今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

なぜシンガポールでホームレスを見かけないの?~富裕国にある貧困~

シンガポールにもホームレスはいます。
「ホームレスがいないのは、シンガポールは"明るい北朝鮮"で管理されているからだ」というふっかけがありますが、違います。そもそも、自由秘密投票の選挙で政権が決まる国が、北朝鮮と同じ訳がありません。
他国より、ホームレスの数が少なくかつ早期に対応されているのです。特に繁華街や金融街などの人目につく所では、確実に早期に支援が入るため、旅行者の目にふれることはありません。時間がたって保護されるのは海岸など、人目につかない所が多いです。
一人あたり名目GDPは、日本32,477.2米ドルのところ、シンガポールは52,888.7米ドルと、シンガポールが日本より6割以上大きいのです(世界銀行2015年)。今回はそのシンガポールでの貧困を見ます。

人口の1/3は外国人

まず、人口の1/3を占める外国人はホームレスになりません。就労ビザなどのビザが切れると、国外退去になるからです。仕事がある限りは、住居があることを雇用主が保証していることと同様です。

持ち家率

次に、国民です。シンガポールは持ち家政策を強くすすめており、シンガポールの国民・永住者の持家率は90.3% (2014年) です。この残り10%から、ホームレスになる人がでてきます。
日本人にとっての賃貸はシンガポールの資産高を思い知らされるボッタクリ費用ですが、シンガポール人にとって(持ち家でなく)賃貸とは、国が困窮者の国民に安価に提供する貧困対策制度なのです。

外国人妻が妊娠したホームレス家族

シンガポールで話題になった新聞記事があります。

ベトナムで仕事をしていた時に知り合った、34歳のベトナム人女性と結婚した44歳のシンガポール人男性の家族。以前は月$650 (約7万円) で部屋を借りていましたが、彼の月収$1,520(約11万円)には高額。妻のビザは長期滞在ビザLTVPで働くことができなかった。収入がある程度あるため、公共賃貸への入居は対象外だった。
結局、米の配達の仕事で使うトラックをチャンギビーチパークに駐車し、荷台にダンボールで寝泊まりし、カセットコンロで煮炊き、公衆トイレで洗面などの用をたす生活を2年間していました。「僕たちは多くを持っていないけど、一緒にいるから幸せなんだよ」と。
ところが、妻が妊娠しました。「僕は大丈夫なんだけど、妻が荷台に登り降りするのが大変なんだよ。子どもが生まれた時にちゃんとした家を子どもに与えられるように祈っている」。妻は夫の経済状況を結婚した時には知っていました。「いいの。私は彼を愛しているから」。

報道されたことも理由でしょうが、行政は対応しました。暫定賃貸スキーム (Interim Rental Housing Scheme) により、子どもの出産後にHDB公団を購入することを前提に、1LDK (2ルームフラット) を月額$400で、例外として1年間提供することにしたのです。

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※筆者撮影。写真はチャンギビーチパーク。この一角にある駐車場で夫婦は寝泊まりをしていた。チャンギ空港の近くで、飛行機の昼夜を問わない離着陸が見える。

シンガポールにもある「マック難民」

シンガポールにも「マック難民」がいます。24時間営業のマクドナルドで、夜の時間を潰す人です。近所がうるさいから、寝付けなくて、という人もいますが、ホームレスもいます。マクドナルドに来る理由は、エアコンがありWiFiがあるからです。シンガポールには130のマクドナルドがあり、そのうち週に2日以上の24時間営業をしている店舗は48です。

