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シンガポールビザ:属性別、取得可能なビザは?

本記事は下記3本立ての初回のものです。
シンガポールビザ:属性別、取得可能なビザは?
シンガポールビザ:滞在目的別、利用可能ビザ
シンガポールビザ:違法就労の落とし穴

本記事では、特にEP、S Pass、PRについて詳細に解説します。DP、ワーホリ、Student's Pass、PEPについてはシンガポールビザ:滞在目的別、利用可能ビザ
を参照ください。
また、シンガポールビザ: よくある質問 (FAQ)も参考にしてください。
本記事の最終更新日は2016年7月29日で、この時点での最新情報であることを期しています。

シンガポールビザ厳格化

外国人が自国以外に移住するには通常2つが必要です。一つは仕事(か収入)、もう一つはビザ。リタイアビザのような例外もありますが、仕事を持つことが「その国で厄介にならない(福祉の利用を前提にしない)」事とスポンサーを証明し、それに応じて与えられるのがビザです。

シンガポール (SG) のビザが揺れています。移民国家であり、これまではビザ取得できない日本人はいても少数派でした。しかし、金融危機(リーマン・ショック)後の景気の急減速で、シンガポリアンの「職を外国人に取られている」「MRTなど公共交通機関の混雑は許容を超えており、外国人増加が原因」との考えが力を持ってきたこと、その結果2011年の総選挙で与党PAPが単独与党を維持しながらも歴史上最も低い得票率に追い込まれたことで、"Singaporean First" を政府が打ち出すようになりました。これはシンガポールではワークパスと呼ばれる就労ビザのハードルが上がることで具体化されたのです。

とはいっても、欧米先進国に比べるとまだまだビザ取得は容易です。申請に移民弁護士が入ってくるような複雑さもまれです。ビザスポンサーになってくれる仕事も割りと容易に見つかります。企業人事 (HR) はビザの最新状況まで知らないことが多いですが、経験がありビザ最新状況をウォッチしている人材エージェントの担当がつけば十分です。

 

    MOM提供EP,S Passセルフアセスメントツール

まず、シンガポールには米国のような社内転勤ビザはありません。つまり、駐在も現地採用もビザ申請の手続きは同じです。

シンガポールで就労ビザを総称してWork Passと呼んでいます。ワークパスの発行可否は自己属性と、ビザスポンサーとなる勤務先属性との二つで決まります。

ワークパス発行可否 = (自己属性) × (勤務先属性)

ワークパスの発行可否を決める自己属性の三大変数は、


ワークパス自己属性 = (給与 × 学歴 × 年齢)

です。最大の要素は基本月給(固定月給)、高いほど有利です。駐在だと日本の社会保険を維持する都合で、日本とシンガポールとで給与を分けて支払いを受けるとが多いです。シンガポールのワークパス発行に際し検討対象になるのは、シンガポールで所得税を納める対象となる給与のみです。また、営業や一部金融職などインセンティブ比率が高い職種でも、考慮対象は固定給が中心です。
年齢が高く職歴が長ければ、同じ給与でもEPが出にくく、S Passになりやすくなります。
たとえワークパスの最低給与を満たしていても、学歴が大卒以上でないと、特にEP(旧Q1)やS Passの給与レンジでは発行されないことがあります。また、シンガポールでは単に大卒というだけでなく、どの大学を出ているかも評価対象です。有名大を出ているほど有利です。この典型が世界ランキング200位以内を主に対象にしたワーホリビザです。日本の大学では旧帝大・東工・筑波・早慶がシンガポールワーホリの主となる対象です。

Work Passの種類による、必要固定月給

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MOM: Enhancements to the Employment Pass Framework New assessment criteria to take effect from January 2012
MOM: Firms to Consider Singaporeans Fairly for Jobs
MOM: Update to Employment Pass Salary Criteria


必要固定月給は「最低限クリアしなければならない固定月給額」であって、これをクリアしていても、シンガポール労働省(MOM)の行政判断でビザ取得ができないことは珍しくありません。行政判断の指針となるのは、MOMがサイトに置いているセルフアセスメントツールです。このツールは極めて重要です。特にこれから現地採用でシンガポールで働く人は、内定獲得後に提示給与でワークパスが発行されるチャンスがあるかどうか必ずツールで確認しましょう。また、シンガポールでの就職活動をする前に、給与額を想定で入れてみて、自分の属性であればS Pass/EP取得に必要な給与額を把握するためにも使えます。

