今日もシンガポールまみれ

日本のあっち、シンガポールのこっち

マクドナルドのシンガポール版モノポリーで不動産相場を知ろう

マクドナルドのシンガポール版モノポリー

シンガポールのマクドナルドがモノポリーを使った期間限定プロモーションをしています。

モノポリーと言えば、近隣の不動産を買い占めて、その土地に住宅やホテルを立てていき、そこに止まってしまった他のプレーヤーを破産に追い込むのが醍醐味の人気長寿ボードゲーム。
マクドナルドのプロモーションでは、セットミール等を購入した時にもらえるカードに当たりで商品がもらえたり、不動産カードの色合わせを集めた人に景品が抽選でもらえます。ミソなのが、シンガポール版ということで、シンガポールの通りの名前が使われていることです。これがゲームでも不動産の価格順になっているため、どこが庶民の街で、どこが富裕層の街かが分かるわけです。
そのゲームボードは、PDFで無料ダウンロードできます。

マック版 シンガポール モノポリーの街

登場する通りはこちら。

マック版シンガポール モノポリー: 通りの名称*** マック版シンガポール モノポリー: 通りの名称
街の名前 私の解説
茶色 ジョクーン シンガポールの西の果て、MRTの終着駅
茶色 Bukit Gombak .
水色 センカン ポンゴルの隣の新興HDB郡。LRTに接続
水色 Bidadari .
水色 セラングーン MRT紫線と黄線のターミナル駅
紫色 ウッドランド ジョホールとの国境の街
紫色 アンモーキョ(AMK) 初期のHDB街。1973年より開発開始
紫色 トアパヨ 最初期のHDB街。1964年より開発開始
オレンジ色 タンジョンカトン ショップハウスが並ぶ
オレンジ色 イーストコーストロード 海岸沿い。日本人が多い
オレンジ色 Bayshore Road .
赤色 クイーンズタウン .
赤色 チョンバル オシャレ下町で売り出し中
赤色 タンジョンパガー 金融街シェントンウェイ
黄色 ノベナ オーチャードなどMRT赤線に通う日本人も多し
黄色 ホーランドロード 小洒落たバーがあるホーランドビレッジ
黄色 ブキティマ SGでは希少な一軒家が多い
緑色 リババレー 近所の明治屋パワーで日本人集積地
緑色 オーチャード SG一の繁華街オーチャード
緑色 Oxley Road あの故リー・クアンユー初代首相邸所在地
青色 マリーナベイ SGの夜景と言えばここ
青色 セントーサコーブ 外国人が唯一土地を所有できる場所。交通や生活に不便

「ジョークーン(涙目」「ホーランド、評価高すぎ」「セントーサコーブをOxleyより上に置くとは不遜な」などとツッコミもできそうです。

モノポリーのマクドナルド版でない、シンガポール版も市販されています。今年の夏頃に通りの名前が更新された新板がでたとのことで、本屋のポプラに買いに行ったら旧版しかありませんでした。$10の特別値引きがあって、$36.9が買い値。
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モノポリーは「シンガポール航空版」というのもあります。こちらは少々お高くS$65。ネット通販で国際発送もしているので、マニアな方は是非w
www.krisshopair.com

シンガポールでの不動産賃貸、売買の市場確認方法

シンガポールでは売買契約に加えて賃貸契約も、政府に届け出が必要で、それらは物件ごとに金額と広さが公開されています。日本では不動産取引の情報へのアクセスは、不動産業者以外は制限されており情報の非対称性が発生していますが、シンガポールでは市場の公平性維持のために政府が開示しています。
シンガポール在住の日本人にも、賃貸で借りたい物件が決まった時に、価格等の条件を交渉するのは一般的です。また不動産サイトの表示金額はオーナーの希望価格であって、実際の成約価格とはズレがあります。正確な相場を知るのに役立ちます。活用下さい。

シンガポールの地区での賃貸相場

物件名での中央値も計算されており、そこから地区での平均値を計算しました。政府はシンガポールを26の地区に分けて番号をふっており、不動産情報ではこの地区が使われます。2016年第三四半期の期間のデータです。
場所によって単価に2倍近い差がありますが、高級住宅地にあるほど広い物件が多いので、実際に払う賃貸価格はもっと格差があります。

