今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

(3月14日更新)シンガポールのコロナウイルス: 日本からの初の感染持ち込みは米国人。グラブフード配達員が感染

シンガポールにも、中国の武漢から広まったコロナウィルス (COVID-19) が上陸しました。
デマに負けないためには、信頼できるソースからのものを掲載しています。シンガポール政府・WHOなど国連機関、地元大手メディア(ストレートタイムズ紙、CNA)などです。可能な限り、私のブログではなく、原文にあたってください。

本日のサマリー

  • 日本からの初の感染持ち込みは米国人

輸入症例とMOHが書いており、滞在国は日本のみなので、日本感染です。176人目の、37歳英国人女性も日本滞在歴がありますが、その後英国に滞在しており、どちらの国での感染か不明。

  • グラブフード配達員が感染

発症後の顧客は、MOHから連絡があります。

  • シンガポール航空クルーが感染。
  • 12人の新規感染、合計で212人に。1人がSAFRAのジュロン、9人が輸入症例、1人が既存ケースとの関連、1人が不明。

シンガポールでの最新状況

更新情報

日時(2020年) 発信者 内容
3月14日 保健省 12人の新規感染が確認され、合計で212人になった。1人がSAFRAのジュロン、9人が輸入症例、1人が既存ケースとの関連、1人が不明。
201人目は、52歳シンガポール人女性。SAFRAジュロンの関連。
202人目は、44歳シンガポール人男性。輸入症例。2月28日から3月3日までマレーシアにいた。マレーシア政府がCOVID-19と関連したイベントとした、マレーシアでのモスクの大規模宗教行事に参加した。
203人目は、36歳シンガポール人女性。輸入症例。3月6日から8日までインドネシアにいた。
204人目は、就労ビザ所持の32歳米国人男性。輸入症例。2月29日から3月8日まで日本にいた。SGHに隔離入院中。3月11日に発症、12日に一般医GPに通院した。12日にSGHに通院し、13日午後に感染が判明。
205人目は、長期滞在ビザLTVP所持の30歳フィリピン人女性。輸入症例。2月27日から3月6日までフィリピンにいた。
206人目は、33歳ニュージーランド人女性。輸入症例。長期滞在ビザLTVP所持。2月28日から3月13日まで米国に滞在。
207人目は、40歳シンガポール人女性。輸入症例。3月6日から3月11日まで英国に滞在。
208人目は、26歳シンガポール人女性。
209人目は、32歳シンガポール人女性。輸入症例。3月2日から7日まで米国に滞在。
210人目は、56歳ドイツ人男性。輸入症例。長期滞在ビザLTVP所持者。2月27日から3月3日まで、ドイツ、3月3日から10日までスイス、3月11日から12日にドイツに滞在。
211人目は、35歳フィリピン人女性。長期滞在ビザLTVP所持者。
212人目は、64歳インドネシア人男性。
前日からの更新: 190人目(172人目(就労ビザ所持の42歳フィリピン人女性)と関連)は、53歳シンガポール人男性。タクシー運転手。発症後は勤務についていない。
前日からの更新: 192人目は、24歳マレーシア人女性。就労ビザ所持者。2月24日から28日までドイツ、2月28日から3月3日までマレーシア、3月6日から10日まで再度マレーシアに滞在。シンガポール航空クルー。発症後は勤務についていない。
前日からの更新: 199人目は、37歳シンガポール人男性。輸入症例。マレーシアのモスクでの大規模宗教行事に参加。入院までは個人事業主としてグラブフードで食品配達で働いていた。住所はホーガンストリート51。


日本への渡航自粛勧告

日本への渡航自粛勧告がシンガポール政府から出ています。
これまでの渡航自粛勧告と入国禁止までの日数は、0日から8日。日本での感染爆発推移によりますが、日本人・日本渡航者への入国拒否への備えが必要になりました。対象地域への過去14日の渡航歴があれば、入国・トランジットが拒否されます。長期滞在ビザの所持者は、14日間の自宅待機勧告 (SHN) に従うことで、入国できます。ただし、入国にはビザ発行官庁の許可が必要です。

