今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

日経に抗議したシンガポール政府と、フェイクニュース防止法

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
シンガポール政府が日経記事に抗議しました。
在東京シンガポール大使が、日経アジアンレビュー編集長と、日経社長に、シンガポール人Sudhir Thomas Vadakethが書いた記事「シンガポール選挙をゆるがすコロナウイルスと不平等」に、書簡を出しています。

7月1日に、ネットで記事は出版されました。総選挙投票が7月10日に行われ、7月11日に大使館が抗議書簡を送っています。抗議書簡が公開されたのは、7月16日です。
同日に、日経アジアンレビューでも、同内容の書簡が掲載されています。
・日経アジアンレビュー: Singapore disputes claims of poor pandemic handling
私が確認できる限りで、日経はこの書簡にコメントを出していません。また、記事の取り下げも行っていません。
抗議が公開され、日経アジアンレビューが公開するまでの5日間にやりとりがあったはずですが、裏で記事を取り下げなかったことは、メディアとして評価されるべきです。

日経とシンガポール政府の強い関係

日本のメディアで、シンガポール政府と最も強い関係を持っているのは日経です。
日経が東京で主催する「アジアの未来」へは例年シンガポールから首相級が登壇しています。歴代のシンガポール首相は全員が出たことがありますし、昨年は次期首相となるヘン・スイキット副首相が出ました。
また、初代首相「リー・クアンユー回顧録」の日本語版は日本経済新聞出版からです。

シンガポール政府が行うメディアへの抗議

シンガポール政府は、外資メディアにも抗議を行います。
今年5月にフォーリン・ポリシー誌に駐米大使が、昨年12月にはエコノミスト誌が駐英大使の抗議書簡を紙面に掲載しています。
・ブルームバーグ: 偽ニュース対策法POFMA、シンガポール外交官が広がる懸念に反論
過去には法的手段により、謝罪や賠償をさせたこともありました。具体例については、後述の付記を参照下さい。

フェイクニュース防止法 POFMA

国内では更に対応が厳しいです。
シンガポールには偽ニュース防止法POFMA (Protection from Online Falsehoods and Manipulation Act) が2019年に施行されました。今月に行われた選挙期間を含めて運用されています。
シンガポール政府はPOFMAを以下のように説明しています。

オンラインでのウソに対抗するPOFMAの主要な手段は、訂正命令だ。この命令は、オンラインのウソが削除されることを要求しない。より深刻なケースでは、コミュニケーション停止や無効命令が使われることもある。
この命令が発行されるのは、

  • 事実誤認の記述がインターネットを通じてシンガポールでコミュニケーションされていたか、いる場合。かつ
  • 命令を出すのが公益にかなうとき。

・POFMAオフィス: Protection from Online Falsehoods and Manipulation Act (POFMA)

POFMAの対象は事実です。批判や意見は、POFMAの対象外です。ただし、POFMAの範囲ではなくとも、誹謗中傷になると、従来からある名誉毀損の対象となります。
「公益を満たす」という基準があるため、適応は政府の判断になります。そのため、反政府からは、「与党関係者には適応されない」という不満があります。
公益を侵害するウソの記述があった場合に、政府は訂正命令を出します。訂正命令では、元の記述の削除は求めず、政府見解の追記を求めます。
深刻なケースでは、FacebookやTwitterなど投稿があったサービスプロバイダへの国内からのアクセス禁止命令になります。
公益を傷つけるために意図的にウソを使った場合には、刑務所を含む刑法犯になります。
・シンガポール政府: What happens if I post or share ‘fake news’?

「何がフェイクニュースか」を決めるのは、政府の閣僚です。POFMAの対象になると、裁判所に異議を訴えることができますが、事後的です。
・POFMAオフィス: Application to Minister: Variation, Cancellation or Suspension

なお、唯一議員を出す野党WPもPOFMA自体には賛成しています。反対しているのは何がフェークニュースかを決めるのは、政府でなくて裁判所であるべきという点です。

人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ (HRW) が反対声明を出していますが、HRW所属のフィル・ロバートソン氏はシンガポール政府の公聴会に呼ばれ、一度は承諾したのに「政府に利用されるから」と参加せず、ビデオ会議参加も断り、シンガポール国内で笑いものになって影響力を失いました。
・Channel News Asia: Singapore Government says Washington Post article on online falsehoods law is ‘perpetuating false allegations’

日経を含め外資メディアはPOFMA対象にはこれまでになっておらず、野党系メディアは「POFMAを避けるために外資メディアへの投稿が必要では」と論じるものも出ています。
・The Online Citizen: Do high level civil servants resort to writing letters to foreign publications because POFMA orders would not work?

言論の自由

"明るい北朝鮮"
世界報道自由度ランキング 158位のシンガポール

シンガポールの話になるとすぐ、
「シンガポールって、"明るい北朝鮮"なんでしょ」
とドヤ顔で言い出す人がいます。止めましょう。
しかも、当地でわざわざ「シンガポールは"Bright North Korea"と呼ばれていてぇ」と現地民に話し出す人がいます。迷惑なので、止めて下さい。
まず、「シンガポールは"明るい北朝鮮"と呼ばれている」と言い出す人がいますが、違います。呼んでいるのはあなた自身です。「呼ばれている」と"誰か"に責任転嫁をしないで下さい。"Bright North Korea"で検索してみましょう。日本発の記事しかでてきません。"明るい北朝鮮"は日本人が言い出した、日本人のみに通じる蔑称です。世界中で日本でしか通じません。シンガポールでは、日本通のシンガポール人しか"明るい北朝鮮"を知りませんし、知ってるシンガポール人は「またか」とうんざりしています。

シンガポールは、共産主義国と異なり、自由選挙で政権が決められます。今の政権・政治体制は選挙で国民の審判を受けています。過去において中国は、シンガポールの政治体制を真似できないかと研究していますが、共産党独裁が揺らぐ可能性がある自由選挙を受け入れられず断念したとされたとの証言は、割と広範に見つかります。
かくして、シンガポールは一党支配、中国は一党独裁です。

シンガポール政府の強権ぶりの一つに、「言論の自由がない」ということがよく言われます。
国境なき記者団の"世界報道自由ランキング"では158位です。なお、世界最下位は180位で北朝鮮、注目の中国は177位です。
・国境なき記者団: 世界報道自由ランキング
※私はこのランキング自体は謎扱いしています。評価方法、メソドロジーは公開はしていますが、「この国があの国より低い」「高い」に納得感がありません。確かに、シンガポールでは、メディアががんじがらめにされていますが、メディアへの民事訴訟はあっても投獄はなく、政府に都合が悪いニュースも報道され、ネット論壇は盛んです。同ランクの国よりはるかにマシに私には見えるのですが。

シンガポールは、西側諸国と比べると、言論の自由への制限が大きいのは確かです。集会やデモはスピーカーズコーナーに限定されます。テレビ局のメディアコープは政府系投資会社テマセクが所有し、新聞のSPH社は免許で縛られ、大統領を排出するなど政府と人事が近い。
その一方、国民は外資メディア・ネットニュースを閲覧可能で、情報統制による"洗脳"にはほど遠いです。特に近隣発展途上国の政府を見て「あぁはなりたくはない」という思いも強く、国民は主体的に与党PAPを選んでいます。

