今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

シンガポール職種別給与相場 最新版 ~現地採用のケース~

日本より安いシンガポール給与

「セカ就」という名前まで付いて海外就職をあおられる時代。アジアの先進国は香港とシンガポール。「発展途上国は給料安いし、治安もなぁ」と考える人にはシンガポールは魅力的。そんな人が、さてシンガポールで就職活動を始めると驚く事になります。求職者本人は「東南アジアの南の島にまでリスク取ってわざわざ行くんだから、日本での現職から2割は給与が上がらないと移る理由がない」と人材会社のエージェントに堂々と言う端から「給与は日本での2割ダウン。ほとんどの方は月給$3,000から$5,500の間になります。面接の渡航費はご自身での負担になります」と言われて、呆然とするわけです。
(注: 上記記述は2017年執筆当時のものです。今(2023年)では、$3,000~$5,500の仕事はビザがとれないか、就労ビザSパスの外国人枠が希少となり、配偶者ビザDPを期待した求人が大半になっています。現地採用でも$8,000以上の仕事は珍しくなく、ジュニアな経験者が応募することは困難になっています。またビザの制約に加え、円安の進行で、シンガポールの方が給与が高いケースも増えています (2023年2月追記))
「えっ!?シンガポールの一人あたりGDPって日本より高いんじゃあ!」
と早とちりされた方。データを見ましょう。

日本 シンガポール
一人あたり名目GDP(米ドル):(世界銀行2015年) $34,523 $52,888
一人あたり購買力平価GDP(米ドル):(世界銀行2015年) $40,763 $85,382
給与 420万円 (国税庁 平成25年民間給与実態統計調査) 約380万円 (MOM 2016年フルタイム月給中央値S$4,056)

ちなみに、日本では、男性が給料が高く、就業者が多く、女性は非正規雇用が多いことが分かります。

  • 給与所得者数: 男性 = 2,831万人、 女性 = 1,963万人。
  • 平均給与: 男性=521万円、女性=276万円
  • 雇用体系: 正規=485万円、非正規=171万円

統計から見ても、一人当りGDPはシンガポールが日本より5割も高いのに、給与はシンガポールが日本より1割安いです。からくりはこうです。

  • シンガポールは日本より共稼ぎ率が高いこと。特にフルタイムでの共稼ぎが多いこと。
  • シンガポールの富裕層移民が、GDP平均値を押し上げること
  • シンガポールの単純労働移民が物価を押し下げることが、特に購買力平価の上昇を大きくすること

給与以外も含まれますが、世帯所得中央値だとS$8,846と、月給中央値S$4,056の倍以上になることからも、シンガポールでの労働参加率の高さが分かります。

日本人向けの日本と同じポジションでは、私の体感では、給与相場はシンガポールでは2割引きになる印象です。アベノミクス円安が始まる前は4割り引きの印象だったので、為替が理由で差は縮小しています。
額面給与に対して、税金が安いというプラス要素と、社会保障が自己負担で退職金がなくなる等のマイナス要素を計算した後に、「それでもシンガポールでの仕事を選ぶのか」を決断することになります。
金融専門職などのように高給与サラリーマンほど節税恩恵を受けやすく、低給与であれば社会福祉が自己負担であるデメリットが増します。シンガポールでの税効果を確認するにはこちらを参照ください。
uniunichan.hatenablog.com

現地採用と駐在

本記事は、いわゆる"現地採用"で働く場合の話であって、日本の企業に在籍したままで"駐在"で働くのであれば、日本の給与相場を維持し、駐在手当・住宅手当などもろもろの福利厚生が付きます。シンガポールと日本での待遇の違いを確認するにはこちらを参照ください。
uniunichan.hatenablog.com

シンガポールでの高給取りとは月給$1万以上

日本では「年収1千万円」が高給サラリーマンの目安ですが、シンガポールでは「月給$1万以上」です。今は1シンガポールドルが80円前後なので、月収80万円、年収1千万円です。日本は年収で考えますが、シンガポールでは政府統計を含め、色んな基準が月収です。私も年収の方が、収入が年で平均化されて良いかと思いますが、文化の違いですね。
就労ビザで言うと、両親への滞在ビザのビザスポンサーになれるEP(旧EP P1)が基本月給$1万以上になり、高給サラリーマンと言ってよいでしょう。これがPEPという就労ビザでは$1.2万が必要になります。

