今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

統一教会を追い出したシンガポールのやり方(と創価学会との関わり)

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。安倍晋三元首相が亡くなって関連記事の3つ目です。

  • シンガポールでの暗殺報道

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  • シンガポールでの反共産主義の時代

uniunichan.hatenablog.com

  • 統一教会の非合法化と対応

「日本は統一教会に今後も居場所を提供するのか」が問われています。統一教会を非合法化して追い出した国があります。シンガポールです。今回の記事は、「シンガポールがどうやって統一教会を追い出したか」を書きます。

カルト対策の踏み込み方は国の価値観

カルト対策となると、日本では「信教の自由」や「寄付は自分の意思」といった視点での議論が起きます。違法薬物を自分の意思で行っても刑事罰を受けるのと同じで、いくら本人の意思で納得していても、社会問題化すれば、どの段階で政府が介入するかはその国の価値観です。
シンガポールは政府が家父長的で、個人の価値観や社会規範への踏み込みが大きいことはよく指摘されますが、統一教会に関しては、政府姿勢が社会的影響を減らしています。
シンガポールが最大公約数としての公共の福祉を優先するあまりに、自由への制約が大きいことは知られています。ですが、自由を優先した国の一つが、自衛する自由がある銃社会でカルト大国のアメリカなのは、念頭に置かれるべきです。
日本はシンガポールになれませんし、大半の人は好ましいとも思っていないでしょう。かと言ってアメリカも、その病んでる部分をなぞるのは御免なはずです。その中で、日本はどこにしきい値をおきたいかの価値判断が、今、求められています。

シンガポールと統一教会

非合法化された統一教会

シンガポールで統一教会は禁止されています。スッパリ、キッパリ、禁止です。されて40年にもなり、シンガポールで影響は弱いです。今回の暗殺事件で、統一教会がシンガポールでも再度脚光を浴びましたが、「シンガポールでは禁止(ban)」と国内最大手新聞であっさりと解説されています。対岸の火事ですね。

カルトと批判され、シンガポールでは禁止されているが、世界的にはとりわけ日本と米国で未だに盛況な、議論がある宗教グループが統一教会
the Unification Church, a controversial religious group that has been labelled a cult by critics and banned in Singapore, but is still thriving globally, especially in Japan and the United States.

シンガポールにおいて、統一教会が禁止されるまでの概略です。

  • 1976年3月: Tongilシンガポール社という韓国朝鮮人参の輸出入企業が設立される。企業の設立は、米国人・日本人・シンガポール人の3人。
  • 1980年9月: 世界基督教統一神霊協会を団体登録。その後、国内3箇所に教会を設立。
  • 1981年中旬: 大学キャンパスで多くの人を積極的に勧誘。
  • 1982年4月: 外国での頻繁な騒ぎから、セクトとして監視していた政府が、団体を禁止。

・ストレートタイムズ紙 (1989年8月12日): How the movement took root in Singapore

シンガポールにおいて、統一教会が禁止された時に、官報が出ています。

世界基督教統一神霊協会
世界基督教統一神霊協会は、1980年9月29日に、団体法 (Societies Act) で登録された。全ての団体と通常会員が、シンガポール国民であることを憲法は求めている。外国や外国人から基金を団体が受け取らないことを、規定は要求している。
会員は国民に限定されているのだが、Tongil社の経営責任者が、外国人であり、団体運営に大きな役割を果たしていることが、調査で判明した。その者は、団体基金を管理し、講演と勧誘を運営していた。Tongil社は、統一教会の信者が設立していた。
団体の存在は、シンガポールにおける公共の福祉と秩序維持に害があるとの根拠で、1982年4月2日付けで、内務省は団体を消滅させる。
内務省
1982年4月2日

