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今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

シンガポールでの新産業育成と高須正和氏「メイカーズのエコシステム」

高須正和氏「メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。」

シンガポール在住の高須正和氏が「メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。」を出版されました。「あぁ、これって、シンガポールでの新産業育成のスタート地点では」と思い当たったので、私の感想を書いてみます。

メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))

メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))

全部で5章、400ページもある本です。記述のうち、第4章の半分ちょいになる40ページを費やして、シンガポールが取り上げられています。
もともとの本の骨子は"メイカームーブメント"を取り上げたものです。ソフトウェア開発を個人でするように、ハードウェア開発を個人で楽しむことというのが私の理解です(間違ってたらごめんなさい)。私には主題のメイカーそのものにはコメント困難なのですが、メイカーを入り口としていつものように私の関心のシンガポール視点で見てみます。

第四章 政府とメイカームーブメント

  • 深圳政府とメイカームーブメント
  • 政府とメイカームーブメント」の「世界でいちばん小さい国のメイカームーブメント シンガポール
    • 技術者を育てる 教育国家シンガポール
    • シンガポールのスタートアップ、ドロンがービールを運ぶレストラン
    • シンガポールIT投資の蓄積 社会規範のアップデート
    • 数学の達人の首相、ギークの大臣を持つシンガポール
    • 世界で最初のスマート国家を目指す

シンガポールと深セン

第四章で、シンガポールを取り上げる前に、中国の深センでのイベントが書かれています。どちらの地域でもメイカーのイベントを推しているのですが、動機の違いがクリアです。

  • 深セン: 『単純な組み立ては、もう給料が上がってきたこの街から、中国の奥部やベトナムなどにシフトしつつある。深センの政府もそれはわかっていて、これからは新しいものを作り出すエコシステムに参加しないとならないと考えていたのだ。一度方法が見えると、中国政府の動きは早くてダイナミックだ。」 (P.244)
  • シンガポール: 『テクノロジーへの深い理解を、シンガポールは教育によって全国民で共有しようとしている。テクノロジーによって、(略)社会へのコントロールを、メイカーの手に取り戻すことを目指しているのだ。』 (P.289)

香港にとっての深センに該当するのは、シンガポールにとっての隣国マレーシアのジョホールです。あくまで類似性というか、「香港⇔深セン」の関係に「シンガポール⇔ジョホール」がなれることを、イスカンダル計画でマレーシアが希望している、と言う方が適切ですが。
uniunichan.hatenablog.com

シンガポールは"ものづくり"の国

日本では金融イメージが強いのでよく誤解されますが、シンガポールは工業国です。2013年の第二次産業はGDP比で日本25.6%のところ、シンガポール29.4%。"ものづくり"大国を自称する日本と同等の比率です。シンガポールは"中継貿易→エネルギー基地→製造→金融"と産業シフトと高付加価値化に成功してきた国です。
uniunichan.hatenablog.com
シンガポールにとって金融は、高い一人あたりGDPを支える高付加価値産業の中で、幾つかある内の一つです。金融以外でも、バイオや製造のR&D、IT、スタートアップでのイノベーションなどが今後の成長を期待されている重点産業です。
uniunichan.hatenablog.com


CNET: シンガポール起業家を育成する「NUS Enterprise」のエコシステム--最初から世界展開を視野に

その一方、付加価値の低い労働集約型工場などは「もはやお腹いっぱい」になっています。人口の1/3にもなってしまった外国人移民を国民反発で抑制する必要もあり、人件費上昇と移民への就労ビザ発行を抑止することで、労働生産性が低い産業は海外に転出することはやむを得ず、間接的に構造改革を促しています。
AsiaX: 先端技術の振興で製造業の活力を維持」、経済開発庁トップ 『成功例が航空機エンジンのロールスロイス、消費財大手の米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)』『EDBが意図しているのは、企業が労働集約型業務を近隣国で行い、エンジニアリングや設計、また最先端の製造業務をシンガポールで手掛ける図式だ。』
AsiaX: 5年間の研究開発予算は190億Sドル、高齢化社会、食糧自給の研究を重視
AsiaX: 従業員の解雇、製造業で加速=労組まとめ
AsiaX: コカ・コーラがボトリング工場をマレーシアに移転、200人を解雇

「香港 ⇔ 深セン」
「シンガポール ⇔ ジョホール (イスカンダル計画)」
という高付加価値産業拠点と労働集約産業拠点との違いがあり、労働集約産業はシンガポールからジョホールなどの周辺地域にどんどん流れるがままにしています。
メイカーへの意識の持ち方を見ても、シンガポールは現時点dねゴールが何かも分からないメイカーにまずは教育という高次元からアプローチし、深センはエコシステムの一貫に食い込んで新しい仕事を作ろう、というのが差です。

ビジネスの舞台を提供するのがシンガポール

基本的にシンガポールは、産業立ち上げ時には税やインフラなどで政府がコミットしても、「さぁ、どうぞここで好きに踊って投資して下さい、必要な人材は国内の優秀大学卒もいますし世界中から連れて来て下さい、東南アジアへのアクセスは抜群です」と外資を使うのがうまいです。初期段階で政府が資本を入れていても、軌道に乗ってくれば早い段階で民営化します。例えばその一つがジュロン島にある石油化学コンビナート。日本からは住友化学を代表として、プロジェクト初期から社運をかけてジュロン島に挑みました。産油国でもないシンガポールに、外資を誘致し産業集積拠点にできたのは、政府のコミットです。
EDB(シンガポール経済開発庁): Jurong Island - Global Energy and Chemical Hub
EDB(シンガポール経済開発庁): 化学

メイカーへのシンガポール政府の今後の関わり方

筆者は記事の中で、シンガポールのヴィヴィアン大臣の言葉『スタートアップのトークも、どうやったら金持ちになれるかのトークもない。これは純粋に技術的なカンファレンスだ』という言葉を引用しているように、シンガポールでメイカーへの関与の仕方は教育やアマチュアリズム的テクノロジーに現時点では限定されているようです。しかしながら、「シンガポールのような小国には余計なリソースはない」というのを標榜している国家です。今後のメイカーへの政府関与は、教育でとどまるのか、将来性のある高付加価値産業への地ならしとも見ているのか、現時点でも政府も決めかねているとは思われますが展望が見ものです。
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※写真はメイカーフェア・シンガポールの運営母体となっているサイエンスセンター内。シンガポールのSTEM教育の中心地。STEMとはサイエンス・テクノロジー・エンジニアリング・マスの略語。私が2011年に撮影。

※本書は当初、献本を受けていましたが、買い取ることにいたしました。
※本ブログの記述は、筆者の調査・経験に基づきます。記述が正確、最新であることは保証しません。記載に起因する、いかなる結果にも筆者は責任を持ちません。記載内容への判断は自己責任でお願いいたします。

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