対象地域 渡航自粛勧告日 入国拒否日
湖北省 1/22 (武漢) 1/29
中国本土 2/1 2/1
大邱市と清道郡 2/23 2/26
韓国 2/25 3/4
イラン・北イタリア (なし) 3/4
日本 3/3 (入国拒否になっていない)
イタリア全土/フランス/スペイン/ドイツ 3月15日 3月15日

これまでの新型コロナウイルス記事

「健康な人にはマスクは効果がない」がシンガポール政府の立場
uniunichan.hatenablog.com

これまでの更新情報の総集編は、こちらを参照ください。
uniunichan.hatenablog.com

uniunichan.hatenablog.com

uniunichan.hatenablog.com

uniunichan.hatenablog.com




筆者への連絡方法、正誤・訂正依頼など本ブログのポリシー

にほんブログ村 シンガポール情報

末永恵氏、デイリー新潮の新型コロナ記事でもシンガポールヘイトをまき続ける

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。
「シンガポールのGDPに占める観光産業収入は約14%」と嬉々として事実誤認をクーリエ・ジャポンに載せた末永恵氏が、再度シンガポールについて記事を書きました。 ※注: シンガポールの観光産業のGDP比率は4%。(出所: シンガポール政府観光局)
今度は、デイリー新潮です。
www.dailyshincho.jp

これまでの彼女のシンガポール記事と同様に、「シンガポールに親を殺されたかのような」ヘイト記事に再度仕上がっています。単に好き嫌いだけならご本人に同情して終了ですが、事実誤認を含んでいるので、ファクトチェックを実施します。過去の末永恵の記事へのファクトチェックについては、下記2つがあります。
uniunichan.hatenablog.com
uniunichan.hatenablog.com

末永恵氏の記事では、過去に週刊朝日が以下の謝罪を行っています。

<お詫び>
2014年4月18日号のワイド特集の中の記事「マレーシア機墜落の闇 真相覆う政府の腐敗」で、CNN上級国際特派員のジム・クランシー氏のコメントとして「自国の腐敗した政治状況をこの事件で暴かれたり、国の恥を世界のメディアが明らかにしないようコントロールしている」とある発言部分を取り消します。執筆者のフリージャーナリストがクランシー氏ご本人に取材した事実はありませんでした。ジム・クランシー氏およびCNNにご迷惑をおかけしたことをお詫びします。

  • 週刊朝日: 発行日2014年05月02日 ページ152

世界で羨ましがられるシンガポールの対応

彼女の記事に入る前に全体としてです。末永恵氏が当地の極左野党並にほじくり返そうが、新型コロナウイルスで影響を受けた国の中で、シンガポールは最もうまく対応できている国です。WHO (世界保健機関)でも、裕福な都市国家の真似を他国はできないという前提ながらロイターでも、ブルームバーグでも、対応は絶賛されています。


www.bloomberg.co.jp
末永恵氏の主張は、「試験の成績が学校トップで80点だった生徒に、失点した20点をネチネチ追い回している」内容であるか、シンガポール国内でもごく一部でしか支持されていない過激な政策を主張したものです。

ファクトチェック

それでは、末永恵氏の記事を引用しながら、ファクトチェックを実施します。

英国のテレグラフ紙は「シンガポール渡航は大丈夫?」などの記事を配信するまでになっている。

印象操作。テレグラフ紙の正確なタイトルは「タイ、シンガポール、ベトナム、他の東南アジアを訪れるのは安全か?」です。

SARS

SARSの際は、中国に次いで被害が大きかったのは香港やマカオだった。ところが今回は、中国と国境を接するこれらの国以上の感染者が出ているのだ。

嘘。SARSでの患者・死亡者数は、1位中国、2位香港、3位台湾、4位カナダ、5位シンガポール。
マカオは患者数は1人、死者ゼロ。マカオは、SARSの際に、中国に次いで被害が大きかった国・地域ではない。

