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日本のあっち、シンガポールのこっち

南洋理工大学?ナンヤン工科大学?NTU? Nanyang Technological Universityをめぐる呼び方

私立大学が有力な国と、国立大学が有力な国とがあります。シンガポールは後者、国立大学が有力な国です。国名と一致した覚えやすさと、日本人の国立大学信仰で、シンガポールではシンガポール国立大学(NUS)ばかりが知られていますが、他にも国立大学や有力校があります。NUSについては以前少し記事にしていますが、今回はそれ以外の国立大学の一つNanyang Technological University、通称NTUを取り上げます。

NTUはTechnologicalと付いていますが、文系学部もある総合大学です。QS世界大学ランキング(2013年)でNUSの24位につぎ、NTUは41位と有力校です。看板の一つはMBAで、Financial Times世界MBAランキング(2013年)ではNTUは32位、NUSは36位です。2013年には医学部も始まりました。シンガポールの大学評価については下記リンクを参照下さい。
・「シンガポールのワーホリビザはトップ大学のみに発行」の背景: シンガポールは自国の大学と同レベルの大学を求めているに過ぎない

シンガポール人は "ナンヤン テクノロジカル ユニバーシティ" と正式名称は日常会話では滅多に使わず、"NTU" (エヌティユゥ) とシンガポールらしい3文字略語で言っています。
英語表記は問題ないですが、日本語で

  • ナンヤン工科大学
  • 南洋理工大学

という表記があります。何故2つもあるのでしょう?どちらかが"正しい"のでしょうか?

Nanyang Technological Universityの表記

これが表記です。

正式名称 (英語) Nanyang Technological University
正式略称 NTU
正式名称 (中国語) 南洋理工大學
正式名称 (マレー語) Universiti Teknologi Nanyang
正式名称 (タミル語) நன்யாங் தொழில்நுட்ப பல்கலைக்கழகம்

日本語で見かけることがある「南洋理工大学」は中国語です。
校名に正式な言語があるのは、私が確認した限り、シンガポール公用語の四言語のみです。

日本語は「ナンヤン工科大学」で!

日本語では、英語表記 ”Nanyang Technological University" に基づく訳語の「ナンヤン工科大学」を使うのが妥当です。理由をまとめます。

  • シンガポールは(大学の観点では)中華圏でなく英語圏
  • 大学自身が対外的に英語の "Nanyang Technological University" を使っている
  • NTUの公用表記は、国の公用語に準じ4ヶ国語。英語と主要民族母語3つ。中国語表記のみを行うのは、他公用語マレー/タミル語への配慮が欠ける

(中国語での表記の際には、マレー語・タミル語の併記を検討すべき)

  • 日本は中華圏でないので、(中国語でなく)現地の標準表記である英語を優先すべき

シンガポールで、中国語はマレー語・タミル語と同等の公用語。標準語は英語

シンガポールにおいて、主要民族の母語である中国語・マレー語・タミル語に加え、リンガフランカとしての共通語である英語の4言語が、公用語の指定を受けています。各言語は対等ですが、英語が共通語として、行政・ビジネス・法律などで使われ、家庭内を含む日常生活や実務上で最も一般的です。
(注: 特別な地位があるのはマレー語です。今では意識することは減ってはいますが、ナショナルラングリッジはマレー語です。国歌や軍点呼に使われています)

マレー語・タミル語を差し置いて、中華圏でない日本語で中国語表記をことさら取りあげる(優遇する)のは、シンガポールでは民族調和の視点で注意すべきです。
NTUは、教育と研究を英語で行う、英語圏の大学です。中華校ではありません。学内で中国語は標準利用されておらず、中国語ができないマレー系学生やインド系学生も学んでいます。NTUは対外的には、"Nanyang Technological University" (NTU) と英語表記をしています。マレー語やタミル語表記を差し置いて、中国語表記をするのは不適切であり、中国語表記をするのであれば、マレー語・タミル語との併記を検討すべきです。
NTUの正門にある石碑では、英語表記が大きく、その下にマレー語・中国語(繁体字)・タミル語が併記されています。
news.unair.ac.id
中華圏でない日本語での表記は、大学が対外的に示している英語に基づくべきです。

南洋理工大学は中国語

南洋も理工も日本語ではありません。

南洋は中国語と日本語で異なる

日本人が「南洋」を「ナンヤン」と発音するのは、予備知識がなければ不可能です。何も知らなければ、大半の日本人は「なんよう」と読むでしょう。
古語として日本語でも南洋がありますが、明治時代以降の軍事進出である"南洋論"からの語法であるため、今では使われなくなり歴史用語です。シンガポールで使われている南洋は、もちろん日本語の南洋ではなく、「中国から見て南にある大洋海」の中国語です。語源も意味も異なります。

Technologyを理工と訳すのは中国語

英語では "Technological" ですが、それを「理工」とは日本語に訳しません。日本語で理工だと、science and engineeringです。
ここは知人の中国人へのヒアリング結果を含めた話です。
Technologyの中国語訳は、理工か技术(日本語では"技術")です。
大学では一般的に理工の語が使われますが、science universityでは技术(技術)が使われます。例えば中国の大学名ではこうなります。

  • 中国科学技术大学: University of Science and Technology of China
  • 北京理工大学: BEIJING INSTITUTE OF TECHNOLOGY

NTUのWikipediaの日本語ページを見ると、大学名が南洋理工大学で、サイトURLも南洋理工大学です。これは不適切でしょう。日本人が中途半端に中国語を推測できることが、混乱を招いています。

南洋も、Technologyを理工と訳すのも、中国語での語法あって日本語ではないのですから。

中国語の固有名詞は中国語表記で?

面白いのが、NUS (シンガポール国立大学) の中国語表記である"新加坡国立大学"は、日本語でまず見かけません。シンガポール初代首相リー・クアンユーにも、"李光耀"と中国語表記しないのが、日本語では大半です。それなのに、NTUだけには突然、南洋理工大学と中国語で書く日本人が出てきます。
新加坡は完全に中国語だし、光耀って漢字を覚えて書ける日本人の方が少ないからでしょう。NTUのみを、南洋理工大学と日本語でも表記するのは、南洋理工が平易な漢字だから、という理由が大半と推測されます。
NTUを南洋理工大学と書く人は、NUS (シンガポール国立大学) を新加坡国立大学、LKYを李光耀と書いて下さい。マレー語・タミル語との扱いでのリスクはありますが、固有名詞の中国語表記の一貫性はそこにはあります。

日本語訳はナンヤン工科大学

NTU教職員や学生などの関係者が独自の判断で、校名を「ナンヤン工科大学」や「南洋理工大学」と和訳していることはありますが、大学が正式に日本語名称を提示したこと、私が調べた限りありません。
日本の文部科学省サイトを見ても、記事執筆時点(2013年12月)でナンヤン工科は110件、南洋理工は31件で、ナンヤン工科が有利ですが、両表記ともに使われています。

シンガポールは、中華系が住民の多数を占める国家ですが、中国ではありません。中華系以外にマレー系・インド系が主要民族です。英語が、多民族国家での共通語であり標準語です。
大学は(中華圏とマレー語・タミル語以外には)対外的に英語のNanyang Technological Universityを利用しており、南洋理工大学が日本語として成立しないため、日本語表記はナンヤン工科大学が妥当です。


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