MOM: Employment/S Pass Self-Assessment Tool


ワークパス勤務先属性 = (資本金 × シンガポール設立年数 × 外国人比率)

ビザスポンサーは勤務先であるため、自己属性に加え、勤務先属性も重要です。資本金が多く、シンガポール業務年数が長く、外国人比率が低いほど有利です。
自営でEPが発給されたとしても、更新できない人は珍しくありません。更新不可になりやすいのは、シンガポール人を雇用していなかったり、法人税を払わなくていい程度の業績だった法人の場合です。

 

セルフアセスメントツールで理解しなければいけないのは、表示結果は「最良の場合」ということです。「EPかS Passでのワークパス発行」とこのセルフアセスメントツールで結果が表示されても却下されることはありますが、逆に「ワークパス却下」と表示された際に申請許可されることはまずありません。理由は、個人属性が問題無くとも、勤務先属性に問題が有り、ワークパス発行が許可されないことは珍しくないからです。この典型的な例が、個人属性に支障なくとも、S Passの外国人枠を使い切っていて、S Pass発行可と表示されても発行されない場合です。逆に、勤務先属性が良くても、個人属性のネガティブ評価(例:大卒未満)が打ち消されて下駄をはかせてもらえることは原則ありません。

固定月給$3,600未満(2016年末までは$3,300)でS Passが日本人に発行されるには、新卒直後で有名大卒ならチャンスがあります。この給与でもワークパス発行可能性があるのは年齢が若く(20代)、特に大学時代の専門と職種がマッチしている場合です。例外はシンガポール政府系企業従業員への申請で耳にしますが、例外は例外で、それ以外の一般的な勤務先ではたとえ大企業でもワークパス取得の期待は望み薄です。

■基本月給とワークパスの関係

$3,600未満:       ワークパス発行困難(新卒除く)
$3,600~$5,000で大卒:  EP (旧Q1) か S Pass か ワークパス発行不許可

$5,000以上:                    EP (旧P1, P2)

問題になるのが$3,600~$5,000の場合です。ワークパスの発行可否と発行可能性があるワークパス種別を知るには、自分のステータスをEmployment/S Pass Self-Assessment Toolに入れて把握下さい。

求人を見ていると「PR/DP保持者歓迎!」という表示を多く見かけると思います。あれは「固定月給$3,000前後しか出せないので、EP/S Passを取得できず(S Passの外国人枠を使い切っていて)、PR/DPしか雇えません」という意味です。

就労ビザ許可に難航すれば???

オンラインでワークパス申請を出して、許可される場合は数日から一週間で回答があることが多いです。申請して数週間かかっても返事がない、というのは即座に申請却下を意味しませんが、何かしらビザ不許可となる要素がある、ということです。却下されてアピール(再申請)になれば、弱点を検討して対策する必要があります。しかしながら、対策可能な後から変動させられる変数は給与にしかないのですが、合法的な範囲では以下があります。
・携帯手当、営業用車取得補助、住宅補助などの固定手当を給与に組み込む
・シンガポール慣習のAWSという12月末にでる1ヶ月分支給の年度末固定ボーナスを、月割りして固定月給に組み込む
・インセンティブ比率を下げ、固定月給を上げる
・昇給

ワークパス申請が却下された、アピールしても却下され続ける事態になれば、移民弁護士を入れることも検討しましょう。
移民弁護士リスト

    主要な労働ビザ:EPとS Pass

EPとS Passは、勤務先がビザスポンサーになる労働ビザです。

Work Pass MOM定義 実態
EP (Employment Pass) professionals working in managerial,
executive or specialised jobs
専門職、マネージャー、役員が多い
S Pass Mid-level skilled foreigners
(e.g. technicians)
一般事務職、カスタマーサービス職、飲食・小売スタッフ、新卒エントリーレベル職が多い
Work Permit foreigners who are from an approved source country/territory 職種ごとに国籍制限があり、メイド・工事現場・工場・清掃など単純労働。クラブやキャバクラなどでの勤務となる芸能でのみ日本人は対象となる。

