読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

シンガポール リトルインディア暴動は民族対立なのか?

シンガポール時事

シンガポールの観光地でもありインドやバングラディシュ人の団欒の場でもあるリトルインディアで2013年12月8日に暴動が発生しました。

経緯

時刻 事象
21:23 インド人労働者男性33歳を民営バスが引き、死亡させる
21:31 救急車、現場に到着
21:37 警察、現場に到着
21:56 群衆400人が集合。遺体がバスの下から回収される。群衆が警察/救急隊にコンクリートブロックやビール瓶を投げつけ始める
22:30 特殊部隊到着
22:44 特殊部隊が群集を散らし始める
23:30 警察が事態を制圧。28人を逮捕

Strait Times: Little India Riot

暴動は事前に計画性がなく、交通事故がきっかけです。
交通事故で死亡したインド人は、当時酒に酔っていました。満員だった事故のバスに無理に乗り込もうとし、ズボンをおろすなど迷惑行為に及び、車内にいたシンガポール人タイムキーパーを襲ったためシンガポール人運転手がドアを閉め、その後交通事故が発生。バス運転手55歳は自動車運転過失致死傷罪で逮捕され保釈。
Singapore Yahoo!News: Deceased foreign worker in Little India riot tripped and fell after being ejected from bus: Police
被害は、負傷が22人の警察官、5人の警備員、12人の救急隊員、バス運転手。損壊が、16台のパトカー、9台の救急車両。
www.gov.sg: Law and Regulation: What are the facts of the rioting incident at Little India on 8 Dec?


Riot at Little India Singapore - YouTube

警察は4000人から事情聴取し、うち420人が出頭となった。12月17日時点での処分は下記。

  • 28人: 負傷・損壊に積極的に加わったため、起訴
  • 53人: 警察の解散命令に従わなかったため、国外追放および今後のシンガポール訪問拒否
  • 200人: 暴動場所にいたが消極的関与のため、警告の上で国内滞在継続

起訴を受けた者も刑期終了後には国外追放になるでしょうから、80人超が国外追放になる厳罰国家のシンガポールらしい大量処分です。
Ministry of Home Affairs: Government Takes Action Against Little India Rioters

背景: シンガポール社会での受け止め方

44年ぶりの暴動

治安が良い国として知られるシンガポール。シンガポールでは暴動のみならず、デモやストライキといった他国では認められている表現にも規制が厳しい国。暴動となると1969年の民族対立での暴動が最後。今回の暴動での警察車両が横転し、放火・炎上する映像は、シンガポール国民に衝撃を与えました。


リトルインディアの特殊性と建築現場作業員

名前の通りインド系が多く集まる町がリトルインディア。多民族国家のシンガポールでは他にも民族が好んで集まる地区が幾つもあります。有名所では、日本人のカッページ・リアンコート、中国人のチャイナタウン、フィリピン人のラッキープラザ、タイ人のゴールデンマイル、ミャンマー人のペニンシュラプラザなど。
リトルインディアは日曜日になると休日を仲間と過ごすインド人やバングラディシュ人の人波で、通りや公園が文字通り真っ黒になります。日曜晩は、街が大勢の人であふれ、そこに飲酒も入るため、喧嘩や小競り合いが散発します。彼らは単純労働者移民が多く、建設現場で従事し、母国よりは稼ぎが良くともシンガポールの中では薄給のS$460~S$700(3.7万円~5.6万円)という給与で働いています。

シンガポールでの建設現場作業員外国人労働者への捉え方

シンガポールではシンガポール人は建設現場での作業員としてもはや従事しません。いわゆる3K労働は「割にあわない仕事」としてシンガポール人は避けます。
シンガポールに来て日本人がショックを受けることの一つが、たとえ降雨でもトラックの荷台で運ばれる建設現場作業員を見た時です。最近は規制で人員輸送時の荷台への屋根設置が義務付けられましたが、荷台のため吹きさらしです。シートベルトなんてものはなく、車が横転すると負傷者多数です。
Truck
Photo Source: http://twc2.org.sg/2013/05/22/migrant-dreams-extinguished-on-the-road/

建設現場で事故が起きると発表される死傷者にシンガポール人が入っていることはまれで、大半はインド・バングラディシュ・スリランカなどの南アジアや中国からの単純労働者です。
給料が安く、学歴が低く、英語が不得手なため、シンガポール人は彼らを対等に見ているとは言えないでしょう。自分たちが嫌がる仕事を担っており、彼ら無しでは自分たちが住んでいるHDB公団もできないし、街の清掃もなされないにもかかわらずです。階層化されているシンガポールで、国家機能の一翼を担っているのに、十分な敬意が払われているとは言い難い状況です。

Work Permitという単純労働者ビザの制約

敬意という意識問題のみでなく、政府の枠組みでも同様のことは明確化されています。日本人駐在員のようなEmployment Passの就労ビザで働く多国籍企業幹部で、国内に投資をし、雇用を作る人達は、歓迎され自由があります。それと比べて、Work Permitという単純労働者の就労ビザで働くと、以下の様な制約を代表として様々な制約があります。

シンガポール政府は単純労働者の位置づけは、一時的に労働力を提供する存在であり、最低限の社会保障を雇用主に整備させる以上は提供しないというポリシーのためです。有り体に言うと、単純労働者が国民や永住者になることで、国の利益以上の社会保障が発生することを避けるために、受け入れに制約をかけています。

暴動は民族対立でなく自国慣習を持ち込んだことが原因

この背景を知っていると、
暴動 ← 民族対立、単純労働者の鬱積した不満が爆発
という構図を描きがちです。例えば、この産経新聞記事。

警察は暴動に加わった南アジア系の労働者ら27人を逮捕。経緯を調べるとともに、現場から逃走した男たちの行方を追っている。多民族国家であるシンガポールでは、60~70年代の暴動の教訓から民族対立を強く警戒していた。
産経新聞:吉村英輝: シンガポールで40年ぶりの暴動