シンガポール政府が抗議した内容

記事の内容は、7月10日に行われた選挙についてです。記事中の4項目に抗議をしています。政府主張です。

  1. COVID-19の国内患者数に、シンガポール政府は抑止に努力をし、効果的な対策を行ってきた。
  2. 政府は社会的流動性の確保と、貧富の格差の是正につとめてきた。
  3. HDB公団が99年賃貸なのは、私営コンドミニアムでも同様。
  4. 生まれながらのシンガポール人が人口でマイノリティになっているというのは事実誤認だし、生まれながらの国民と帰化に線をひくのは疑問。

抗議内容をどう解釈するか

日経が掲載した「よくあるアンチPAP記事」

「生まれながらのシンガポール人が人口でマイノリティになっている」という指摘のみが事実誤認で、それ以外は意見の相違と理解しています。
つまり、政府視点で解釈すると、「事実誤認が含まれているのでPOFMAを適応にすることも可能だったが、(国内への影響力が限定される外資メディアでもあり)公益になるほどでもなかったので、適応しなかった」となります。
その一方で、「外資メディアを対象にすると何かと面倒だから、POFMAを適応しなかったんだろ」が野党系の見方です。

反政府サイドを含めて、かなりのシンガポール記事を私は読んでいますが、今回の記事に目新しいインサイト・事実はありませんでした。私の記事への感想は、
よくあるアンチPAP記事だな」
です。

COVID-19の感染者数

意見の相違です。

一部野党は、COVID-19対策を選挙の争点にしようとしましたが、争点化に失敗しました。感染は外国人寮に感染が封じ込められており、大半の国民には寮での感染対策は他人事の政府任せだからです。なにより、外国人はシンガポールの選挙権を持っていません。
uniunichan.hatenablog.com

シンガポール政府は各種対応をあげ、努力したと述べていますが、シンガポールがアジア各国のうちで大規模クラスタを発生させたのは事実です。人口単位の感染者で、シンガポールは世界17位につけています。
その一方で、感染しているのが若く働き盛りの寮居住者が99%に助けられ、人口単位の死亡者数は世界138位と圧倒的好成績です。(7月20日現在)
・Worldmeter: Coronavirus cases

44,000人の感染者は事実です。また、低い死亡率に最も貢献しているのは、感染した大多数は働き盛りの移民労働者で、高齢者が少数だった幸運があったからです。シンガポールの高い医療技術と対応(とりわけ、軽症者は隔離のみにとどめ、入院と分離)もあるのでしょうが、最大要因は感染者の年齢のはずです。
政治は結果です。結果を論じるべき時に、努力を述べるのは、ずらした回答です。

貧富の格差

意見の相違です。
結果ではなく、政府の努力に焦点をおいた政府主張になっているのは、「COVID感染者数」と同じロジックです。

また、Vadaketh氏は、貧富の格差の根拠としてジニ係数を使っています。「以前より改善されたが、ジニ係数がOECD諸国より今でも高い」と述べています。大使はジニ係数には触れずに、国内貧困層が過去5年で、富裕層より高い収入の伸び率を上げていることを指摘しています。
Vadaketh氏の主張は「以前より改善されたが、今でも貧困の差が先進国基準で大きい」なので、大使の主張とも矛盾しません。両者は互いに補強しあっています。

貧富の格差の是正には、シンガポールには存在しない相続税の導入が適切なはずですが、野党からもこの声はあまり聞きません。
シンガポールが国是としているメリトクラシー (能力主義) の観点でも、本人の成果でない遺産を引き継ぐ相続に税がないのは、逆行しているはずです。少なくとも、小学校入学のくじ引きにあたって「親が卒業生の優先枠」と「兄弟姉妹が在校生の場合の優先枠」での教育格差は速やかに撤廃すべきですが、この声も聞きません。
・シンガポール教育省 (MOE): Registration phases and key dates

HDB公団が99年賃貸

見解の相違です。

99年の賃借権であることは契約上明確で国民誰もが知っていた一方で、「HDBの価格は永久に上がり続ける」という"神話"に、2017年まで政府が釘をささなかったのも事実です。リー・クアンユー初代首相も「HDBの価値は決して下がらない」と、2011年でも発言していました。
・AsiaOne: MM: Your HDB home value will never drop
・YouTube: SPH Razor: MM: Your HDB home value will never drop

2015年に書いた私の記事でも、外国人から見た当時のHDB市場の異様な空気「99年たってもHDBから追い出されたり、価値がゼロになることはないよね」が伝わります。
uniunichan.hatenablog.com
2017年に「すべての古いHDBは、(SERSという制度で) 政府が買い取るわけではない」と当たり前のことを大臣が言うと、大騒ぎになりました。
・ストレートタイムズ紙: Don't assume all old HDB flats will become eligible for Sers, cautions Lawrence Wong

生まれながらのシンガポール人がマイノリティに

今回、唯一の事実誤認は「生まれながらのシンガポール人がマイノリティになっている」というものです。
ここには、ストレートタイムズ紙から引用します。

Vadaketh氏もタン氏も、シンガポール生まれの国民の具体的な数はふれていない。
(略)
ストレートタイムズ紙の質問に、Vadaketh氏は、シンガポールでシンガポール生まれの国民がマイノリティになったとの主張は、"The End of Identity"という2012年に発表した自著での概算によると主張した。
当時、自分に公式の数字を伝えることを拒絶した政府部門に、議論なく受け入れられた主張だったと言った。
「シンガポールだけでなく、世界的な多文化社会においては、外国生まれの人口は、移民と融合を評価する時に分析家が見るデータポイントだ」
Vadaketh氏 (42歳) は、「帰化でありマラヤ生まれの親を持つ息子として、シンガポールの調和と社会的包括性を促進しようとずっとしてきた」と付け加えた。
「タン大使が言うように、"外国人恐怖症や社会不和に火を注ごうなどと決してしてはいない」
・ストレートタイムズ紙: Singapore ambassador to Japan responds to Nikkei Asian Review opinion piece on Covid-19 outbreak and election

これは、シンガポール政府の"後出しジャンケン"です。
Vadaketh氏から政府は問い合わせを受けていますが、回答せずに、記事が出てから「事実誤認」と政府は主張しています。政府は「事実誤認」とは主張していますが、具体的な数や根拠を示さずに、単に「間違いだ」とだけ言っています。
似たようなことは、最近でもありました。政府系投資ファンドであるテマセクCEOの年収についてです。テマセクCEOは、リー・シェンロン首相の妻のホー・チン氏です。「ネットニュースTOCは、テマセクのホーチンCEO年収についてS$21億、約S$1億、年$9900万などと主張したが、全て嘘」と、POFMAを行使した際に政府は述べています。政府はテマセクの報酬を規定しておらず、報酬は法人と経営者の責任とだけ述べています。政府は、これまでに何度もテマセクCEOの報酬について問われていますが、これまで回答していません。
今回も、根拠を示さずに「間違い」とのみ述べています。