官報から分かるのは、禁止した建付けとしては外国人の介入だが、主旨は社会問題の防止だということです。
シンガポールは、内政干渉、外国と外国人の介入をかなり嫌っています。集会の自由が制限されているシンガポールでも、ホンリョン公園という特定された場所では、集会を開くことができますが、集会に参加可能なのは国民のみです。永住権保持の外国人は、聴衆としては参加できますが、スピーチや表現活動はできません。永住権がなければ、外国人は聴衆としての参加もできません。これには、LGBTなどの権利運動も含まれ、過去にはイベントへの寄付や協賛を行っていた外資企業のグーグルやゴールドマンサックスも、ホンリョン公園でのイベントへの寄付や協賛もできなくなっています
つまり、受容度が高い日本では、外国人による反捕鯨デモ・中国人本土派や香港人民主派による香港に関するデモなどが行われていますが、主旨を問わず、シンガポールでは国籍制限で外国人はデモをできない、ということです。外国人がデモを行うと、「外国人は自国の問題をシンガポールに持ち込まないように」という警察声明がこれまでも繰り返し出ています。

1982年に禁止された統一教会ですが、その後1989年にも社会問題になっています。宗教団体としては解散させられましたが、企業としては活動継続をしていました。もちろん、企業では宗教活動はできないのですが。

統一教会の活動にシンガポール人は距離を置くようにと警察は警告している。メンバーは「ムーニー (Moonies)」と一般に呼ばている。
文鮮明牧師を代表にする教会はシンガポールで禁止されている、関わりを避けるように勧告すると、警察広報は今週語った。
団体法 (Societies Act) において、非合法団体の運営者は、最大5年の刑務所になる。集会に参加した会員は、最大$3千の罰金か、最大3年の刑務所か、その両方になる。
1982年に禁止されたムーニー活動が、8月20日~23日のロンドン大会に若者を積極的に勧誘しているのを、本紙が報じ、警察の警告が続いた。
(中略)
同時に、シンガポールでのムーニー活動のリーダーが、本紙に抗議文を書いた。
統一教会のメンバーだと公言しているその人物は、朝鮮人参輸入企業のTongilシンガポール社の役員であり、統一教会への偏見だと政府役人の意見を引用した本紙を非難した。

文鮮明は、Sun Myung Moonとなることから、ムーニー (Moony) です。

シンガポールで統一教会はカルト。出版は制限

シンガポールでは、輸入出版物への若者への規制があります。統一教会はカルトと評価されており、名指しで規制対象になっています。日本で言う有害図書扱いです。

序文
4 以下は許されない:
(ii) エホバの証人、統一教会 (ムーニーズ)、神の子供たち (ニューワールドビジョン、愛の家族)、サイエントロジーといったカルトの出版物。

シンガポール憲法での、信教と結社の自由への制限

シンガポールでも信教の自由は憲法に記されています。ところが、権利に制限があることが憲法に記載されており、詳細は一般の法律で行う作りになっています。
シンガポールの憲法には結社の自由もあります。そして、案の定、憲法にある結社の自由は、法律での制限を受けます。
シンガポールで、統一教会を規制するツールとして政府が使ったのが、団体法です。

創価学会をフランスはカルト認定したが、シンガポールでは政府と共存

統一教会は、フランスでカルトとして分類されています。フランスでカルト分類された中には、創価学会も含まれています。
シンガポール政府は統一教会を非合法化しましたが、創価学会とはシンガポール政府は親密です。歴史も古く、シンガポール建国からわずか7年後の1972年に適法に団体登録されています。

シンガポールで、最も重要な政府行事は建国記念日パレード(NDP)です。それに40年前から参加しています。昨年も参加し、"SINGAPORE SOKA ASSOCIATION"のクレジットが全国放送されました。また、国内に"創価幼稚園"もあります。
慈善団体として登録されているものに、"Soka Gakkai Singapore"があります。団体の目的としては、「日蓮仏教の理解と実践の促進。平和・文化・教育を促進するコミュニティプログラムを通じて、仏教の人間主義の精神に基づく、社会の幸福を促進」とのことです。財務状況も公開されており、2021年には、約S$1,300万(13億円)の寄付を集めています。

シンガポールは"明るい北朝鮮"だからできたのか (追記)

追記です。
コメントが"明るい北朝鮮"祭りになってうんざりしています。
まず、シンガポールを"明るい北朝鮮"と呼んでいるのは日本のみです。世界的にシンガポールは"明るい北朝鮮"と呼ばれていません。"bright North Korea"あたりでググって下さい。日本発の文書しか出ませんから。一般のシンガポール人すら、そんな呼称は知りません。知っているのは、日本関係のシンガポール人のみで、日本人からわざわざ聞かされるとウンザリしています。
「シンガポールは"明るい北朝鮮"と呼ばれている」とのコメントですが、呼んでいるのはあなた自身です。価値観を含む呼称への責任を、世間に押し付けないで下さい。
シンガポールを"明るい北朝鮮"と呼びはじめたのは、日本の某大新聞だという話を聞いたことがあり調べましたが、裏が取れていません。