シンガポール:地区ごとの賃貸価格 (100㎡あたり物件ごと中央値の平均)

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※物件内での貸出数は反映しておらず、1物件で貸出数1として計算しています。地区内での実際の平均値とはずれがあります。リムチューカンは期間中の賃貸契約数ゼロでした。

日本人が比較的多く住んでいる所を取り出して、ざっくりと価格帯で分類すると、以下のようになります。

シンガポール:地区ごとの賃貸価格 (分類)
分類 通りの名前 100㎡での賃貸価格
一等地 タンジョンパガー、ラッフルズプレイス、オーチャード、リババレー $5,000
いいところ ノベナ、ブギス、チョンバル、ブキティマ、ホーランド $4,300
<壁> <壁> <壁>
郊外 クレメンティ、カトン $3,500
郊外 ゲイラン、ビシャン $3,300
郊外 ジュロン $3,100
<ゆるやかな壁> <ゆるやかな壁> <ゆるやかな壁>
もっと郊外 タンピネス $2,800
もっと郊外 イーシュン $2,700

あとは、「$5千で借りられるオーチャードってどんなんだよ」というのがありますが、これはリババレーと一緒の地区でまとめられているので、実際より安く見えるためですね。

売買成約情報の確認方法

日本人でシンガポール不動産を売買する人は、金額が高く、在住者の過半数が期間限定で滞在する駐在員のため、少数派ですが、こちらで制約情報を確認可能です。
■新築コンドの売買数と成約単価

■中古コンドの売買成約情報

シンガポールのメイドは奴隷か?!と議論する前に知っていて欲しいこと

月6万円でフィリピン人メイド in 香港

きっかけはこのツイート。

これが発端になったツイッターでの議論がまとめられています。

香港のフィリピン人メイドが話の中心ですが、シンガポールの外国人メイドへも共通した話です。
読むと、シンガポール関係者の一定数は絶句するはずです。これだけ大量の記述があるのに、シンガポールのメイドの実情に適切なインプットがなく、メイドや雇用主の実態を描けていないためです。
※注: Togetterでは「女性の労働参画」も主要議題ですが、私の関心である「シンガポールでのメイド雇用」を本記事の主題にしています。

シンガポールでの外国人メイドの待遇

シンガポールの就労ビザ区分では、外国人家事労働者 (Foreign Domestic Worker) と言いますが、一般的にメイドと呼ばれています。住み込み家政婦に相当します。

まずはシンガポールでの外国人メイドのファクトを記します。

ファクト: メイドの人数と国籍

シンガポールは移民国家です。永住者を入れて人口の4割が外国人です。メイド用の就労ビザ受領者は237,100人 (2016年6月)。これは、シンガポールでの外国人労働者の20%(外国人全体では14%)、全人口での4%と、かなりの割合を占めています。
国民と永住者の世帯数122万で割ると、5世帯に1世帯がメイドを雇用していることになります。

下記出所より筆者にて加工

ファクト: メイドの就労ビザ申請資格者
性別 女性のみ
年齢 ビザ申請時に、23歳から50歳
国籍 バングラデシュ、カンボジア、香港、インド、インドネシア、マカオ、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、韓国、スリランカ、台湾、タイ ※日本人はメイドビザの申請不可。出身国との給与水準の兼ね合いで、実際に雇用されている国は一部
学歴 最低8年間の公教育修了者
健康診断 シンガポールでの医師による。入国時と半年おきに必須。失格するとメイドは帰国
政府への保険証書 雇用主は政府への保証金S$5,000への保険証書を購入する。メイドへの責任不履行(給与未払い)や管理責任(ビザ失効後にメイドが母国に未帰国、メイド失踪)が発生すれば、雇用主は保険会社に支払い義務が発生する。失踪時に雇用主が警察への7日以内の届けなど妥当な努力をすれば、支払いは半額になる
ファクト: メイドの一般的な待遇

