今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

東京とシンガポールの1人あたりGDP、どちらが大きい?

日本とシンガポールの1人あたりGDP

内閣府の国民経済計算確報を受けて、「1人あたり名目GDP(国内総生産)がOECD20位は、1970年以来」「香港をも下回った」との報道がなされました。
日本経済新聞: 昨年の1人あたりGDP 日本転落、OECD20位 70年以来最低、円安響く
内閣府: 平成26年度国民経済計算確報(フロー編)ポイント
特に同じアジアのシンガポールと1人あたりGDPの差が開いていっていることから、

  • 日本(人口1.3億人)と、都市国家であるシンガポール(人口550万人)との比較は無意味だ
  • 都市での比較であれば、東京都(人口1300万人)はシンガポールより強い

などという指摘がなされています。一つの指標(1人あたり総生産)のみで、全てを把握することはできませんが、それでも比較してみましょう。まずは、日本とシンガポールの1人あたり名目GDPの推移です。
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[日本の一人当り名目GDP(1960-1995年)]内閣府 政策統括官室(経済財政分析担当): 世界経済の潮流: 項目別経済統計
[日本の一人当り名目GDP(1996-2014年)]内閣府: 平成26年度国民経済計算確報(フロー編)ポイント
シンガポール統計局: Per Capita GDP (S$ and US$)


戦後は日本がそれほど圧倒していたわけではありませんが、高度経済成長期以降は日本がぶっちぎっていました。シンガポールも順調に成長を続けています。1997年からのアジア通貨危機を受けて一時停滞します。
しかし、日本はバブル経済崩壊後のゼロ成長から抜けられず、2007年にシンガポールが日本を抜き去ります。
金融危機(リーマンショック)で一瞬日本が巻き返しますが、その後はシンガポールは日本との差は更に拡大して現在に至ります。
2014年で日本3.6万米ドル、シンガポール5.6万米ドルと、2万米ドルの差がついています。

1人あたり総生産: 日本,東京都,シンガポール

次に、シンガポールを世界最強都市の一つ、東京都と比べるとどうでしょうか。
※GDPは Gross Domestic Product 「国内総生産」です。国でない東京などの都市に「GDP」という表現はしないので、ここでは「総生産」とします。

国/都市 1人あたり総生産米ドル(2014年)
東京都 $57,572
シンガポール $56,284
日本 $36,230

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東京都: 国との比較(一人当たり都内総生産等)
東京都: 都民経済生産 (※2014年、東京都名目総生産は93兆円、人口は1339万人、一人あたりGDPは695万円 = US$57,572)
[為替 (米ドル/日本円: 各年の終値)] Principal Global Indicators: Market Sector
※データの始点が2001年なのは東京都のデータがそこから始まっていたためで、他意はありません。


2001年では東京はシンガポールに3倍の差をつけて圧倒していますが、シンガポールは着実に成長をし、差はじわじわと詰められています。2005年以降は2倍の差にまでなっていますが、この時点では東京は踏ん張っています。それが崩れたのが金融危機と、2014年アベノミクスでの円安のダブルパンチです。2014年では東京が辛うじて勝っていますが、差は2%しかありません。
2001年から2014年の年平均成長率 (CAGR) は、シンガポールは7.7%、日本は-0.2%、東京は0.8%です。シンガポールの成長は成熟経済に入り、近年、昨年比数%まで落ちてきていますが、それでも成長を続けています。

上記の表は米ドルベースですが、日本円で見るとよく分かります。
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東京は、2008年の金融危機で1人あたりGDPが、それまでの780万円から700万円に低下し、その後は回復していません。つまり、東京とシンガポールとの差が拮抗するようになったのは、

  1. 日本はゼロ成長のなか、シンガポールが着実に成長続けている
  2. 東京が金融危機から、いまだに回復できていない
  3. アベノミクス時の円安

という3つの要因です。日本は高齢化が進行することで、人口が減少し、生産年齢人口比率が低下しています。生産年齢人口比率は1990年代前半の70%弱をピークに、2014年は61.3%に落ち込んでいます。これでは、国民1人あたりでの経済成長には厳しいものがあります。また、日本の人口も減少していることで、国全体のGDPが厳しいのも同様です。
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総務省統計局: 人口推計(平成26年10月1日現在)‐全国:年齢(各歳),男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級),男女別人口‐

都市国家・移民国家シンガポールの強み

シンガポールが強いのは、ASEAN(東南アジア諸国連合)+中国+インド等を、商圏および人材供給地点として活用しながら、国が別であるため社会保障を提供不要なことです。ハブ国家を自称するシンガポールは、進出企業に低負担であるために、低負担低福祉の小さい政府となっています。そのため、永住権を取得するまでは移民外国人からは社会保障費を徴収せず、各種社会保障は自己負担か勤務先負担になっています。仕事が終わると労働ビザが切れ、帰国になります。つまり、シンガポールを魅力ある勤務地にすることで、人材を呼び寄せています。
労働者が母国でないシンガポールで好き好んで働く理由は、自国より高待遇(仕事がある、貯金ができる、母国に仕送りができ家族親戚を養える)なことです。送り出す国としても、外貨を獲得できることや、特に技能労働者やホワイトワーカーであればシンガポールでの就労経験を帰国後に母国で活かせることから、基本的に相互にメリットがあります。

東京と地方との人の循環

シンガポールは、移民が関係者それぞれへの利益となりながらも、将来への負債とならないように巧みな制度をひいています。東京はそうはできません。高度経済成長期に日本の地方は、都市部への人材輩出地点となりましたが、同じ国内での移動であって、つながりは残っています。日本の地方からの「社会人になるまでの教育や、高齢者の介護を負担している地方に、東京は還元すべきだ」という主張をないがしろにすることは、今の日本では無理でしょう。

東京23区なら…

「東京23区なら今でもシンガポールに圧勝のはず」という意見もあります。市区町村単位での総生産は発表されておらず不明ですが、確かに、付加価値が更に高い23区のみなら、東京全体より高い数字がでるでしょう。ですが、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」→「東京最強」→「23区こそが」→「港区だと」という流れでは撤退戦で、物悲しい雰囲気が漂います。

私自身の仕事のためにも、日本と東京の経済復活を念じております。



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