"北朝鮮"呼称が間違っている理由ですが、政権が普通選挙で決まることです。シンガポールは建国以来、50年以上、与党PAPが選挙で勝ち続けており、一党支配になっています。選挙は投票の秘密は守られ公正で、つまり、国民は与党PAPを選挙で信任し続けており、一党支配は国民の選択なのです。日本も自民党が勝ち続けていますが、強制投票制度もあり100%近い投票率で、日本より積極的に政府が信頼されているのがシンガポールの状況です。
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選挙で選ばれるシンガポールの国会議員MPは、エリートであると同時に、国民への奉仕者です。多くの議員は、毎週数時間、決まった時間を特定・公開して、選挙区民と一対一で会い、あらゆる陳情・苦情を聞き、行政が解決できないかの相談にのっています (Meet the people session)。ご近所トラブル、経済的困窮、医療補助、年金、住居(HDB)などなどです。世話をすることで、次回選挙での勝利も与党は呼びこむ狙いもあります。シンガポールでの選挙戦は、日本の街宣車での名前連呼ではありません。日本では10年程度の期間で、政治家と話したことがある国民はほぼいないでしょう。あっても、業界団体や宗教団体経由での集団挨拶が大半なはずで、個人として相談・陳情をしたことがある人はまずいないでしょう。(日本でもっとも近いのは共産党の活動だとは思いますが、共産党なので利用にはためらいがあるでしょう)

シンガポールでの統一教会の非合法化も、「公共の福祉に害がある」との目的のために、使える法律を運用した印象がぬぐえないのは確かです。シンガポールは政府の権限が大きいのですが、それが国民の大半には良識をもって適切に運営され、国民も信任しているマレな国です。それを飛び越して、"明るい北朝鮮"というのは脳内停止です。実態と大きくずれた呼称なだけでなく、ラベリングで「シンガポールを分かったような気になる」ことでタチが悪いです。

シンガポールのトップダウンのやり方を、日本で実装できないのは同意ですが、「明るい北朝鮮だからクソ」と元首相暗殺にまでになり、失敗した日本が言う立場にはないでしょう。なぜに失敗した日本が、社会的影響を抑えるのに成功したシンガポールにふんぞり返れるのか。日本が「シンガポールは明るい北朝鮮だから、社会的影響を排除できてもクソ」と言い切れるのは、「(たとえ元首相を失い、社会的影響を被っても)信教・結社の自由は今後も絶対だ」という固い決意がある場合のはずですが、そうではない意見が盛り上がっています。
日本が今後も現状のままなら、社会的影響は排除できず、関係者は自己責任におかれ、2世信者や信者家族を代表とする自己責任ですらない人への影響は継続します。そういうケースであっても、信教・結社の自由を日本が優先するかが問われているのが、元首相暗殺の一側面だと理解しています。
日本は日本のやり方で、自由と公共の福祉のバランスをとって欲しいと思っています。


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勝共連合が芽吹いた時期に反共国家の基盤を作ったシンガポール

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
安倍晋三元首相が射殺されました。
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安倍晋三元首相の暗殺で、容疑者が恨みを持った統一協会、その政治団体である国際勝共連合への注目が当たっています。
勝共連合は岸信介元首相の後ろ盾で1968年に設立されました。シンガポールの独立は1965年です。日本でも東南アジアでも、反共産主義は当時の権力中枢との親和性が高かったのです。

シンガポールの話になると「あぁ、シンガは華僑の国で中国の衛星国家だから」という中途半端にかじった見解を持っている人がいます。
アホか
という説明を、当時の反共を巡る動向から行います。
確かにシンガポールは中華系が国民の70%を占める国ですが、民族は国の要素の一部に過ぎません。出身と国民意識の違いは、最近ではウクライナでも散々取り上げられています。シンガポールは、国の成り立ちからして反共国家でした。忘れている人がいますが中国は共産主義国ですから、シンガポールは中国との距離の置き方に繊細です。

