

上記したネット要望以外での、出生率低下の原因です。

  • 「子育ては趣味」への価値観の変化
  • 晩婚化: 女性の社会進出。女性が生殖に最も適した年齢で学校や職場を離れられない。
  • 未婚化: お見合い結婚の崩壊

私がツイった「子育ては趣味」に反響があったのは、意外でした。まだ共通認識でないことが、わかったからです。


当事者である親は、経済状況や子育て環境を、少子化の理由にしますが、本当にこれが理由でしょうか。顧客に「求めているもの」を聞くと、自分が欲しいものが何か分かっていなかったり、言語化できなかったり、利益誘導からポジショントークをすることはよくあります。
現代社会は、子どもは家計の担い手ではなくなりました。一昔前では、子育てをする主戦力は子どもであり、家の手伝いなどから始まる"児童労働"は一般的でした。現在の倫理観では受け入れられませんが、当時の子どもはそうやって、家庭内に居場所を築いていました。また、成人した後も、跡取り以外は、仕送りがあてにされ、他家から結納の形で"補償"が行われました。親が子どもを産むことは、経済的な利益でもあった時代です。

現代では、子どもはコストです。成人するまでに、長期の教育を受けて、大学卒なら22年。児童労働はありえません。また、「子どもとはいえ他人」であり、「老後の支援を期待すべきでない」、「まずは自分の年金・資産を貯めるべきだ」、との価値観がゆるやかに広まっています。
子育ての趣味化です。

趣味であるなら、子どもを持つか持たないかも本人が選択可能となります。かつては、ペットは番犬など家に機能を提供するか、子供が幼少時に引き受けて子供と一緒に大きくなる、子育てを補完する役割でした。今では、子育ての強力なコンペティターであり代替に、ペットがなっています。「子どももできなかったし、ペットを飼うか」から、「ペットがいるから、子どもはいいや」への転換です。
「趣味や楽しいことがあって忙しいから、子どもはいらない」というのは今ではすんなり理解されますが、ちょっと前までは理解されなかった価値観です。

シンガポールの人口政策は苦戦続き

経済政策などではシンガポールはよく引き合いにだされますが、人口政策ではシンガポールは苦戦続きです。リーダーシップが強力なシンガポールでこれだけ苦労しているということは、経済より人口のほうが、はるかに政府が影響を与えることは困難なのでしょう。

出生抑制政策

1965年にシンガポールがマレーシアから独立した直後は、第二次世界大戦後のベビーブームをうけ、経済回復以上に人口が増え、国民を食わせるには十分な仕事がない高失業率の時代です。出生抑制が政策でした。中国の一人っ子政策など、発展途上国で出生抑制政策はよくあります。1966年に"家族計画"教育を提供する家族計画人口局 (FPPB: Family Planning and Population Board) が作られます。1970年には「子どもは二人まで」(Stop at Two]) のキャンペーンが開始。

この出生抑制キャンペーン、成功しました。成功しすぎました。人口政策なのにわずか7年後の1977年には、人工維持が可能な水準を下回ります。当時のリー・クアンユー首相は、結婚と子どもが高学歴女性は少ないことから、各種優遇を実施 (大卒女性スキーム)。子どもの学校への入学優先や、所得税減税です。その一方、そうでない夫婦が低収入だと、第二子を持った後に避妊手術を受けると1万ドルを出すなどします。これは世論の猛反発を受けました。優生学に近い考えであり、現在のシンガポールでは実施どころか議論すら不可能でしょう。

出生奨励政策

1986年になり、やっと政府は「子どもは二人まで」(Stop at Two)を止め、出産を勧めるようになります。
出生率は上がらないままであり、2001年にベビーボーナスが導入されます。2004年の育児パッケージでは、働く母親への所得税減税の要件から学歴を抜き子どもの数にし、また出産休暇を長め、育児休暇を新設するなど、強化しています。