雇用主の毎月の負担は、給与と雇用税を併せて千ドル前後、それ以外に衣食住、医療費です。

給与 フィリピン人インドネシア人はメイド就労を管理する大使館指定により、月給$550(約4.4万円)以上。介護が加わると$600(約4.8万円)を超える。天引きは基本的に発生しないため、給与額面が手取り(注:シンガポールは最低賃金という制度がない)
福利厚生 シンガポールの公的制度の社会保障への加入は、永住者と国民が対象のため加入できず、支払も不要。雇用主が衣食住、医療費全額、雇用契約終了時の里帰り航空券を提供。医療保険は入院と手術に最低S$1.5万(約120万円)、個人損害保険は最低S$4万(約320万円)が義務
雇用主が雇用税(levy)を負担。月にS$265(約2万円)、16歳未満の国民の子育て・親や障害者の介護であればS$60(約5千円)に減税
就労ビザ 期限は最長2年、雇用主が変わると再申請。家族帯同は不許可であるため、妊娠するとビザが失効し帰国になる。年170人ほどが該当する。ホワイトカラー向けビザ (S Pass/EP) が対象の永住権は申請できず、帰化も申請条件が永住者であるため国籍も取得できない
労働時間 制限規定無し。実質は大半が待機時間。家事の特殊性のため、雇用法(EA)の対象外。(シンガポール雇用法はデスクワークの仕事では月給$2,500(20万円)から対象外で、保護外の人がもともと多い)(日本でも家事使用人は労働基準法の適応外)
休日 週に一日(法定)。メイドの同意のもとに、1日分以上の給与支給で追加労働か、休みの振り替えを頼める
人材紹介費 諸費用は雇用主負担だが、例外は出身国人材会社の斡旋費。メイドが雇用主に前借りし、分割で返すため、働き出した数ヶ月は、返すまで給与が残らない。総額は法律で給与の2ヶ月が上限であり、一般的に$800~1200。シンガポール側人材会社費用は雇用主負担
住環境 労働省MOMは個室の提供を促している。それができない際には、適切な広さとプライバシーの提供が必要になる。子守相手や介護相手との同室利用が4割にのぼるアンケートがある。台所で寝泊まりさせる雇用主もまれいる。ティーネージャー以上の男性との同室利用は身体的障害者介護を除き違法
副業 副業は違法。雇用主が自宅での家事以外をさせることも違法で、雇用主は罰せられる。
講習 初めてメイドを雇う雇用主には、ネットか教室でのオリエンテーション受講が必須。初めてシンガポールで働くメイドも、メイド用の講習受講が必須。1年間にメイドを4回以上変更する雇用主は講習か担当官との面接が必須

付記です。

  • メイドはシンガポール国民および永住者との結婚に、労働省MOMの許可が必要です。より正確には、この制度は、メイドのみでなく、Work Permitという単純労働者向けビザ所持者・過去の所持者全員に適応されます。経済力がない国民出身者の増えることでの社会保障費増大を防ぐためであり、ホステスとして働く労働者を歓迎しないためでしょう。2021年、22年には、MOMは1,100人を承認し、うち84%が女性でした。承認基準は、応募者自身と家族を世話ができるかだと、MOMは語っています。
  • 住み込み: 勤務地である雇用者宅での住み込みのみが雇用形態です。通いでの就業体系は認められておらず、通いで家政婦ができるのは就労制限がないシンガポール人および永住権取得者です。
  • パスポート: メイドのパスポートを、同意の上で安全上の名目で雇用主が保管することは許可されている。要望があれば返却が義務。国内身分証(IC)はメイド所持が義務。(更新: 記事を書いた2016年時にはパスポートの雇用主保管が許されていましたが、現在は許されません。シンガポール国内の旅券法(Passport Act)で自分名義でないパスポートの所持は禁じられています)

シンガポールは何のために他国からメイドを雇用しているか

5世帯に1世帯がメイド雇用をしているということは、富裕層に加え中間層も、育児や介護のために、人生のライフステージにあわせて一定期間の雇用をしていることが分かります。
シンガポールでも高齢化社会の進展で、介護のために現在24万人のメイドが、2030年までには25%増えた30万人が必要になると、政府は推測しています。