シンガポールは、SARSでも新型コロナウイルスでも、打撃を受けています。しかし、中国と国境を接している香港は、新型コロナウイルスの感染者93人、死亡者2人。シンガポールは感染者96人、死亡者ゼロ(2月28日)。シンガポールと香港はほぼ差がないにもかかわらず、香港以上と表現する末永恵氏からは、シンガポールへの悪意を感じる。

また、シンガポールは早期(1月末)から、全肺炎患者にコロナウィルス検査するなど、感染実態の把握に努めていました。そうでない他国より、患者数が多く出るのは当然でしょう。現在では、日本・米国などで、実態がわからないと騒ぎになっている。

地元国営メディアのストレート・タイムズ紙によれば、20年前のSARS騒動の時代には、チャンギ国際空港への中国渡航客数は全体の4%に過ぎなかったという。それが昨年は11%と、国別の外国渡航者数で中国がトップに。中国人渡航者による空港内の消費購買額は、全体の3分の1にも達する

後述しますが、ストレートタイムズ紙は、政府系とされていますが、国営メディアではありません。
また、SARSがあった時の中国人チャンギ空港利用者数は、4%でなく、5%とストレートタイムズ紙は記載している。


「新型ウイルスはSARSほどの脅威はない」(リー首相)と静観を貫いていた政府は、2月7日になって、ウイルス感染影響の深刻度を「最高」から2番目のオレンジ色にアップ、SARSと同じレベルに引き上げたのだ。

時系列が逆。
中国渡航歴がない感染が確認されたため、2月7日にシンガポール政府はDORSCON (感染症アウトブレイクのレベル) を上から2段階目に上げたところ、外出禁止令につながることを恐れた一部住民が日用品を買い占める騒ぎになった。それを受けて、2月8日に、シンガポール首相は、国民にメッセージを出した。
シンガポール首相がSARSと比べた箇所を訳します。

新型コロナウイルスはSARSに似ているが、2つの重要な違いが有る。第一に、新しいウィルスは、SARSより感染しやすい。それゆえに、拡散を食い止めることはより困難だ。2つ目は、新しいウイルスは、SARSほど危険ではない。SARSに感染した人の10%がなくなった。新しいウイルスでは、湖北省の外では、死亡率はこれまでに0.2%にすぎない。比較すると、季節性のインフルエンザの死亡率は0.1%だ。死亡率の点では、SARSよりインフルエンザに、新型ウイルスは似ている。

広報・入管・検疫・接触者追跡・治療と様々な対応を行ってきたシンガポール政府を"静観"と表現するのは、不適切です。またわざわざ2つ違いがあると述べているのに、「死亡率はSARSほどではない」のみをとりあげて、もう一つの「感染しやすい」を書かずに『静観』と評価するのは恣意的な編集です。

シンガポールの人口構成。中国人の占める割合

シンガポールの人口約570万人における華人系シンガポール人を除いた、近年の中国本土からの“中国新移民”の割合は、実に100万人以上。シンガポールの6人に1人が中国人というのだ。

嘘。シンガポール政府は、在留外国人の国別統計を開示していないが、国連発表のものがある。それによると、中国人は、外国人の中で2番めに多く38万人。帰化を含む。最多は、マレーシア人の95万人。


シンガポール人の筆者の友人である。投資で財を成し、シンガポールでの高額納税者にも数えられる人物

シンガポールに高額納税者を公表する制度はないので、数えようがない。あるのはForbesの富裕者ランキング

「昨年12月の時点で、中国人、特に武漢から1万人以上が、“民族大移動”よろしくシンガポールに流入していました。シンガポール政府は米同時多発テロ以降、国際的な情報インテリジェンス体制を強化してきていますから、当然、中国で発生した新型ウイルスについて把握していたはず。にもかかわらず、中国全土からの入国者対象検査を行うようになったのは、中国での死者がどんどん明らかになって久しい1月22日以降という遅さ。さらに、中国人観光客全面入国禁止措置は2月に入ってからようやく取られたのです」