回復しない出生率

これ以外にも、大なり小なり様々なテコ入れをした結果、どうなったのかというと、、、回復の兆しは長期的にはありません。
例年より回復している年がありますが、これは中華系に縁起がよい辰年です。政府政策より、しきたりの方が影響が強いのです。
子育て支援への政府政策について、シンガポール政府の自己評価としては「やらなければ、今より更に悪化していた」というものです。
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少子化を移民で解決するシンガポール

日本より低い出生率となっているシンガポールですが、解決策があります。移民です。シンガポールは現在でも、人口の1/3が移民です。人口の1割を永住者が占め、彼らが新国民への母体となります。
シンガポールはもともと移民国家です。ラッフルズがシンガポール島に上陸した時には、現地民はわずかに数百人でした。そこから交通の要所として発達しますが、労働力は当然移民です。シンガポール人は、移民には他国より寛容ですが、さすがに移民を入れすぎて、2011年総選挙では与党PAPが大きく議席を減らします。これを受けて、与党PAPは大きく方向転換。マイルドな移民の受け入れとなり、2015年の総選挙では地滑り的大勝利を収めました。
「現在の合計特殊出生率1.2のままでは、2060年には国民人口は2/3に減少する。これを食い止め国民人口を安定させるには、毎年2万人の移民による新国民が必要」というのが、政府の説明です。シンガポール政府は、激しい批判を受け、労働ビザ発給を厳格化し、永住権保持者の受入数は最盛期の年8万人から3万人に絞りました。しかし、新国民の数はこの長期的視野に基づき年2万人の受け入れを着々と実行させています。
uniunichan.hatenablog.com
国民はこれ以上の移民が嫌でも、「お前たちが産まないから、移民を入れるんだ」という政府のロジックと戦わなければなりません。シンガポールでは「経済発展は要らないから、移民も要らない」という考えが広範な支持を得るには、国民は踏ん切りがついていません。

子育て支援と少子化対策は別物だった?

「子どもを産む環境が整備され、経済的・肉体的・精神的な負担が減ると、子どもは増えるはず」、というのが従来の考えです。これまでは、保育所の充実や子育てへの支援を語られる時に「それが少子化対策であり、国益だから」という前提で話をされることが一般的でした。「子育ては親のエゴなだけでなく、お国のためなんだから、カネを出すのは国の義務だ」という話です。
しかしながら、所得が高く支援が充実しているシンガポールの方が少子化が進んでおり、沖縄や発展途上国の方が他産なことを考えると、経済支援や保育所の充実では少子化対策にならないのではないか、という仮説が生まれます。

「子育て支援と少子化対策は別物」というのはあくまで仮説です。複合要因がからみあっていて、それらへの対策と子育て支援が組み合わさると、改善に向かう可能性もあります。また、子どもを0人を1人、1人を2人以上にするのは別のアプローチが必要なのは、容易に思いつきます。「お金があれば、子育てが楽なら、子どもはもう一人欲しかったのに」という家庭には従来の支援がミートする可能性はあるでしょう。ですが、1人を2人以上にするアプローチでも、従来型の政策は、費用対効果が悪い可能性があります。「それをやったところで、本当に産んだ家庭はどれだけあるんだ?」ということです。「子どもはいらない」「結婚もしていないのに」という人に、保育所の定員増は心を動かさないでしょう。

国と国民の利害が一致しない

それでも子育て支援を堂々と主張しよう

子育て支援が、国益である少子化対策に直結しない、という可能性が出てきました。

ロジックとして成り立つのは2つです。

  • 少子化対策には子育て支援とは別に、見落とされてきた要素がある
  • 従来の子育て支援をしていなければ更に悪化していた。逆に言うと、子育て支援に更に突っ込むと、改善に向かい出すはずだ。