この記事では1960年頃の"反共"のシンガポールと東南アジアの空気と、それがシンガポールの国民意識をどう形成したかを書きます。

マレー半島の先っぽにある点がシンガポール

シンガポールの簡単な独立経緯は、「マレー民族主義をとるマレーシアが、中華系が人口の大半を占めるシンガポールの扱いに手を焼いて、マレーシアからシンガポールを追い出した」というものです。「移民してきた中華系が、原住民マレー系を数で圧倒し独立した」というのは時々聞く嘘っぱちなので、気をつけましょう。水さえも自給自足できていなかったシンガポールは、マレーシアの後ろ盾なしには国として成立しない、というのが当時のコンセンサスでした。シンガポール独立演説で今後の行く末に不安いっぱいだったリー・クアンユー首相は、涙を流しています。

この当時の自由主義陣営国が頭を抱えていたことがあります。「どうやって共産主義者を政権から排除するか」です。しかも排除なのに、民主主義の制度で行う必要があります。共産主義者は、選挙で過半数をとることはありませんでしたが、各国で労働組合等を下部組織として一定の支持を得ていました。共産主義革命を実現するための憲法停止といった体制転覆が目標であり、暴力闘争や過激なストライキも手段としたため、非合法化する国がありました。
岸信介氏がCIAで様々な支援を受けていたのは有名ですが、リー・クアンユー首相もCIAからアプローチを受けています。違いは、リー・クアンユー首相がCIAからの賄賂(330万米ドル(1961年当時))を蹴ったことです。

共産主義者を利用した後に、叩き潰したリー・クアンユー

シンガポールの共産主義者

シンガポールで共産主義者は戦前から活動していましたが、日中戦争後の反日活動に注力することで、労働者の支持を得ます。第二次世界大戦勃発後は、宗主国イギリスへの反抗をひとまずは置き、反日扇動に集中。太平洋戦争が開始し、日本軍がマレー半島に上陸した数日後に、マラヤ共産党はイギリスに、刑務所にいた党員釈放を条件にイギリスに協力を打診し、イギリスは同意。シンガポール防衛の最大志願兵は共産主義者でした。シンガポールが占領された後にも、ゲリラとして抵抗運動を継続させています。
戦後は、帰ってきたイギリスと一旦は協力し、イギリスも活動を認めます。ですが、その後、イギリスの転覆と、共産主義による国の設立に戻ります。労働組合での激しいストを行ったことで、イギリスは多くの共産主義リーダーを逮捕。運動を過激化させ、1948年に3人のイギリス人農園主を殺害したことで、マラヤ共産党やフロントの労働組合は違法団体として宣言されます。

リー・クアンユー氏は、政権が強固になるまでは、共産主義者を含む急進左翼と手を組んでいました。これは、裕福な家庭出身、イギリスに国費留学するエリートで、当初は中国語を話せなかったリー・クアンユー氏では、選挙で広範な支持を得るのは不可能との判断のためです。



マラヤ首相から、共産主義者の追放をマラヤとの統合条件にされていたリー・クアンユー氏は、Lim Chin Sionを含め100人以上検挙する"オペレーション・コールドストア"を公安部隊が実施。裁判無しでの勾留を行います。Lim Chin Sion本人は共産主義者であることを否定していました。これで、共産主義者と政敵が一掃されます。
シンガポールでの共産主義者の抗争は、オペレーション・コールドストアで大勢が決します。シンガポールはマレーシアの州として統合され、その後の総選挙で与党PAPは得票率47%、議席占有率73%を獲得。国民から信任を得ます。ですが、民族衝突暴動などがあり、1965年にシンガポールはマレーシアからの独立を強いられます。

自民党・日本政府は共産主義への対応として、勝共連合等を利用しましたが、共産主義の"脅威"が冷戦終結で消え去った後も関係が続いています。その一方、シンガポールでは、共産主義者と手を組み、政権を取った後には公安問題にして叩き潰すことで精算しています。海外に事実上の亡命をし、シンガポールへの影響力を失った人(Lim Chin Sion)もいます。
結局は、「みそぎを済ませたシンガポールと、取り込まれた日本」とも対比できるでしょう。

