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(新型肺炎)シンガポール政府が「健康な人はマスクをするな」と言っているのはなぜか

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
シンガポールで物議を醸しているのは、新型肺炎コロナウイルス対策で、
シンガポール政府が「健康な人はマスクをするな」と言っている
ことです。

「健康な人はマスクをするな」はロイターでも記事になりました。

これには2つの意味があります。

  1. マスクは、感染者の飛沫防止には役立つが、健康な人の予防効果はない。
  2. 健康な人が使い出すと、在庫がなくなるから。

マスクでは健康な人の飛沫感染を予防できない

日本でもシンガポールでも、マスクは飛沫感染予防に役立つと信じられています。皮膚に直接、つばやくしゃみが触れなくなるためです。
シンガポールでは、ヘイズ (インドネシアからの煙害) で微粒子のPM2.5が呼吸器に入ることを防ぐために、N95マスクが推奨されたため、マスクには異物を取り込むのを防ぐ効果があると思われています。日本での、花粉に触れるのを減少させる効果に、感覚では近いでしょうか。

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N95マスク
ところが、コロナウイルスについてはそうではない、というのがシンガポール政府の見解です。
シンガポール政府そのものではないのですが、地元最有力紙で政府と近いストレートタイムズが簡単に説明しています。

マスクは具合が悪い人のためのもの。着用者が他の人にウィルスを移すのを妨げることを意図しているが、その逆はない。"
Masks are meant to be worn only by people who are unwell. They are designed to prevent the passing of a virus from the wearer to other people, not the other way around.

マスクは、ウィルスを広域に飛ばすのを防ぎ、周囲の人が飛沫感染するリスクを下げますが、マスクをしている本人が予防されることはありません。
自分のためにではなく、周りの人のためにするものが、マスクです。

未発症者が他人を感染させることはない

「発症していない感染者が感染させるから、マスクは必要」という主張もありますが、シンガポールでは、「発症前の感染者は、ウイルスを保有していても、他人に感染させることがない」というのが政府の見解です。

マスクの在庫は無限ではない。具合が悪い人への優先供給が必要

政府のポスターにこう書かれています。

倉庫と政府備蓄には十分なマスクがあります。もし、我々が責任ある使い方をすれば
There are sufficient masks in the warehouses and government stockpiles, if they are used responsibly.

つまり、
健康な人が(効果がないのに)マスクを使いだせば、在庫がなくなる
という意味です。

政府は、政府備蓄のマスクを137万の一般家庭に放出することを決めました。各家庭につき4枚なので、合計520万枚です。これにはNRIC (国民・永住者のマイナンバー) が必要なので、外国人家庭は対象外と思われます。
現在、シンガポール国内でマスクの売り切れが続いており、入手困難です。

高額転売する者(転売ヤー)が出てきて、罰金と禁錮がある価格統制法 (Price Control Act) の適応を政府は言及しています。実際に、ECのQoo10は、マスク30枚をS$1万 (80万円) の値段をつけていた出品を、取り下げました。

政府が配給するタイミングで、具合が悪い本当に必要とする人だけがマスクを使うようになれば、マスク供給不安を解消できることを狙っていると思われます。これは「健康な人はマスクは不要」が理解されるのが前提になるため、今のタイミングでメディア経由で広報を再度図っているようです。

通常時であれば、日本も含めマスクの扱いは
マスクの装着方法が正しければ、しても悪いことも(良いことも)ないから、したければすればいいんじゃないでしょうか
ぐらいのトーンが普通です。(薬でない健康食品にも似たトーンですよね)ところが、供給を満たせない現状では、そこから政府不信につながるのを避けるため「健康な人はマスクはするな」と踏み込んで言い切っているのでしょう。

上記2点の理由を合わせると、
健康な人がマスクはしてもしなくても効果が同じなので、需要が暴騰している現状では、使って在庫を減らすな
ということになります。
シンガポール政府の主張が正しければ、「コロナウイルス対策に、日本でも健康な人はマスクは不要」ということに、もちろんなります。