マクドナルドでの従業員自身にホームレスもいます。53歳男性、彼は6年間、街で寝ています。3人の子どもがおり、最年長は24歳です。マクドナルドでできたバーガーの配達員をしています。昼は公園のベンチで過ごし、夜になると出勤し13時間働きます。出勤前に(勤務先のマクドナルドが入っている)ショッピングモールでシャワーをとるのです。月の稼ぎは$1,500 (約11万円)。以前、部屋を借りたことがありましたが、他人と部屋を共有するのに落ち着きませんでした。家族や親戚と暮らさない理由には「厄介になりたくないんだ」と話します。
きっかけは自宅のリフォーム代金、$19,000を借りたことでした。次に闇金(ローンシャーク)に借りました。結果として、自宅を売り、妻とは離婚しました。
住所がないので、交通違反の罰金を払えず、2回裁判所に連行されたことがあります。公園での生活中に所持品を盗まれたことがあります。
警察は彼に公園で寝ないようにと言っています。「公園はみんなが楽しむ所で寝る所じゃない。でも、他に選択肢がないんだ」と彼は言います。
昨年、男性は交通事故にあいました。耳に5針を縫い、頭痛が絶え間なく起きるようになりました。病院のソーシャルワーカーは男性に政府から支援を受けるようにアドバイスしました。男性は当局に請願することを計画しています。「これまでで失ったものを取り戻したいのです」

気温低下の異常気象で明るみに出たホームレス

2018年1月に、異常気象でシンガポールの気温が22℃まで低下しました。寒さで凍えるホームレスに、レストランオーナーが毛布を提供し、それが新聞記事になっています。

  • オーナーは100人以上に毛布を配った
  • 配布した場所は、チャイナタウン、チョンバル、レッドヒル、トアパヨ
  • オーナーによると、ホームレスは警察やソーシャルワーカーを避けるため、あてもなく歩き回り、寝るのは深夜のみ、とのこと
  • ホームレスによると、チャイナタウンだけでも10~20人は毎日路上で寝ている
  • ST紙記者が同行した際には、チャイナタウンコンプレックスの階段、地面にダンボールを引いて、ベンチという所で見かけられた

ソーシャルワーカーですら避けられているのですから、外国人の人目につかないのは当然かもしれません。

社会家族開発省

毎年平均300件の支援

社会家族開発省(MSF)は、2005年~2015年に、毎年平均300件のホームレスを支援しています。家族のもとに帰る人もいますし、経済や他の支援を提供される人もいます。経済的に困窮し、家族支援も絶たれており、自立する手段に欠いている人には、社会家族開発省が資金提供している福祉施設や保護施設が利用できます。施設利用者は、離婚・経済困窮・健康問題を抱えていることが多いです。24時間利用可能なComCareホットライン(電話:1800 222 0000)があります。

ダンボール集めをする人は本当に困窮者なのか

日本でもシンガポールでも、高齢者がダンボールを集める姿は見かけます。シンガポールの学生が調査した所、シンガポールではどうやら経済的困窮者ばかりではない、という実態が見えてきました。
6ヶ月の研究調査として、ニーアンポリテクニク(日本の高専に該当)出身の21歳を代表として、45人のダンボール集めに話しかけ、13人から詳細な話を聞くことができました。中には、土地付き一戸建て(土地がないシンガポールでは富裕層の証)に住んでいる人もいたし、確かに経済的な助けを必要としている人もいました。だが、大半は中間層だったと結論づけています。
社会家族開発省MSFの大臣が、ダンボール集めを一緒に行い、「全員が生活のためにしているわけではない」と調査に言及しました。「お小遣いを稼ぐためにしている人もいるし、家に閉じこもっているよりかは運動の一種としてしてる人もいる」ネットで「象牙の塔からお出ましになって現場で話しかけた」などとして炎上する騒ぎに。学生は炎上に対して、調査に基づき反論しています。

ダンボールを集めている際に交通事故で亡くなった77歳

ダンボールを集めている際に、交通事故で亡くなった77歳の女性がいます。1975年から2LDK (3ルーム) に住んでいました。賃貸でなく持ち家なのでしょう。シンガポールで部屋の数は経済力を表します。3ルームというのは、貧困層でないということを暗に意味しています。彼女は妹達から経済的な支援を受けており、妹達は「もうダンボールを集めなくていいじゃない」と言い続けていましたが、「気晴らしにすると主張し続け」ていました。実際、女性は集めたダンボールを廃品回収業者に無料で引き渡していました。「1セントももらったことはないわ。ただ心が優しかったの」と姪は言っています。


これらの例や政府方針から見えてくるるのが、本当にどうしようもなくなれば、施設に保護される。ホームレスであり続けるのは、実はまだ仕事があり踏ん張っている人達なのだ、ということです。



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