今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

韓国紙『河野外相、シンガポールの英字紙にも韓国批判の寄稿文』の寄稿を全訳してみた

シンガポールウォッチャーのうにうにです。
日本のメディアは、来る日も来る日も韓国ニュースがひっきりなしで、「日本も国力が相対的に減退し、これまでのようになあなあではなく、韓国と向き合わざるをえないのだな」とシンガポールにいながらにして思います。

日本に迫る韓国経済力

経済力で比べましょう。
国民総生産GDP(名目)では、1970年には、日本は韓国の25倍でした(日本2107億米ドル、韓国82億米ドル)。
それが2016年では、3.8倍にまで詰め寄られています (日本4兆9111億米ドル、韓国1兆2847億米ドル)。

一人あたりGDP(名目)では、1970年には10倍(日本米ドル2037、韓国209米ドル)。
2016年には、1.4倍にすぎません(日本38,972米ドル、27,608米ドル)。

河野外相のシンガポール紙への寄稿

その韓国との関係で、河野太郎外務大臣が、シンガポール最有力の英字紙ストレイトタイムズに「最近の日韓紛争の背景」を寄稿しました。テーマは、徴用工補償問題が中心で、GSOMIA (日韓秘密軍事情報保護協定) にもふれています。
シンガポールの読者を対象にしていることから、日韓請求権協定に振り返り、日本政府の考え方を説明しています。日本人にとっても、おさらいに役に立つでしょう。
要点です。

  1. 日韓請求権規定により、徴用工への日本の補償は「完全かつ最終的に解決した」。
  2. 日韓請求権規定により、韓国政府に3億米ドルの補償と、2億米ドルの借款を日本は提供した。
  3. 日韓請求権規定の協議中、日本は個人への直接の補償を韓国政府に提案したが、韓国政府は「韓国政府の責任で補償する」として断っている。
  4. 日本企業への賠償を命じる韓国の裁判所判決は、日韓請求権規定に違反している。
  5. 日韓請求権規定で日本からの賠償を受けたことで、賠償を配分する責任は(日本から)韓国政府に移っており、それは2005年に韓国政府が再確認している。
  6. 韓国への輸出管理の運用の見直しは、異なる問題であり、関連付けてGSOMIA終結を判断した韓国政府は誤解をしている。

外務省が頑張っているのですが、河野外相のこの寄稿文は日本の主要メディアは取り上げていません。
本件でシンガポールは直接関係はない第三国なのですが、ストレート・タイムズ紙への外務省寄稿は、重要事項に限って時々行われます。2013年には在シンガポール日本大使館が「尖閣諸島をめぐる領土紛争は存在しない」という寄稿がありました。

河野太郎外相とシンガポール

実は、河野外相は、シンガポールに土地勘があります。
衆議院議員になる前の社会人時代に、富士ゼロックスで勤務していました。その際に、シンガポールの富士ゼロックスアジアパシフィックに赴任しています。
外相時代でも、公務でたびたびシンガポールに訪れています。



韓国紙 中央日報の報道

韓国メディアの中央日報が河野外相の寄稿を報じています。

抜粋します。
前半は寄稿の要約をしています。後半では、寄稿への論評、つまり中央日報の意見が入っています。抜粋し、意見の箇所を私が太字にします。

日本政府が韓国だけを狙って輸出規制措置を発動したことは徴用賠償判決と関係がないという強引な主張

韓日対立は韓国が1965年の韓日請求権協定の時の約束を守らずに起きたという「ごり押し主張」

特に「過去の民間労働者」という表現を使って徴用被害者に強制性がないというイメージを与え韓日対立の原因が韓国政府にあるという印象を植え付けるのに注力した。

いい時代になりました。国家間対立で論点への視点の違いを、対立国のメディアが母国語に翻訳して読めるのですから。自国メディアのバイアスを通していないというのが大事です。日本の左派メディアが「情勢はXなのだから、日本は謝罪すべきだ」、右派メディアが「情勢はYなのだから、日本は抗議すべきだ」と書いても、いつもの自社読者向け論評であって、一次ソースにさかのぼる根性がない下々にはまず参考にもなりません。参考になるのは、左派メディアが「日本は抗議すべきだ」、右派メディアが「日本は謝罪すべきだ」と言う場合です。

韓国紙は、自紙の邦訳で、結構な閲覧数があると推測されます。自国と自紙の考え方を伝えることで、経済的にも潤うのですから、(一部の日本人読者に反発されようが)本望でしょう。日本のマスコミは(誰が読者なのか謎の)英字紙を作るプライドはあるのですが、こういう「対立国の言葉で自国と自紙の考え方を伝える」アプローチの方が、実は影響力も持て、稼げるのではないかと思えます。一番コストがかかる元の記事は、自社ですでにあるのですし。どうですか、日本のマスコミさん?

