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MM2Hで自営はできません:マレーシアのリタイアビザ

マレーシアへの日本人移住者が増えています。2011年に1万人だったのが、2012年に2万人と一挙に2倍になりました。しかしながら、日系企業のマレーシア進出は15%程度しか増えていません。日本人向けの仕事が然程増えていないはずであるのに移住者が急増しており、放射能疎開者が多くを占めていると言われています。
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※外務省: 海外在留邦人人数調査統計 より筆者にて加工

海外生活に必要になるのが、ビザと仕事です。ビザは滞在や就労に必要ですし、仕事がなければ収入がなく、経済的に窮することになります。
駐在でも現地採用でもないマレーシア移住者が使うことが多いビザは、ガーディアンビザとリタイアビザMM2H (Malaysia My Second Home) です。
ガーディアンビザは、保護者が必要な子どもへの親の滞在ビザです。滞在ビザのため、ガーディアンビザでは就労できません。
MM2Hはリタイアビザのため、こちらも原則として就労できません。リタイアした人にマレーシア国内で消費・投資をしてもらおいうという趣旨であり、投資活動は認められています。50万リンギット(約1500万円:50歳以上では35万リンギット)の財産証明、月1万リンギット(約30万円)の収入証明と、経済要件がリタイアビザの中では比較的弱く、手が届きやすいビザです。年齢制限もないことから、リタイア目的でなく長期滞在のためのビザとして使う日本人がいます。2002年以降2016年1月までに、日本人は3919人が総計で取得しており、中国人についで2番めに取得が多い国となっています。2010年までは200人前後だった取得者が、2011年には423人と2倍、2013年には739人と更に倍近くが取得しています。
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MM2H公式サイト: MM2H Programme Statistics より筆者にて加工
このMM2Hが許可している投資活動への範囲の理解で混乱が見られます。それを明確にするのがこの記事の目的です。

MM2Hでは労働不可

MM2Hは、ソーシャルビジットパスの一形態です。つまり、長期の滞在ビザです。
MM2Hでは労働はできません。公式サイトには以下の記載があります。

MM2Hパスはソーシャルビジットパスであり、MM2H参加者はマレーシアの長期滞在を許可されている。もし、MM2H参加者がビジネスをしたければ、MM2Hパスを打ち切る必要がある。マレーシアに投資を希望するMM2H参加者は当局にコンタクトしてよい。
The MM2H Pass is a Social Visit Pass and allows MM2H participant to long-stay in Malaysia. If MM2H participant intends to do business, he/she would need to terminate the MM2H Pass. MM2H participant who is interested to invest in Malaysia can contact the Malaysia Industrial Development Authority at:
MM2H公式サイト: MM2H Participants Are Not Allowed To Do Business

この文章を素直に読むと、"do business"が禁じられているので、就職して勤めたり役員就任や自営を含む一切のビジネス活動ができないはずです。ところが以前からネットを中心に「自営が可能」という噂が流れています。ロジックは下記です。

  1. マレーシアはMM2Hでの投資を歓迎している。企業への投資・所有は可能である。
  2. この投資には、自分が設立して所有する企業も含まれる。
  3. 法人に投資をできる、ということは、配当を受け取れる、ということである。
  4. 非常勤であれば役員 (director) になれるという噂がある。しかし、就業は許可されていないため、従業員にはなれないし、禁じられている労働への対価となるため役員報酬は受け取れない。

1.の投資ができることについては、公式サイトの就労禁止項目と同じページに、意味ありげに記載されています。しかし、2.の投資対象は非上場企業も対象か、4.の非常勤役員になれるとの噂については公式サイトに記載なく、確認とれません。

MM2H当局に自営が可能か聞いてみた

全ての要件がMM2H公式サイトで公開されていない可能性があるので、MM2H当局に問い合わせました。自営の問い合わせを受けた時に返していると思われるテンプレートと思われる文章を含めて、回答を得られました。回答原文と私の訳を付けます。