  • 日本: 年収1千万円超は4.3%


グラフでは重なって見えませんが、年収1千万円以上はわずかに4.3%。内訳です。

2,500万円超 0.2%
2,000~2,500万円 0.2%
1,500~2,000万円 0.7%
1,000~1,500万円 3.2%

※国税庁: 平成27年 民間給与実態統計調査: 給与階級別給与所得者数・構成比

下記はシンガポールの平均月収です。シンガポールで平均月収$1万超は10%強です。この数は世帯員あたりなので、専業主婦・子ども・年金生活者も含まれます。
「世帯月収÷世帯員あたり月収」をすると世帯の労働者数の多少が推定できます。高所得と低所得ほど労働者数が少ないのが分かります。高所得は、稼ぎが不要な専業主婦率が高いこと。低所得は、年金生活者、扶養家族の子どもが多い、病気や子沢山で働けないと推定できます。労働参加が活発なのは、世帯月収が$5,683~$10,878の中間層です。

  • シンガポール: 平均月収 (分位数)
世帯員あたり 世帯あたり 世帯/世帯員
1~10位 $543 $1,909 3.5
11~20位 $1,064 $3,907 3.7
21~30位 $1,483 $5,693 3.8
31~40位 $1,892 $7,279 3.8
41~50位 $2,339 $8,875 3.8
51~60位 $2,864 $10,878 3.8
61~70位 $3,521 $12,833 3.6
71~80位 $4,438 $15,371 3.5
81~90位 $5,958 $18,972 3.2
91~100位 $12,773 $30,175 2.4

※MOM(シンガポール労働省): Key Household Income Trends, 2016: Table 14A. Average Monthly Household Income from Work (Including Employer CPF Contributions) Per Household Member Among Resident Employed Households by Deciles, 2006 – 2016

シンガポール統計の母集団は、国民と永住者(PR)です。なので、住宅手当など各種駐在手当が支給され、所得がかさ上げされる駐在員は含まれていません。人口の2割にも迫る発展途上国からの単純労働移民(労働ビザWP所持者)も含まれていません。
日本はバブル崩壊後、何十年も「年収1千万円」が目安でした。シンガポールでは2000年の上位10%は$5,801。日本が足踏みしている間に、シンガポールは経済成長とインフレでの給与額面上昇に貢献しています。
※なおここでの上位10%の月収1.2万ドルはPEPという就労ビザの必要額に近似であることを指摘しておきます

上位10職種と主要職種の給与

2015年の労働省(MOM)統計から、総給与額上位10職と日本人に関わりそうな職種を、給与順(グロス、中央値)に抜粋しました。職種ごとに期待できる給与が分かります。

  • 月収$1万以上: 役員、金融専門職
  • 月収$6,000~$8000: マネージャー
  • 月収$5,000: 営業、IT等エンジニア
  • 月収$4,000: 秘書
職種 職種原文 総給与額 (中央値)
社長/会長/法人代表 MD/CEO $18,000
本部長 COO/GM $13,984
一般開業医/一般医 General practitioner/Physician $12,845
大学講師 University lecturer $12,115
海務監督エンジニア Marine superintendent engineer $11,500
ダイレクター(役員) Company director $11,200
法律家(法廷弁護士&事務弁護士を除く) In-house legal counsel (except judiciary, ministries and statutory boards) $10,800
金融/投資アドバイザー Financial/Investment adviser (eg relationship manager) $10,000
トレード&船舶ブローカー Trade and ship broker $10,000
金融&保険サービスマネージャー(支店長など) Financial/Insurance services manager (eg financial institution branch manager) $9,660
ITプロジェクトマネージャー Information technology project manager $8,537
CIO/CTO Chief information officer/Chief technology officer $8,500
研究開発長 Research and development manager $8,355
ソフトウェアマネージャー Software and applications manager $7,879
事業開発マネージャー Business development manager $7,697
人事マネージャー Human resource manager $6,855
工場/製造長 Manufacturing plant/Production manager $6,831
営業/マーケティングマネージャー Sales and marketing manager $6,800
デリバティブディーラー Financial derivatives dealer/Broker $6,028
法人金融営業 Sales professional (institutional sales of financial products) $5,417
プログラマー Applications/Systems programmer $5,100
会計士 Accountant (excluding tax accountant) $4,620
機械技師 Mechanical engineer $4,550
技術営業 Technical sales professional $4,442
会計監査 Auditor (accounting) $4,000
店長(小売) Retail/Shop sales manager $3,942
秘書 Secretary $3,942
看護師 Registered nurse and other nursing professional (eg clinical nurse, nurse educator, excluding enrolled nurse) $3,821
アソシエイト会計士 Accounting associate professional (eg assistant accountant, audit (accounting) executive) $3,300
シェフ Chef $3,271
レストラン店長 Restaurant manager $3,050
旅行代理店販売員 Travel agency/Service clerk $2,832
受付、カスタマーサービス Receptionist, customer service and information clerk $2,612
美容師 Hairdresser, barber and other related worker $2,543
一般事務 General office clerk $2,180
ウェイター Waiter $1,390

