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シンガポールの富裕層向け永住権プログラム GIP

2023年3月15日からGIPの規準が上げられます。

  • オプションA: S$千万のシンガポールでの投資。再入国許可REP更新に、最低30人雇用し、うち半分以上が国民で、10人は新規雇用。
  • オプションB: S$2500万のGIP向けファンド投資。
  • オプションC: 資産S$2億のファミリーオフィス設置。うちS$5千万は投資種別指定

・シンガポール経済開発庁EDB: Changes to Global Investor Programme will generate more spin-offs for the Singapore economy


うにうに@シンガポールウォッチャーです。今回の話題は、富裕層向け永住権です。シンガポールにいる外国人を、ビザで分類すると以下のようになります。

  • 短期訪問者 (観光などでのビザなし渡航)
  • 長期滞在者 {就労ビザ(EP/S Pass/WPなど)、長期滞在ビザ(LTVPなど)}
  • 永住権保持者 (Permanent Residence (PR))

シンガポールで永住権は、Permanent Residence略して PR と呼ばれています。永住権を取得して初めて、シンガポール政府が提供する社会保障へのアクセスと、社会保障費負担の義務が生まれます。永住権申請にはスキームが幾つかあります。

  1. 親族スキーム: シンガポール人を親族(配偶者・親・子供)に持って申請
  2. プロフェッショナルスキーム: シンガポールで労働ビザ(EP/S Pass)を所持し、居住・労働実績を積んで申請
  3. 起業家投資スキーム: GIP (Global Investor Programme)
  4. セカンダリースクールとジュニアカレッジで超優秀な外国人生徒

今回は起業家投資スキームのGIPについて解説します。他のスキームに関心がある人は、下記を参照下さい。
uniunichan.hatenablog.com

シンガポールの永住権概要

PRについて簡単におさらいします。
シンガポールでの永住者と国民の違いは、選挙権があり、パスポートを取得でき、条件を満たせば社会保障をフルに受け取れるのが国民です。国民と比べた永住者の社会保障は、国の提供金額が小さかったり(医療費補助やComCareという生活保護)、優先順位が落とされたり(小学校入学選定順位)、そもそも対象外(低所得者への消費税逆進性を緩和するGSTバウチャー)だったりします。
外国人・永住者・国民で社会保障の区別が明確なのが移民国家シンガポールの特徴です。

シンガポールの永住権は「永住権」ではない

シンガポールの永住権PRの特徴の一つは、名称は「永住権 (Permanent Residence)」であっても、永住は可能ですが保証されていません。「社会保障に限定アクセスできる5年更新の長期滞在ビザ」という解釈も可能です。
PRは再入国許可 REP (Re-Entry Permit) と紐付いています。REPは、PRがシンガポールに再入国するのに必要です。PRに期限は無いのですが、REPは最長でも5年おきに更新が必要です。このREPが更新時に、却下されることがあるのです。却下理由は、他国でも見られる居住日数不十分に加えて、永住権応募がプロフェッショナルスキームであれば就労していない、家族スキームであればPRスポンサーのシンガポール人やPRとの離婚、それに加えて違法行為が、更新却下の理由です。
「REPが失効し、失効後に永住者が国外に出ればREPで帰国できないため、PRも失効する」というロジックをICA(移民局)はとっています。

ICA: Update on Case of Mr Goh Yew Hock (Ryan Goh)

GIP (Global Investor Programme)

GIPはGlobal Investor Programme (国際投資家プログラム) の略称です。成功した起業家経験がある人、つまり超富裕層向けです。GIPは2004年に開始されており、2017年6月までの間に総計1,826人に付与されています。平均すると年に140人です。2010年の時点で千人に付与、つまりそれまでの年平均で160人と公表されており、付与のペース近年になってやや減少傾向と推測されます。
EDB (経済開発庁) が管轄になっています。労働ビザスキームや家族スキームでは、窓口が直接ICA (移民局) なのですが、GIPではICAとの間にEDB(経済開発庁)のコンタクトシンガポールという部署が窓口です。コンタクトシンガポールは、シンガポールでビジネスや起業をする外国人誘致の部門です。
GIPは秘密のスキームでもなんでもなく、下記リンクにて詳細が公開されています。