反共国家のシンガポールは、共産党が支配する中国と距離を置く

それでは、最初の
アホか
の説明に戻ります。シンガポールは建国経緯からも強固な反共国家です。中国は中国共産党の国です。民族・文化としての親近感や、祖先の出身地という以上に、共産主義の脅威への対応を国として重視していました。民族としての親和性があるのに、イデオロギーが異なり、国としての独立を守るために、シンガポールは中国への警戒をゆるめていません。2017年にも、シンガポール国立大学教授(元中国人、当時米国人、シンガポール永住権取得者)をスパイとして追放しており、シンガポール政府は国を明言していませんが、中国のスパイとみなされています。
日本の中国との国交樹立は1972年ですが、シンガポールと中国の国交は1990年とかなり遅れました。今でも台湾とのバランスを重視し、シンガポールは台湾と共同軍事演習を行っています。

シンガポールは、主要民族である中華系・マレー系・インド系のリンガフランカとして旧宗主国の英語を標準語に採用しています。英語はその後にシンガポール経済発展の原動力となるのですが、英語教育を推し華人・華語教育を低下させることで、共産主義の拠点となっていた中国の影響を削ぐ目的も当時はありました。徹底した警戒です。

政府とズレてきた民意

中国と距離を置き、シンガポール人としてのアイデンティティを築いたシンガポールですが、経済的には中国の発展の尻馬に乗っています。
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中国は、国民平均としてはまだ発展途上国です。富豪の中国人もいますが、一般的には、先進国シンガポールで中国人は、軽く見られているのが現状です。それに変化が見られつつあります。

「習近平氏を信頼」が70%いるシンガポール

米調査機関ピュー・リサーチ・センターの先進17ヶ国対象の調査(2021年)で、シンガポールでは「習近平氏を信頼」が70%に達しました。日本では、「習近平氏への不信感」が86%もありました。日本の真逆です。

これほどの中国への高評価には、私を含め、他のシンガポール関係者も首をひねっています。が、私は外国人であり、私の観測範囲は現役世代ホワイトカラーが中心であり、バイアスを否定できません。中華系高齢者などを含めた結果と、まずは受け止める必要があります。TikTokやWechatといった中国アプリや中華テック利用での親近感という指摘もあります。
「経済的には中国、政治軍事的には米国を中心にする政策を、エリートは使い分けてきたが、国民は中国に流されつつある」ということです。政府エリートは「賢いシンガポールは是々非々で中国に対応できる」と思っていたのかもしれませんが、国民レベルまでそれがほころびつつあることを示しています。
現在ではそんな気配は見えませんが、将来的にはエリートと国民のギャップが広まるか、エリートも侵食されると、シンガポールが中国の衛星国となる可能性もゼロではなくなっています。

安倍晋三元首相死去を受けたシンガポールの反応

うにうに@シンガポールウォッチャーです。
7月8日に安倍晋三元首相が銃撃で死亡しました。
事件についての経緯や背景は、国内で十分に報道されています。シンガポールでの反応をまとめます。

シンガポールとの蜜月: 安倍晋三元首相とシンガポールの関係

安倍氏については、私のシンガポール記事でこれまで何度もふれていますが、シンガポールでは肯定的に評価されています。長年、首相を務め、海外にも顔が見える珍しい日本人になっていました。シンガポール政府と首相に、安倍氏が感謝されたのは、(国内の反対を押し切って)リー・クアンユー初代首相国葬への日帰り参列と、ナザン大統領の葬儀に個人で訪れた最初の外国人指導者だったことでしょう。
否定的なのは、2013年の靖国参拝で、これにはシンガポール外務省が遺憾の意を公式に出しています。
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親しかった安倍氏とシンガポール首相

「ロン・ヤス」のロナルド・レーガン米大統領と中曽根康弘首相との関係のように、個人的なつながりは、外交・世界政治で役に立つのか、そもそも個人的なつながりを本当に持てているのか、というのは日本で話題になります。
リー首相も安倍氏も特に触れていませんが、この2人の仲は特別のものがあったと、私は見ています。リー首相が3歳年上と年齢が近く、共に政治家家系で、リー首相はプライベートの長期休暇で度々日本を訪れ日本文化への評価が高いです。
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昭恵氏にも触れるシンガポールメディアの報道