それでは、全訳です。
www.straitstimes.com

最近の日韓紛争の背景

河野太郎からストレイト・タイムズ紙へ


日本と大韓民国 (ROK: 韓国) との間の協調は極めて重大である。両国が隣国からなだけではなく、地域の平和と安定への必要条件だからである。これは北朝鮮問題への取り組みも含む。しかしながら、協調関係は当然のものではない。日本と韓国が長年に渡って努力してきた、絶え間ない注意と配慮を必要とする。


長い期間を経て、両国は親しく友好的で協力的な関係を築いてきた。これは、1965年に国交正常化した時に、両国が結んだ日韓基本条約に基づいている。しかしながら、第二次世界大戦での朝鮮半島からの元・民間人労働者 (former civilian workers) の問題に関して、両国は障害に直面している。


多くの読者はこの話題に熟知していないかもしれないので、簡単な背景を説明したい。


1965年、厳しい交渉の14年間の後に、日韓請求権並びに経済協力協定を両国が締結した。


1965年の同意の条項において、3億米ドルの助成金を提供し、2億米ドルの貸与を日本は同意した(韓国の当時の国家予算の1.6倍にのぼる総額だった)。二国間とその国民との間での要求に関するすべての問題は、「完全かつ最終的に決着した」と確認されていた。


交渉において、日本に対する韓国の請求への概要を韓国は示していた。8項目が記載され、「徴用された韓国人への戦争でおきた損害への賠償」と「徴用された韓国人への未払い給与」が含まれていた。1965年合意での「完全かつ最終的に解決した」との請求には、これら8項目の領域内のあらゆる請求を含むことが、1965年合意での両国が同意した議事録で明確に述べられている。


しかも、1965年合意を交渉していた時に、韓国は全ての"徴用された"労働者への補償を求めており、物理的かつ心理的な苦痛への損害を補償は含むべきだと提示していた。それに応じて、日本側は個人への支払いを提案した。しかし、国家としての損害賠償を要求し、韓国内での支払いへの責任を韓国政府がとると韓国代表は主張した。


40年後の2005年8月、1965年合意で日本から得た3億米ドルの助成金は"強制動員"の犠牲者への"苦痛への歴史的な事実"への補償を含んでいたことを、韓国政府は再確認している。


その際、"強制動員"の犠牲者への救済手段を提供するために受け取った賠償の適切な額を配分する道義的責任を負っていると、韓国政府は明らかにしていた。


二国間政府でのそのようなやりとりにもかかわらず、韓国国民の中には、朝鮮半島が日本統治下にあった第二次世界大戦で日本企業による"強制動員"に従ったと主張し、2つの企業、日本製鐵と三菱重工業への損害賠償への支払いを求める訴訟を起こした。


昨年、韓国最高裁判所は、2つの日本企業への一連の判決を言い渡し、前民間労働者 (former civilian workers) に"損害賠償"の支払いを命じた。事実から明確なことだが、これらの判決は、1965年合意を明確に反している。


1965年合意は二国間の外交関係を正常化させた法律的な土台になっているが、50年以上もたった今になって、二国間での誓約を韓国は一方的に破棄した。


判決は極めて遺憾で全く受け入れられないとの立場を、日本政府は伝えている。日本政府は、韓国に適切な処置をとるように強く促しているが。これには、国際法違反を是正する即座の対応も含まれている。


しかしながら、韓国政府はどんな具体的な処置をとっていない。


日本政府は公式に外交会議を求めており、1965年合意の中に備えられていた、独立した客観的な裁定のために争議仲裁を呼びかけている。しかし、韓国は仲裁への参加を拒否しており、国際法違反を重ねている。


未来に向けた二国間関係を確固たるものにするステップを我々が共に再びとるために、韓国政府が1965年合意を遵守し、国家間に加えて国際法の立場からもこの問題に取り組むこと、そして国際社会の責任ある一員として具体的な行動をとることを、私は強く希望している。


最後に、ソウルが終結を決めた、日韓秘密軍事情報保護協定 (GSOMIA) にふれておきたい。これは、二国間の安全保障を高め、地域の平和と安定を確保するのに、2016年以降、貢献してきた。


北東アジアにおける安保情勢への韓国政府の完全な誤解を反映したのがこの決断だと、私は言わなければならない。韓国向け輸出管理の運用を日本が見直したことを、韓国政府は自国の決断に結びつけた。しかし、これらの2つの問題は性質が異なっており、共に関連づけるべきではない。

  • 河野太郎は日本の外務大臣

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