1月29日時点で、湖北省発行パスポート、湖北省訪問歴がある人数は、2千人(ストレートタイムズ紙)。昨年12月に、武漢からシンガポールに"流入"していたのが1万人以上と友人の口を使って語っているものの、根拠が提示されていない。また、"民族大移動"という表現を使っており、武漢からの入国者が12月に増加した印象を与えるが、これも根拠がない。友人の言葉を理由に、根拠を確認していない言説を載せる手法は、許されるべきではない。
なお、2019年12月に中国本土からシンガポールへの入国者総数は、27万人(シンガポール政府観光局)。中国の人口14億人、湖北省人口6千万人で、比率は4%。27万人の4%は1万1千人。湖北省からの入国者が1万人いたとしても、"民族大移動"のような増加とは呼べない。
また、末永恵氏の友人は2月の中国人観光客入国禁止が2月なのは遅いと主張し、「国際的な情報インテリジェンス体制」があることを根拠にしているが、シンガポールより"インテリジェンス"が厚く、シンガポールより中国人渡航者数が多い米国が入国禁止にしたのは、2月2日。(仮に早期の入国禁止が正しいとしても)典型的な「学年トップの生徒の80点の答案で、失点した20点をほじくり回す」行為だし、シンガポールの2月1日入国禁止は世界的に早いタイミングだった。
早期から中国人入国禁止を主張してきた人には、中国ヘイトを抱えてきた層が混じっている。彼らが検疫の大義名分を得て、おおっぴらに中国人排斥を主張しているのは見過ごせない。「中国人隔離」の主張に安易に与するのは、人種ヘイトにつながる危険な行為。

コロナウイルス感染者

90人のシンガポールでの感染者のうち、武漢出身者は18人に過ぎない。感染経路がバングラデッシュやインドネシアだと判明している数人

嘘。
シンガポールでの武漢からの感染者は、18人でなく、17人 (症例:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、16、18、26人目)。
5人のバングラデシュ人の感染者 (症例:42、47、52、56、69人目) がいるが、感染経路はバングラデシュかどうかも含め、不明 (保健省MOHから開示なし)。
インドネシア人の感染者は1人 (症例21人目) いるが、感染経路はインドネシアではなく、メイドとして住み込んで働いている雇用主家族 (症例19人目) からの感染。


日本の報道の中には、シンガポールの肺炎対策を「迅速で徹底している」と褒める声もあるようだ。では何故、被害を最低限に抑えられなかったのか。少なくとも、シンガポールに拠点を置き取材活動する欧米主要メディアは、1月の段階で、「国民は政府の対応の遅れを批判」「中国マネーが大事」などと、批判的な報道を行っていた。

"欧米主要メディア"と出所を突然匿名化した。該当の記事を提示すべき。また、最近の"欧米主要メディア"の記事である、ロイター「シンガポールのウイルス対策、他国がまねできない徹底ぶり」ブルームバーグ「ウイルス封じ込めの優等生シンガポール」と絶賛している。それを無視して、過去の謎の匿名ソースを使っている。
大半の国民は、マスク供給などで政府対応への希望もあるが、不安や不満が他国より大きいことを示すものはない。国民は、他国が失敗しているのを見て、感染症制御はいかに難しいかを理解している。
シンガポールはこれまでで、被害を最低限に抑え込んでいるというのが、世界での一般的な見解。

シンガポールのメディア

シンガポールの国内主要メディアは、国が運営し、政府が大株主となっている。

不正確な記述。
シンガポールには2大メディア企業がある。新聞が中心のシンガポール・プレス・ホールディングス (SPH) と、テレビ・ラジオが中心のメディアコープ。
メディアコープは政府系投資会社TEMASEKが、株を100%所有している。こちらは、政府が大株主と言える。
一方、SPHは上場企業。SPHの上位20の大株主は開示されている。大半が金融機関。SPHの大株主が政府というのは間違い。(大株主に、リー・ファンデーションがいるが、これは慈善団体。Lee Kong Chianが創始者のため。リー・クアンユー初代首相のリーではない。念の為)
それではSPHは、完全に政府から独立して運営されているかというとそうではない。SPHは大統領を輩出するなど政府と人事が近い。また、免許などのメディア統制から、自己検閲を行っている。