銃撃が発生したのは7月8日11時31分です。最初に報道したシンガポール主要メディアはテレビ局のチャネルニュースアジア(CNA)でした。30分後には、12時01分(日本時間)に第一報が出ました。日本のキャスターとも同時中継が始まります。
続くメディアは、最大新聞のストレートタイムズ紙です。こちらはツイッターで12時18分に第一報を流します。

その後も、シンガポールメディアは銃撃事件と、安倍氏について、かなりの記事を出しました。銃撃事件の詳細から始まり、各国の反応安倍氏の功績日本での政治家暗殺の歴史シンガポールの日本人コミュニティの反応容疑者が宗教団体を動機にあげていること、安倍昭恵氏についても記事が出ました。

亡くなってからは、シンガポールのネットメディアでは、こういう感傷的な動画を作るところまで現れています。

ストレートタイムズ紙は安倍氏への社説を出しました。「アジアの未来を形作る安倍氏のレガシー」との題で、概ね、肯定的評価です。

安倍晋三氏という進歩的な指導者を世界は追悼し、近年で最重要の政治家の1人をアジアは失った。
引退しても、(国内では)影の将軍と呼ぶ者もいた。
国外では安倍氏は、トランプ大統領を細心の注意で活用し、アジアに米国を定着させた。ASEAN加盟国全てを訪れ、後の首相も訪問を優先させた。
暗殺は悲劇だが、日本社会や政治を一般に反映していない。参議院選のように日本は穏やかに対応し、日本の民主主義制度が破れたわけではない。安倍氏が支持してきたアジアでの責任ある役割を日本が演じる課題は、他のものに引き継がれた。

シンガポールの政治家の反応

長期政権だったこともあり、シンガポールの著名政治家は全員が安倍晋三氏と面識があります。外交においては、一定期間の政権維持と、メッセージを出すことの重要性が分かります。

リー・シェンロン 首相

最も敏感に反応したのはリー・シェンロン首相です。銃撃から、わずか4時間後にFacebookでメッセージを出しています。添えられた写真は、2ヶ月前の5月の訪日の際に、安倍氏と会った時のものです。


安倍氏の死去を受け、追悼もFBに加筆され、ツイッターに投稿されました。

安倍氏が亡くなったニュースで打ちひしがれています。衝撃的で痛ましい事件です。安倍昭恵夫人、日本の皆様に、心からお悔やみ申し上げます。

ハリマ・ヤコブ 大統領

シンガポールで大統領は、実権がほぼなく、儀礼上の扱いが中心です。制度上は直接投票で選ばれますが、ハリマ氏は、対立候補の立候補がなく、無投票当選でした。

安倍氏と最後にお会いしたのは、徳仁天皇の即位式でした。
困難な時期に、安倍氏、ご家族、日本の皆様が強くありますように。

ローレンス・ウォン 副首相

シンガポールで次期首相になるとみなされている方です。

安倍晋三元首相が亡くなりショックで悲しんでいます。2013年に安倍氏がシンガポールを訪れた時に、私は随行した大臣でした。日本経済を復活させる彼の計画を聞き、彼の決心と強さを思い出します。

ヘン・スイキット 副首相

2019年の日本訪問時の、安倍首相との温かく建設的な話をしたのを思い出します。ひたむきで、力のあるリーダーだったことを思い出します。シンガポールとの長年の友人でもありました。ご家族と日本の人々にお悔やみ申し上げます。

ビビアン 外務大臣

シャンガム 内務大臣

警察などを国内治安維持を管轄するシャンガム氏は、銃規制が厳しい日本でおきた銃撃事件に、危機感を持っていることが分かります。他国であったとしても、政治家暗殺事件は、政治家にとって他人事ではありません

