今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

シンガポール居住者が見た"ティラミスヒーロー商標騒動"

おもしろブランド

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
日本には、「面白い恋人」(「白い恋人」を販売する石屋製菓と和解)や、「フランク三浦」(フランク・ミューラーとの訴訟に勝訴)というおもしろブランドがあります。
シンガポールにも、ウンチクを語れるブランドがあります。最も有名なのは、破竹のグローバル展開を続けている、"1837"というロゴで有名な紅茶ブランドのTWGでしょう。TWGはトワイニングとは関係ありませんし、1837は創業年でもありません。
uniunichan.hatenablog.com

"ティラミスヒーロー商標騒動"

ティラミスヒーロー

TWGほどの大物ではありませんが、シンガポール発で日本に展開していた"ティラミスヒーロー"が、脚光を浴びる日がやってきました。
ティラミスヒーローは、シンガポールでは常設カフェでティラミスを販売しています。2012年にシンガポールで始まり、2013年に日本に進出、2014年に百貨店などでのスポット販売を開始しています。
シンガポールでの法人登記を取り寄せて確認しました。2012年にはパートナーシップで THE TIRAIMSU HERO 社が作られていますが、2015年に解散。2013年に非公開有限責任会社で HERO Holdings PTE. LTD. 社が作られており、これが現在の運営会社になっています。シンガポール人のみが役員をつとめ、シンガポール人のみが株式を持つ、シンガポール企業です。

ところが、ティラミスヒーローは、『オリジナルのブランドロゴがコピーされたため』に「ティラミススター」と商標を変えることを2018年末に発表しました。

HERO'S

2019年1月20日に、高田雄史氏が経営にたずさわるティラミスブランド「HERO'S」がオープン。その商品コンセプトやキャラクターが、ティラミスヒーローに酷似しているとネットで指摘を受ける騒ぎになっています。高田雄史氏はふわふわパンケーキ店「gram」の経営者でもあります。

この「HERO'S」が三浦翔平氏やインスタグラマーを使って、華やかな初出店記念イベントを行ったことで、かえってティラミスヒーローが注目を浴びました。

商標登録

ティラミスヒーローが商標登録をしていなかったため、後発の「HERO'S」が登録できたためでは、と指摘を受けています。


フランチャイズの募集広告で「HERO'S」は、商品名に「ティラミスヒーロー」との記述を用いています。

HERO'Sがプロデュースするティラミスヒーローの客単価は最低2800円。

知られていなかったことで、逆に在シンガポール日本人の知名度を得たティラミスヒーロー

そんなティラミスヒーローが2014年に日本の百貨店で販売を開始した際には、シンガポール在住の一部日本人に注目されました。

日本では現在、オンラインショップでのみ販売されているが、注文が殺到しているため3か月待ちなのだそう。今回の出店は、人気商品が手軽に買える貴重な機会となっている。

注目されたのは、

  • 『シンガポールの有名店』
  • オンラインショップでは、注文が殺到し3か月待ち。それが期間限定ショップでは即買いできる。

というモリモリな記事が理由です。期間限定店舗の出店のたびに、ティラミスヒーローの記事が、特定のウェブメディアで繰り返しでましたが、広告記事の表記はありません。
シンガポールの有名店なのに、現地在住日本人もシンガポール人も知っている人は (少なくとも当時私の周囲には) おらず、「ネット通販だと3ヶ月待ちってなに?」ということです。
あたかも「ニューヨークの有名店」のキャッチコピーのように、シンガポールが引き合いに出されていることに当時は感慨を覚えたものです。7年の営業を経て、認知度は上がってきていますが、現時点で店舗は1つのみです。「カフェ好きだと知っている人もいる」「(日本でのプロモーションのため) 地元民より日本人に知られている」程度の認知度と認識しています。シンガポール関係者で、「ティラミスヒーローがシンガポールで有名」という人に私は会ったことがありませんが、「(日本のプロモーションの経緯で知ってはいるが) シンガポールで有名でない」という人は少なからずいます。リンクを提示します。 (1), (2), (3), (4), (5)
そして、ネット通販で3ヶ月待ちだったのが4ヶ月にまでのび、いったい一日にいくつ出荷しているのかと記事中を探しましたが、見つけることはできませんでした。ネットで待っているお客様を後回しにして、期間限定店舗を優先して商品をおろし続ける理由も不明です。

君はシンガポールのティラミスヒーロー本店に行ったことがあるか
ぬこはかわいい、味はふつう

ティラミスヒーローは「在住者が知らない有名店」として逆に知名度をえて、訪問者があらわれる事態にまでなります。私もその一人でした。
私が訪れたときには、シンガポールの店には並ぶことなく入れ、キャラクターの猫のアントニオは可愛く、ティラミスの味は私には普通でした。

※ツイッターのタイムスタンプのように訪問は2014年

5年にわたってティラミスヒーローの日本でのマーケティングをウォッチしてきた身としては、同情する部分もありますし、商標とマーケティングは別件ですが、これまで御社もおもしろマーケティングをしてましたからねぇ、というのが感想です。「HERO'S」の商標取得も、ティラミスヒーローのマーケティングも、制度や法的には問題ないのでしょうが、倫理的な問題や誠実さの面ではどうでしょうか。制度をついた商標取得も、誇張した広告も、不誠実であり両者改めて欲しいと願います

追記 (2019年5月2日)

その後、被害者とみなされていたティラミスヒーローですが、そのキャラクターはGemma Correll (ジェマ・コレル)氏の模倣と指摘されました。ティラミスヒーローもインスパイアだったことを認めています。
nlab.itmedia.co.jp
日本からの取材(ねとらぼ)に対し、ティラミスヒーローは謝罪を申し出ると発言していますが、その後のシンガポールの取材(Mothership)には「類似しているイラストは2015年以降使われておらず、今後も利用しない」としながらも、賠償はしないと発言。「現在のロゴは当時のと異なる」「剽窃したと感じていない」「インスピレーションを受けたソースを明示しなかった初心者のミスに謝罪する。マスコットは我々が作ったオリジナルだ」と主張しています。

2019年6月には、HERO'Sの親会社グラムがお膝元シンガポールのビボシティに出店することがアナウンスされました。地元紙Straits Timesが出店を記事にています。記事では、すでにふわふわパンケーキには当地には競合他社がいることを指摘していますが、HERO'S騒動については言及はありませんでした。

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