シンガポールでは特に中間層では、両親ともにフルタイムで共稼ぎが一般的です。女性は、特に子どもの幼児期に、メイドを活用した育児で、フルタイムの仕事に復帰します。共稼ぎでないと経済的に苦しくなることも、シンガポール法定の有給産休期間が4ヶ月(国民)と日本より短いことも、キャリア断絶が最小限になる制度設計です。シンガポールの親もできるだけ子どもとの時間を作りたいとは思っていますが、日本の"三歳児神話"(子どもは三歳になるまでは母親が育児に専念すべき)のような風習は、シンガポールにはありません。

メイドは何のために外国でメイドとして働くのか

メイドが働くのは、勿論、お金のためです。やりがいや海外生活というふわふわしたものではありません。S$550 (4万4千円) の給与は手取りであって、満額がメイドの収入になります。それ以外の衣食住および医療費の諸経費は雇用主負担です。
メイドは奴隷ではなく強制労働を強いられていないので、自分の意思でメイドの仕事を選び、環境に納得いかなければ退職する権利があります。
働き始めた何ヶ月かは、人材会社への斡旋費用を返金するために実質的な拘束期間でもありますが、その後は自由に退職可能です。日本とシンガポールとでは雇用慣行が違います。例えば、日本では雇用主が研修費の返還請求をすることは違法ですが、シンガポールでは合法。一定期間働くと返金免除が一般的ですが、例えば、航空会社のように研修費が高額だと拘束期間が年単位になることもあります。当然、入社時に条件提示されます。メイドの斡旋費用返金の実質的な拘束期間は、これと類似です。

メイドは、故郷で子ども・家族・親戚・友人に囲まれていた暮らしから、慣れない外国で雇用主と暮らすことになり、かなりの決意が必要です。大半のメイドには自分の子どもがおり、その子どもは母国にとどまる夫や祖父母が世話をします。それでもメイドを選ぶのは、故郷より稼ぎがよく、その稼ぎがあれば家族や親族が幸せに暮らせるからです。幸せになるとは、子どもの学費、家族の治療費や生活費の取得を意味します。メイドをしている間にメイド自身が幸せになれるかどうかは、雇用主との関係にかかっており、良好な関係を築くまでは「(自分を犠牲にして)家族のために働きに来た」という状況であることは、否めません。家族のためにブラック企業で働き続ける、日本のサラリーマンを思い出させます。

一部のメイドは、手配業者の甘言で騙されて、メイドになることもあります。法定額以上の斡旋費用や本来認められない費用が搾取されます。シンガポールではこれは犯罪であって、ビザ申請でメイドが目にする書類(IPA)に斡旋費用が書かれていますが、それでもすり抜けて悪質な行為を働く違法業者があります。

外貨送金をあてにする送り出し国

フィリピンは、人口の1割の1,023万人が海外で暮らし、母国への送金額はGDPの1割にもなる出稼ぎ国家です。英語が話せるために海外で仕事を見つけやすく、それが逆に頭脳流出にもつながっています。
インドネシアは、人口の3%弱になる700万人の海外就労者がおり、そのうちの6割がメイドです。母国への送金は105億米ドルにのぼり、GDPの1%相当を占めます。

なぜ外国人メイドの制度が成り立つのか

先進国シンガポールと発展途上国との国際経済格差の利用です。先進国で雇用しながら、送り出し国の給与と物価水準をできるだけ維持したい、という無茶に応えるのが目標です。そのためにシンガポールでは、衣食住はキャッシュでなく雇用主現物支給などの仕組みがとられています。
「人手不足」と言っても、本当に人手が足りない仕事は滅多にありません。単に「雇用主が希望する給料で働いてくれる人がいない」ことを「人手不足」と言ってるだけで、大半の仕事は今の給与の倍をも出せば求職者が殺到しますし、その給与水準を継続すればスキルミスマッチにも該当する経験を他所の職場や学校で、勝手に積んで応募してくれるようになります。
雇用主にとって、給与を上げずにこの人手不足を解決する方法として、移民導入は有効です。
労働者からみても、就労ビザの障壁をクリアでき合法で働けるなら、給料が高いところが良い、と考えるのは自然です。

