今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

「駐在ですか?現地採用ですか?」海外日本人村を分断する身分格差

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
お怒りの投稿が、ツイッターで流れてきました。


「アホ」という強い言葉を使うほどなぜ傷ついているのか、という背景についてです。

世の中には、発言している方は全く悪気は無いが、言われた方は大いに傷つく言葉、というものが多くあります。
「駐在ですか?(現地採用ですか?)」
は海外日本人村でのその一つです。もちろん、すべての人が傷つくわけではありません。聞かれた人が駐在の場合は「駐在です」で終わりですし、現地採用でも気にしない人もいます。大半の現地採用は、悪気はないのは分かっているので聞き流しますが、良い気はしていません。

駐在とは、日本の勤務先に在籍したままで、海外赴任をしている人のことです。駐在手当や現地家賃などが福利厚生として提供されるため、日本でより羽振りが良くなるのが一般的です。現地採用は、海外現地での雇用契約であり、待遇は特に発展途上国勤務だと現地の雇用水準プラスアルファ程度が相場です。現地民よりかは良いのですが、駐在にははるか及びません。役職も違うとはいえ、家賃なども含めた待遇格差は、先進国でも倍、発展途上国では数倍にもなります。

※参照: 駐在と現地採用の待遇格差について
uniunichan.hatenablog.com

質問した人と、質問された人とでの、焦点のズレ

「こっちに駐在で来ているんですけど」
という発言でも同様ですが、発言者の意図は明確です。
「私は勤務先の業務命令で、海外赴任をしています」
というものです。通常、それ以上でも以下でもありません。特定界隈では"駐妻"というものにステータスがあるのと同様に、駐在にステータスがある生態系もありますが、海外在住日本人の大半は駐在です。この会話をしている相手も駐在であることが多く、特にマウンティングできるわけでもないからです。

ところが、質問された現地採用は、駐在ではないという雇用体系の違いや、そこから来る待遇・経済力の違いまで含めて意識させられるのです。
「駐在か現地採用かというのが、お前にどう関係あるんだよ。役職なら名刺渡してるだろ」
という反発が生まれます。
質問している駐在員は、悪気はありませんし、相手が傷ついているとも知りません。人の足を踏んだ人は、踏んだことにも気づいていない、大したことがないと思っています。

現地採用を見下す人々

質問をする人の中には、「駐在なら責任者だが、将来的には帰国前提。現地採用ならスタッフ・リーダーレベルで、帰任はない。というのを確認したい」という人がいます。しかし、役職はそれこそ名刺で分かります。3年から5年で帰任する駐在員が多いのは確かですが、待遇や将来性の無さから同じ日系企業で働き続ける現地採用者もまれです。結局は、「ご出身はどちらで?」に類似した会話のつなぎが、相手が不適切だったので反発される、ということです。

困ったことに、現地採用と聞くと見下していると受け取られる態度をとる人も少数ですがいます。露骨に関心を失ったり、無視してコミュニケーションから外してくる人たちです。理由は、自分と異なるコミュニティに相手が所属しており、なおかつ、自分がメリットを得られない人間関係だからです。相手の人となりではなく、相手の社会的地位で物事を判断する人といって良いでしょう。

駐在、現地採用は身分制度

「正社員ですか?派遣ですか?」

「駐在ですか?」という質問がいかにセンシティブかは、日本では、
「正社員ですか?派遣ですか?」
の質問にたとえられます。「海外で働いている事情は」「当地での付き合いがどれぐらい長くなるかに関わる」「別に事実を聞いてるだけだし」と言ってる人たちも、このたとえを説明するとさすがに言葉につまります。本人の事情や動機なんか何だっていいのです。駐在・現地採用というのは、正社員・派遣と同じ身分制度なのです。例外もありますが、派遣が仕事ができれば正社員になれるわけでないのと同様に、努力や成果で現地採用が駐在になれるわけでもないのです。現地採用のキャリアパスの先に、駐在があるわけでないのが絶望の縁です。平社員が課長・部長に昇進するのとは違うのです。現地採用が駐在になるには、日本本社への転籍が必要です。仕事ができるのは当然として、現地法人の強い推薦と、本社の予算と在籍に空きが必要です。
人生の積み上げの結果で、派遣だったり、現地採用をやっているわけですが、それと仕事への能力は直接的には関係していません。入り口が違うのが最大の理由です。仕事のパフォーマンスと、待遇がリンクしているわけでないのが、身分制度が非難されるべき理由です。

外国人は大学名や勤務先を聞かないのか?