中国に気を遣う当局と国民の間に立ち、「注意喚起」という本来のメディアの中立的役割を果たせなかったのだ。

日本で初めて新型コロナウイルスの報道は、12月31日。(株式会社トドオナダ調べ)
シンガポールで初めての新型コロナウイルスの報道は、ストレートタイムズ紙では1月2日。シンガポールの主要メディアが、「注意喚起」を早期からしていなかったとは言えない。

「States Times Review」は、春節で中国に帰郷していた3万人の労働者を条件付きで再入国させると決めた政府の対応を批判。2月19日、内容の訂正を求められたが、これを拒否した。すると政府は、サイトを閉鎖するよう、プロバイダーの米フェイスブック社に指示し、サイトは強制閉鎖された。

シンガポール政府が情報の修正を求めたのは、2月19日ではなく、2月14日
シンガポール政府が、フェイスブックにシンガポール国内からのアクセスブロックを2月17日に命じ、実施されたのが2月18日
States Times Reviewのフェイスブックページは、強制閉鎖されておらず、管理者が自主的にページを閉じ、新ページに移行した。継続運用先のページはこちら。上記2つのリンクは、シンガポール国外からはアクセス可能。シンガポールからのアクセスは不可。

また、シンガポール政府が偽ニュース防止法 (POFMA) を適応した理由は、批判されたからではなく、事実誤認をStates Times Reviewが書いたため。

STR主張 シンガポール政府主張
1 シンガポールでの新型コロナウイルスに感染した人の感染源を突き止められていない。 2月13日現在、58人中51人は中国への渡航歴があるか、これまでに判明している感染者と関わりがある。残り7人は接触追跡を実施中。
2 マスクをしなくて良いと国民に言っている"唯一"の政府はシンガポール政府だ。 「健康ならばマスク着用は不要」と保健省が勧告しているのは、WHOのガイダンスによる。米国や豪州のような他国も推奨していない。呼吸器症状を持つ具合が悪い人は、他者への感染リスクを減らすために、マスクをすべきだ。
3 全中国人労働者は、14日間の強制休暇中に一日$100を得る。シンガポール政府が全額支給する。 強制休暇で一日$100の支援を受け取るのは、労働者ではなく、雇用主。支給に国籍は関係ない。
4 中国からより多くの同送者をシンガポールに連れてくるために、労働省大臣は全力を尽くしていると言った。 中国本土への渡航歴がある就労ビザの雇用主は、(帰国ペースを)スローダウンさせるために、シンガポール帰国以前に事前許可が必要となった。一日に200の申請のみに許可をだしており、医療・交通・廃棄物管理のような国の必須サービスへの申請を優先させている。
5 シンガポールへの渡航を禁止した国は7カ国にのぼる。シンガポール政府の公衆衛生方針が信用を欠くからだ。 2月13日20時時点で、シンガポールへの渡航を禁止している国はない。

主張を比べると分かるように、States Times Reviewの記事は、あまりに粗雑。政府に石を投げることができれば、なんだっていいという姿勢が見える。
最も過激な反政府サイトであるため、反政府視点に重宝している読者はいるが、その読者ですら"虚構新聞"あつかいをしているのが大半。日本でいうと、"まとめサイト"の更に劣化版。
※注: 私は偽ニュース防止法 (POFMA) は行き過ぎだと考えています。政府が見解を表明するだけで十分で、訂正命令や刑罰は言論の萎縮効果が大きいと考えるからです。ですが、たとえ自分の主義主張と違っていたとしても、事実誤認に基づいて非難するのは、やめるべきです。アンチシンガポールの人で見かける「シンガポールは言論の自由がなく、厳罰国家で、悪い国だ。だから、たとえ完全に正確ではなかったとしても、趣旨としてシンガポールが悪いのには変わりがないのだから、シンガポールは非難されるべきだ」というのは建設的でなく不適切です。’

