今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

シンガポールでの家賃交渉の仕方

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。

コロナで家賃があがるシンガポール

シンガポールの家賃が上昇傾向です。コロナ後に、国民雇用を残し、外国人を解雇する国の政策が行われ、外国人の帰国での賃貸解約で「シンガポール不動産がクラッシュする」との見方が強まりましたが、一転、上昇しています。
理由として言われているのは、下記です。

  • 外国人労働者不足と建設資材サプライチェーンの乱れで、公団HDBの新築BTOが遅れている。
  • 親と同居していた新婚が、HDB引き渡しを待ちきれず、中古HDBや賃貸になだれ込んだ。
  • 海外勤務者がシンガポールに帰国し、賃貸への貸出数が減った。

・ブルームバーグ: シンガポールの家賃が6年ぶり高水準、外国人駐在員の住宅問題深刻化

なので上昇しているのは、ブルームバーグによると$2,500~$4,000とのことで、当地の相場では郊外のカップル世帯向きの金額です。影響ど真ん中の物件では10~15%上がった物件もあるとのこと。
日本人駐在員が借りているのは、都心部の子どもを含めた家族向けの、広く単価も高いものなので上昇の直撃はないはずですが、賃貸更新時に値上げを突きつけられる人が大半でしょう。
(2022年6月27日追記: コロナ規制が厳格な香港の金融から、シンガポールへの駐在員転勤が急上昇して、アッパー物件も家賃が上昇しています。2022年5月では前年度比20%上昇となっており、家賃上昇は全方位になっています。)

16%増を提示され、8%増で決着した私のケース

私のケースです。


結局は、8%増、1年契約で合意に至りました。相場が9%増なので、一般的な範囲に最後は収まっています。オーナーが主張した1年後の家賃見直しをのみましたが、この1年間は2ヶ月の事前通知での解約条項を残すことを私はオーナーにのませました。
私のケースは、「オーナー勝利」でしょう。オーナー勝利と私が思っている理由は、

  • ほぼ相場通りの改定額であること
  • 不動産エージェントを外すことに私が合意し、オーナーが経費削減できること
  • 馴染みのテナントが継続すること
  • テナントは日本人であること

です。私が強気の交渉をしなかったのは、「オーナー主張の額をのまず、引っ越しをすると、条件が悪化するから」ということにつきます。価格が上昇しているだけでなく、賃貸マーケットにでている物件は数が少なく、すぐうまるのです。

欲深オーナーの心理

欲深オーナーが、マーケットでの高値を狙っていくと、既存テナントと合意に至らず、ハイリスクプロファイルも含めた新規テナントを検討する必要がでてきます。住居を綺麗に使わず、退去時に大幅な改修が必要になり、近隣住民からテナントへの苦情を受ける可能性がある属性が、ハイリスクプロファイルです。
「そういう人に貸すリスクをとりたい?」
「高値に固執して、次のテナントが入るまでに期間が空くと、結局損するよ?」
と、交渉でせめぎ合うことになります。
uniunichan.hatenablog.com

デフレ日本にはない、契約更新時の家賃交渉

どうすれば、家賃上昇を抑えられるかです。一般的ですが、引き続き住んで欲しいと思わせる努力を、列挙します。

  • 家を綺麗に使う

家賃更改前に「綺麗に使ってるから、今の状態を一度見に来てくれ」と呼ぶのは手でしょう。

  • オーナーと良好な関係を築く

挨拶や日本帰国時のお土産を普段からしておくのは、有効です。

  • 不動産エージェントを外すのを提案する

契約後のメンテナンスでも、特に貢献してもらった恩があるエージェントなら別ですが、大家と直接話しができているなら、必須ではないはずです。大家の経費が減ることは、値上げの圧力を弱めます。

  • 禁煙・子どもなし・ペットなし

これらのどれかなら、アピールしましょう。

  • 相場を知る

いくらの賃貸額を求めてくれば欲深オーナーで、いくらならば妥当なのかを、相場から知る必要があります。相場の把握の仕方は、後述します。

"日本人"という最強属性

日本人はハイリスクプロファイラーの対極にいます。シンガポールで最も歓迎されるテナントは日本人です。家を綺麗に使う、揉め事を起こしにくい、ということです。家賃が職場負担の駐在員には、「相場に疎いので、高値でも契約する」「デポジットからオーナーの言い値での補償を認める(なめられてる)」、という環境の人もいるでしょうが、それを差し引いても圧倒的な恩恵です。
この評判を作ってきたこれまでの日本人には感謝です。

