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「シンガポールで未成年が妊娠し、両者とも未成年の場合、男子は厳罰、女子はおとがめなし」は嘘: 刑法376A

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
下記のツイートが1万回以上も共有されました。世間話をツイったら、炎上したのが明らかなので、リンクは張りません。

シンガポールは未成年が妊娠し、両者とも未成年の場合、男の子の方が厳しく罰せられる。罰金(親が払うんだろうけど)少年院行き(最長10年)。女の子の方は被害者で特にお咎め無し。最近長男に彼女ができて、お家に遊びに行ったりもしてるからちょい心配になって、法律のこと話したら、毎週のように学校で先生からそういう話があって全部知ってるそうです。私は全然知らなくて、ちょっとびっくりした。

え...なぜかこのツイ伸びてて
私の言ってること正しいのか気になって調べてみたんですが、実際のケースでは数ヶ月〜数年の保護観察処分になることがほとんどのようです。少年院まで送られることはめったにないのかな。。でも判決が下りて、犯罪者扱いになるのは間違いない。

これが炎上したのは、

  • 女性の妊娠リスクを現実的に評価しているという肯定意見

と、

  • 男女差別であり、不当な法律だ

という論点があるからです。未成年者への性犯罪からの保護と、本人の選択のバランスの問題では、シンガポールは「同意があっても違法」と完全にパターナリズムをとっています。

論点とは別に、元ツイへはシンガポールの制度の視点から、以下のようにコメントできます。

  • 女性も加害者・犯罪者になる。また、同性愛でも犯罪になる。
  • 妊娠を犯罪の構成要件とする刑法はありません。
  • シンガポールに法定成人年齢はないが、一般に21歳です。

シンガポール刑法376A

シンガポール刑法376Aの話と思われます。これは、16歳未満との性行為を犯罪化するものです。

376Aを要約します。

  • 16歳未満との性行為は犯罪。10年以下の刑務所か、罰金か、両方。
  • 14歳より上16歳未満で、かつ、生徒と教師のような搾取関係では、20年以下の刑務所か、罰金か、鞭打ちの、組み合わせ。
  • 14歳未満では、20年以下の刑務所か、罰金か、鞭打ちの、組み合わせ。
  • 性器を使わずに、体やそれ以外のものを使った場合でも、犯罪。
  • 16歳未満の男性を誘った場合でも、犯罪。 (女性主導や男性間同士でも犯罪)
  • 被害者の同意は免責にならない。婚姻関係での同意でのみ免責。
14歳から16歳、16歳から18歳、18歳以上

一言で言うと、16歳未満との性行為はシンガポールでは犯罪ということです。

両者が14歳未満では、法律上では両者有罪ですが、起訴しない運用がとられているとのシンガポールの女性権利団体awareの文書があります。16歳より上で18歳未満の場合には、教師と生徒の関係のように、搾取がある場合に、15年以下の刑務所か、罰金か、鞭打ちの、組み合わせになります。(刑法376AA)
「18歳以上だと思っていた」との主張は、以前に同種の性犯罪を行っておらず、18歳以上と確認する妥当な手順を踏んでいる場合に、認められます。(刑法377D)

元ツイ誤解をうんだ事案

376Aへの保護観察処分は、加害者が17歳、被害者が15歳で適応されている事例があります。15ヶ月の保護観察処分となり、親がS$5千(約40万円)の保釈金を支払っています。この件では、女性は妊娠・出産となり、子どもは養子になりました。
この事件が独り歩きし、女性は15歳で刑法376A被害者の年齢だが、男性は17歳で被害者にならない年齢のために保護観察処分となり、「未成年女性を妊娠させると、両者とも未成年の場合、男性のみが厳罰」という元ツイの誤解がうまれたと思われます。

「男性のみが犯罪者」という昔の法解釈が「男性は厳罰」という誤解をうんだ

「男性は厳罰」という誤解は、以前の法解釈から、アップデートされていない可能性があります。
法律の原文の一部を訳します。

376A. -- (1) いかなる人 (A) であっても、
(a) Aの男性器を用いて、事件当時に16歳未満の (B) の、女性器・肛門・口唇を貫くことは犯罪。
(b) Aの肉体 (もし男性であれば、Aの男性器以外)や他の何かを使って、事件当時に16歳未満の (B) の、女性器・肛門を貫くことは犯罪。

「貫く」の原文はpenetrateです。このため、加害者が女性であれば、376Aは成立しないのではないかとの法律論争が以前からありました。

トランスジェンダー男性による13歳女性への性犯罪

この法律論争が現実化したのが、2016年の裁判です。
39歳加害者女性が、13歳被害者女性と合意のもとで性行為をおこないました。被害者が家族に伝え、発覚。加害者女性は、普段は男性としてふるまうトランスジェンダーで、性行為中に人工性具を使っていました

最高裁は、「376A(1)(b) は女性に適応されない」、「"男性器を持っている人"は女性にはありえない」、立法時の国会での女性犯罪の懸念に触れながらも「条文の明確な表現にしばられている」「女性も対象にするなら、国会で法律が修正されるべき」との解釈で、無罪にし、別の性犯罪で8ヶ月の刑務所を課します。
その後、控訴審において、逆転有罪になります。控訴審裁判長は「376A(1)(b)は性的に区別がなく、女性違反者にも適応できる」として、「Aの男性器以外」という条文は、男性器での貫通以外の性的な貫通全てに当てはまると解釈しました。



つまり、未成年者の妊娠で、男子のみが罰せられる法律はシンガポールには存在しないので、ネット議論は無駄だったということです。




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