しかし、たとえ子育て支援が少子化対策になろうがなるまいが、利害関係者は今後も堂々と「子育て支援の充実」を訴えるべきです。少子化対策では費用対効果の疑問が残りますが、子育て支援が国としての未来への投資であることには変わりはありません。
日本の経済的凋落で、共稼ぎ家庭は増加します。核家族化の進行も避けられません。専業主婦や大家族の時代に戻すことはできないのだから、関係者だけでは対応ができない子育て支援を行政はすべきです。これは国民が国に期待する役割で、税金はそのために使われると信じています。ライフステージで当事者のキャパシティを超えるイベントに対して、支援を行う国で日本はあって欲しいと願います。

補足

残念ですが、はてブのシンガポールのコメントは、ファクトチェックを通らないものが多すぎです。

物価: 「シンガポールは世帯年収900万円では全然足りない」という嘘

外国人向けの「お高い」商品・サービスと、国民向けのリーズナブルなものとをごっちゃにしています。外国人と国民は、同じ職場で働きながらも、異なる世界に暮らしているのです
「暮らしていけない」と主張するシンガポール人もいますが、実際は中間層の生活は成り立ちます。
都市で最もお金がかかるのは住居です。駐在員の家族向けコンドミニアムが月50万円するのは一般的です。これより安価な所もありますが、高価な所もあります。
シンガポールで不動産は、国民・永住者のためのHDBという公団と、外国人や富裕層が中心のコンド・土地付き住居に分かれています。HDBには、国民・永住者の8割が住みます。HDBであれば、郊外に4LDK (5ルーム) で、3千万円で購入できます。
所得が日本の倍あって、不動産が日本並みの価格なので、生活の収支が合うのは自明でしょう。
例: ウッドランドでの4LDK (110平方メートル)が2,700万円 (S$336,000) ※直近の2019年5月売出し。所得等により更に政府補助が付く

食事も、和食の特に寿司・刺し身といった生鮮食品だと、日本価格比で3倍近くしますが、ローカル食は違います。ホーカーセンターというフードコートで、1食350円程度で食べられます。もちろん、値段は都心ならこれより高く、郊外ならこれより多少安いこともあります。シンガポールには世界一安いミシュランの星の店があり、一食150円と話題にもなっています。

はてブに「スクールバスで一人6万円」というコメントがありましたが、これも嘘です。スクールバスの平均は月に1万円 (S$126) という統計があります。
インター校の基準でいっても、バスに一人6万円というのは、高すぎで、月ではなく学期の可能性が高いです。例えば、アメリカンスクール(SAS)では学期単位で8万円~16万円 (S$956-1,875) です。

子沢山文化のイスラム教

イスラム教徒は出生率が高いことが知られています。シンガポールは国が認めた主要民族が3つあり、中華系、マレー系、インド系です。イスラム教徒が占めるマレー系は、最も合計特殊出生率が高いです。
ですが、マレー系も含め、全民族で出世率は低下傾向です。そのマレー系でも、人口維持率の2.1を切っています。主要民族の中で一番踏ん張っているのはマレー系ということです。
なお、マレー系は主要民族中で最も所得が少ない民族であることも指摘しておきます。また、最も所得が多いのは中華系ではありません、インド系です。
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出所

シンガポールの世帯収入:

2018年の世帯所得は月9,293Sドル(約74万3千円)。これに12ヶ月をかけると、892万円です。この世帯収入は国民と永住者が対象。
単純労働者・駐在員・富裕層などの外国人も含めた数値だと、一人あたりGDPがあります。日本 $36,230、東京都 $57,572、シンガポール $56,284です。
uniunichan.hatenablog.com

シンガポールのベビーボーナス:

誕生から18ヶ月になるまで第一子にはS$16,000(約128万円)の現金、政府が用意した子どもの口座にはS$6,000(48万円)がもらえます。合計で176万円です。
第三子では更に増え、第五子より多いと現金がS$20,000(約160万円)、口座にS$18,000(約144万円)と、合計で約300万円がもらえます。

シンガポールでの学費一覧

金持ち校での寄付金などはこれとは別です。