フィリピン: 外国で働く労働者流出の停止

フィリピン人は英語が話せることから、海外での就労が容易であると同時に、人材流出にもなっていました。フィリピンに帰国して再度住むより、帰省はたまにしても、アメリカなど永住権や国籍取得可能な国に根付いてしまいます。
ところがこの海外在住者に歯止めがかかりました。近年、母国で経済成長したことで、海外より慣れ親しんだ母国に戻ることを希望する人達が増えてきたためです。

インドネシア: メイドの送り出し国は恥ずかしい

インドネシア政府は、特にジョコ・ウィドド大統領になってから、メイドの提供は恥ずかしいことであるとの考えを出すようになりました。本来は単純労働移民を提供したくないが、メイドではなく、訓練されたプロフェッショナルであるベビーシッターや介護者を提供していきたいと考えています。

これらから分かることは、発展途上国が経済力を増し、国力をつけることで、長期的には単純労働者移民の提供は衰退する流れにある、ということです。発展途上国との賃金格差は縮小し、賃金向上や人権意識の高まりでの待遇改善は、メイド雇用ができる人を限定していくでしょう。シンガポールが、富裕層のみでなく中間層も今ほどの恩恵を受けられる期間が、今後も何十年と続くかは定かではありません。

メイド雇用でのトラブル

メイドに子育てを頼り、子どもを知らずに恥じる母親

シンガポールの移民労働者支援NGOが作成した動画があります。母親とメイドの両方が、子どもについての質問を受けています。「なりたい職業は?」「好きな教科は?」などです。74%のメイドが、母親より正しい答えをしました。
www.youtube.com
動画の目的は、2013年に法制化されたメイドの週に一日の休みの取得を促すものです。2015年の動画ですが、当時はまだ40%しか週一の休暇をとっていないと、NGOは主張しています。メイドが休みを取ることで、子どもと親との対話を増やして欲しいという趣旨です。
この動画を見て、メイドを雇っている母親は恥じて泣きました。母親が人任せでなく自分で育児をしたいと思うのは、シンガポールでも同様です。しかしながら、子どもを進学させる学費や家計を考えると、シンガポールでは富裕層を除くと経済的に共働きが必須です。シンガポールでメイドの雇用は贅沢品でもなんでもなく、「それでも働いて共稼ぎをしなければならない」というシンガポールの家庭の苦悩をついた内容で、かなりの反響を呼びました。

文化・言語・教育水準の違いからくるコミュニケーションギャップ

メイド雇用はトラブルが多いです。雇用主からメイドへのよくある苦情です。

  • 期待値があわない: この程度でいいだろうと思われる。品質を知らないのでどうすればよいか分からない
  • シンガポールの最新の家電を使えない
  • 衛生観念が違う: ペットを触った手で食材を触る等
  • 言葉が通じない: フィリピン人だと英語ができるが、それ以外だと通じない
  • 宗教が違うと生活習慣が違う
  • ホームシックになった
  • 食器の扱いが雑で割れやすい
  • 家財がなくなる
  • 雇用主の旅行中に大音響でパーティを開き、帰宅後に近所から注意を受ける
  • (男)友達を連れ込む

その一方で、同じ国の出身で、ホワイトカラーや看護師をしているフィリピン人、専門職をしているインドネシア人も、シンガポールにたくさんいます。他の職業の人でもそうですが、メイドはメイドが一番割に合うからメイドをやっているのです。もっと稼げる専門職になれないからメイドなのです。大卒で専門職の職歴がある異文化の人とでも、仕事で一緒に働くのはかなりの苦労ですが、それをはるかに超える困難がメイド雇用では発生します。「メイドに色々任せられていいよね」と日本人は思いがちですが、指揮監督はかなりの苦労です。5万円で雇われた人は、5万円の労働しかしてくれないのです。

雇用主からメイドへの虐待と、メイドから子供や高齢者への虐待

生活をともにしながら家事をすることで、虐待が発生することがあります。雇用主からメイドにだけでなく、メイドから雇用主家族にもです。双方にストレスがかかるのです。雇用主がメイドへの虐待は想像が付きやすいとおもいますが、メイドから雇用主家族は育児ストレスや介護疲れです。子どもや老いた親を預けているので、そうは簡単に高圧的な態度をとれないものです。
日本の介護施設や家族であっても、虐待が定期的に報告されていることを思い出します。
シンガポールでは、シンガポールで初めて働くメイドから、ランダムに労働省MOMが面談して、危険をチェックしています。虐待は刑法犯になることに加え、雇用主は今後のメイド雇用を禁じられます。

