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今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

中国が影を落とす中、日本の積極的平和主義を歓迎した小国シンガポール

シンガポール時事

アジア安全保障会議 (シャングリラ・ダイアログ)

2014年5月30日と31日、安倍首相がシンガポールを訪問していました。2013年12月にシンガポールのリー・シェンロン首相が訪日、安倍首相との会談で、リー首相がアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアログ)に招待したのに安倍首相が応じたものです。
Channel News Asia: Japanese PM Abe to attend and speak at Shangri-La Dialogue next year
http://www.straitstimes.com/the-big-story/shangri-la-dialogue-2014/story/8-highlights-the-shangri-la-dialogue-20140602
会場のシャングリラホテルを警備するシンガポール所属のグルカ隊員
Photo Source: Strait Times: 8 highlights of the Shangri-La Dialogue

利害関係を超越できるシンガポール開催

アジア安全保障会議は主催がシンガポールの団体でもなく、イギリスの国際戦略研究所 (IISS) 主催です。アジア関連諸国の国防大臣などが、地域の安全保障を議論する場として、シンガポールのシャングリラホテルで毎年開催されています。今回は開催13回目です。
自国が話題の主要関係者からずれていることを活かして、諸陣営から多様な利害関係者を招き、会場の提供で自国の存在感を出すのはシンガポールらしいアプローチです。
なお、アジア安全保障会議の今回のスポンサーとして、ボーイング・ロッキードマーチン・ノースロップグラマン・エアバスなどの名だたる防衛産業企業に加え、日本からは三菱商事と朝日新聞も加わっています。

安全保障の役割をアジアで拡大する日本を歓迎したシンガポール

安倍首相がアジア安全保障会議で基調演説を行った翌日、安倍首相とリー首相の首脳会談がもたれました。

外務省: 第13回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)安倍内閣総理大臣の基調講演
外務省: 安倍総理大臣のシンガポール訪問(概要)
Strait Times: Singapore welcomes security role for Japan under alliance with US
Facebook: Lee Hsien Loong
http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea2/sg/page24_000285.html
Photo Source: 外務省: 安倍総理大臣のシンガポール訪問

会談後の共同記者会見で、

リー首相から,日本が日米同盟を基礎として,「積極的平和主義」の下,地域の平和と安定に貢献しようとしていることを歓迎する旨の評価が示された。 (外務省)

と外務省は発表。リー首相は「アジアでの安全保障における日本の貢献を歓迎する」とツイッターで直球を送り、

シンガポールの政府系最大手有力紙ストレイトタイムズも

Singapore welcomes Japan's desire to contribute to peace and security in the region, within the framework of the US-Japan Security Alliance, said Prime Minister Lee Hsien Loong on Saturday. (Starit Times)
「リー・シェンロン首相は『日本が日米同盟の枠組みの中で、地域での安全保障への貢献を望むことを、シンガポールは歓迎します』と発言。」

と書いています。

人口わずか540万人と小国のシンガポール。小国でありながら埋没せず独立を維持するため、大国の間でのバランサーを志向する外交方針です。そのシンガポールが、自国に直接利害関係しないのに、他国の安全保障政策に言及するのは珍しいです。例えば、リー首相はアジア安全保障会議の前の「アジアの未来」に先立った会談で、下記のように中国への評価を避けることで、結果として"中国より"の立場も見せ中国とのバランスもとることにも腐心しています。

中国が南シナ海で「挑発的」行動をとっているのでは、との質問に対しては「挑発とはみなさない」と退けた。
AsiaX: 日本は中国、韓国と信頼関係構築を=リー首相

リー首相の今回の「歓迎」には含まれていませんが、中国が反発している日本の集団的自衛権への支持を将来的に行う可能性を秘めています。シンガポールが日本を「歓迎」することで、シンガポールは中国を刺激するリスクを負います。そのリスクをとってまで、今回、シンガポールが「歓迎」を表明して得たかったものは何でしょうか。