テオチーヒン 上級相

最初にお会いしたのは、自由民主党で幹事長代理を務めておられる時でした。2018年の東京での日経カンファレンスでお会いしました。
お悔やみ申し上げます。

安倍氏の幹事長代理は、2004年9月 - 2005年10月です。かなり昔に会っているように、副首相も勤めたベテラン政治家です。

ホー・チン 首相夫人

とても悲しい。
とても、とても、悲しい…
リー首相と私は、安倍首相と奥様と、数週間前に昼食をとったばかりでした。
安倍氏は思慮深く、世界と日本の行く末を深く考えている人でした。世界と日本のより良い未来のために全力を尽くす愛国者でした。
昭恵さん。心よりお悔やみ申し上げます。日本は親孝行な息子(a good son)を失った。ご冥福をお祈りします。

シンガポール政府の反応

シンガポール政府は外務省から弔事を公式に送っています。
リー・シェンロン首相名義で、岸田文雄首相宛にです。リー・クアンユー初代首相の国葬、ナザン大統領への弔問に、政府と首相が本当に感謝しているのが伝わります。

岸田文雄首相
約10年、安倍氏と働く名誉を授かりました。安倍氏のシンガポールとの密接な絆は、2015年のリークアンユー初代首相の国葬、2016年のナザン元大統領の遺体への参加で明らかで、シンガポールは大変感謝しています。
リーシェンロン

便乗犯

テレビ局CNAのFacebookページの安倍晋三元首相への発砲ニュースに、暴力の脅迫コメントを投稿した男性45歳を逮捕しています。警察は、通報を受け5時間以内にFBユーザを特定し、逮捕されました。ノートPC、タブレット、携帯4台が押収されています。報道では国籍に触れていませんが、警察発表では、中国籍とのことです。具体的なコメントについては、開示がありません。
「アベ○ネ」が特に問題が無い日本とは異なる国です。

在シンガポール日本大使館での弔問

弔問記帳が行われます。当然ですが、日本人以外も参加が可能です。

(日時) 7月12日(火)及び13日(水)10時から17時まで
(場所) ジャパンクリエイティブセンター(4 Nassim Road, Singapore, 258372) https://www.sg.emb-japan.go.jp/JCC/map.htm
(その他)
・事前の登録や連絡は必要ありません。
・駐車場はありません。

半旗が掲げられた在シンガポール日本大使館。2022年7月8日 https://www.straitstimes.com/asia/east-asia/in-pictures-ex-japanese-pm-shinzo-abe-murdered



リー首相も記帳に訪れました。

リーシェンロン首相が弔問に日本国大使の山崎純邸を訪れた。リー夫人を伴い記帳をした。
別に、日本クリエィティブセンターJCCに日本人の一群が訪れていた。今日、約400人が記帳を行った。献花をし、涙目の人もいた。シンガポール人女性50歳は「日本旅行が好きで、美しい安全な国であるのを安倍氏は助けた」65歳の男性僧侶は「冥福を祈りに来た」

シンガポール国民感情

把握はなかなか難しいのですが、シンガポールでの国民感情です。
シンガポールの掲示板で「米国/台湾/バングラデシュ/ネパール/インドが安倍氏に半旗を掲げる。シンガポールはすべきか?」というスレッドが立ちました。

・No優勢
「第二次大戦のシンガポール華僑虐殺事件で日本は多くを殺害し、安倍は帝国主義者だ」
・Yes劣勢
「国父リークアンユーの葬儀に安倍は出席した」
となっています。第二次大戦の虐殺があるから、今でもシンガポール国民感情として日本政府の話では指摘されますが、それでも
「安倍首相は国父リークアンユーの葬儀に出席した」
の話になると、その方々も言葉に詰まる。
「外交儀礼上、安倍氏の葬儀には特使を送るべき」には彼らも反論がないのです。ネット掲示板で母集団が偏っていますが、意見としてはこうなっています。


日本の内政への期待は、私はゼロです。シンガポール在住を続けている理由の1つでもあります。安倍政権には価値観・経済政策・不祥事対応を代表とするほぼ全てに、私は否定的な評価です。しかしながら、残りの部分である対シンガポール政策では、二国間の関係強化で恩恵を受けているとの思いはあります。
将来の予測を当てるのは、ただの当たり外れだとおもいますが、「第一線を退いた後に鮨をつまむ安倍晋三氏とリーシェンロン氏の目撃情報」を当てるのは、シンガポールウォッチャーとしてすごい心待ちにしていました。実現しないのが確定しました。残念です。

https://twitter.com/leehsienloong/status/544794367081209856


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