今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

シンガポールで地震リスクが考慮されない理由 ~地震より戦争を脅威とする国~

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
日本や周辺国で地震が起きると、シンガポール在住日本人は、

  • 「シンガポールで地震が"絶対に起きない"だなんて、誰に分かるんだ」
  • 「シンガポールのヒョロヒョロ高層ビルで、地震が起きるとひとたまりもない」

という不安が飛び交います。
もちろん、世の中確率が100%の事象はほとんどなく、シンガポールで地震が起きる可能性もありますが、交通事故のような現実的なリスクではなく、「無視してよいレベル」です。

ユーラシアプレート

最寄りの震源地から400Km

シンガポール政府がどう考えているかは、プレートテクトニクスを理解している地震国の日本人への説明に、この絵で十分でしょう。
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シンガポールで地震が起きた記録はありません
シンガポールはユーラシアプレートにのっかっています。
シンガポールは最寄りの地震源であるスマトラから400キロメートル離れており、ゆれが吸収されるのに十分な距離です。400キロメートルというのは、東京から大阪の直線距離です。大阪で地震が起きても、東京への影響は微弱ですよね。それと同じです。
プレート境界は、環太平洋火山帯のインドネシア・マレーシア・フィリピンに含まれており、シンガポールからはるか彼方です。

シンガポールにある断層

地震が起きるメカニズムでは、海溝型地震の他に、プレート内部で発生する内陸型地震もあります。内陸型地震は、断層から知ることができます。
シンガポールにも断層があります。最近見つかったものは、ジュロンとイーシュンですが、2億年前のものです。当然、活断層ではありません。地震のリスクは当然なく、留意点は地下を掘る時に地盤が弱い可能性がある程度とされています。

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https://www.straitstimes.com/singapore/ancient-fault-lines-found-in-yishun-jurong-during-digs

シンガポールの建物の耐震設計: EN1998 Eurocode 8

現在、シンガポールで使われている耐震設計は、Eurocode 8のEN1998というものです。

Eurocode 8は欧州EU圏で使われている、ビルの構造設計標準です。その中に耐震設計のEN1998が含まれています。Eurocode 8は、2013年4月1日から利用開始となり、旧制度との2年間の共存以降期間を経て、2015年4月1日から一本化されました。EN1998は、イギリスでは、原子力施設・大規模な橋架・高層建築物で使われているものです。
シンガポールではEN1998を「20メートル以上のビル」に適応するので、全てのコンドミニアムはEN1998設計になります。理由は、コンドは5階以上である規制があるからです。

EN1998が適応された建物は、新しい建物でも、多くは無いでしょう。
Eurocode 8の前の設計基準はどうだったのかというと、英国基準を採用していました。英国基準がEurocode 8に取り込まれ、2010年から英国基準の改定が中止されたので、シンガポールでもEurocode 8の採用を決めたのが理由です。英国基準では、耐震設計はありませんでした。イギリスもシンガポール同様に、地震がない国です。
シンガポールの建物が危険だという人は、イギリスも危険だ、と言うべきです。

地震にビビるシンガポール人

シンガポールでは震源から遠く離れていますが、余波の揺れが伝わることがあります。大きいものでは、2004年、2007年、2012年です。最も古い記録されているものは、1833年です。シンガポールでは、年に1,2回の揺れを観測しています。

地震慣れをしていないシンガポール人は、震度2ぐらいの体感で、動揺して避難を始めます。日本旅行中に地震にあって肝をつぶしたシンガポール人の話はたまに聞きます。それを話のネタにするのは日本人の定番ですが、天変地異は「しないほうがよい苦労」なので、多少の地震に動揺しない日本人が度胸が座っており、高評価なのかは謎です。

自宅の向かいのホテルで、宿泊客が一斉に降りていくのが見えたわ。私が自室から出るまでに、ゆれが収まったから、私は降りなかったの。ゆれで目が覚めたのはぞっとする体験だったわ。

津波も考えにくい

シンガポールでは地震による津波の影響も受けにくいです。陸塊で囲まれており、マラッカ海峡は平均水深は約25メートルと浅いシンガポールは、津波から守られています。

赤道直下のため、自転の影響(コリオリの力)で台風も発生しません。
シンガポールがデータセンターの集積地になっているのは、先進国であり社会インフラんが整備されており、政治が安定し、自然災害が起きにくいことがよく理由にあげられます。
シンガポールは天変地異から守られた恵まれた国なのです。

シンガポールでは地震より戦争が現実的な脅威

国土の小ささから、原発導入を断念したシンガポール

その一方で、リー・クアンユー元首相は、2008年の講演で「石油とガスの真に代替になるのは核だ」と評価しながらも、「原発を導入すると30キロメートル離す必要があるが、マレーシアの30キロメートルに入り、シンガポールの国土では無理なため、断念した」と語っています。この際には、特に事故原因として地震には触れておらず、包括的な安全対策として、30キロメートル離すことが必要と語っています。

地震より戦争

シンガポールでは、天変地異より、戦争の方が現実的な驚異として捉えられています。
1996年以降に作られた共同住宅では、ボムシェルターの設置が義務付けられています。国民の8割が住む公団HDBでは、各家庭に設置されています。現実的には物置として使っている家庭が大半で、住居が狭くなるため不評であっても、政府は方針を改めません。コンドによっては、各家庭ではなく、階段にボムシェルターの機能を持たせているところもあります。

地震の心配は、日本人バイアス

100~150年間隔で発生する南海トラフ地震など、地震の脅威が側にあるのが日本です。
外国の「文化」を日本と同じ基準で期待してはいけないことは知られていますが、気候についても同様です。日本人は「地震が起きないことを前提にしろ」と言われても拭えない体験からの強いバイアスがあります。
シンガポールは地震がおきない前提の国の設計です。ほぼゼロの確率のことに、社会にどこまで負担させるかは、その国のポリシーです。耐震設計より20年も前に、ボムシェルターを各家庭に装備させた危機管理の国がシンガポールです。

天変地異の脅威を感じることが少ないのは、たとえそれがその国の人々の努力の結果でないにせよ、日本がシンガポールを素直にうらやんでいいことなのでしょう。




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