今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

NHK報道の変調: アジア軍事報道で引き合いに出される中国 ~シンガポールエアショーを通して~

シンガポールエアショーの一般公開を見てきました。民間用に加え軍事用の技術製品向けアジア最大のトレードショーです。最後の二日間は関係者以外にも一般公開されます。チャンギ空港という世界有数の航空拠点と、国防への理解をもってもらう目的でしょう。
民間機では、富裕層御用達プライベートジェトのガルフストリーム等などの機体展示に加えて、日本で議論になっているオスプレイの機体展示と飛行デモもあり、一般客もオスプレイの中に入ることできました。オスプレイは今回3機がエアショーのために沖縄の普天間基地から飛来。オスプレイがいかに日米同盟や災害救助に貢献しているかを記した、日本向けと思われる英文パンフレットがありました。

前振りはここまで。
次の日にエアショーのNHK記事を読んで驚くことに。

会場で目立ったのは、東南アジア各国の軍や防衛産業の関係者です。中国との間で、南シナ海の島々の領有権を巡る対立が深まっていることが背景にあります。(中略)こうした国々に積極的な売り込みを図っていたのが、アジア重視の国防戦略を掲げるアメリカから参加した企業です。(中略)一方の中国も航空機メーカーや軍事関連企業がこぞって出展していました。(中略)海洋進出の鍵を握る航空兵器技術の向上をアピールするねらいがあったとみられます。 過熱するアジアの航空兵器市場。南シナ海での緊張の高まりを受け、アメリカと中国のせめぎ合いが強まっています。|
NHK: アジア最大の航空ショー 各国の思惑は

シンガポールエアショーで中国の存在感はあったのか

シンガポールエアショーなのに、記事の半分以上を中国への記述になぜか費やしています。確かにアジアの軍事関係では中国の動向が最注目ですが、アジアターゲットのトレードショーで東南アジア各国の動向があるのは当然で、不思議な着眼点に見えます。では記事にあるように本当に中国企業が「こぞって出展」していたのか見てみましょう。こぞってと言うので、出展企業数を確認します。
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Singapore AirShow 2014: Exhibitors & Products Listing


中国(含む香港)は全体で8位の出展企業数、香港の5社をいれてもわずかに19社に過ぎません。1位はアメリカ158社と圧倒的。そして日本は7位の29社で、中国より出展企業数が多いのです。もちろん、民間機ビジネスも半数はあるので、日系企業の参加は武器輸出三原則にふれていない部分でしょう。
中国系企業が機体展示を行っていたのは私が見た範囲で覚えありませんし、飛行デモもなく、ブース参加のみです。これを「中国もこぞって出展」「技術の向上をアピール」と言われても、現実の参加内容とにギャップがあります。中国を取り上げるのなら、MRJで大きなブースを出していた日本の三菱航空機を取り上げていいんじゃないかという印象です。
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アジアの兵器市場は加熱しているのか

もう一つの疑問です。「過熱するアジアの航空兵器市場。南シナ海での緊張の高まりを受け」とNHKは書いています。これを考えてみます。航空兵器貿易額を取り出すのは難しいため、各国の軍事費総額で考えてみます。
NHKが言及した南シナ海での緊張の高まりとは、南沙諸島での紛争。南沙諸島に領有権を主張している国は、中国・フィリピン・ベトナム・台湾・マレーシア・ブルネイとありますが、今回は中国の主要隣接国とシンガポールを取り上げます。
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縦軸: GDP年平均成長率 (2007年~2012年)
横軸: 軍事費年平均増加率 (2007年~2012年) ※各国通貨での軍事費伸び率からインフレ率を差し引いた値
バブルの大きさ: 軍事費 (2012年、単位10億米ドル) (編注1)

Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI): SIPRI military expenditure database から筆者加工
IMF: World Economic Outlook Database から筆者加工


4つのグループに分けられます。

中国、インド、ベトナム、韓国、台湾 高度経済成長期の経済力が伸びるのと同率で、軍事費を伸ばしている国
韓国、台湾 経済力が伸びるのと同率で、軍事費を伸ばしている国
フィリピン、シンガポール、マレーシア 経済力は伸びても、軍事費は節制している国
日本 経済力は伸びず、軍事費を維持している国
  • 中国: 金額でも伸び率でもトップで、軍拡にひた走っている
  • インド: パキスタンとの紛争が絶えず中国とも領土問題がある
  • ベトナム: 南沙諸島を抱え、軍事費総額は小さいですが伸び率が高い
  • 韓国・台湾: 高度経済成長期が終了しているため目立たないですが、軍事費を自国経済成長率並に維持。それぞれ北朝鮮・中国との間に平和条約が結ばれていないため最終解決がついておらず、今でも戦争再燃の危険がある。
  • 日本: 国家予算軍事費にGDP1%枠ばかりが日本人には注目されていますが、日本も軍事費が大きい国の一つで、世界1位アメリカ、2位中国から落ちて、5位につける軍事大国が日本。

東南アジアではベトナムを除き、経済力が伸びても伸びを軍事費に回すのは節制しており、それは南沙諸島で激しく対立しているフィリピンでも同様です。予算額が小さいベトナム一国で「過熱するアジアの航空兵器市場。南シナ海での緊張の高まりを受け」というNHKの記事は誇張が含まれています。

新しい経営委員との関連性はあるのか?

NHKの不思議な軍事報道は、直近でタイでもありました。下記記事でも、日本のODAとの関連は不明にもかかわらず、いちいち中国軍を引き合いに出しています。

今回の演習には民生支援の訓練に限って中国軍が初めて参加し、学校の校舎を建設していて、今回の日本のODAの活用は、援助や支援の分野にも積極的に乗り出している中国の動きを意識したものともいえます。
NHK: 自衛隊の医療支援とODA 初の連携

イレギュラーは、一件では偶然ですが、二件続くと身構えます。今話題になっている新しい経営委員の影響による方針変更をも疑ってしまいます。しかし、検証困難なこともあってか、粗雑な海外報道を大手メディアでも見かけることが少なく無い印象が海外居住者にあり、単純な品質問題である可能性もあります。


(編注1)為替レートは2012年末日前後の下記を利用。
Yahoo! Finance: Currencies Center
USD/CNY=6.3
USD/JPY=80
USD/KRW=1100
USD/MYR=3
USD/PHP=43
USD/SGD=1.25
USD/TWD-30
USD/VND=21000
USD/INR=50

※本ブログの記述は、筆者の調査・経験に基づきます。記述が正確、最新であることは保証しません。記載に起因する、いかなる結果にも筆者は責任を持ちません。記載内容への判断は自己責任でお願いいたします。

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