邦画を積極上映するシンガポール
2016年11月3日(木)に、シンガポールで「君の名は」(新海誠監督)が封切られ、私も見てきました。英語のタイトルは"Your Name"です。
私は、アニメはジブリ程度しか見ないライトユーザーですが、新海誠氏はインド人の友人から「これ良いから見てくれ!」と以前に勧められて見て、私も好きでした。
シンガポールは日本文化に理解が深く、世界で数少ない邦画を割りと積極的に放映する国です。「君の名は」以外にも、ジブリ作品は毎回ですし、クレヨンしんちゃんは(シンガポールは一年中夏ですが)シンガポールでも夏の風物詩、今はデスノートも封切り間近です。在住日本人にはありがたいことです。
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比較: シンゴジラ - 君の名は
「君の名は」の上映前に、シンガポールでかなり期待された邦画がシンゴジラ。体感で「君の名は」の倍以上の規模で積極的に宣伝され、都市国家にしてはかなりの上映館を持って開始しましたが、不評に終わりました。
この2つの映画を比較してみます。
シンゴジラ | 君の名は | |
---|---|---|
初期上映館数 | 19館 | 8館 |
私が見た際の客入り | 1/4程度 | 満席近く |
地元民日本人比率 | 地元民半数 | 8割が地元民 |
地元民評判 | 酷評 | べた褒め |
Golden Village: Your Name
Golden Village: Shin Godzilla
※上映館数: Golden Village系列
※客入り: いずれも木曜日に封切りされ、その翌日金曜日の夜に、同じ映画館で見ているので、比較条件は近いはずです。
ハイコンテキストすぎて、日本との文化ギャップで理解されなかったシンゴジラ
シンゴジラの評判はこうです。ソースは、上映映画館が映画の予約画面で感想も付けられるようになっているので、そこから。
他のシンガポール人レビューも半分以上は酷評。セリフだらけで退屈で、CGは玩具、演技下手。あのセリフ量だと英語字幕は辛い。しかも日本組織の文脈が強いから、海外で理解は困難でしょう。面白かった、と言ってる人は日本文化に馴染みある人の様子 https://t.co/IAMibpRU0O
— うにうに (@uniunichan) August 27, 2016
上記の感想は一部だけですが、もうボロボロ。この自由記述の感想に加えて、5段階の評価もされます。これを、シンゴジラと「君の名は」とで比べてみます。「君の名は」封切りからまだ3日なので、十分な数があつまっていないことにご注意ですが、評価平均点がシンゴジラ2.2点、「君の名は」5点になっています。
シンゴジラ | 君の名は | |
---|---|---|
投票総数 | 30人 | 5人 |
評価平均点 | 2.2点 | 5点 |
絶賛を受ける「君の名は」
映画予約サイトでの「君の名は」へのシンガポール人の感想に、私の和訳を付けます。
- 「大好きです!」
- 「素晴らしいアニメーション、歌、ストーリー。ラブストーリーで少しのコメディも!」
- 「上映をず~~~~っと待ってました。もう一度映画館に見に来ます。これまでの新海誠の作品と違うけど、全く悪くない。」
- 「この映画を二度見るでしょう。」
- 「素晴らしい映画。もう一度見るべき。」
ツイッターでも以下のように絶賛。良い評判だけを選んだのではなくて、悪い評価がないのです。
なぜにここまで違うのか?
この違いは、以下の点を推測できます。
- シンガポールにはアニメファンが一定数おり、日本の動向をチェックしているため、日本のアニメ上映ではアニメファンが観客の"基礎票"になる。
- 結果として、シンガポール人での評判が固まる封切り直後から、「君の名は」満席になり、基礎票がないシンゴジラは苦戦した。
- 「君の名は」の若者の恋愛のテーマには普遍性がある。
- シンゴジラはモンスター映画に見せかけた危機管理映画。政治や意思決定などの日本特有の文化が下敷きになっており、日本人はそれを楽しみ、外国人には理解の障壁になった。
シンガポールでは日本のアニメなどサブカルチャーへの理解が深く、最大イベントAFA(アニメ・フェスティバル・アジア)では7万5千人の集客(主催者発表)を誇ります。複数日のイベントでの延べ人数ですが、人口560万人のシンガポールでは、1%強が参加しているお化けイベントです。
と言うわけで、AFA観光。見渡す限りのヲタw コスプレしてないほうが、アウェイの感覚ww 入場チケット、$13もする、たかっ! pic.twitter.com/qbX7O2qzbO
— うにうに (@uniunichan) December 6, 2014
※注: シンガポールでもアニメファンは "Otaku" と自称していますが、日本のスクールカーストにおかれているような"下層"の"恥ずかしい"という位置づけではないです。スポーツ、音楽鑑賞などと同列の趣味の一つ。彼らは自虐的にならずに堂々と「自分はオタクだ」と言ってのけます。これは多民族国家であり、他人の宗教・文化・価値観は尊重(不干渉)すべきとの考えが徹底しているためと、私は解釈しています。
最初から世界市場で売ることを想定しているハリウッド映画では、ポリティカル・コレクトネスを踏まえ、できるだけ多くを想定顧客にできるような恋愛や勧善懲悪がテーマに選ばれています。シンゴジラも「君の名は」も、日本で高評価だから海外でも頑張って売ってみるか、という作品のはずです。そしてシンゴジラは、少なくともシンガポールでは観客との間に大きなギャップがありました。「君の名は」は舞台が日本ですが、若者の恋愛がテーマなので、日本の外でも受け入れられやすいはずです。
「君の名は」は封切りからまだ3日。日本だけでなくシンガポールや世界でもヒットになるか、シンガポールでは現在の満席の勢いを持続できるかは、オタク地元民の基礎票を超えて、外に波及できるかにかかっていますが、私には展開がよめません。
シンガポールに日本人長期居住者は3万人強、0.5%と少なくない人数がおり、大半を占める駐在家庭の経済力の高さから結構な存在感があります。しかし、邦画の上映でも日本人を見かけることはあまりありません。物価の高いシンガポールですが、映画は日本の半額で見られます。2Dの「君の名は」だと900円(S$12.5)です。日本人の皆様も、たまには映画館にも出かけられてはいかがでしょうか。
おまけ:「君の名は」最新の動員状況
封切り後4日目の動員状況です。8つの上映映画館のうちから、主要と判断した4つの予約状況を見ました。引き続き、9割ほど売れている模様です。
「君の名は」シンガポールで17:30の予約状況。映画館の3つは9割以上埋まっていて、上映まであと1時間半ある1つも7割ぐらい売れている。すげぇぇぇ pic.twitter.com/fQcmHrpdTR
— うにうに (@uniunichan) November 6, 2016