シンガポール国民も黙ってはいない。「States Times Review」に偽ニュース対策法が適用されたことに、政府を非難する書き込みがSNSに殺到。政府は国民の不評を買っている。

SNSに政府非難を書き込んだのは、シンガポール国民じゃなくて、国民のごくごく一部のStates Times Reviewのシンパですよね?どこのSNSに書き込まれたのかも確認できない。
シンガポールの、日本での匿名掲示板"2ちゃんねる"にあたるものでHardware Zoneというのがあります。そこではStates Timers Reviewへの偽ニュース防止法適応がトピックになっていますが、全くスレッド参加者がか細いです。伸びていません。その中でも、いくつか紹介します。


その行く末を占う総選挙は、当初、今年3月に実施されると見られていた。

だが現在では、外国人労働者の登用や日本より進む少子高齢化、格差社会などを理由に政権批判の声がかねてより上がっており、苦戦が予想されていた。2月18日に発表された2020年予算も、新型肺炎対策費は組まれたものの、昨年に続く赤字予算で緊縮財政だ。
政府としてもコロナウイルスの脅威に早期に対策を行うことで、かえって“風評被害”を生むのを恐れたようだ。

選挙は遅くとも2021年4月までに実施しなければならない。実は昨秋の時点で、前倒しで実施されるとの憶測も流れていたのだが、この時は香港の民主化騒動を受けて実施されなかった。

末永恵氏は、以前のご自身の記事とは異なることを書いていますね。2019年12月10日のJBPressの記事では、2019年秋頃が選挙の見込みだったと書いています。それがデイリー新潮では、2020年3月となっています。「見込み」というのは、末永恵氏の考えで変わるものなのでしょうか?見込んでいたのは、誰なのでしょうか?末永恵氏ですよね?シンガポール政府ではないですよね?
シンガポール政府が、選挙日程をほのめかしたことはありません。
また、JBPressで「2021年1月期限」と書いていた総選挙期限が、4月に変わっていますね。そうです、昨年私が指摘したように、総選挙期限の正解は2021年4月15日です。JBPress記事への訂正もお願いいたします。他にもたくさん事実誤認があるので、そちらへの訂正もお願いします。

2020年予算は赤字予算ですが、緊縮財政ではありません。2019年支出はS$781億だったのが、2020年支出はS$836億と、7%の拡大予算になっている。

「"風評被害"を生むのを恐れた」どころか、ウイルスへの病気対策と景気対策を含めて5000億円もの予算をかけました。

米中関係に翻弄されるシンガポール

米CNNの名物アンカーマン、ファリード・ザカリア氏を相手に語った昨年9月のインタビューは、その象徴だった。
 このインタビューでリー首相は、
「米中貿易戦争でシンガポールを含む東南アジア、東アジア、さらには南アジア諸国が、どちらにつくか大変困難な選択を迫られている」
 とした上で、米国が離脱を表明したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)についても言及。シンガポールを含めた加盟国、つまり日本やオーストラリア、タイといった国々は「米中の狭間にあり、米国は中国だけでなく、こうした国々と均等に関係を構築するべきだ」とアジアを軽視するトランプ大統領を牽制する発言を行った。
 さらにザカリア氏から「しかし中でもシンガポールは、米国の同盟国で、経済的に影響力を増す中国との板挟みでは?」と聞かれた際には、
「米国は(今や)同盟国というよりは、むしろ緊密な関係にある国といったほうが妥当だ。中国は他の東南アジア諸国と同様、シンガポールにとって最大の貿易相手国で、つまり、今では米国を超えた関係ということだ」

末永恵氏の勉強不足がよく出ている文章です。
『米国は(今や)同盟国というよりは、むしろ緊密な関係にある国といったほうが妥当だ。』と訳していますが、『(今や)』『むしろ』が誤訳です。シンガポールと米国は互いに軍事基地の利用をしていますが、シンガポールは米国と同盟国では現時点でないですし、過去に同盟国だったこともありません。「(今や)同盟国ではない」「むしろ緊密な関係だ」という訳は、「シンガポールと米国は同盟関係にない」ことを彼女が知らずに、「シンガポールは米国との同盟関係を捨て、中国をとった!」と誤った理解をしたと解釈できます。