Vadaketh氏の計算方法は、帰化の数が過大に見えます。算出において、「1970年の国民の半数を帰化」との見積もりは過大に見えます。政府主張が正しいと私は判断しています。後述する付記を参照下さい。
特に、マラヤの1つの州だったシンガポールが、建国前後の時期にマラヤ他州から引っ越し手続きした人を「帰化」として、「新国民だ」と分類するのは実態に合わないでしょう。特に重国籍を許していないシンガポールで、国民・帰化の違いにこだわるのは、既得権益の主張でしかありません。
Vadaketh氏は、「生まれながらのシンガポール人と帰化の間に線を引いて」いると、政府が言うように、「生まれながらの国民がマイノリティになった」という言動は、「外国人嫌いと社会の分断に火を注」いでいます。

"帰化"を社会保障から外したシンガポール政府

では、シンガポール政府は帰化を国民と平等に扱っているのかと言うと、疑問がある政策があります。
シンガポール政府は、2014年予算で"パイオニア世代パッケージ"という高齢者への社会保障を作りました。45万人を対象にS$90億であり、1人あたり160万円(S$2万)という巨額なものです。みなさんは、日本政府から160万円もらった政策がありますか?ありませんね。
趣旨は「建国時の貢献に報いる」というものであり、86年以前から国民という基準を作り、その後の帰化した人は同じ高齢者でも対象外になりました。
・シンガポール政府: Pioneer Generation Package

2018年には、"ムルデカ世代パッケージ"を国家予算に組み込みます。50万人を対象にしたS$61億(約5千億円)で、一人あたり80万円(S$1万)にもなる、これまた巨額予算です。
ムルデカとは「独立」の意味。1950年代に生まれたシンガポール人を対象にした予算ですが、こちらも国籍取得制限に年度があり、1996年以前に国籍取得をしている必要がありました。逆に、1人あたり倍額予算を持っていた"パイオニア世代パッケージ"に漏れた帰化で、"メルデカ世代パッケージ"の対象になる人もいました。
シンガポールへの帰化を考えている人は、知っておくべき政策です。

在東京シンガポール大使館 の書簡の全訳

在東京シンガポール大使館 の書簡を全訳します。

2020年7月16日
この編集長への書簡は、日経アジアンレビューに対して2020年7月16日に公になった。
2020年7月11日
奥村茂三郎様
編集長
日経アジアンレビュー

奥村さん
7月1日にネットで発表された、Sudhir Thomas Vadakethによる記事"シンガポール選挙を揺るがすコロナウイルスと不平等の脅威"に言及します。

記事は、事実誤認と誤解を招く記述が含まれています。シンガポール政府が起こした"と認識されているパンデミック過失"が、4万4千人のCOVID-19感染者を生み出した。と記事は主張している。むしろ政府は、パンデミックの発生から、迅速、プラアクティブ、慎重に行動してきた。2人の閣僚を含む多省庁タスクフォースをたちあげ、国内で最初の患者が見つかる前ですら、感染発生を管理している。(編注: シンガポール最初の患者発見は1月23日。同日に多省庁タスクフォースが設立。)

現在までに、確認した感染者の大多数は、寮に住んでいる移民労働者だ。グループで人が集まっている環境では、感染の大きな可能性があることは避けられない。職場、家庭のような社会的な場所でも同じことを見ている。移民労働者寮や、飛行機やクルーズ船のような類似環境でも、COVID-19の重大な感染になりうることを、同様に見てきた。

移民労働者と広範囲なコミュニティの健康を保証するために、寮に住んでいる移民労働者への積極的で広範囲な検査をシンガポールは行ってきている。

感染者の発見と、移民労働者寮の体系的な点検に加えて、脆弱であるか、COVID-19にさらされるリスクが高いと思われるグループに、積極的な検査を行ってきた。例えば、建設、海洋
、プロセス(石油化学製造)セクターで仕事に戻った労働者に、定期的な検査を始めている。

このストラテジーの結果として、感染した労働者を特定し、隔離し、必要な医療治療を提供でき、大規模な市中感染をくい止め、死亡率を0.1%以下の極めて低い値にとどめている。感染者の大半は医学的に健康で、軽症か症状がない。それゆえに、発見した多数は、積極的な検査方針の反映で、正しく責任を持って行ったものである。

Vadakethは、過去20年間の"負の結果を軽視"しているが、経済成長を"やみくもに崇拝"と歪んだ絵を書いている。誰も取り残されない包括的な社会を追求しており、階層移動の成約を解決する継続的な努力を政府がしてきたことには、ふれていない。

過去数十年に渡り、広範囲な実質所得成長を維持することで、絶対的な社会的移動を守ってきた。2014年と2019年の間に、下位10%にあたる収入の世帯が、年に3.9%から4.5%の他階層より大きな実質成長を享受してきた。上位10%の収入層が、年2.5%とゆっくりな実質成長だったにもかかわらずだ。

国民に平等の機会を提供することを助け、生活環境を改善する機会を失わないように、様々な政策を政府は導入してきた。例えば、2016年に、シンガポール政府はKidSTARTを導入した。低所得で脆弱な家庭が、子どもを人生で良いスタートをきることができる支援のプログラムだ。低所得グループに、プレスクール(保育所/幼稚園)から高等教育への全域にわたって、教育支援金を増やしてきた。

正式な教育年次以外では、2015年に国民運動のスキルズフューチャーを導入した。国民が雇われるために、国民にスキル向上の機会を提供する。

職場にいる低所得シンガポール人への支援を強化を続けている。ワークフェア (Workfare) のような10億ドルプログラムを通して、高齢で低所得の労働者に企業が支払う給料に、40%もの上乗せを政府が提供している。段階給与モデル (Progressive Wage Model)は、労働者を向上することを助け、最低賃金では提供できない、明確で継続的な段階になっているスキル、より良い仕事や給料を作っている。

清掃員、警備員、庭師は、過去5年間で実質30%の賃金が上昇した。リタイア後に蓄えが十分でない人を対象にしたシルバーサポートは収入補助を提供し、2016年以降、この層にS$16億(11.5億米ドル)になっている。

公共住宅 (HDB) について、"突然の政策転換"をシンガポール政府が行ったと、Vadaketh は誤解を与える主張をしている。公共住宅は、独自のシステムで99年の賃借権で販売され、シンガポール居住者(国民/永住者)の80%以上が住み、約90%が所有権を持つ。

不動産の賃借が切れたときには、将来のシンガポール人が利益を受け、国土の再開発のために公共住宅は国に戻ることになると、シンガポール政府は常に広報してきた。公共住宅ばかりでなう、私営の賃借物件でも同じことが当てはまる。公共住宅を買う人は、インフラアップグレードへの気前がいい補助金ばかりでなく、住宅購入時にかなりの政府補助を受けている。

大きく補助金を受けている公営住宅に住んでいるオーナーは、99年賃借の条件で、手頃な価格の住居に住む恩恵を受けてきた。もし、住居に住むことを望まなければ、市場で売ることも収入のために賃貸に出すこともできる。公共住宅は多くのシンガポール人に手頃な価格で品質の高い住居を提供し、老後の収入を補うことができる価値を保存している。

移民のために「生まれながらのシンガポール人は、マイノリティに陥った」との主張をVadakethはしている。この主張は真実ではないし、生まれながらのシンガポール人と帰化の間に線を引こうとするVadakethの動機に疑問が生じる。外国人嫌いと社会の分断に火を注ぐ。結果として、多くのシンガポール人が大切にしている価値ある社会調和に逆行している。

