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今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

日本は所得税をシンガポール並みに下げる必要はない~低税率はオフショア国家の戦略だ~

きっかけはavex 松浦勝人社長のFacebook投稿です。

日本では人に注目される側は、何も言わずに行動を起こす事が多い中で、彼自身のみならず富裕層の代弁をしたと捉えられ議論が巻き起こりました。ここでの松浦氏の指摘は

  • 日本は所得税・相続税が高い
  • だから富裕層は他にたくさんある税が安い国に脱出する

です。ここで、これら指摘が妥当かどうか検討してみましょう。

日本の税は内需がある他の先進国並み

松浦氏が例にあげているシンガポールを含め、人口と、主要先進各国の所得税などの個人への最高税率(2013年)を図にしてみました。
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Wikipedia: List of countries by population
KPMG: Individual income tax rates table
※スイスは連邦税+州税。連邦税は固定だが、州税は州により変わり、足すと20%から40%。安い州を選ぶと連邦税と足しても20%の低税率になり、オフショア国家となる。
※カナダは福祉国家、オーストラリアは中福祉中負担と位置づけられている。
※ロシアの税率は13%で人口1.43億人であるが、一人あたりGDPから先進国と呼べないため検討外。
※参考までに、中国は最高税率45%で人口13.6億人。


自国に広大な人口と市場がある先進国では税率が高く、人口が少なく内需だけでは自国経済を支えるのに不十分な小国では税率が低い、という関係が明白です。これをマトリックスに簡略化します。

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人口小×低税率 = オフショア国家 (タックスヘイブン)

小国では、ハブ国家等の戦略で外資を招き入れ税を呼びこむ必要があり、低税率は外資誘致のための有力な手段です。自国で有力な市場をもたないオフショア国家では、自国で経済を興すには内需が小さすぎ、外資も努力なければ参入してきません。そんなオフショア国家にとっては、外資は出発点がゼロからの足し算なので、そこから税率が10%でも20%でも取れれば儲けモンなわけです。なので、市場を持ってる先進国からすると、割に合わない圧倒的な低税率を提供できるのです。
個人では、これが富裕層誘致に該当します。国内の不動産を購入してもらい、消費活動をしてもらって、経済を活性化させ税収を確保する戦略です。
基本的にオフショア国家は、市場が小さいだけに、することや文化がなく、移住して後悔する人は少なく無いです。シンガポールは都市国家として成熟し、日本人コミュニティも豊かで、娯楽には近くにタイもマレーシアもインドネシアもあり、子供の教育環境も整っているので全然良いでしょう。しかし、それでも東京と比べるとまだまだです。シンガポールですらこれなのに、人口5万人のケイマン諸島への節税移住であれば、それこそ何のために金を貯めたいのかを自問自答する必要があるでしょう。私の以前の記事にも書きましたが、シンガポールでも実際、リタイア後の移住者がそこまで増えているわけではありません。あまりに税率に差がつくとさすがに富裕層が逃げ出すので、そのラインを見極めるのが国税庁の仕事です。つまり、国税は富裕層の足元を見ています。
なお、小国にとり、オフショア国家の低税率で税収を確保するということは、小さな政府を志向することを意味します。増税を意味する高福祉政策を取ると、外資が逃げ出すためです。

人口大×高税率 = 自国に市場がある国 (オンショア国家)

自国内に市場がある日本が、オフショア国家並みに税率を下げるメリットはありません。低税率化での税収減と、外資収入や経済活性化を比較した際に、税収減のほうが大きいのでしょう。確かに日本は税率は高めですが、他の内需がある先進国と比べて突出して高いわけではありません。国の借金が1000兆円を超えている事を考慮すると、国の財政の国債依存が高いため、割安とすら言えます。

人口小×高税率 = 福祉国家

典型的な北欧型国家です。

人口大×低税率 = 該当国なし

これが松浦氏の志向する国家像なのかもしれませんが、世界中で、自国に市場を持つ先進国で、低税率の国は存在しません。「どこもポジショニングしていない国家像に日本を位置づける」と意気込むのであれば良いのですが、日本の政治にそんなリーダーシップがないのは明白ですし、大半の日本国民も望んでいないでしょう。実現できれば小さな政府の一つの理想形になるのでしょうが、どの国もこの位置にないことを考えると、人口が多く目立つと、政府が自分を律するにはステークホルダーが増えすぎてリーダーシップが行き渡らず、国民や周辺国が小さな政府であることを許さず、政府は肥大化する運命にあると考えるのが妥当でしょう。

松浦氏の指摘に戻ります。
「所得税が20%代の国はたくさんある。」「ゲーム会社の知り合いのオーナーは会社を売る前にシンガポールに移住した。そういう人たちがたくさん出てきているし、更に出てくるだろう。それでいいのか??」
というのは以上から、比べられないものを比べた指摘だと分かります。彼は市場が無いオフショア国家と、内需があるオンショア国家とを比較しています。彼が日本と税で比較すべきなのは、シンガポールではなく、アメリカであり英独仏の40%超の税率であるべきです

所得税は減税につぐ減税の歴史

「僕としては、税金は個人の所得報酬に対して50%という国との折半が我慢の限界だった。」
と松浦氏が書いています。それでは過去の所得税の最高税率の推移を見てみましょう。
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財務省: 所得税の税率の推移(イメージ図)


1986年には最高税率は88%です。それが89年65%、99年50%と減税されてきたのが所得税+住民税の歴史です。
松浦氏は1964年生まれ、初めて経営者になったのは86年ですが、その時点で最高税率は88%でした。
米国でも現在は39.6%ですが、81年には70%です。
タックスヘイブンに逃げられかねない所得税は下げ、逃げようがない消費税(物品税/GST等)を上げるのが、世界的な流れです。その恩恵を受けているのは富裕層であり、松浦氏です。
これまでの50%から55%に上がったのは釈然としないのも理解できます。ですが、その根拠が「50%という国との折半が我慢の限界」というのは、これまでの税の経緯への誤解があります。

納税は稼いだ国で

私は「納税は稼いだ国ですべき」と考えています。松浦氏の収入と資産の大半は、日本のビジネスから稼いだものでしょう。グローバル税制に歪みがあるのは承知ですが、日本で稼いだ金を、シンガポールで納税するのは変ですよね?海外で稼いだ金であれば、海外で納税するのは何ら問題無いと思いますが、日本で稼いだ金は日本で納税すべきです。それが懲罰税制だと感じるのであれば、これまでの日本で稼いだ資産は適切に日本に納税した上で、シンガポールのわずか531万人のグローバル競争のレッドオーシャンでビジネスをおこして、ぜひとも成功させていただきたいと思います。松浦氏の貴重な経験やノウハウ、これまでの実績は、どんな国家にも奪うことができない貴重な財産なのですから。
※日本で築いた資産を海外に持ち出す税回避への対策として、日本の国税庁はは出国税などを検討しています。
国税庁: 非居住者課税における居住性判定の在り方-出国税(Exit Tax)等の導入も視野に入れて-


※本ブログの記述は、筆者の調査・経験に基づきます。記述が正確、最新であることは保証しません。記載に起因する、いかなる結果にも筆者は責任を持ちません。記載内容への判断は自己責任でお願いいたします。
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