MOM(シンガポール労働省): Occupational Wages 2015: Occupational Wages by Industry: MEDIAN, 25TH AND 75TH PERCENTILES OF MONTHLY BASIC AND GROSS WAGES OF COMMON OCCUPATIONS IN ALL INDUSTRIES, JUNE 2015

日本人/日本語求人の賃金傾向

日本人/日本語求人とシンガポール求人の労働市場の乖離

上記MOMの資料は、シンガポール全体の統計です。そのため、日本人/日本語求人の労働市場とは乖離があります。
また、例えばプログラマーと一口に言っても、SIでの下請けから金融まで幅が広いものもあります。営業も同様で、職域と給与の幅は広いです。そのため、上記統計では粗すぎます。最終的にご自身の職種でのシンガポール給与相場を知るためには、多くの求人を見る必要があります。シンガポールでの求人票には、給与レンジの記載があるので。それに加えて、人材会社で相談、内定後の給与提示から推し量れます。

最低給与が高い

エントリーポジションでの日本人給与相場は、シンガポールの労働市場平均より高いです。
日本人がシンガポールで働くには、永住権(PR)や扶養者ビザ(DP)もありますが、一般的に就労ビザEPかS Passの取得が必要になります。EP取得には新卒であっても最低$3,600の基本月給が必要で、本人の学歴・年齢・職歴・勤務先によって更に上載せが必要です。ビザ取得での都合により、日本人/日本語求人の最低給与は、シンガポール労働市場より底上げされています。
例えば、これで恩恵を受けているのは、一般事務職です。シンガポール全体での一般事務職の月給は$2,180ですが、日本人/日本語求人であればS Passを取得するために、$3000が必要になることが多いです。しかし、一般事務職に$3,000を支払う余裕がなく、また年齢/学歴によって$4,000が就労ビザ取得に必要となるため、給与制限がないPR/DPのみを対象に採用する求人が増えてきています。なお、日本人向けの一般事務は、英語を使った日本語⇔英語のやりとりや、秘書・営業事務も含まれることが多く、シンガポールでの一般事務より業務範囲が広いのは確かです。
日本人向け日本食レストランは、ウェイターにも日本人が好まれます。しかし、就労ビザ取得に必要な給与を提示できず、PR/DPでウェイターに興味をもつ人は少なく採用困難なため、違法な給与キックバックを採用前提にする店舗が、日本人雇用でも増えています。給与キックバックの詳細は下記に記しています。
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マネージャー以上の求人が滅多に無い:

日本人/日本語求人の傾向は底が広く真ん中以上がほとんど無いことです。日本人/日本語求人では、あってもシニア専門職の求人どまりで、マネージャー以上の求人は滅多にありません。これは、日系企業であればマネージャー以上は駐在員か、外資ではローカル人材が占めているためです。そのため、日本でこのポジションの方が、シンガポールで職を探すのは、かなりの苦労です。
ポジションの数だけでなく、給与にも影響しています。日本人はたとえローカルパッケージの現地採用であっても現地人材より高い給与を期待しますが、ビザの足かせがないシニア専門職以上では、現地人材より給与が安価になる"逆転現象"が発生しています。これは日本人求人では、語学力や現地マネージメントに弱いことから、「日本人は日本語/日本人求人以外には求職できない」足元を見られていることで発生しています。

このガラスの天井を破るには、語学力も含め日本語求人を突き抜ける必要があります。日系企業だと、駐在や本社採用への転換は、成果に加えて運の要素が大きいです。外資に勤め、日系企業や日本人や日本市場を相手にした仕事から、アジア全域を担当できるグローバル人材になることです。そこにたどり着けば$1万の仕事が射程に入ってきますが、日本人メリットを活かさず、むしろ日本人がデメリットとなるこの世界に到達できる日本人はほんの一握りです。
日本人現地採用者にキャリアパスが無いこの状況は、下記に詳細しています。
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会計士

公認会計士がプレミアムな職とみなされているのは、日本特有の現象です。日本では公認会計士試験が難しいことから、医師・弁護士・会計士と難関高給士業の一角を占めていますが、海外では公認会計士(USCPAやACCA等)にプレミアムはありません。会計/経理/監査をする専門職が持っている資格の位置づけです。給与からもそれが分かるように、会計士の平均月給は$4,620です。アソシエイト会計士は月給$3,300と、秘書($3,942)より安くなります。

編注

x本記事は下記記事のデータを最新に更新し、加筆修正したものです。
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