日経は、自社の高い基準でプロフェッショナルな報道を維持し、偏った誤解がある特定個人の意見を今後は避けることを、私は希望する。

敬具
Peter TAN Hai Chuan
大使
在東京シンガポール大使館
Cc 岡田直敏様
日経 代表取締役社長
・在東京シンガポール大使館: Letter from Ambassador Peter Tan to Editor-in-Chief of Nikkei Asian Review

日経記事を書いた筆者の見解

日経記事を書いたVadaketh氏が見解を出しています。こちらにも全訳を付けます。

在日本シンガポール大使のぺーター・タンが、日経アジアンレビュー (NAR) で私が出した選挙記事に応えて書簡を出した。
彼の書簡で、パンデミックに対応するために与党PAPが成し遂げた物事のいくつかに言及した。いいね。全員が知るべきことだよ。
しかしながら、私が記事を書いた私の動機について、書簡でペーターは疑問を投げかけている。他にも色々述べている中で、シンガポールで「外国人嫌いと社会的不和に火を注ぐ」企てをしていると、ペーターが述べている。
ありがとう、ストレートタイムズ紙。私の意見を掲載してくれて。「帰化でマラヤ時代生まれの息子として、シンガポールの調和と社会包括性を促進しようと私の仕事では長期間してきた」という内容を含む。
私の仕事を見てきたシンガポール人と他の人達は、私の元の記事を読むことができるし、以下にリンクを貼る。ペーターが私に関して言っていることが真実かどうかをご自身で決めて欲しい。
自分なりの判断を下して欲しい。
私のオリジナルのNAR記事:
https://asia.nikkei.com/Opinion/Coronavirus-and-inequality-threaten-to-unsettle-Singapore-election
追記。引退と現職の外務省職員は、ペーター自身の言葉ではないと私に言った。私はその可能性はあるとは思うが、私ができる唯一公正な回答はペーターへのものだ。誰が書いたかについて私が憶測することはフェアではない。
・FacebooK: Sudhir Thomas Vadaketh

補足

シンガポール政府が海外メディアに行った主要な抗議
  • 2002年に、朝日新聞シンガポール支局が、シンガポール首相府から抗議を受けたと、当時の記者が明らかにしています。記事中に明記はないですが、この筆者は2001年に朝日新聞シンガポール支局長だった野嶋剛氏と認識しています。

長男の現首相シェンロン氏が副首相に就き、同氏の妻がテマセクという政府系投資会社の執行役員になった。そこで朝日新聞の特派員だった私は、「縁故主義」批判が広がっている、という記事を書いた。

・AERA: 「愚民観」で国を統治 豊かなシンガポールの闇

  • 2002年にブルームバーグ誌は、ゴー・チョクトン シンガポール首相、リー・シェンロン 副首相、リー・クアンユー 上級閣僚に謝罪し、金額非公開の損害賠償を支払った。8月4日の記事で、苦痛と当惑を招いたとした。記事は、テマセク・ホールディングスへのホー・チン氏のエグゼクティブ・ダイレクターへの就任に関したもの。「就任は功績ではなく、リー家への利益を呼ぶ腐敗した動機にからなされた」と就任を意味していた。謝罪では「主張は間違いで、根拠が完全になかったと認める」となっている。

・ニューヨーク・タイムズ: Bloomberg News Apologizes To Top Singapore Officials

  • インターナショナル・ヘラルド・トリビューン誌の論説(op-ed)で、Philip Bowringはリー・シェンロン首相が地位を手に入れたのは父親の縁故主義によるものだと意味する記事をもう書かないと、1994年に同意した。それにもかかわらず、2010年2月15日の記事で、Bowringはアジアの政治王朝のリストに2人をいれた。若いリー氏は業績によって地位を手に入れたのではないと読者に理解させた。この推測は意図したものではないと明確に述べたい。リー・シェンロン首相、リー・クアンユー顧問相、ゴー・チョクトン前首相に、記事が引き起こした不履行がもたらした苦悩と困惑にニューヨーク・タイムズ社は謝罪した。

・ニューヨーク・タイムズ: Apology

  • 2004年に、エコノミスト誌がリー・シェンロンシンガポール首相に謝罪した。金額未公開の損害賠償を首相とその父親のリー・クアン・ユー氏に支払うことで合意している。首相の妻のホー・チン氏が代表を務めるテマセク・ホールディングの記事が対象。「主張は誤りで、根拠を完全に欠いていた」と謝罪でエコノミスト誌は書いた。

・THE IRISH TIMES: 'Economist' apologies to Singapore PM

  • 2007年9月29日に、「容認できる代表を身につけようとしている国営ファンド」との記事をファイナンシャル・タイムズは公表した。記事が意図していたのは、リー・クアンユー顧問相がリー・シェンロン氏を首相にしたのは縁故主義が動機、リー・シェンロン首相が妻のホー・チン氏をテマセクホールディングのCEOにしたのは縁故主義が動機、DBS銀行に義弟のりー・シェンヤン氏が就任したのを助けたのは縁故主義が動機。これらの主張は間違いで、根拠が完全にないことを認める。リー・シェンロン首相、リー・クアンユー顧問相、ホー・チン氏に苦痛と困惑に謝罪する。同種の主張を今後しないことを約束する。リー・シェンロン首相、リー・クアンユー顧問相、ホー・チン氏に補償として損害賠償と、この件で生じたコストを支払う。

・フィナンシャル・タイムズ: Apology

Vadaketh氏の帰化計算方法への疑義

Vadaketh氏の帰化した人の計算では、帰化の数が過大に見えます。算出において、「1970年の国民の半数を帰化」との見積もりが過大です。
シンガポール国民というものが初めてできたのが、1957年に自治権をシンガポールが獲得したときです。英国籍はシンガポールに2年在住で、それ以外はシンガポールに10年在住で、シンガポール国籍を得ました。
人口ではなく、国民の数が初めてシンガポール統計にあらわれるのが、1970年の187万人です。
・シンガポール政府統計局: Population and Population Structure

  • 1957年の人口は145万人、国民人口は不明。
  • 1970年の人口は207万人、国民人口は187万人。つまり、1970年の外国人比率は10%。

1958年から1970年の自然増は、多産の時代であり、64万人。145万人(1957年人口) + 64万人(自然増) = 209万人 (死亡者数と帰化数は不明) と、1970年の人口207万により多い。人口増の大半は自然増で、帰化の人数は限定的と思われる。
そのため、1970年の国民の半数(94万人)を帰化とみなすのは数が多すぎる。10%を帰化とすると19万人。Vadaketh氏は2011年の帰化の合計を86万人と計算しているが、1970年の人口の10%を帰化とすると、Vadaketh氏の計算式でも49万人で、生まれながらの国民は53%になります。
・Musings from Singapore: What percentage of Singapore’s total population was born in Singapore?