シンガポールにおける富裕層向け永住権スキームの経緯

シンガポールでは、かつては起業家ではなくても富裕層が申請できる永住権スキームの FIS (Financial Investor Scheme) が用意されてきました。GIPとの共通した特徴は、シンガポールでの居住・就労経験がなく、家族にシンガポール人や永住者が居なくても、即座に永住権を発行することです。シンガポールとこれまで関わりがなくとも、基準を満たしていれば、永住権を取得できたものです。
移民国家であり、GDP拡大を目指すシンガポールにとって、優秀で既に成果を出している富裕層の移住は歓迎されています。その一方で、国民からの移民への風当たりや、母国などで経済犯罪をおこした人の移住、マネーロンダリング対策強化のために、基準は徐々に厳しくなってきています。

富裕層向けスキーム制限強化の出来事
  • FISの基準強化と廃止:

2004年にFISが導入されます。個人資産がS$2,000万超(約16億円)で、シンガポールで5年以上S$500万(約4億円)以上の資産運用できる外国人が、プライベートバンク経由で応募できました。2010年に資産運用額がS$1,000万(約8億円)に上昇。2012年に廃止。
シンガポールビザ: よくある質問 (FAQ): 投資移民用ビザ(富裕層向けビザ)について教えて下さい。

  • GIP濫用者:

中国の汚職公務員、李華波。GIPでS$1.5億(120億円)をシンガポールに投資して永住権を取得するが、シンガポール国内の犯罪(盗難された金を受け取った)で禁固刑を受ける。永住権が破棄され、中国に強制送還された。

  • GIPの基準強化:

不動産か建設業の企業所有者は、GIP申請の対象外になりました。中国での汚職官僚がしばしば持っている企業が不動産か建築であり、阻止のためと言われています。過去(2012年)の申請基準はこちら

GIPの特徴

GIPの特徴は、

  1. これまでシンガポールで居住就労経験がなく、シンガポール人や永住者の親族がいなくても、即座に申請可能
  2. 所有企業の売上高にS$5千万 (約40億円) が必要
  3. シンガポールに最低S$250万(2億円)の投資が必要
  4. 永住権なのに再入国許可REPの更新ハードルが高い

です。

GIPは取る価値があるのか

2020年から2022年の取得者数は、わずか200人にとどまります。家族も入れての数のはずで、平均で年にわずか66人です。

結論から言うと、ここまでしてとる価値はほぼないでしょう。正確には割損です。
後述する取得要件を読んで頂くと分かりますが、投資選択によっては事業計画書や事業経過の提出が必要になるなど、かなり煩雑です。それにもかかわらず、再入国許可証REPの更新要件に滞在期間要件もあります。GIP申請者ともなると、ご自身で手続きをすすめることはないにしても、協力が必要で手間なはずです。
GIPをとれる属性の人であれば、シンガポールに法人をつくって就労ビザを容易に取得できるはずです。それで3年も就労と納税して、ある程度の数のシンガポール人を雇用していれば、(GIPでなく)通常のプロフェッショナルスキームの申請で永住権も許可されるでしょう。
富裕層向け、つまり、該当国と関わりがなかったのにかかわらず永住権や国籍を発行するスキームを持っている多くの国では、基準が上昇しています。居住就労実績がない移民受け入れは、たとえ富裕層として担保されていたとしても、貢献が不安定で、受入国にもリスキーと判断されているということです。
私が想定できるGIPをとるべき人は「子どもをシンガポールの(インター校でなく)ローカル校に入れるための学籍を即座に確保したい人」「シンガポールの滞在日数が半分以下になる可能性があり、取得したPRの失効を避けたい人」ぐらいだと思っています。PRが提供するこれ以外の社会保障は、全て多少のお金で解決できるものだからです。居住就労権も、永住権と比べると多少は不安定ですが、GIPをとれる人であれば、問題なく就労ビザEPが発行されるでしょう。
「永住権」という言葉に惑わされずに、本当に必要で手続きに見合った価値があるかを判断されることを、おすすめします。

GIPの取得要件

以下は、詳細なGIP取得基準です。

GIP投資要件

GIPの申請では、2つあるオプションのどちらかを実行することが求められます。

  • オプションA: 新規ビジネス法人か既存ビジネスの拡大のために、最低S$250万(約2億円)を投資

※オプションAでは5年間のビジネスプラン提出、プランにある3年での途中経過達成、5年以内のプラン達成が、永住権の最終認可に必要。既存企業への投資の場合は、3年経過時に5人の追加雇用と、毎年S$100万(約8千万円)の支出も必要。2, 3, 4年が終わった時に投資先企業の会計監査提出が必要です。