ファリード・ザカリア氏とのインタビューは、リー・シェンロン首相がツイッターでもFacebookでも、自身で動画を掲載しています。末永恵氏が引用しているのと同じ箇所が含まれます。ストレートタイムズ紙も記事にしています。

原文と、私の訳をつけます。

ザカリア氏: アジアの大部分の国々にとって、米国と中国を選ばなければならないとすると、その国々はどうするのか?
リー首相: それらの国々はとても不幸せになると思う。なぜなら、米国の全ての同盟国、米国の多くのパートナー、全てのこの地域の同盟国である日本・韓国・フィリピン・豪州・ニュージランド・タイは、最大の貿易相手国が中国だ。なので、もし米国が同盟国に米中の選択を迫り、「最大の貿易相手国との関係を断ち切らなければならない」と宣言することを迫るなら、米国は同盟国をとてもむずかしい立場に追い込むことになると思う。
シンガポールは、米国と同盟でなく、緊密なパートナーだ。しかし、米国より大きな、最も大きな貿易関係も中国と持っている。

ザカリア氏: For most countries in Asia, if they have to choose between America and China, what will they do?
リー首相: I think they will be very unhappy, because all of your allies and many of your partners, Japan, Korea, the Philippines, Australia, New Zealand, Thailand - all treaty allies, all of them have China as their biggest trading partner. So, if you ask them to choose and say 'I therefore must cut off my links with my biggest trading partner', I think you will put them in a very difficult position.
Singapore, we are not an ally, we are a close partner to the United States, but we also have our biggest trading links with China, bigger than the United States,

the United States' treaty allies in the region - Japan, South Korea, the Philippines, Australia, New Zealand and Thailand - all have China as their biggest trading partner. Asking them to choose would put them in a spot

「シンガポールは米中とで中国をとる」と言っているのではないことが分かります。「シンガポールは中国が貿易の最大相手国で、これはシンガポールだけでなく他の環太平洋の米国の同盟国も同じ」という指摘です。だから「米中を選ぶ状況に、シンガポールも他の同盟国へも追い込まないで欲しい」ということです。

末永恵氏にヒントを差し上げると、リー・シェンロン首相の「米国か中国のどちらかを選ばなければいけない状況に追い込まれるのは避けたい」というのは、ここ何年も発言していることです。例えば、2017年1月の発言です。

海外記事の質と、その向上には

メディアは状況と異なる印象を与えることができます。中途半端に知っている関係者も加担することで、「一部真実」なキャッチーでもっともらしい話になり、日本の記事では通用しないような質の海外記事が流通します。事実ならともかく、事実ではないので迷惑です。

フェイクニュースが取りざたされる昨今です。残念ですが、海外在住者から見ると、日本での海外記事には、分析や主張以前であるファクトへの真偽に疑問がつく記事を少なからず見かけます。私がこれまで検証してきた記事にも「シンガポール国立大学の学費は無料」や「日本が戦ってくれて感謝しています」というものがあります。
uniunichan.hatenablog.com
uniunichan.hatenablog.com

しかし残念ながら、検証記事は、そのきっかけとなった派手な記事と比べると、読まれる件数はわずかです。
今回のデイリー新潮の記事には事実誤認があります。また、これまでの末永恵氏のシンガポール記事は事実誤認を多数含んでいます。