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チョンバルにあるリー・クアンユー記念植樹

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末永恵氏の新型肺炎への事実誤認記事(クーリエ・ジャポン)

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
シンガポールは2003年にSARSで国が大きな影響を受け、東南アジアのハブとしてコロナウイルス感染者が連日報道されています。そのため、関係諸国では厳格な対応を取る国としてあげられることがあります。

シンガポールは専門外の末永恵氏

関係国の国民感情がエスカレートする中で、『シンガポールなど東南アジア情勢に詳しいジャーナリスト』とクーリエ・ジャポンで紹介されたのが末永恵氏です。専門のマレーシアは別として、何をもって『シンガポールに詳しい』とクーリエ・ジャポンが思ったのかは分かりませんが、困ったことに多くの事実誤認が含まれます。以前にもとりあげました。
uniunichan.hatenablog.com

末永恵氏の記事では、過去に週刊朝日が以下の謝罪を行っています。

<お詫び>
2014年4月18日号のワイド特集の中の記事「マレーシア機墜落の闇 真相覆う政府の腐敗」で、CNN上級国際特派員のジム・クランシー氏のコメントとして「自国の腐敗した政治状況をこの事件で暴かれたり、国の恥を世界のメディアが明らかにしないようコントロールしている」とある発言部分を取り消します。執筆者のフリージャーナリストがクランシー氏ご本人に取材した事実はありませんでした。ジム・クランシー氏およびCNNにご迷惑をおかけしたことをお詫びします。

  • 週刊朝日: 発行日2014年05月02日 ページ152

その末永恵氏が武漢発新型コロナウィルスで、再度シンガポールを取り上げました。これまでJBPressに寄稿していたのが、クーリエ・ジャポンに変わっています。なぜでしょうね。
courrier.jp
彼女はシンガポールの専門家でもなく、居住者ですらないので、『筆者がチャンギ国際空港に降り立った』という旅日記になっています。旅行者ですから。
その末永恵氏の記事へのファクトチェックを行います。

シンガポールは観光立国?GDPで14%も?

まずタイトルが謎です。シンガポールで観光は重要産業の一つですが、観光で「立国」した認識は一般的にはないはずです。戦前は交通の要所としての貿易、戦後は住友化学など日本も大きく関わった製造業、最近では金融業が主力です。この謎の認識がどこから来ているのか、本文に記載があります。

観光は一大産業だ。GDPに占める観光産業収入は約14%で、タイの約9%、マレーシアの約4%、インドネシアの約3%など、東南アジア諸国でダントツに高い。

はい、事実誤認です。
シンガポールの観光産業のGDP比率は、14%ではなく、4%です。出所はシンガポール政府観光局 (STB) です。

  • シンガポール政府観光局: About STB: Overview

これは致命的な誤りです。
他国と比較し『東南アジア諸国でダントツに高い』と書いているので、単純にタイプミスで1桁増やしたというものではないでしょう。
GDP比率が14%だと、単純に割り算すると、7人に1人もが観光産業従事者になります。シンガポールに住んでいると、これは明らかに実感に合いません。データを再確認するべきですが、専門家でもなく、居住経験もないようです。14%がおかしいことに末永恵氏は気が付きませんでした。

シンガポールにシャングリラホテルは2つあった

2018年、米朝首脳会議が行われたシンガポールのホテルでも感染者が出た。

まず、米朝会談が行われたのは、末永恵氏も書いているように、セントーサ島にあるホテルの「カペラ シンガポール」です。ここでは、患者は出ていません。
患者が出たホテルの一つは、末永恵氏も認識があるように、セントーサ島にある「シャングリ・ラ ラサセントーサ リゾート&スパ シンガポール」です。
ところが、セントーサ島のシャングリ・ラは、米朝首脳会談とは関係がありません。トランプ大統領が宿泊したのは、オーチャード近くにある「シャングリ・ラ ホテル シンガポール」です。

※筆者撮影f:id:uniunikun:20200131143925p:plain
シャングリ・ラ ホテル シンガポール
シンガポールに、シャングリ・ラのブランドのホテルは2つあります。末永恵氏は、初歩的なミスをし、わざわざホテルにまで視察に行ってるのに、気づかずにこの記事を書かれた模様です。
f:id:uniunikun:20200130224755p:plain
この『米朝首脳会談』という文言は、序章にあたる記述で、末永恵氏でなく、クーリエ・ジャポンの編集がわざわざ付け足した可能性はあります。「末永恵氏をライターに選ぶクーリエ・ジャポンだけのことはあるなぁ」という印象です。

シンガポールの17年前の一般労働者の月給は6万円だった?!

SARSからの経験にある。 (略)
「もし、外出すれば(一般労働者の10倍の月給の)罰金1万ドルが科されたぐらいですから」

現在、S$1は約80円です。1万ドルだと、約80万円です。2003年はS$1は約60円でした。これだと、60万円ですね。
この罰則はシンガポールの感染症法 (Infectious Diseases Act) によるものです。検疫に従わなければ、S$1万以下の罰金、もしくは、6ヶ月以下の禁錮、もしくはその両方になります。

問題は、1万ドルが『一般労働者の10倍の月給』ということです。これは間違いです。
シンガポール労働省 (MOM) の統計で、2003年の月収中央値はS$2320 (約14万円)です。1万ドルは、「一般労働者の4倍強の月給」ということです。17年前とはいえ、シンガポールの一般労働者の月給が6万円というのは、いくらなんでもおかしいのに、またしても気づいていません。
なお、その後経済発展とシンガポールドル高で、最新2019年の月収中央値はS$4,095です。約33万円と2.3倍に所得が伸びています。

昨年の経済停滞は過去最低?リーマンショック時より悪い?

米中貿易戦争の影響による輸出低迷は、2019年の経済成長率が0.7%にとどまる要因になった。
また、国家公務員のボーナスが、「1.1ヵ月分」と過去最低を更新

シンガポールでは経済成長が公務員のボーナスにも連動します。「お役所仕事」では、公務員の稼ぎも悪くなるのです。米中摩擦の影響を受けてシンガポール経済は停滞中です。
ですが、2019年の公務員のボーナスは1.1ヶ月分ではなく、1.55ヶ月分です。また、過去最低は、金融危機 (リーマンショック) の年の2009年の1.25ヶ月です。この過去最低は更新できていません。
なお、1.55ヶ月は通年で、冬 (シンガポールは常夏なので12月ですが) のボーナスだけだと、1.1ヶ月になります。ですが、過去最低を更新していないので、末永恵氏の記述はやはり不適切です。

過激なネット世論は、一般にどこまで支持されているか

シンガポールは28日現在、今回の新型ウイルスで東南アジアでタイに次ぐ4人の感染者を確認しているが、中国人の入国全面禁止などの規制の動きは見られない

SNS上では「政府の対応は遅すぎる」「なぜ、中国本土などの渡航者の入国を全面的に禁止しないのか」など、政府の対応への不満やフラストレーションを表す投稿が見られた。
日本では今回のシンガポールの危機管理対策が賛美されるが、地元・シンガポールでは国民の一部から否定的な声が上がっているのも事実のようだ。

末永恵氏の記事は1月28日に書かれた模様です。1月29日に、武漢を含む湖北省発行パスポート所持者への入国とトランジットを、シンガポールは認めなくなりました。また、2月1日23時59分から、中国訪問者と中国パスポートでの入国とトランジットも不許可になりました。全面禁止です。

新型感染症より危険なもの

SARSで「感染者238人、死亡者数33人」と東南アジアで最大の犠牲者を出したシンガポールは28日現在、今回の新型ウイルスで東南アジアでタイに次ぐ4人の感染者を確認しているが、中国人の入国禁止など、規制の動きは見られない。