家賃相場の見方

さて、ここからが本題です。
「契約更改で、家賃 X% 値上げを言われた!高すぎる!そんなもん払えるか、値下げしろ!」
といきり立って、オーナーが言い分を飲むケースもあるでしょうが、こじれて退去になる可能性も高いです。単に「払えない。安くして」の一辺倒でも、説得力に欠けます。
まずは、客観的に、冷静に、家賃相場を把握しましょう。その上で、オーナーが相場より高値を言ってくれば、相場の資料を出して「その値段だと相場より高いから、良いテナントを捕まえられるかわかんないよ。テナントの空白期間も出るかもよ。それでも良いの?」と説得しましょう。

相場のソースですが、PropertyGuruなどの物件サイトでの希望価格は相場ではありません。シンガポールでの不動産情報の寡占サイトはPropertyGuruで、そこさえ見ておけば他のサイトはほぼ不要です。
PropertyGuru
PropertyGuru掲載の価格は、今後契約される大家の未来の希望価格であって、通常は値下げ交渉があり、実際の契約価格はサイトより下です。最終的な賃貸価格は、印紙税を払うときに政府に登録し、政府は開示しています。
PropertyGuruでもPricing Insightsという項目で、契約価格を掲載していますが、ソースは自社調査では当然なくURAのはずです。また政府サイトからなら、CSVファイルでデータを取得できるので、加工が容易です。

・都市開発庁 (URA): Rental contracts of private residential properties

シンガポールでは賃貸データが公開されていることを知れば、あとはそれをお好きにデータ分析すればよいだけです。
なお、政府開示のデータはユニット貸しです。部屋貸しのデータはありません。

不動産エージェントから回答がない?!

物件サイトを見てWhatsAppなどで連絡しても、不動産エージェント(家主側)から回答がないことが増えています。これは、

  1. 既に契約済みか、オーナーと交渉に入っている人がいる (のでシカト
  2. 売り手市場で、問い合わせが増え、エージェントの対応処理が追いつかない。

が主な理由です。1.だとしょうがないです。「一言そうだと説明しろよ」と腹がたちますが、あきらめましょう。残念ながら、不動産エージェントをレビュー評価する仕組みは今のシンガポールにはありません。
2.だと、今の貸し手が強い市場では、大量の内覧希望者が問い合わせます。エージェントは、その手の事務処理に弱い人が多く、対応漏れがでます。

この対応漏れを防ぐには、

  • 初めての連絡は火曜か水曜午後に
  • 最初の問い合わせで、エージェントが知りたがるプロファイルはすべて出しておく

ことで、初回の問い合わせ時に、エージェントの即レス率を高めます。
エージェントは、土日祝が内覧のかきいれ時で、終日多忙です。ところが平日は基本的に暇で、書類整理や次の内覧スケジュール調整ぐらいしかすることがありません。なので、土日祝に初めての連絡をエージェントにするのは避けましょう。どうせ内覧調整はされません。下手すると、連絡を受けたのを忘れてそれっきりになるエージェントも、珍しくありません。なので、週末の多忙から一息おいて、火曜水曜あたりに連絡がベストです。契約が決まっていない物件なら、即レスが帰ってくるでしょう。

下記は最初のコンタクト例です。ご自由にコピペ改変してお使いください。

Hi, X. I'm Y from Japan. I work in Singapore for 2 years as EP holder and am looking for a place to relocate. I live with wife, 1 kid and 1 dog. Interested in your PropertyGuru listing, Sail $6,000. Would you arrange viewing on Sat or Sun?
https://www.propertyguru.com.sg/listing/Sail

連絡がこないことに音を上げて、借手エージェントを追加コストで雇う人もいますが、状況はほぼ同じです。借手エージェントからの連絡でも、土日は多忙ですし、借手エージェントもすっぽかされて、24時間程度たってからリマインド連絡を入れています。それでも連絡がとれないと「あの物件は、他のお客さんが既に付いて交渉に入っており、内覧できません」などという真偽不明の説明を受けることになります。