本記事の初めのツイッターで言及されている「外国人は大学名ではなく、勉強した科目聞くし 企業名でなく、業界を聞く」について。
少なくとも私の環境では、大学名も勤務先も聞かれます。
これは、バックグラウンドが近く、同じコミュニティに属している相手であれば、聞くこと自体が失礼にあたらないからです。駐在が駐在に「駐在ですか?」と聞いても「駐在です」と返事されて終わるのと同じです。初めて会う人と話をするにあたって、類似の属性を探してそこからから話の糸口にしようとするのは、一般的です。「NUS(シンガポール国立大学)に行ってたんですけど、今も勤務先が隣駅のワンノースのアップルなので、いまだに学生気分で」というように。これが、本人が国立大学卒で、話している相手が私立大や海外校の可能性が高いと思われれば、共通の属性とならないため、こういう無意味な話題は避けられます。むしろ、学部での専攻や、有名企業でなければ業界や職種を話したほうが、共通項が得られる可能性が高いでしょう。

つまり、このツイートの方は、「海外の大学なので聞いてもどうせ分からない」「自分のコミュニティ外の外人枠だから大学名を聞いても接点にならない」と思われているのではないでしょうか。私の今の環境での判断ですが。
そもそも「外国人」と主語が大きい時点で、このツイートを読む側にも注意警報が出て良いところです。

「海外で働いている私、すごい」

海外で働いていると、"海外ハイ"な時があります。「海外で働いている私、すごい」という高揚感です。
ところが、日々の生活では、職場では駐在に指示された翻訳や雑用をして、家に帰ると他人とルームシェア(フラットシェア)で完全なプライバシーがなく、日本人独身男女が女性に偏っていることからパートナーを作るにも苦労し、永住権のハードルがあがっていることから就労ビザ更新に冷や冷やするのが、シンガポールでの現実です。年金も大半は納めておらず、日本のセーフティネットを自分で捨てた結果とはいえ、滞在国の社会保障からも漏れています。将来をうっかり直視すると、不安は底知れぬものがあります。
高揚感をぶち壊して、現実に連れ戻す質問が「駐在ですか?」なのです。このギャップの深さゆえ、傷つき方も大きいのです。

強く生きてください

すすめませんが、希望もゼロではないシンガポールの現地採用

現地採用への風当たりでいうと、シンガポールは恵まれています。金融フロント、医師、弁護士、外資系企業専門職という、高給であったり社会的地位が高い現地採用者がいる国だからです。さきほど、「現地採用は絶望の縁に立っている」と書きましたが、そこにいない人たちです。「日系企業の現地採用」=「苦労している」、というのは発展途上国勤務の現地作用と同じ評価ですが、駐在並かそれ以上に稼ぐ現地採用もいることは知られています。海外でも日本人としての生活を、家族を持っておくることができる人たちです。

※参照: シンガポールでの現地採用の給与水準です。
uniunichan.hatenablog.com

海外日本人村は階層化しています。駐在と現地採用の分断は埋められません。駐在は現地採用のことを全く気にもかけていませんが、多くの現地採用は駐在を強く意識しています。現地採用が強く生きるには、結局は稼ぐことに尽きます。

  1. 駐在に転籍
  2. 稼ぐ自営
  3. 外資系企業専門職
  4. 日本に凱旋帰国して欧米外資系企業勤務

が、成功した現地採用出身者のキャリアパスです。
いずれもかなり困難な道のりです。努力以上に、景気と運にも左右されます。そして最も可能性が高いのは、海外に残留する1, 2, 3ではなく、4.の日本での凱旋帰国です。安易に海外就職をする前に、本当に海外就職での一か八かのキャリアパスが、日本でのキャリアパスより優れているかを、慎重に検討されることをおすすめします。
強く生きてください。


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