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【続報】ネパール地震での自国民保護:空軍機で自国民を救出したシンガポール。日本の自衛隊機の帰路は?

本記事は下記の続報です。ネパール地震への国際救援活動の解説は比較的行われており、ここでは各国の自国民保護に焦点を当てます。uniunichan.hatenablog.com

シンガポールなどアジアの国による自国民救出活動

日本政府は救援物資をネパールに空輸するのに、航空自衛隊のC-130輸送機を使いました。

アジアの国ではシンガポール・マレーシア・タイ・インドが、軍隊の軍用機を利用して自国民などを救出しています。往路では救援物資を積み込んで届け、帰路で自国民を帰国させているのが多いです。

国名 輸送手段 往路 帰路(日付)
日本 空軍輸送機C-130 救援隊と救援物資 現地で輸送続行(5/5)
シンガポール 空軍輸送機C-130 救援隊と救援物資 国民と永住者の合計89人を帰国(4/28)
マレーシア 空軍輸送機C-130 救援隊と救援物資 マレーシア人30人を帰国(4/28)
タイ 空軍輸送機C-130 64人を帰国(4/29)
インド 空軍輸送機C-17など 救援隊と救援物資 1,935人のインド人等を帰国(4/27)

C-130H輸送機による物資輸送(5/5)(Tribhuvan International Airport)

Posted by 陸上自衛隊 Japan Ground Self-Defense Force on 2015年5月7日

日本の自衛隊: C-130輸送機で救援物資を空輸した帰路は未発表

日本の自衛隊及び外務省でも、ネパール地震での援助活動については、特設ページで発表がされています。

4月30日にネパール国際緊急援助空輸隊が出国し、5月1日にネパールに到着しています。シンガポールなどでは往路に救援物資を積み、帰路に自国民救出を行っていますが、自衛隊は帰路の発表がありません。5月5日時点で、C-130輸送機は現地で輸送活動を続行しています。
もともと、4月28日時点で自衛隊の統合幕僚監部が発表した『ネパールでの地震を受けた自衛隊部隊の派遣について』という公表資料では、三項目のみが含まれており、日本人の救出活動は記載ありません。今後もされないのでしょう。
○ 医療援助隊第1陣(20名前後)を派遣
○ 医療救助隊の派遣規模は、第1陣を含め110名程度
○ 医療救助隊派遣のほか、医療活動に必要な物資等を空自輸送機により輸送

邦人救助の論点

前回記事では様々な論点提起をSNSで受けました。整理します。

日本は自衛隊が邦人輸送をする法整備がされていないのではないか?

現行法で邦人輸送は可能です。条件は、外務大臣が防衛大臣と協議することです。
ただし、現行法では『当該輸送を安全に実施することができると認めるとき』という前提を満たす必要があり、邦人輸送はできても、動乱などの危険な状態では保護や救出ができません。これが現行法での限界であり、現在、議論されている内容です。

自衛隊法 (在外邦人等の輸送)第八十四条の三
防衛大臣は、外務大臣から外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する邦人の輸送の依頼があつた場合において、当該輸送において予想される危険及びこれを避けるための方策について外務大臣と協議し、当該輸送を安全に実施することができると認めるときは、当該邦人の輸送を行うことができる。(略)

自衛隊の組織も整備されています。自衛隊の在外邦人輸送は、中央即応集団 (CRF) があたります。今回もCRFが活動していることが、陸上自衛隊がツイッターに投稿した写真から分かります。

陸上自衛隊中央即応集団:CRF(Central Readiness Force)とは?
在外邦人等の輸送 : 外国での災害、擾(じょう)乱、その他緊急事態に際し、在外邦人等の輸送を実施します。
外務大臣の依頼を受けて、生命や身体の保護を必要とする在外邦人などを、政府専用機・空自の輸送機・自衛隊の船舶・船舶に搭載されたヘリコプターで輸送する活動です。

海外でも、自衛隊による邦人陸上輸送訓練が、2008年以降に8回行われています。

なお、「自衛隊を国外に出したくない」、という理由での政府専用機の利用は選択肢になりません。政府専用機は航空自衛隊の所属で運用のためです。(『自衛隊法 第百条の五第二項 自衛隊は、国賓等の輸送の用に主として供するための航空機を保有することができる。』)

日本人なら帰国するお金があるのでは?