明確に因果関係となる語を使っていませんが、暴動記事の最後に過去の民族対立の記述を入れて関係を暗示しています。民族対立と描くことは、新聞の意義としての"社会派"の視点からは「収まりが良い」のは理解できますが、私は違うと捉えています。社会構造として階層化があることは確かですが、それが民族対立や暴動に結び付くにははるかに距離があります。なにより、事件の調査を通して、民族対立に結び付く言動や要素を暴動参加者・関係者が証言していません。
昨年2012年にシンガポールで発生した中国人バス運転手ストライキでもそうでしたが、国が違うとルールが違う事を理解できない、他国でも自国のやり方を持ち込む層がいます。今回の暴動参加者も中国人バス運転手も、自分達が犯罪者になる、その結果国外退去となり、シンガポールに来た目的である金を稼ぐことを中断し渡航費等の借金を残して帰国となることを理解できていなかった可能性が高かったと思われます。「AをするとBになる」という抽象的な因果関係を理解できない人がおり、教育が不十分な発展途上国に行くとまれでありません。慣習が異なる外国居住時にその関係が見え難くなるのは尚更です。
交通事故を起こした加害者が引きずり出され暴行/リンチを受けるのは、一部の発展途上国では珍しくない光景です。外国では、自国と違うルールが適応される想像力がない人達が暴動の400人に含まれており、飲酒がそれに油を注いだのでしょう。日本のようにどんな人でも最低限の教育を受けている国ばかりではありません。暴動も、2012年の中国人バス運転手ストも、給与水増しして就労ビザ申請する雇用者も、就労許可無く"お教室"を開く日本人駐妻も、同じ線上にいます。滞在国のルールやリスクを知らず、自国の延長や自分のしってる概念で行動して、摘発後に自分がしたことに気づく。リスク認識の上で行動できる人ばかりではないのです。
これを表している暴動後の記事があります。「シンガポールで騒動は許されない、もしそうして捕まればシンガポールの法律で裁かれる」と建設会社が外国人労働者に研修しているものです。こういう当たり前と日本人が思うことでも、何が当たり前かは国と人により異なります。
CNA: Foreign worker dormitories entice residents to stay in

シンガポールでの生活に満足している外国人単純労働者

階層化されている中でも単純労働者の多くはシンガポールでの生活に満足しています。幾つもの資料があります。
暴動後に政府は「雇用主や政府に不満を持つ暴動参加者がいた証拠はない」と発表。暴動後のヤフーシンガポールのビデオインタビューでも「シンガポールで働けるのはとても幸せだ。安全で安心で、母国より金が稼げる」とインド人労働者が口をそろえて言っています。メイド(FDW)も10点満点の満足度で7点以上を4人中3人がつけています。
移民労働者は母国が比較での最大の対比軸となり、シンガポール国内では階層化されていても、シンガポールでの生活や労働に満足度が高いことが分かります。
Channel News Asia: No evidence foreign workers in riot unhappy with employers or govt
Singapore Yahoo! News: Rare Singapore riot forces soul searching over foreign workers
Ministry of Manpower: FDW and FDW Employer Study 2010

今回の暴動を引き起こしたもの

今回の暴動は、

  • ごっそり人がいるリトルインディアの日曜
  • 酒がまわりだした遅くも早くもない晩
  • インド人の死亡事故をシンガポール人が引き起こす

という最悪の条件が整っていたことが、最大の直接要因というのが私の認識です。

民族対立や経済格差が直接の原因でないことはこれまでの調査から明らかです。その上で、民族対立は別として、国民と移民労働者との間に経済格差は事実としてあります。その経済格差がどの程度暴動の"間接的な"誘発材料になったかが議論の焦点です。ニューヨーク・タイムズ社説は経済格差の大きな関連性を主張して、在米シンガポール大使館に「記事は根拠を提示していない。異なる雇用主、異なる寮に住む労働者によって暴動が行われた。寮や職場に広がらず、記事での賃金や生活環境が原因かは疑わしい。多くはシンガポールで引き続き就労を希望している」と反論されています。
New York Times: The Opinion Pages: Singapore’s Angry Migrant Workers
Today: Govt responds to NYT editorial on Little India Riot

シンガポール人の一部野党支持派は「与党政策での外国人労働者積極受け入れ政策が原因」との主張をしています。確かに、外国人が全人口の1/3を占め、当日も計画性もないのに、400人が一瞬で集まった参加した環境としてあるでしょうが、副次的要素でしょう。産経記事の民族対立はさらに順位が落ちる要素と私は見ています。
警察のみならず、救急隊も襲撃を受けているのが謎で、政府側が何かしら暴動を引き起こす言動があった可能性がありますが、現在の発表内容からはこの考えを私はとっています。


現在は治安は完全に回復しています。毎週末と祝日および祝日前日には、公共の場(屋外)での飲酒禁止、酒類の小売店(お店の中に飲食スペースがない)は20時以降販売禁止が、半年間(2014年6月まで)継続されます。安心してシンガポールに旅行ください。
SPF: Statement by Deputy Commissioner of Police, T Raja Kumar: Recalibration of Measures on Alcohol Sale and Consumption in Little India


※本ブログの記述は、筆者の調査・経験に基づきます。記述が正確、最新であることは保証しません。記載に起因する、いかなる結果にも筆者は責任を持ちません。記載内容への判断は自己責任でお願いいたします。

にほんブログ村 シンガポール情報