新規契約での交渉

家賃交渉術で効果的なのは、契約更新に偏ります。「家を綺麗に使っている」「大家や近所とトラブルがない」「支払いが遅れない」という実績からくる最大のアピールポイントが、新規契約にはないからです。そのため、家賃交渉というより、「同じ予算でも、移動にはMRTにこだわらずバスも含めて」など物件の選び方を変えた方が効果的なはずです。新規契約でできるのは、下記です。

  • 賃貸相場を知る
  • 日本人アピール
  • 借り手エージェントを付けない
  • 勤務先が不動産エージェントを指定していても、エージェントの手持ちの物件以外に、PropertyGuruから自分で探してきて、候補物件数を増やす

賃貸相場を知るのは常に重要です。「今の契約実績で過去3ヶ月でこれだけなので、この金額でなんとからないか」という説得は、新規契約でも成立する場合があります。オーナーは、物件を見せて、自分が納得する金額オファーがあれば同意するだけなのですが、
・現在の居住者の賃貸契約はいつまでか。もしくは、前の借り手が引き払ってから、空室期間はどれだけか。
・今まででオファーがあった最高額はいくらか。なぜそれを断ったのか。
・オーナーの実際の希望額はいくらか
を確認することは必須ですし、ここらは不動産エージェントが自発的に言ってくる内容でもあります。

契約更新では、そもそも他の競合がいない状態での協議なので、コンペ相手は具体的な他の借り手希望者ではなく、大家が希望するマーケット価格です。既存借り手との交渉が決裂して初めて、大家は市場から借り手を探します。
新規契約では、借り手希望者が複数いて、大家へのオファー金額が同じであれば、大家はまず間違いなく日本人を選びます。ですが、他に月$100でも高く払う借り手がいれば、日本人であっても実績がないので、勝負はもつれます。

シンガポールで借り手エージェントの費用は、見かけ上、オーナーが払います。借り手ではありません。それも結局は、借り手の家賃から出てきているのですが、借り手エージェントの有無は大家のコストに直接影響します。
ですが、借り手エージェントを付けないのは諸刃の剣です。契約時にはオーナーはニコニコでも、入居後のメンテナンスや、退去時のデポジット返還で、多大な苦労を借り手がする可能性があります。(その一方で、職場が法人契約しているエージェントは、契約時に日本語が話せるだけで、オーナーの要望を丸投げで、いてもいなくても一緒なレベルが多いともよく聞きます)

シンガポールには、日本のように国単位の物件データベースのレインズ(不動産流通標準情報システム)がありません。国内の賃貸物件がデータベースになっていないため、紹介できるのは自社が抱えている物件か、エージェントでもPropertyGuruで探したりています。なので「浴槽必須」「駅チカ」などと希望を言ってエージェントの手持ちの物件を出してもらうよりも、PropertyGuruで自力で検索して「この物件を見たいから、アポとって」という方が早いし現実的です。借り手エージェントに「手持ちの物件以外に、PropertyGuruでリンクを出せば、内覧アポと契約ができるか」とスパッと聞いてみましょう。

交通手段はMRTだけでなく、バスも検討しよう

物件の探し方についても、少し言及します。
日本から来たばかりの人は、土地勘がなく、交通手段にMRTしか分からないことが一般的で「駅チカ」を希望しがちですが、シンガポール最強の交通機関は実はバスです(私の主観)。MRT駅徒歩3分圏内で賃貸を探すのは困難ですが、バス停徒歩3分は容易です。また、MRT駅まで3分で着いても、階段上り下りでさらに5分程度かかるのは普通です。職場や日系スーパーまで乗り換え無しで行けるバス停近くに住居を借りる方が、実は幸せになことは多いです。
バスを含めた経路検索の見方はこちら。
uniunichan.hatenablog.com
この記事は10年前wのもので、今、便利な携帯の経路検索アプリはCitymapperと思われます。私も使っています。