シンガポール政府が勧めている予防

シンガポール政府が勧めている予防は、

  • 石鹸と水で手洗いをしよう

です。ウィルスの感染経路としては、(飛沫感染より)エレベーターのボタンや、ドアノブにさわった手が、自分の顔を触ると説明しています。そのため、推奨は、石鹸を使った手洗いです。たとえ手に菌がついても、手洗いで殺菌することで予防に効果的です。

なぜシンガポール人があぜんとしたのか: 政府の紆余曲折

ここからは余録です。シンガポールウォッチャーの仕事をしますw
政府が「健康な人はマスクをするな」と言い出した時に、シンガポール在住者の反応は「健康でない人がマスクをすると飛沫を予防できるのは分かった。が、健康な人がしても、飛沫が届くのを防げるだろう。政府は国民を健康危機にさらすのか」という怒りが一部でうずまきます。
この理由は、マスクは装着者への感染予防に役立たないことが、一般的に知られていないから、というのもありますが、もう一つあります。
新型コロナウイルス上陸の初期段階で、政府は(N95マスクではなく)サージカルマスクを推奨していたためです。
当時の保健省 (MOH) のコロナウイルスFAQページは以下の記載がありました。

ウィルス感染の減らすために、マスクを着けるべきですか?サージカルマスクか、N95マスクのどちらでしょうか?

サージカルマスクが推奨されます。ウィルスの拡散を減らし、一般人が使うにはより実用的だからです。粒子の大きな飛沫が着用者の口と鼻に到達するのを防ぐのに役立ち、着用者の唾液や呼吸分泌物が他の人にかかるのを減らします。
着用にはきついN95マスクは、推奨されません。適切に着用されれば、息苦しくなるようにデザインされているためです。

今は上記文章は消えています。原文は私は保存しておらず、上記は私の以前の記事からの翻訳のみです。ですが、同じ内容が1月22日のストレートタイムズ紙に残っています。

トップ感染症専門家と保健省 (MOH) は、一般人が武漢ウィルスから身を守るには、薬局から飛ぶように売れているが、N95マスクに頼るべきでないと、発言している。
1月22日(水)に、その代わりに、サージカルマスクがより適切とのことだ。
保健省オペレーションダイレクターのKoh Peng Kengは「一般人は、もし自分が病気になれば、フェイスマスク、通常のサージカルマスクを使い、N95マスクを使わないことをアドバイスする」と言っています。 (略)
サージカルマスクは、ウィルスの拡散を減らし、一般的な仕様により向いている。粒子の大きな飛沫が着用者の口と鼻に到達するのを防ぐのに役立ち、着用者の唾液や呼吸分泌物が他の人にかかるのを減らします。

保健省の発言ですね。
「したければ、装着方法や使い方で害になりやすいN95マスクでなく、楽なサージカルマスクをしてね」だったのが、「(オマエラが騒いで在庫がもう危ないんだから)健康なら役に立たないマスクなんかしてんじゃねぇぞ、おまえら」に変わったということです。
当初の政府の意図は「具合が悪い人はするべきだ」であり、それを伝えるために「健康な人はしても気休め」(粒子の大きな飛沫がマスク着用健康者の口と鼻に到達するのってどれだけレアなんだよ & その状況だと大きくない飛沫がどうせガンガン入ってるぞ)のトーンを落としています。
需要緊迫から「健康な人はマスクをするな」まで一気に持っていったので、国民は置いてきぼりにされたわけです。

参考
  • 厳格なシンガポールの新型肺炎対応を日本と比較~末永恵氏の事実誤認記事(クーリエ・ジャポン)~

uniunichan.hatenablog.com

  • シンガポールでのコロナウイルスの最新情報

uniunichan.hatenablog.com

シンガポール首相がSNSでも「健康ならマスクは不要」を直々に広報しています。

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シンガポール政府ポスター"Do not wear a mask if you are well"

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