MM2H所持者はマレーシアに投資を許可されている。しかしながら、ビジネスを始めるために、MM2H参加者はビジネスを所有できるが、マレーシアでビジネスを積極的に (actively) 実施することは許されていない。MM2H参加者はローカル企業に投資ができるし、取締役会に参加することさえもできる。しかし、投資先企業の日々の業務 (day-to-day management) にかかわってはならない。MM2H参加者は、非常勤役員あるいは独立(社外)取締役になることができる。つまり、積極的にビジネスを運営することはできない、という意味だ。
もし、MM2H参加者が積極的にビジネスをしたい、常勤役員になるためには、 esd.imi.gov.my でPass Penggajianを申請する必要がある。MM2H参加者が積極的にビジネスをするには、MM2Hパスは打ち切る必要がある。
MM2H pass holder are allowed to invest in Malaysia. However, to start a business, MM2H participant may own a business but they are not allowed to conduct a business actively in Malaysia. MM2H participants are allowed to invest in a local company and may even sit on the board of directors, but must not be involved in day-to-day management of the company. They can be non-executive or independent director, which means that they do not run the business actively.
If they intend to run business actively and become an executive director, they need to apply for Pass Penggajian via esd.imi.gov.my. If MM2H participant intends to do business actively, he/she would need to terminate the MM2H Pass.

MM2Hでできる企業投資の活動範囲は?

これ以外の問い合わせで得た回答も含め、MM2Hでできる自営の範囲が見えてきました。MM2Hでできることに○、できないことに×をつけます。

非上場企業を含む投資
非上場企業を含む投資でオーナーになること
投資への配当の受領
従業員として雇用されること ×
非常勤役員あるいは社外取締役への就任
常勤役員への就任 ×
役員報酬の受領

法人での就任可能な役職は非常勤役員か社外取締役のみにMM2H当局は限定しています。これは「日々の業務執行をしていない」ことの形式要件です。
非常勤役員・社外取締役としてできる業務は、取締役会への出席は問題なくホワイトです。その一方で、"日々の業務"が許可されていないため、顧客や取引先との面談はグレーになり、誤解を受けたくなければ避けるべき活動になります。
社外取締役には、会社とは独立した存在であるため、オーナーや主要株主やその親族がなることはできません。つまり、オーナーや主要株主がなることができるのは、非常勤役員のみです。

役員報酬受領は労働への対価となるため違法、との理解がネットでは多かったのですが、MM2H当局は問題ないと回答しています。非常勤役員・社外取締役への就任を認めている以上、対価の有無は大きな問題ではないとの解釈でしょう。

MM2Hで自営はできない、できるのは投資と投資先の監視

結局、「MM2Hで企業の所有は良いが、自営はできない。できるのは投資と、非常勤役員としての投資先の監視・助言」というのが結論です。公式サイトに記載がある"do business"はやはり禁止するが、投資活動にとどまるギリギリの範囲ということでしょう。
※非常勤でも役員を勤めることが、"do business"ではないというのは私には腑に落ちない面もありますが、これがMM2H当局の見解です。
MM2Hを取得して自営を希望する日本人は、

  • 自営やフリーランス(例:Webデザイン・ネイルサロン・ライター等)を日本でしていて、マレーシア移住後も継続して仕事を続けたい
  • チャンスがあるマレーシアで自分で新しくビジネスを起こしたい

という理由が多いと思われますが、それには使えません。自分で業務や顧客対応をすると、"積極的なビジネスの実施"や"日々の業務"に抵触するためです。MM2Hでできるのは、

  • マレーシアで投資をするが、投資先を野放しにはできないから、非常勤役員として監視・助言

をする場合です。ハンズオンをしない投資がこれに該当します。そして、この要件での投資との関わりを希望する日本人は極めて少数なはずです。大半の自営希望者は「自営には正規に就労ビザを取得しましょう」ということです。


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