映画で見るシンガポールでのメイド

シンガポールのメイドについて関心を持った人は、日本でも公開されていた「イロイロ」(2013年製作)というシンガポール映画を見て下さい。原題は"爸媽不在家"で「両親は家に居ない」の意味です。
公団(HDB)を舞台に、親から孤立しかけの小学生男子と、その子が荒れかけてきたため家事と育児をみるために雇われたフィリピン人メイドが中心の話です。当初、男子はメイドを嫌悪するが、したうようになります。しかし両親の経済状況がアジア通貨危機で悪化して解雇となり、メイドは帰国します。

マリーナベイサンズのバブリーなだけがシンガポールではなく、シンガポールの中間層の生活を知るきっかけになる映画です。NetflixとHuluに入っています。是非見て下さい。

ウンコを投げっぱなしのネット民

ここまでは出来る限りニュートラルな立ち位置で、シンガポールのメイドを解説してきましたが、ここからは反論です。

今回のTogetterを見ると、ネット民の良くない所が炸裂していると私は見ています。外国人メイドを、先進国で低賃金で雇用することが気に入らない人がいるのはよく分かりました。しかし、「6万円でメイドをこき使うマリー・アントワネット、炎上してざまあ」では、当事者への具体的な解決策や提案になっていません。なので、現在その制度に立脚している社会で生活している在住者には、リアリティゼロです。
当事者のメイドは、シンガポールでの雇用に満足しています。シンガポール政府の調査があります。10人中9人のメイドは、シンガポールでの就労に満足しています。10人中7人は契約が満了するまでシンガポールでの就労を希望し、満足しているうちの10人中9人は同じ雇用主の下で働くことを希望しています。

たとえ、当事者が満足し、社会がメイド利用を前提に確立していたとしても、それが普遍的価値により是正すべきであれば、人権問題のように諸外国が圧力をかけるべき場合があるのは理解します。しかし、シンガポールのメイド制度は、個別に問題があるケースはありますが、就業と離職の自由があり、条件は渡航前から提示しているため、「奴隷」と比較するには不適切です。当面は制度を改善しながら、メイド自身も送り出し政府も、移民の提供をしていきたいと考え、雇用主とシンガポール政府も、関係者は受け入れを希望しています。他国を非難するのは、天引きが不明朗だったり、技能がつかないのに実習扱いする、自国の技能実習制度の欺瞞をなんとかした後の方が良いのではないでしょうか。

何より問題なのが、日本人のネット民が言うようにメイド制度を止めたとして、ではメイドたちはどうなるのか、という視点を欠いていることです。メイドはなぜ、故郷を離れる時点で人材会社に斡旋費用の借金を抱えるリスクを追ってまで、家族と離れて外国で、メイドになるのか。それは、その仕事が一番割に合うからです。地元での何倍もの給与を得られます。
そもそも発展途上国には仕事がありません。農業・漁業・林業か家事です。日々の生活で食ってはいけても、雇用先や貨幣収入は限られています。あっても薄給です。その中で、治療費や教育費が必要な経済イベントが発生すると、そのお金がかかる選択肢を断念するか、その選択肢を得るための収入を探すかです。そしてその一つが外国でのメイドです。

メイドは格差固定装置でなく貧困からの突破口

発展途上国の工場で安価な賃金で作られ輸入された工業製品は喜んで使うのに、輸入が移民のサービスとして可視化された瞬間に、壮絶な拒否反応が起きたのが今回のツイッターの騒ぎです。NIMBY ("Not In My Back Yard"我が家の裏庭ではやらないで) の現れ方の一つに見えます。我々は製品とサービスのどちらの輸入にも自覚的であるべきであり、フェアトレードの理念は賞賛されます。
メイドのような低賃金の単純労働移民が増えることで、受け入れた先進国では経済格差が増えることは確かでしょう。そのためにシンガポールでは、単純労働移民は仕事があり就労ビザが有効な一時的な期間のみの滞在であり、移民の目的は母国にある、という姿勢を貫いています。家族帯同・永住権・国籍付与を認めるのが真っ当な人権意識であるとするなら、キャリアパスと家族を含めた異文化受容、更に社会保障と教育を、国として提供する必要があります。日本にはこれを受け入れる覚悟があるように見えません高齢化社会対応で招かれた移民もやがては年を取り、今度は社会保障の世話になるのです。彼らが現役時代に支払った額と、保障を受ける額のどちらが多くなるでしょうか。