ここはファクトチェックではありません。
そもそも、現在の新型コロナウィルスへの反応は、日本・シンガポール・世界で合理的で冷静でしょうか。
シンガポールでは、通勤時のマスク着用率が1割を超えてきました。

2003年のSARSでシンガポールは深刻な打撃を受けたとされています。感染者238人、死亡者33人です。ところが、その年のシンガポールでの交通事故は1万6千件、死亡者は213人でした。シンガポールでさえ、SARSより交通事故の方がハイリスクだったわけです。

現時点で、シンガポールで新型肺炎に死者はでていません。感染者は全員、武漢からです。国内感染もおきていません。新型肺炎が、交通事故よりリスクが高いという評価にはなりません。
人間は、既存のリスクには関心が低く、新種のリスクは過剰評価します。テロや放射能がそうです。
シンガポールでの公衆の場でのマスク着用率が1割を超えてきた印象があります。「しないよりかはまし」という考えであれば理解しますが、今日、シンガポールでコロナウイルスに感染する可能性より、宝くじ一等に当たる方が高確率です。中国人の入国禁止でのリスク軽減より、交通事故の方がハイリスクです。
それを認識した上で、マスクをして欲しいです。マスクをしている人が、歩きスマホをし、バイク・タクシー・自家用車に乗っていれば、リスク判断を間違えていることになります。

SARSの被害が上記で収束したのは、関係者の努力と国民の協力によるものです。メディアには、感情を煽るのではなく、冷静で合理的な報道をして欲しいと願っています。


末永恵氏とクーリエ・ジャポンは、メディア・ライターとしての良心があるなら、この記事を削除・撤回すべきです。根本の「シンガポールは観光立国」が崩れ去っているので、そこを削除すると、論旨がなりたたないためです。

末永恵氏のJBpress掲載シンガポール ヘイト記事

"アンチ シンガポール"な人たち

シンガポールウォッチャーのうにうにです。シンガポール在住者でもあります。
シンガポールは経済的に成功している都市国家ですが、その一方で政治体制に強いリーダーシップの特徴があるため、「シンガポールすげぇ」なヨイショがいる一方で、「明るい北朝鮮」を連呼するシンガポールアンチも入り乱れた評価が、日本にはあります。
ネットメディアでシンガポールアンチを繰り返しているライターが末永恵氏。末永恵氏は、『成長の原動力だった移民を排斥へ』(実際は外国人数増)という事実誤認や、『シンガポール ジカ熱が低迷経済を直撃、少子化に拍車』(2018年の出生数は前年比600人減とほぼ同数)との不思議な主張を、これまでもシンガポールにされています。他には、「シンガポール王朝」などと揶揄する大塚智彦氏などもいます。なぜか、両者とも元産経新聞記者とのことですが、きっと偶然なんですよね。

末永恵氏の記事では、過去に週刊朝日が以下の謝罪を行っています。

<お詫び>
2014年4月18日号のワイド特集の中の記事「マレーシア機墜落の闇 真相覆う政府の腐敗」で、CNN上級国際特派員のジム・クランシー氏のコメントとして「自国の腐敗した政治状況をこの事件で暴かれたり、国の恥を世界のメディアが明らかにしないようコントロールしている」とある発言部分を取り消します。執筆者のフリージャーナリストがクランシー氏ご本人に取材した事実はありませんでした。ジム・クランシー氏およびCNNにご迷惑をおかけしたことをお詫びします。

  • 週刊朝日: 発行日2014年05月02日 ページ152

その末永恵氏を掲載しているのはJBpress。しっかりした調査記事を寄せるライターもいますが、アンチ中韓記事も掲載しているネットメディアです。一定数いる中韓擁護派から反論があっても、アンチ中韓記事を掲載し続けているのでしょうから、ほとんど無風のアンチシンガポール記事を載せるのはなんてことないのでしょう。

専門はマレーシアの末永恵氏ですが、日本人向け一般メディアに書けるネタがなくなったせいか、シンガポール、カンボジア、フィリピンといった周辺国の記事も書いています。他国の記事への評価は知りませんが、シンガポール記事については、一般的に流れているニュースから自分の主義主張に合う部分を切り貼りしたレベルです。在住でないので、ご自身での新情報のソースはありませんし、シンガポールの専門家でもないので末永恵氏ならではのインサイトに私が気づいたことはありません。

シンガポールを理解する

耳がタコになるシンガポールヘイト

今回の記事でも、親がシンガポールに殺されたか、自分がシンガポール人に昔ふらられたかの勢いで、シンガポールをこき下ろしています。
jbpress.ismedia.jp

読んでいると微笑が私の口元に浮かびます。理由は、日本で流布するテンプレ(典型文)の「アンチシンガポール プロパガンダ」の焼き直しだからです。

  • シンガポールは「明るい北朝鮮」
  • シンガポールは「独裁国家」
  • 「報道の自由」ランキングでシンガポールは下位
  • 幸福度調査ランキングでシンガポールは世界最低
  • シンガポールの労働組合は政府公認のものが1つしかない
  • シンガポールの大学入学には反政府思想でないとの政府証明が必要
  • シンガポールの野党議員選出選挙区は行政サービスで冷遇される

このアンチ シンガポール テンプレートを、近年ネットで流布させる影響力を発揮したのは、内田樹氏ではないでしょうか。


uniunichan.hatenablog.com

末永恵氏は、アンチの中でも何番煎じも後で、わざわざ読む価値を見いだすオリジナリティがありません。上記のテンプレ批判には、後ほど解説します。

シンガポール国民は一党支配を支持している

末永恵氏の個別の文章へのファクトチェックに入る前に、シンガポールを理解する大前提を説明します。

シンガポールは独裁国家か: 一党独裁と一党支配

一部の日本人は、末永恵氏のように、シンガポールを「独裁政権」「独裁国家」というのが好きですが、これは明確に間違いです。理由は、公正な自由選挙で国民が現在の政権与党を選んでいるからです。シンガポールでの現状は、一党支配 (Dominant-party system) です。
最近の2015年の総選挙では、69.86%が与党PAPに投票しました。先進国で、7割の得票率は圧倒的です。1959年から現在まで、一度も途切れることなく単独で政権を擁立しています。強制投票制度もあり、投票率が94%の中でのことです。つまり、総有権者の64%が与党PAPに投票していることになります。
日本の2014年衆議院議員総選挙小選挙区では、投票率が53%しかなく、自民党は総有権者の24%しか得票していないのと比べると、民意は明確です。
シンガポールを「一党独裁」と批判するのは、シンガポール国民の民意と民主主義を尊重していないことになります。
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/u/uniunikun/20150926/20150926154551.jpg
uniunichan.hatenablog.com

「シンガポール人は与党に洗脳されている」「飼いならされている」という見方をする日本人も、(シンガポール在住者以外を中心にいますが) 不適切です。ネットや外資メディアから、政府に不都合な情報はいくらでも入手できます。海外居住者、留学者も多数です。重国籍を許さない国なこともあり一定数の国籍離脱者はいるとされていますが、チャンスがある金持ちほど国を逃げ出す中国とは訳が異なります。
つまり、シンガポール国民は現在の与党PAPを支持しています。たとえ、男子には2年間の徴兵があり、言論の自由が他国より制限され、厳罰国家であったとしてもです。