このMOM定義と実態の差は、EPとS Passの発行の違いは、肩書や職務の違いでなく給与の違いを中心に決まるためです。ただし、S Passでは法人のパートナー・個人事業主・役員(ディレクター)になれず、EPである必要があります。(The foreign employee may apply for an S Pass if he/she is not a partner, sole proprietor or director of a company.)
日本人の大半はEPと、EPがビザスポンサーになる扶養家族向けのDP (Dependent's Pass)でシンガポールに滞在しています。EPとS Passは勤務先がビザスポンサーになっているため、転職等で勤務先が変わると、ワークパス再審査になります。EP所持者は、身分証明書のEPカードに記されているように、EPが発行されている勤務先での就業のみが許可されています。つまり、EPで申請した以外の勤務先と業務以外の、たとえばバイト・副業・自営などは許可されていません
DP所持の駐妻等が、ネイルサロン等の自営をする場合の留意事項は下記リンク参照。MOMが発給する就労許可(LOC)無しでは違法になります。

uniunichan.hatenablog.comシンガポールビザ:滞在目的別、利用可能ビザ 企業勤務ですが、週末起業からまずは始めます!
シンガポールビザ:違法就労の落とし穴 自営サイドビジネス

    EPとS Pass、違いは何?

EPとS Passには以下の4つの違いがあります。

1. 【割当制限】S Passは全従業員の20%以下(サービス業では15%以下)までという割り当て制限があります。EPに割り当て制限はありません。

2. 【健康保険】S Passには年額$1.5万以上の入院・手術用の健康保険を、雇用主は提供義務があります。給与が高く従業員の待遇競争力が強いEPでは、健康保険提供義務がありません。

3. 【DP】S PassがビザスポンサーとなるDP (Dependent's Pass) では滞在はできますが、就労はできません。S Pass扶養家族が就労するには、自力でEP/Sパスを取得する必要があります。EPがビザスポンサーとなるDPでは、LOCの発行をMOMから受ければ就労が可能です。

4. 【Levy】S PassはLevyと呼ばれる外国人雇用税が発生します。Sパス外国人雇用比率により、月額一人あたり$330か$650です。EPにLevyは発生しません。

 

S Passは企業の総従業員数の20%(サービス業では15%)までしか発行されません。サービス業では15%ですが、2020年には13%、2021年には10%とさらに厳しくなります。そのため、求職時に提示の給与からEmployment/S Pass Self-Assessment Toolで、S Passになる可能性があると表示されれば、「S Pass割り当ての空きがあるか」の確認をすべきです。さもないと、志望度が高い企業でビザ申請を出しても、EP不許可でS Passの空きが無ければワークパスが発行されず、他の企業も検討すべきだったのに、という事態が発生します。
また、S Pass所持者のうち従業員の10%まででは、一人につき月額$250のLevyと呼ばれる税を雇用主が払う必要があります。10%から20%間では月額$390になります。ここから逆に、$200増になればS PassでなくEPが発行される給与提示であれば、内定者は雇用主と交渉する余地はあるでしょう。雇用主もS Pass枠は温存したいはずです。
MOM: Levies & quotas for hiring Foreign Workers

EPとS Passとで従業員にとって最も大きな違いは、医療費です。S Passは年に$1.5万までの入院・手術費用をカバーする健康保険の提供が雇用主に義務付けられていますが、S Passでの医療費は保険限度額にかかわらず原則雇用主負担です。これには美容を除く歯科も含まれます。
MOM: FAQ: How should I protect myself from medical bills incurred by my S Pass and Work Permit holders?
MOM: FAQ: Am I responsible for the cost of my Work Permit or S Pass holder’s dental treatment?

雇用主が、従業員の医療費支払を合法的に抑制する手段は2つです。
1. 従業員を国に帰らせる (つまり雇用主都合での解雇)
ただし、労災である際には送還不可。労災でない場合でも、容体が安定して帰国への負担に耐えられる場合のみ、送還できる。
MOM: FAQ: My WP holder requires long-term medical care. Am I obligated to pay for the entire course of treatment? 
2. 保険の$1.5万を超えた支払は、従業員の同意があれば、給料の10%以内の範囲で従業員負担にできる。
MOM: FAQ: If a foreign worker's medical expenses exceed the insurance limit, can the worker pay part of it? 