日本経済新聞社「アジアの未来」でのリー首相演説

このシンガポールの政策を理解する伏線は色んな所にあります。最近のものでは、日本経済新聞社が東京で主催した「アジアの未来」でのリー首相の基調演説です。以下は今後20年において、アジアが平和であり続けるためのポジティブなシナリオ、その前提条件をリー首相が語った箇所です。

「一つのシナリオでは、アジアは平和であり続ける。国々は共通の利益を進展させるために協力して活動し、その一方、平和的に競争しあう。米国はアジアへのリバランスを持続的な管理で維持し、幅広くアジアにかかわる。これは安全保障だけでなく、貿易・投資・教育・人の交流などの面においてでもある」
「力強い中国は現状維持勢力として自身を位置づけ、国際法規を順守する。他の大国と建設的な関係を維持し、その一方、小国に成長する余地を与える。」
「日本は経済力を復活させ、自信を取り戻す。ウィンウィンの原則を全方面に推し進めるために、日本は近隣諸国と共に戦争の歴史を過去のものとし、信頼を勝ち得る。これには日米安全保障条約にとりわけ依存することになる。米国の積極的な関与によって、(日本が)全方面に適度な影響力を発揮するからだ。」
27. One scenario is that Asia remains at peace, with countries working together to advance shared interests, while competing peacefully with one another. The US maintains the rebalance towards Asia through successive administrations, and engages the region across a broad front – not just in security matters, but trade, investments, education and people-to-people exchanges too.
28. A more powerful China establishes itself as a status quo power, and adheres to international law and norms. It maintains constructive relations with other powers while giving smaller countries space to thrive.
29. Japan revitalises its economy and recovers its confidence. It works with its neighbours to put the history of the war definitively behind it, and establishes trust so that all sides can move forward on a win-win basis. That will depend in particular on the US-Japan Security Alliance, because America’s active involvement will exert a moderating influence on all sides.

Prime Minister's Office Singapore: "SCENARIOS FOR ASIA IN THE NEXT 20 YEARS"

シンガポールが支持したのは日本ではなく日米安保条約、更にその先の米国

アジアの平和はハブ国家シンガポールの国益

ハブ国家であるシンガポールが繁栄するには、周辺貿易国が活発に活動できる平和な状態が望ましいです。
アジアが平和であるためには、(中国のみが存在感を持つのではなく)アメリカの積極的なアジアへの関与が必要だとリー首相は明言しています。
現状の南沙諸島の紛争で、中国が国際法規に反しているとシンガポール政府は発言していません。しかし、反すると捉えているなら、リー首相演説にあるように、自国のルールでなく「国際法規を順守する」ように中国を"教育"する必要があるとシンガポールは考えているはずです。
演説の「全方面」とは、「(中国を含む)全方面」と解釈するのが適切でしょう。そうすると、アジア最大の力を持つ中国に日本が対峙できることがアジア全体の繁栄(ウィン)には必要だが、それには日米安全保障条約の十分な活用が欠かせない。なぜなら、米国の主体的なアジアへの関わり無しでは、日本は中国に十分に対峙できないからだ、と解釈できます。
そして、この平和によってシンガポールのような小国にも、繁栄のチャンスが残されるというシナリオです。

勿論、このシナリオが妥当なのか的中するのかは分かりませんが、シンガポールの国の動きを理解するには役立ちます。
日米安全保障条約は、日本を通じてアメリカをアジアから離さないために、重要なツールとシンガポールは捉えています。つまり、シンガポールが支持したのは、日本そのものというより、日本の先にある日米安全保障条約であって、更にはその先にいる米国です。米国の影響下にある日本が、米国の信任を受けた代理者として活動するのを歓迎しているのです。
国益を最も達成できるとシンガポールが考えているこのシナリオ実現のために、シンガポールはバランサーとして活動しています。