経済成長、治安 > 男子皆徴兵、言論の自由
(経済成長と治安は、徴兵や言論の自由より大事)

ということです。

独裁国家とは、その体制下では、政権交代が起こらない国です。北朝鮮や、中国共産党と衛星政党以外が許されない中国のような国への評価であって、シンガポールには該当しません。シンガポールは、日本で自民党が長期政権を保持した、55年体制との類似体制です。
「一党独裁」を連呼する末永恵氏の記事は、それだけでも読むに値しないことが分かります。

"親日国"のシンガポールからわざわざ反感をかいたいのか

その末永恵氏がこき下ろしたシンガポールですが、実は"親日国"です。
"親日""反日"という区分自体が安直すぎて不適切だという指摘もありますが、シンガポールは"親日"です。和食店がフードコートにすらあり、日本のサブカルチャーへの理解もあり、車・家電では韓国勢が勢いを増していますがまだまだ日本はブランドを維持しています。
アウンコンサルティングの2017年「アジア10カ国の親日度調査」では「日本という国が好きですか?」という問いにシンガポールの100人中100人が大好きまたは好き、という回答を叩き出しています。2018年のシンガポールからの訪日者数では、44万人(出所:日本政府観光局(JNTO))であり、シンガポール国民は347万人のため、平均すると13%もの国民が一年間に日本を訪れています。圧倒的です。

これは、太平洋戦争中に日本軍が引き起こした、シンガポール華僑虐殺事件を乗り越えてのことです。シンガポールは中華系住民が多く、日中戦争で中国支持者が多い中華系を恐れての虐殺でした。日本が認めた数として5千人、シンガポール計測で5万人が虐殺されたとされています。
uniunichan.hatenablog.com

末永恵氏の記事は、戦後の強烈な反日感情を乗り越えてきたこれまでの先人たちの苦労を愚弄しています。日本人にも、シンガポール人に対してもです。
日本人を焚き付け、シンガポール人に日本への悪意をもたせる記事を書き掲載する、末永恵氏とJBPressの意図が分かりません。少なくとも、フェアな記事ではありませんし、友人としての長期的な視点でも提言でもありません。
"国益"に反する行為であっても、シンガポールを罵倒する必要があるという信念があるのであれば、どうぞ表明していただきたいと思います。

末永恵氏の記事のファクトチェック

末永恵氏の記事への見解を記します。

末永恵氏の記述 私の見解
反政府活動や野党の締め付けを強化しているだけではなく、今秋見込まれていた総選挙も来年に延期した(2021年1月期限) 議会解散は首相が大統領に助言して決まる。首相や与党は選挙日程をほのめかしていないが、選挙区再評価委員会(EBRC)が招集されたとの噂が流れ、世間が推測していた。EBRC招集は8月だった。決まっていないことなので、"延期"ではない。また総選挙期限は2021年1月ではなく、2021年4月15日
シンガポールでは、抗議活動に関する規制に違反すれば、最長6カ月間の禁錮刑に科される可能性もあるのだ。 治安法 (Public Order Act) のことであれば、禁固刑の最長は12ヶ月。また罰金の最大はS$2万で、禁固刑と両方の可能性がある
多くの企業が混在する金融先進国のシンガポールでは、政府公認の組合が唯一スト権を保有し、いわゆる労働組合は事実上存在せず、活動していない。 「政府公認の組合」と「いわゆる労働組合」の違いが不明。シンガポールでは労働組合は政府に登録されており、67組合ある。登録組合は合法ストの実施が可能(Trade Unions Act)。
大学入学希望者は「危険思想家でない」という証明書の交付をシンガポール政府から発行してもらう必要がある。反政府や反社会的な学生運動などは存在しないのが実情だ。 治安維持法第42条なら、入学には学校許可に加え官庁の証明書が必要で、国の治安を損ねる場合に拒否されるという内容。ただし、NUS/NTU生に聞いても「そんな証明書類、手続きした記憶がない」と言われる。入試の申請書類にも記載がない。この条項での入学拒否者を探しても出てこない。入学願書の条項に「教育省MOEに大学が問い合わせするのを認める」の宣言があるので、それの可能性がある。つまり、「証明書の交付」を入学者が政府に直接発行してもらう運用では少なくともない。
筆者の取材によると、今年9月、米エール大とシンガポール国立大学(NUS)の共同設置の「エールNUSカレッジ」で、反政府活動を扱うカリュキュラムコース「シンガポールでの反対意見と抵抗」の開講の中止が決まった。 『筆者の取材によると』が虚偽。2019年9月14日に、シンガポール最大手ストレートタイムズ紙が報道済み。末永恵氏の記事の12月10日より3ヶ月前に報道されている。
選挙で野党候補者が当選した選挙区には、政府による“懲罰”が科され、公共投資や徴税面で冷遇されることでも知られている。 徴税面の冷遇が具体的に何を指すのか不明。地方税がないシンガポールは、住所で税を変更できない。野党選出選挙区での公共サービスの冷遇は、類似の出来事が世界中で行われている。日本では、ダム反対地方自治体への公共工事削減などの行政圧迫が有名。
形の上では公正な選挙で選ばれたように見えて、その実、選挙区割をはじめ選挙システムなど与党による独裁が守られる「仕かけ」が施されているのだ。 これも世界中で見られる。日本では1票の格差問題が有名。シンガポールでは前回総選挙では一票の格差が最大1.98倍、一方日本では2017の最高裁が格差3.08倍に合憲判決。米国では、前回大統領選挙で得票数で上回るヒラリー・クリントン氏がトランプ氏に敗れています。シンガポールで野党が抗議をしているのは、選挙区割でのゲリマンダーが中心。投票操作への抗議はない。そのため、シンガポールでは議席占有率ではなく、得票率でみる。ゲリマンダーで議席数は操作できても、得票率は操作できない。
政府批判勢力には、国内治安法により逮捕令状なしに逮捕が可能で、当局は無期限に拘留することも許される。 現行犯逮捕同様に令状不要。日本には人質司法がありますが、シンガポール治安維持法でより深刻なのは裁判無しの長期勾留。マフィアに大打撃を与えた政策ですが、政治的にも使われた。
新聞、テレビなどの主要メディアは政府系持株会社の支配下にあり、独裁国家のプロパガンダを国民に刷り込むことに一役買っている。 テレビ局のメディアコープは(政府系持株会社ではなく)政府系投資会社TEMASEKが所有。新聞社SPHは大統領を輩出するなど政府と人事が近い。これらは自己検閲を行っている。国民は外資メディア・ネットニュースの閲覧が可能。また反政府系はネットを中心に活動。なお、末永恵氏が前述したエールNUSの授業中止を最初に報道したのは、末永恵氏が罵倒するSPHの新聞ストレートタイムズ。
筆者の取材にシンガポール政府安全危機管理関係者は、「香港の民主化に感化され国内に混乱が発生した場合の『危機管理スキーム』を作成し、暴動クライシスへの対策を取りまとめた」という。 『筆者の取材に』と書いているが、危機管理計画は11月3日のフィナンシャル・タイムズ紙が報道済み(和訳の日経掲載は11月5日)
そしてもう一つの大事な点が、国民の自由を剥奪してきた政策が至る所で綻びを見せ始めているという現実だ。国政メディアは決して伝えないものの、経済発展を果たしたいま、自由を求めて国民の不満が高まり、じりじりマグマ化してきている実態が明らかになってきた。 根拠がない。私の実感でもない。シンガポールで唯一合法にデモを行えるのはスピーカーズコーナーだが、香港関連をテーマにしたデモは開催すらされていない。香港騒動後に人が集まったデモは、気候変動がテーマで、主催者発表で2千人が参加
「シンガポール初の全国規模のホームレス調査」(シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院)だ。人口約570万人のうちホームレスの数が約1000人だったことが明らかになった。(略)日本の首都・東京では、人口約1350万人でホームレスは毎年減少傾向で、1126人(今年1月現在)ほど。これに対し、人口約570万人と東京の半分にも満たないシンガポールのホームレス数が東京並みで、かつ増え続けているのだ。 「ホームレスは人口比でシンガポールは東京の倍」と聞くとシンガポール居住者は違和感を持つはずです。理由は、ホームレスを見たことがない人が大半だから。数字の違いは、計測方法の違いと私は推測します。日本は対象が「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」で、地方自治体の巡回での目視。シンガポールは対象が「全ての街の通り」で「23時半以降に寝ようとしている人」を、ボランティアとNGOが確認です。明らかに調査の精度が違います。よって、発見場所も全く異なります。シンガポールでは3割強が公団住宅1階の待合場所(ボイドデッキ)で、3割弱が商業ビルです。日本では住居やビルは調査外です。
シンガポールの一党独裁の歪は、政治的統制、様々な規制、能力至上主義社会を反映し、米調査会社ギャラップの日常生活の「幸福度」調査では、シンガポールが148カ国中、最下位だったこともある。 典型的な、自説に都合が良いデータだけをつまみ出した議論の展開。国連「世界幸福報告書」で、シンガポールは世界22位、アジア1位の幸福度。gallup調査は「ポジティブ・ネガティブへの感受性」がとおりがよい"幸福度調査"と誤って各所で引用されており、「感情を表に出さない」と理解すべき。だいたい、シンガポール関係者であれば「シンガポール幸福度が世界最低」は体感と違っておかしいので原典をあたるべき。
シンガポールは一党独裁でありながら経済成長を果たした背景から、「明るい北朝鮮」とも呼ばれる。リー・ファミリーが政治権力だけでなく、富も独占的に保有してきたからだ。 「明るい北朝鮮」と"呼ばれる"のではなく、呼んでいるのは日本人だけ。"Bright North Korea"でグーグル検索しても、用語として出てこない。知日派シンガポール人からすら反感をかう言葉だから使うのは止めるべき。フォーブス「シンガポール長者番付」は50位までランクされているが、リー家は未掲載。首相とサラリーマンCEOがいる裕福な家族なのは確かだが、「富も独占」は根拠がない。
2015年3月に建国の父、リー・クアンユー氏が亡くなった時、旧知の間柄だった台湾の李登輝元総統はこう言い放った。「我々、台湾は自由と民主主義を優先させたが、シンガポールは経済発展を優先させた」 出所不明。私は中国語が読めないので、日本語英語の資料になりますが、「シンガポールは中国に頼った」と李登輝氏は発言している。続けて「台湾は自分の足で立ち上がっていた」と中国との関係性の違いを発言。「シンガポールが経済発展を優先させた」との発言は見当たらない
言論の自由