緊急時には人が殺到するため、金銭的余裕にかかわらず、飛行機の座席が取れません。予約していた飛行機の便がキャンセルされた、予約していたが先の日程だった、という事態では近々での座席確保が困難です。そのため、各国の事情に応じて、軍用機あるいは民間機を手配されました。中国・韓国は民間機の手配でした。日本は、自衛隊機も民間機も政府は手配していません。

自己責任ではないのか?

どこまでが政府保護の対象で、なにをもって自己責任とするかの範囲への議論が必要です。

  • 政府要人の渡航のみが保護の対象
  • 上記に加え、外交旅券・公用旅券での公務渡航が保護の対象
  • 上記に加え、勤務先での業務命令での渡航が保護の対象
  • 上記に加え、留学生が保護の対象
  • 上記に加え、観光旅行者が保護の対象
  • いかなる理由でも日本国民は保護の対象

異論はあると思いますが、"公務"への距離で分類してみました。自力帰国した日本人の一部が報じられていますが、青年海外協力隊(JICA)での業務命令での帰国指示と、ネパールでの公共工事で企業勤務者です。青年海外協力隊は有償ボランティアですが、国の事業のため、日本政府の公用旅券での渡航です。ネパールでの公共工事は、"国益"に貢献する貴重な外貨獲得です。また、今回は報道されていませんが、発展途上国では日本からのODA事業での民間企業関係者が多くを占めます。これらの人への"自己責任"への線引は極めて微妙なはずです。

滞在事情に加えて、現地での緊急度に応じた判断もあります。
アジア以外では、カナダは空軍機で自国民を救出しています。しかし、米国は空港まで送りとどけ航空券予約の支援を実施しましたが、救出での帰国は負傷者に限っています。

結局は、どの状況で国が自国民保護をするかというのは、その国の政策によります。政府の積極介入を良しとする国もありますし、その逆の国もあります。「大きな政府」「小さな政府」と同様で、どちらが良いか悪いかは国の価値観です。
日本での事例としては、2013年のアルジェリア人質事件があげられます。無事が確認された日本人7人と、死亡した9人の遺体を日本に運ぶため、政府専用機が使われています。これはアルジェリア軍が現場を開放し、一定の安全が確保された後でのタイミングです。アルジェリア人質事件は、現地政府の密接な支援を受けてはいましたが、公務でもODAでもなく、民間企業の業務でした。
日経: 政府専用機が羽田に到着 9遺体と7人乗せ

ネパールが日本との友好国ならネパールにとどまるべきでは

前回の記事で書いたように、ネパールには長期滞在日本人が千人います。また、地震が発生した時に旅行などでネパールを訪れていた短期滞在者は約450人と報じられています。
旅行や出張などの短期滞在者は、宿泊場所にも困り訪問目的が果たせない状況で、帰国希望者が大半のはずです。
長期滞在者は、各人の滞在理由や現地状況によって判断しているはずです。本人の意思にかかわらず、上述のJICAのように所属先が帰国命令を出すこともあります。
「ネパールにとどまるのが友好を助ける」というのは貢献できるのならもっともですが、「滞在を継続すべき」とは安全な日本にいる人間が言うべきことではありません。また、一時帰国して、復興に必要な準備をしてネパールに戻る人もいるでしょう。帰国者には帰国の無事を喜び、滞在継続して現地貢献する人には賞賛すればよいのだと、私は考えます。

自衛隊が邦人救助しないことを問題提起しても、自衛隊派遣に反対してきた朝日新聞であり左派の責任では?

私は朝日新聞記者や関係団体の所属ではありません。また、この記事を書くことで、ハフィントン・ポストと一円もお金のやりとりはありません。これまでの記事のタイトルを見るだけでも、私を左や右に分類するのは無意味なのが分かるはずです。今回の記事は、自衛隊を活躍させるチャンスとなる保守メディアも、人命尊重からリベラルメディアも、自国民保護の視点から取り上げたものが不思議と無いため、私が書いたものです。私はシンガポール居住者の個人の視点で、記事を投稿している者です。


※本ブログの記述は、筆者の調査・経験に基づきます。記述が正確、最新であることは保証しません。記載に起因する、いかなる結果にも筆者は責任を持ちません。記載内容への判断は自己責任でお願いいたします。

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