改善には、

  • 同業者も認める信頼できる専門家を著者にする
  • それができなければ、せめて情報の出所を編集部が確認する

が有効です。記事でどこまで開示するかは別として、数字や事実に「ソースは?」と赤を入れて筆者につき返すのが編集の仕事のはずですが、デイリー新潮は校閲を行っているのか、という疑問も起きます。日本の編集部が海外事情が分からず内容を精査できないのは(百歩譲って)しょうがないとしても、せめて、記事の根拠となる出所は筆者に提出させる、でかなり改善できるはずです。
デイリー新潮がメディアの良心として、今回の記事への訂正・削除を行うことを、願っています。

f:id:uniunikun:20200303022411p:plain
新型コロナウイルスで観光客が減った中でも水を吐き続けるマーライオン

筆者への連絡方法、正誤・訂正依頼など本ブログのポリシー

にほんブログ村 シンガポール情報

コロナ検査キット1万個を中国に送ったシンガポールの開発中心人物は日本人だった: 井上雅文博士

うにうに @ シンガポールウォッチャーです。シンガポールの在住者でもあります。

中国に1万患者分の検査キットを送ったシンガポール

「新型コロナウィルスの感染を確認する検査能力が足りない」と大騒ぎですが、シンガポールでは検査能力がボトルネックにはなっていると報道されていません。
それどころか、新型コロナウィルスの中心の中国に、1万患者分の検査キットを送った余力があります。
シンガポールでは、2月15日現在で、陰性と結果待ちを含め約千人への検査事例があります。これまで、国内の病院に5千キットが配備されています。

シンガポール科学技術庁 井上雅文博士

そのシンガポールで、検査キットの開発にこぎつけた人物として取り上げられている人が、二人います。そのうちの一人が井上雅文博士です。一人はタントクセン病院に勤務し、井上雅文博士はシンガポール科学技術庁 (A*STAR) の 医薬品開発研究所 (EDDC) にて診断技術開発室長として勤務しています。ツイッター写真右が、井上雅文博士です。


二人が初めて出会ったのは、2003年のSARSが猛威をふるったときです。その後、井上雅文博士は、鳥インフルエンザH5N1 (2012年) やジカ熱 (2016年) への検査キットも開発しています。

1月12日に、新型コロナウイルスの完全なゲノムが登録されたことで、A*STARからの科学者とタントクセン病院は、検査キットの開発に取り掛かります。
検査は、PCR (ポリメラーゼ連鎖反応: DNA増幅手法)として知られているプロセスで、新型コロナウィルスに特有の箇所を特定します。検査キットは、1ヶ月たたずに開発・量産されました。SARSで数ヶ月かかったことを考えると、これは新記録でした。

朝日(西村宏治記者)が井上雅文氏への取材を行っています。

シンガポール政府から功労賞

井上雅文博士は、その後、シンガポール政府から建国記念日の祝典で功労賞を得ています。Public Administration Medal (Bronze) (行政メダル: 銅)です。地元紙ストレートタイムズ紙がとりあげ、日本でも出身地の高知新聞で報道されました。

シンガポール科学技術庁の研究機関で新型コロナウイルス対策に当たっている井上雅文さん(72)=高知市出身=がこのほど、シンガポール政府が功労者に贈る「ナショナル・デイ・アワード(National Day Awards)」を受章した。新型コロナ感染を正確に診断するPCR検査キットを早期に開発し、感染拡大を抑制したことが評価されたという。

活躍する場

特にクルーズ船乗客に対して、「感染の検査能力が足りない」と大騒ぎの日本に対して、検査能力を整えたシンガポールの開発の中心が日本人だというのは、味わい深いものがあります。
この話を聞いて、

  • 日本人が海外でも活躍できるなんて誇らしい。この成果は追って、日本でも活かせるのだから、人類の成果だ。

と思う人も、

  • 日本人の頭脳流出だ。嘆かわしい。

と思う人もいるでしょうが、人は能力を活かすことができ、評価される場所を自分の居場所として選びます。タントクセン病院のもうひとりの医師も、白人であり、シンガポール生まれではないでしょう。
本来は地の利がある母国が最も活躍しやすく評価を受けやすいはずですが、日本以外の選択肢で、自分を活かせる道になる人が増えています。

参照

これまでのシンガポールで新型コロナウイルス総集編は、こちらを参照ください。
uniunichan.hatenablog.com

uniunichan.hatenablog.com



筆者への連絡方法、正誤・訂正依頼など本ブログのポリシー

にほんブログ村 シンガポール情報