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日本のあっち、シンガポールのこっち

尖閣諸島とシンガポールの立ち位置: 一枚岩でない中華系国家

尖閣諸島へのシンガポールの立ち位置について、シンガポールが華人社会であることを根拠に、中国・香港・台湾と同じグループに入れてしまう解釈が散見されます。例えば、以下。

 

 https://twitter.com/sohbunshu/status/250110084439478273

 

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中華系の分類:一般的
一般的に、中華系シンガポリアンに「お前はチャイニーズか?」と聞くと、「違う、チャイニーズシンガポリアンだ」と返事が返ってきます。同様に、香港人と台湾人も「香港人だ」「台湾人だ」という回答です。(注1)
つまり、シンガポリアン・香港人・台湾人は中国人と一緒にされることを嫌がっています。これは文化的洗練度や経済成長が中国 (PRC) より先行した事が大きいです。行く先々で大声を出してタンを吐き、路上で子供にオシッコさせ、中国共産党に染められてる中国人と「一緒にするな」と思っているわけです。
なので、華人社会は以下の括りに分けることができます。

・中国 (PRC:中華人民共和国)
・中国以外 (香港・台湾・シンガポールなど)


中華系の分類:尖閣諸島
ところが尖閣の場合、下記2つに華人社会が分かれます。

・中国 (PRC)、香港、台湾
・それ以外 (シンガポール含む)

この分類は「中国(人)としての教育と利益を受ける者」「それ以外の中華系」です。
台湾は親日ですが、尖閣については日本と意見が完全に食い違っており、自国領土との主張。普段の親日から一転し、尖閣に関しては日本に譲る気がありません。経済的な近さと政治的な近さが異なるように、文化的な近さ(親日・反日)と政治的な近さも異なります。
中国・香港・台湾は同じ中国(人の国)と考えると、なぜ中国以外の香港・台湾も尖閣を自国領土と主張する事情が理解できます。


シンガポールの尖閣諸島への立場は?

これは明確です、「他人ごと」です。感情移入しても「対岸の火事」程度です。

東アジアには尖閣以上に一触即発の領土問題があります、南沙諸島です。領有権を中国・ベトナム・フィリピン・マレーシア・ブルネイ・台湾が主張していて、中国・ベトナム・フィリピン・マレーシア・台湾が分断的に実行支配しています。昨年は中国とベトナムが一触即発状態になり、ベトナムでは反中感情が相当高まっています。南沙諸島の領土問題は、尖閣諸島以上にシンガポールに距離的に近いのに、シンガポールにとって他人ごとでした。そしてそれと同じ立場を尖閣にも取っています、尖閣も「他人ごと」です。

これは自国が領有権を主張している紛争利益当事者でないので、当然と言えば当然の立場です。利益を得ないのに、好き好んで紛争に首を突っ込む国はありません。これは在米国中華系移民三世以降が、尖閣に示す「他人ごと」の態度と近いものがあります。
シンガポールは1965年にマレーシアから独立し、そこから中華系が3/4を占める中華系国家として知られていますが、中華系と他民族は平等です。独立やシンガポールに移り住んで来てから3世代以上が経過し、中華系ではありながらも中国と一線を引くことで発展してきたのがシンガポール。同じ中華系を根拠に、中国・香港・台湾を支持することはありません。あくまで別の文化圏、別の国であって、自国の立場に基づいて「国益」を追求します。


なので、尖閣についてシンガポリアンが「尖閣ってどこのモノだと思う?」と聞かれると「中国かな???いや、ちょっと待って!う~ん」という反応になります。同じ中華系のよしみと、大日本帝国としてシンガポールを抑圧した (参照:シンガポール華僑虐殺事件) 国としての日本への警戒感で、中国への支持を一瞬選びますが、すぐに考え直します。シンガポールにとっては中国が伸長し、今の東アジア地域安全保障の流動化が、一番「国益」を損なうからです。


シンガポールの中での二つの中華系
そんなシンガポールですが、日本に対して冷静な中華系ばかりではないです。同じシンガポールにも、二種類の中華系がいます。

・(従来からの)中華系シンガポール国民
・旧中国国籍の"新"市民と呼ばれるシンガポール国民、シンガポールに在住する中国からの移民

シンガポールの人口は518万人。この内、外国人は1/3を超える193万人にもなります。

Deparment of Statistics Singapore
http://www.singstat.gov.sg/stats/themes/people/popnindicators.pdf
この外国人の国籍は政府からは明らかにされていませんが、一説によると中国人が100万人近いのでは、と言われています。
http://everythingalsocomplain.com/2011/07/29/1-million-chinese-nationals-in-singapore/
シンガポール人口の2割に近い100万人は、中国人あるいは中国からの移民一世で、中国教育を受けてきた者です。彼らにとって「魚釣島が中国固有の領土なのは自明」であり、自分達の中国に残る親族利害とも関係し、感情移入も容易なわけです。これが如実に分かるのが、中国語での新聞です。シンガポールでの最有力紙はStarits Timesです。これらは至って淡々と尖閣紛争を伝えます。あっても中国への肩入れというより、「これ以上日本や中国に揉め事を起こされると困るよ」というスタンスです。紛争地名も「尖閣諸島」と「魚釣島」の両表記です。

Straits Times: senkakuで記事検索
http://www.straitstimes.com/searchpage/senkaku
しかし、ゴシップ紙に近い中国語新聞では、「反日大示威」「中国核潜艇 包囲釣魚島」「日警突登島」の字が踊ります。私は中国語は理解しませんが、完全に中国よりです。
新光日報
http://blog.omy.sg/shinmin/

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シンガポールでは表現の自由が制限されており、デモは平和的なものを含め禁じられています。そのため他国には報道されませんが、中国からの移民はこういう感情を持っている二層構造になっている理解は必要です。例えばマレーシアでは、極少数であっても中国移民は反日デモを実施しています。
マレーシアナビ:尖閣抗議デモ拡散、マレーシアでは平静保つ 「マレーシア華人は関心薄」評論家


まとめます。


・尖閣諸島問題で、シンガポールを中華系国家として、即座に反日に位置づけることはできない。
・しかし、"冷静な"「市民」と、中国で教育を受けた"新"市民・移民との間には分断があり、中国からの新市民・移民は中国支持。

 

もちろん、視点の置き方やどこまで深みを変えるで幾らでも立ち位置は変わるのですが、尖閣に対してのシンガポールという視点ではこういう理解ができるのでは、と思っています。

 

Special thanks:
この私の記事は、ニューズウィーク日本版ライターで香港在住のふるまいよしこさん @furumai_yoshiko とのツイッターでのディスカッションを受けて、まとめた考えです。激しくやり取りしましたがw、指摘に感謝しております。
https://twitter.com/uniunichan/status/238454324722819072

 (注1) 『香港大学民意研究プロジェクト(港大民研)の今年6月の調査によれば、自身を「香港人」と称する者は30歳以上で62.3%であったのに対し、18~29歳では86.7%に上った。逆に「中国人」と称する者は30歳以上で35.8%、18~29歳ではわずか13.3%である。』倉田徹(現代中国・香港政治): なぜ香港の若者は「中国嫌い」になったか――香港民主化運動に見る中国の弱点

『台湾の国立政治大学選挙研究センターが定期的に実施しているアイデンティティーに関する調査(2015年7月)によれば、アイデンティティーは「台湾人」との回答は59%、「台湾人であり、かつ中国人」との回答は33.7%であった。「中国人」との回答はわずか3.3%にすぎなかった。』
JBPress: 「歴史的」中台首脳会談が失敗だった理由

 

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