  • オプションB: シンガポールベースの企業に、シンガポール政府のGIPファンドを通して、最低$250万(約2億円)を投資

GIP選考基準

申請書類上、下記を満たすことが必要です。満たしていると判断されれば、ICAとの面談になります。
(a) 少なくとも3年の起業家/ビジネス実績があり、所有企業の過去3年間の財務状況の監査を受けること。
(b) 所有企業は指定業種のみ。
(c) 所有企業の売上高が、申請の直近年でS$5千万(約40億円)、過去3年間で平均してS$5千万(約40億円)あること。
(d) 非上場企業であれば、少なくとも30%の株を所持していること。企業の成長と利益と職務が審査対象となる。

GIP家族申請

配偶者と21歳未満の独身の子供は、永住権の申請資格があります。扶養で永住権を取得した男子子供には徴兵 (National Service) の責任が発生します。
両親と21歳以上の未婚の子供には、永住権を申請できないが、長期滞在ビザ(LTVP)が発行されます。

GIP更新基準

永住権はRe-Entry Permit (REP)という再入国許可証とセットになっています。REPは最長でも5年で更新が必要になります。REPは永住者が海外にいる間に、永住権を保持することを許可するものです。REPは当初5年間有効ですが、この更新要件です。ミソは、期間の半分をシンガポールで滞在していなくても、投資と雇用を行えば、REPが更新される選択肢がある、ということです。その選択肢では、雇用と投資先起業の支出が年$100万以上必要です。逆に言うと、「期間の半分以上をシンガポールで滞在しない可能性があれば、PR取得はプロフェッショナルスキームより、GIPが無難だ」ということです。
※注: 家族スキームであれば、海外滞在していても、シンガポール人との婚姻関係が続いていれば、REPは更新可能です。

GIP オプションA選択者
  • REP 3年更新: GIPのオプションAを履行する。あわせて、次の2つのいずれかを満たす。

(i) オプションAで投資しているシンガポールの企業が、シンガポールで更に5人多く従業員を雇用する。かつ、3年経ったときに全従業員で最低5人のシンガポール国民が雇用されている。加えて、投資先のシンガポールの企業の毎年の支出が、S$100万以上発生していること。
(ii) GIP申請者本人、あるいはGIPでPRになっている扶養家族の最低一人が、GIP期間の半分以上をシンガポールで滞在する。

  • REP 5年間更新: GIPのオプションAを履行する。加えて、下記三つの全てを満たすこと。

(i) GIPのオプションAを履行する。
(ii) (i) オプションAで投資しているシンガポールの企業が、シンガポールで更に5人多く従業員を雇用する。かつ、3年経ったときに全従業員で最低5人のシンガポール国民が雇用されている。加えて、投資先のシンガポールの企業の毎年の支出が、S$100万以上発生していること。
(iii) GIP申請者本人、および、GIPでPRになっている扶養家族が、GIP期間の半分以上をシンガポールで滞在する。

GIP オプションB選択者
  • REP 3年更新: オプションBを履行する。あわせて、次の2つのいずれかを満たす。

(i) シンガポールの企業に投資し、更に5人多くシンガポール国民を従業員として雇用する。加えて、投資先のシンガポールの企業の毎年の支出が、S$100万以上発生していること。
(ii) GIP申請者本人、あるいはGIPでPRになっている扶養家族の最低一人が、GIP期間の半分以上をシンガポールで滞在する。

  • REP 5年間更新: 下記三つの全てを満たすこと。

(i) GIPのオプションBを履行する。
(ii) シンガポールの企業に投資し、更に5人多くシンガポール国民を従業員として雇用する。加えて、投資先のシンガポールの企業の毎年の支出が、S$100万以上発生していること。
(iii) GIP申請者本人、および、GIPでPRになっている扶養家族が、GIP期間の半分以上をシンガポールで滞在する。

GIP申請タイムライン

  • 書類提出から、2から4ヶ月でICAとの面談に呼ばれる。
  • 面談から2~4ヶ月で、仮承認 (AIP: Approval-in-Principle) が発行される。
  • AIPから6ヶ月以内に、投資を実行する。
  • 投資の実行の証明をコンタクトシンガポールに提出し、ICAが最終承認書を発行する。
  • 最終承認書から12ヶ月以内に、永住権取得を完了させなければならない。


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