与党PAPに投票し続けていることで、国民は現体制を支持しています。国民が支持しているのなら、なぜ他国民が批判するのですか?他国民に、そんな権利があるのですか?虐殺や強制収容所のような人権問題なら、普遍的正義として、他国が介入する口実はあるでしょう。国民の多数が支持したところで、人権を抑圧された人は救済されるべきだからです。しかし他国の介入が、宗教・民族へのヘイトスピーチを含む「言論の自由」にも当てはまるかとなると、尻込みする人が大半でしょう。

シンガポールでは「言論の自由」は他先進国より制限されています。これには「多民族国家で、国家分断につながる民族・宗教に関するヘイトスピーチを許さない」というのが大前提としてあります。例えば、ムスリム家庭の玄関に豚肉を置いた女性は、刑事事件として有罪になりました。

多数決で制限できない権利が人権

以上が、シンガポールからの見解です。上記に加えて、私からは以下を付記します。
民族・宗教へのヘイトスピーチを、とりしまる、とりしまらないは、各国で判断が分かれるでしょう。
シンガポールでの言論の自由の問題は、民族・宗教以外でも、制約を受けていることです。例えば、民事ではあっても、与党政治家への名誉毀損で高額な賠償金で破産したり、欧米マスメディアもシンガポールの政治家に過去に謝罪・賠償をしています。

政治家も、一般市民と同様に、誹謗中傷から名誉が守られなければならないということです。
私はここには同意できません。政治家は一般市民ではありません。権力を持ち、裁判を行う財力も一般市民よりあるでしょう。民事であっても、政治家が一般市民相手に名誉毀損訴訟を行うのは、言論の著しい萎縮効果があります。日本を含め多くの先進国では、政治家が一般市民相手に訴訟を行うのは恥ずかしい行為とされています。権利はあっても、行使すべきではない、という衿持です。なので、政治家でない人に名誉毀損訴訟をほのめかした民主党の小西洋之議員は激しく非難されました。別の言い方をすると、小西洋之議員はシンガポールスタイルです。国民からの罵詈雑言、流言飛語には、法律・裁判でなく、政治家は自分のチャネルを使って言論で説明・反論するのが適切と私は考えます。
シンガポールの名誉毀損の特徴は賠償金が高額なことです。破産に十分な額の賠償命令がでます。シンガポール独立後、初の野党議員となったJ. B. Jeyaretnam氏は、与党への名誉毀損への損害賠償と裁判費用で破産に追い込まれました。最近の一般人相手では、2015年にリー・シェンロン首相が、名誉毀損訴訟に勝利し、ブロガーが$15万(約1200万円)の賠償命令を受けています。
日本での名誉毀損には、懲罰的な賠償額にならず、裁判所が黒白をつけたおまけの金額程度でしかないです。賠償額より、弁護士など裁判費用が大変でしょう。(例: 牧義夫前衆院議員の朝日新聞社への名誉毀損訴訟では110万円の支払い命令)

言論の自由は人権に含まれます。世界人権宣言の第19条です。国連で採択され、172カ国が締結し、74カ国が署名した"市民的及び政治的権利に関する国際規約" (ICCPR (B規約)) を、シンガポールは締結も署名もしていません。同様の国には、サウジアラビア・アラブ首長国連邦・マレーシア・バチカン市国など少数です。(なお、人権でよくとりざたされる中国は、締結したが未署名)
人権である言論の自由は、国民の多数決や政治で権利を制限できることではなく、マイノリティも権利が守られるべきことです。シンガポール国民が現体制を支持しているのは、「自分は体制側」であり、「自分がマイノリティになる、政府と敵対することは考えていない」という前提があるからです。
「言論の自由」と経済発展・治安が本当にトレードオフなのか、シンガポールでは両立できないかこそが、検証されるべきです。


末永恵氏は、専門外のシンガポールには口を出さず、マレーシア記事だけを書き続けることを願っています。また、JBpressも内容を評価できない記事を掲載するのは、止めるべきです。それが、名誉を守る術です。