単純労働移民受け入れで、先進国内での経済格差が開く一方で、先進国と送り出した国との間での経済格差は縮小します。「外国でメイドをして、その稼ぎで子どもが大学に通っている」という話を聞くのは珍しくありません。これはメイドが、格差固定ではなく、世代を超えて貧困からの突破口になっていることを意味します。「外国人メイドは受け入れるな」という主張は、「(居住国が豊かになるまで)貧困のままでいろ」という主張の裏返しであることに気付くべきです。

メイドの収入が貧困から抜け出す重要なフックになっている一方で、残念なことに、メイドが犠牲を払って外国で働いても、故郷では旦那が飲んだくれギャンブルをしている、親族が訳の分からないビジネスに手を出してスッた、色んな人間が理由をつけてたかりに来る、というのも同様に珍しくありません。ミクロではこちらの方が切実な問題です。

日本に外国人家政婦は無理だ

ここまで説明するとおわかり頂けると思いますが、「日本人には外国人家政婦の雇用はムリ」というのが私の考えです。移民政策に比較的成功しているシンガポールでさえこれだけの苦労をしているのに、日本がこれらのチャレンジを超えられるとは思えないわけです。更に、日本特有の事情をあげます。

  • 日本人家政婦でも給与は時給千円前後と最低賃金に近いが、外国人家政婦にも最低賃金が適応されるため価格低下が見込まれない。
  • 家政婦に時給2千円超を支払う価値観や経済状況の人は限られる。
  • 英語で指揮監督できる日本人は極少数。家政婦の片言日本語には不満。
  • 他人を家にあげるのが嫌。掃除に来てもらう前に自分で掃除をするメンタリティ。


シンガポールのメイドに反発する価値観は理解します。その一方で、女性の社会進出というキャリアや経済事情、育児という期間限定だけでなく、介護でもメイドは活躍しています。自分の両親の介護が必要になった際に、メイドの制度があっても活用しない自信がある人や、あればどれだけの人を救えるかに賛同できない人は、メイド制度に石を投げ続ければ良いでしょう。

以上が、シンガポール在住者の視点です。
これらを踏まえて、外国人メイドへの理解と議論を深めて頂けると幸いです。

あわせて読みたい

uniunichan.hatenablog.com

参考資料

シンガポールの建築労働者などの男性単純労働移民に興味がある人はこちらも参照下さい。
uniunichan.hatenablog.com


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トランプ大統領誕生へのシンガポール首相祝辞~大国従属を避けバランサーを志向する小国~

シンガポール首相の祝辞

2016年11月9日(日本時間)、次期米国大統領にドナルド・トランプ氏が選出されました。アメリカの主要メディアで初めてAP通信が「トランプ氏が当選確実」と報じてから、わずか1時間半後に、シンガポールのリー・シェンロン首相が、お祝いのメッセージを自身のFacebookにのせています。私の訳を付けます。

ドナルド・トランプ次期大統領にお祝いを伝えます。トランプ氏の立候補は驚かせるものでした。選挙戦の局面において、トランプ氏は意表を突き、その旅は最終的にはホワイトハウスへとつながりました。
議論が巻き起こる荒れ模様の選挙の季節は、アメリカ国民をひどい分裂にさらしました。多くの人がこの結果を祝福し、一方、他の人が驚き落胆するのは理解できることです。しかし、6月の英国のEU離脱(Brexit)のように、トランプ氏の勝利は先進国での広範なパターンの一部です。現状への強い欲求不満と、一体感への再主張となんとかして体制を変化させたい強い願望を、反映したものです。
米国有権者は、自分たちを代表するベストと感じた大統領を、選出しました。シンガポールはこの決定を完全に尊重いたします。シンガポールと米国の強固なつながりを深めるために、我々はアメリカ合衆国とこれからも共に働き続けます。 リー・シェンロン
Facebook: Lee Hsien Loong