働くのに「EPがいい、S Passはイヤだ」という人がいますが、実は従業員にとってはS Passの方がメリットがあります。

    家族親族へのビザスポンサーになれる範囲 (旧EPカテゴリP1, P2, Q1の違い)

EPではP1, P2, Q1という3つのカテゴリーがありましたが、2015年に廃止されました。カテゴリーの基準は月額基本給与ですが、役割の違いはビザスポンサーになれる範囲です。
長期滞在ビザにLTVP (Long Term Visit Pass) というものがあります。DPとの最大の違いは、就労不可なことです。

現行EP/S Pass (基本月給$5000以上)
・DP: 配偶者
・DP: 未婚か法的に養子縁組をした21歳以下の子供
※ビザスポンサーがS PassのDPだと、LOCが取得できず就労できない
・LTVP: 内縁の配偶者 (Common-law spouse)
・LTVP: 21歳以上の障害がある子供
・LTVP: 21歳以上の継子 (Step-children)

現行EP (基本月給$10,000以上)
・固定月給$4000以上の対象税院
・LTVP: 両親
※配偶者の両親(義両親)のSG長期滞在を可能にするLTVPのビザスポンサーになれるのは、PRです。

※参考までに旧カテゴリーのEP P1, P2, Q1基準を残しておきます。

旧EP Q1 かつ月額固定給が$4000以上 ($4000未満のQ1はDPのビザスポンサーになれない)
・DP: 配偶者
・DP: 未婚か法的に養子縁組をした21歳以下の子供

旧EP P2 (固定月給$5,000以上)
・Q1の対象に加えて
・LTVP: 内縁の配偶者 (Common-law spouse)
・LTVP: 21歳以上の障害がある子供
・LTVP: 21歳以上の継子 (Step-children)

旧EP P1 (固定月給$10,000以上)
・P2の対象に加えて
・LTVP: 両親

 

永住権 (PR):現地人との結婚はビザステータスで常にジョーカー

シンガポールに限らず、ビザの中で最も強い(自由度が高い)のは、通常は永住権(PR)です。外国人が外国で自国籍を保ったまま最大限の自由を手に入れるには、大半の国では現地人との結婚が最強です。ビザは種類により、居住・労働・投資等の外国人への制限を解除しますが、現地人との結婚により、即時あるいは短期間のうちに制限を解除することが可能になります。また、特に外国に資本などが開かれていない発展途上国で、配偶者名義により不動産などの現地投資をすることは一般的です(関係がこじれると名義貸与をしている権利を根こそぎ持っていかれるリスクはあります)。

シンガポールでは、婚姻によりLTVP (Long Term Visit Pass) で居住権が獲得でき、結婚して3年経つと LTVP Plusに変わって就業も可能になります。シンガポールの永住権は一般的にPR (Permanent Residence)と呼ばれ、配偶者枠でのPR申請も可能になります。最近は難易度上昇により婚姻だけではPR (永住権)取得できない人もいますが、給与や学歴が圧倒的でなければ婚姻がPR (永住権) 取得への近道です。

PRの二世からは、NS (National Service)と呼ばれる徴兵が外国人でも男子には必須になります。つまり、今、男の子を子供に持つ家庭では、家族でPRを申請すると、その男の子に徴兵義務が発生します。これが理由でPRを申請しない日本人家庭は多いです。「軍隊、しかも母国でない国の軍隊に入る」という意味への考慮が必要なことに加え、NSは2年間に及ぶためキャリアの面でも考慮が必要です。
子供がPR放棄をすることでNSを避ける事は可能です。16.5歳でNSに登録された後のPR返上などでのNS放棄は、シンガポールでは刑法犯として刑務所行きになります。それ以前のPR返上でのNS回避も、NSを果たす前にPR返上をすると、シンガポールでの就業・就学・滞在も拒否され、今後PRの再取得やシンガポール国籍の取得はできなくなります。また、親のPRのREP(再入国許可証)更新に影響がでる可能性があると政府は言っています。
シンガポール国防省:  Written Reply by Minister for Defence Dr Ng Eng Hen to Parliamentary Question on Former Permanent Residents Who Did Not Serve National Service uniunichan.hatenablog.com

※ シンガポールでビザの状況は頻繁かつ予告なく変わります。最新状況はシンガポール政府ホームページなどの一次情報で確認下さい。

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