シンガポールと米国の緊密な軍事関係

シンガポールと米国は同盟国では厳密にありません。しかし、友好国として、同盟国に匹敵する緊密な関係を持っています。
シンガポールから米国へは、2005年のシンガポールと米国の"安全保障における緊密な協力関係のための戦略的枠組み合意"に基づいて、米軍へのシンガポール国内施設提供が行われています。
また、米軍からシンガポールへは、トレーニング目的での米国内の基地の利用とF-16等の配備が行われています。
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Defense.gov_News_Photo_010322-N-0271M-005.jpg
シンガポールのチャンギ海軍基地に向かう米国海軍空母キティホーク
Photo Source: Wikipedia: http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Defense.gov_News_Photo_010322-N-0271M-005.jpg
U.S. Department of State: Strategic Framework Agreement between the United States of America and the Republic of Singapore for a Closer Cooperation Partnership in Defense and Security
Ministory of Defence: Factsheet - The Strategic Framework Agreement
それに引き換え、日本の中国との国交正常化は1972年ですが、シンガポールが中国と国交樹立したのは1990年11月です。インドネシアの中国との国交樹立が1990年8月に行われてから、ようやっとです。インドネシア・マレーシアというイスラム国家に挟まれており、自国民の3/4を中華系が占めることへのバランス配慮と言われています。イスラム国家に挟まれた中華系の島、という表現もされるのがシンガポールです。また、シンガポールが建国時に共産主義者との紛争があったことでの、懸念も理由としてあげられます。
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Google Mapsより筆者編集
経済では、中国の輸出で10位がシンガポールで、ASEANでは1位です。これはシンガポールの人口を考えると驚異的な結びつきの強さです。
JETRO: 中国: 輸出統計(国・地域別)
つまり、シンガポールと中国とは、経済関係では緊密でも、政治的・軍事的には一定の距離をとっています。

シンガポールは、アジアの平和と自国の独立を守るため、米国をアジアに関与させるのに躍起になっています。逆に中国とは、特に中国と国境を接している国と違って、地理的隔たりにより中国からの影響に対し比較的自由な位置にいます。これらからも、「シンガポールは中華系国家だから、中国の衛星国」という日本で誤解が多い理解は間違いなことがわかります。むしろ、シンガポール人はプライベートでは、大量の中国人移民がなだれ込んでいることで、反中国感情が高まっています。シンガポール政府の、中国への政治的・軍事的な一線の引き方は、国民の中国への警戒意識ともリンクしています。
尖閣諸島とシンガポールの立ち位置: 一枚岩でない中華系国家

リー・クワンユー初代首相から引き継ぐ安全保障政策

リー首相のこの考え方は、シンガポールのこれまでの安全保障政策を引き継ぐものです。シンガポール三代目首相リー・シェンロン氏は、初代首相リー・クワンユー氏の息子です。シンガポールという資源も何もない南の島を強烈に牽引したリー・クワンユー氏は以下のように言っています。
Amazon: リー・クアンユー、世界を語る 完全版
『アジア太平洋地域で、安全保障や経済の主要プレーヤーとしての役割をアメリカが果たしつづけられるかどうかだ。もしそれができれば、東アジアの未来はきわめて明るい。』
『アメリカが日本を見捨てることはできない。日米安全保障条約を結んでいてもいなくても、勢力バランスを保つには、一方に日本とアメリカ、もう一方に中国という三角関係を保つしかない。』

勿論、親子でも異なる考え方をしている内容もあります。例えば、リー・クワンユー前首相は前著で『アメリカに中国の台頭を抑えることはできない。大国中国と共存するしかない』と考えていますが、リー首相は『中国は豊かになる前に老いる可能性が高い』(China is likely to grow old before it grows rich. (日経新聞「アジアの未来」))と語っています。

参考文献

防衛省 防衛研究所: Dr. Tan See Seng, S. Rajaratnam School of International Studies (RSIS), Nanyang Technological University (Singapore): 中国の台頭 東南アジアと日本の対応: 第1章 昇龍「中国」を駆る—シンガポールの実用主義的対中関係

東京財団: 神保謙: 米国のアジアへの再均衡:シンガポールの視点
http://www.tkfd.or.jp/eurasia/asia/report.php?id=355
http://www.tkfd.or.jp/eurasia/asia/report.php?id=356


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