どちらの候補が当選してもメッセージは用意されていたとは思いますが、この率直な内容でトランプ氏の当選確実直後に間髪入れずに出してきたのは、シンガポールらしいです。
#補足: なお、選挙前にTime紙からリー・シェンロン首相がインタビューを受けていますが、Time紙が「クリントン氏が大統領になる仮定のもと」でインタビューを行っており、今からみるとシュールです。
Time: Singapore’s Lee Hsien Loong on the U.S. Election, Free Trade and Why Government Isn’t a Startup

首相のメッセージでは、米国を客観的に見ています。主要な指摘は2つ。2つ目の指摘は、自分自身も先進国であるシンガポールにも、今後跳ね返ってくる可能性があります。

1. 今回の選挙が米国民の分裂を招いた。
2. Brexitやトランプ大統領は、現在の先進国で見られる現象。

米国と中国との大国の間でバランスをとるシンガポール

シンガポールは人口561万人の小国でありながら、埋没せず独立を維持するため、地理条件や経済関係を活かして、大国の間でのバランサーを志向する外交方針です。大国従属に陥らず、大国や近隣諸国の中でバランサーとなる政策をとってきました。
安全保障や外交政策では米国と強固な結びつきを持ち、経済的には中国を成長エンジンにしながらも、依存しない絶妙な舵取りを行っています。
uniunichan.hatenablog.com

南シナ海での中国との摩擦

「航海の自由」と「法の支配」

中華系移民が国民の3/4を占めるシンガポールですが、移民4世以降が国民の中心となってきているため心理的距離がおかれ、増えすぎた中国人移民に国民感情として必ずしも歓迎していないのが実態です。そして政治的にも、南沙諸島問題への扱いで、中国政府系機関紙 環球時報と在中国シンガポール大使館との間で、議論が公開書簡で起こっています。

産経: 「法の支配」訴え屈さぬシンガポールに中国がジリジリと圧力…環球時報は「反省」を要求 「最大の貿易国をつまずかせるつもりか?」
Today: Singapore rebuts newspaper report on South China Sea ruling

シンガポールによる南沙諸島への関心は、領土問題の当事国ではないのでどの国にも加勢はしないとしながらも、南シナ海での「航海の自由」を維持できなければ、貿易国として国益に関わるとの考えがあるためです。また、シンガポールは、紛争は「法の支配」のもとに客観的に解決されるべきとの考えです。
ハブ国家であるシンガポールが繁栄するには、周辺貿易国が活発に活動できる平和な状態が望ましいです。アジアが平和であるためには、(中国のみが存在感を持つのではなく)アメリカの積極的なアジアへの関与が必要だとリー首相は明言しています。また、日本は日米安全保障条約を通じて、アジアで存在感を持って欲しいと、発言してきています。
uniunichan.hatenablog.com

環球時報は、シンガポールへの非難の中で、「"中国から経済的な果実を得ているにもかかわらず"、安全保障と政治的課題について米国と日本に同調するシンガポールの戦略は、初めから失敗が分かっている」という匿名の識者のコメントを載せています。
Today: Global Times continues drumbeat of criticism against Singapore

TPP拒否のトランプ氏と、推進してきたシンガポール

ハブ国家のシンガポールは、貿易推進のためにTPPをすすめてきました。しかしながら、米国雇用を守ることを理由に、PTTの否定が、トランプ政策の目玉の一つです。トランプ氏は「シンガポールのような国々はアメリカの仕事を盗んでいる」と発言しています。バクスターヘルスケアが199人を解雇し、仕事をシンガポールに移転したとの主張です。
Straits Times: Countries like Singapore stealing US jobs: Trump
また、法人税を15%に下げる、というトランプ政策は低税率で企業を誘致してきたシンガポールのお株を奪うものです。
TRUMP: TAX PLAN

米国にも中国にも依存せずに、自国の独立を保ちたいシンガポールにとっては、今後ますます難しい舵取りを迫られることは間違いありません。

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