まとめ

相場を知るだけで、家賃交渉は優位にたてます。相場より安ければ黙ってサインをして、高ければ相場のデータを出して交渉すれば良いからです。
後ほど解説する程度のデータ分析をしている大家ですら、ごく少数のはずです。大家の大半は、PropertyGuruでの希望価格と、自分の肌感覚をミックスして、相場の強気弱気で、値段をカンで提示してるだけだからです。
新規契約時は、オーナーは他の申し入れと天秤にかけることもありますが、契約更改時では「新規テナントの質が分からなく、実績がない」というリスクがオーナーにはあり、既存の日本人テナントに継続して貸したいことが大半で、この点では借り手有利です。
オーナーは、ベッドルーム数と広さ(スクエアフィート)の区別もしていないのもザラです。ベッドルーム数の割に、狭いユニットであっても、PropertyGuruではそこまで細かい表示をしていないので、オーナーは「同じベットルーム数並の家賃をとれる」と勝手に期待していたりします。

最近の大家は強気です。よほど良好な関係をオーナーと築けていなければ、相場より高い値段で吹っかけてくるでしょう。オーナーの希望価格が相場より高ければ、URAデータを出して冷静に交渉しましょう。
例えば、日本人にも人気のラッフルズプレイスにある The Sail @ Marina Bay の800スクエアフィートで、今は月額$4,500ですが、欲深に$5,200を要求されたとします。

「Sailの800スクエアフィートのユニットでは、2021年に184件賃貸契約があった。$5,200は上位16件に該当する。10~12月の過去3ヶ月平均は$4,508だ。2021年1月から12月に家賃の上昇は$300だ。$4,400を検討して欲しい。$4,400以下での賃貸契約は、過去1年では全184件中106件、過去3ヶ月では全45件中20件だった。相場並みで妥当」

と切り返せます。ここでオーナーが$4,600を(運良く)提示してくれば、自分の初期提示の$4,400との間をとって、現状維持の$4,500で決着できます。
大家が今のテナントに残って欲しければ、相場から大きく外れない金額に落ち着くはずです。データを提示しても、相場から離れた金額を提示してくるのであれば、「そんな金額は出せない。ハイリスクプロファイルのテナントを入れたり、空室期間が出てもよいのか?」というのを最後に確認して、交渉を終わらましょう。欲深オーナーであるなら、それはもうしょうがないです。

おまけ: Excelでの賃貸相場のデータ分析方法

まとめは終わりましたが、最後に、Excelでのデータ処理方法を説明します。慣れると5分でできます。できる人も多いと思われるので、最低限です。
The Sail @ Marina Bayで、2ベッドルームの、800スクエアフィート (74平方メートル) を例にします。
1. URAからデータ取得
URAからデータを取得します。
・都市開発庁 (URA): Rental contracts of private residential properties
過去60ヶ月のデータを取得可能です。最長期間を選択します。
"Select Projects"に"the sail"で検索し、選択します。
"Search"をクリックします。

URA

2. Excelで加工がしやすい"Download into CSV"でファイル入手

CSV

3. Excelで加工
3.1 ピボットテーブルの作成
・データの範囲を選択します。"S/N"からデータの年月までを選択します。


・"挿入" → "ピボットテーブル" → "テーブルまたは範囲から" を選択します。そして、"OK"。


3.2 グラフの作成
ピボットテーブルのワークシートができます。"ピボットグラフツール" → "フィールドリスト"を選んで、フィールドリストを表示させます。

"No. of Bedroom(for Non-Landed Only)"と"Floor Area (sq ft)"を"フィルター"にドラッグします。
"Lease Commencement Date"を"行"にドラッグします。
"Monthly Gross Rent($)"を"値"にドラッグします。

このままでは、年に表示されるのが、その年の賃貸の総額になるので、平均に変更します。"合計/Monthly Gross Rent($)"を右クリックして、"平均"を選んで"OK"。これで、最低限は完成しました。

2021年は、Sail全体で$4,401が平均です。

2021年は、2ベッドでは$4,618が平均です。

2021年は、800~900スクエアフィートでは$4,334が平均です。

"2021年"の前にある"+"をクリックして広げると、四半期・月単位の精度で表示できます。800~900スクエアフィートでは、2021年12月は$4,527で、1月の$4,243と比べて、約$300増しです。

この表のどこかを選択した上で、"挿入" → "2-D折れ線" → "マーカー付き折れ線" を選ぶと、グラフが作成されます。800~900スクエアフィートでは、過去5年を通して、ほぼ$4,000~$5,000の範囲に収まっており、2021年でも家賃の上昇は小幅にとどまることが分かります。

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