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シンガポールのジカ熱/ジカウイルス感染症

シンガポールで一時急速に拡大していたジカ熱が、2016年は458人の患者で収束しました。感染者は、9月283人、10月43人、11月は12人、12月は4人です。
本記事は、英語が不得手や多忙すぎる等の理由で、シンガポールの現地記事や政府広報を確認できない人を、読者に想定しています。現地政府広報を確認できる人は、確認方法を書いていますので、そちらを参照し、この記事は読まないで下さい。
本記事の最終更新日は2017年1月25日です。

ジカ熱とは

筆者によるまとめ
  • ジカ熱で発症者は2割です。
  • ジカ熱の感染で深刻な影響があるのは、妊婦の胎児のみです。胎児が小頭症になる可能性があります。
  • 自分の症状は軽度でも、感染することで蚊を媒介して、他人、特に妊婦に感染させない注意が必要です。
  • 8割は感染しても無自覚なので、気付かずに感染を広めている可能性があります。

症状は?

ジカウイルスに感染してから発症するまでの期間(潜伏期間)は2~12日です。2~7日で、2割の人に発症すると言われています。デング熱やチクングニア熱より軽症と言われています。

搔痒 (そうよう): かゆい
眼窩 (がんか): 頭骨の前面にある,眼球の入っているくぼみ。

ジカ熱は何が怖いの?

ジカウイルスに感染すると、稀にギラン・バレー症候群となったり、妊婦が感染すると生まれてくる子どもが小頭症などの障害を持ったりする可能性があることが分かっています。

小頭症は何が怖いの?

小頭症は、赤ちゃんが極端に小さい頭で生まれるか、出生後に頭の成長が止まる稀な疾患です。小頭症の赤ちゃんは、成長につれててんかん、脳性まひ、学習障害、難聴、視覚障害などを起こす可能性があり、小頭症に対する特別な治療法はみつかっていません。

感染した母親から産まれる子どもの1%から13%ぐらいが小頭症を来すということです。

ギラン・バレー症候群は何が怖いの?

ギラン・バレー症候群は、手や足の力が入らなくなり、しびれ感が出た後、症状が全身に広がる病気です。比較的急速に進行することが特色で、発症後1日~2週間で筋力低下が全身に及びます。重症の場合は、声が出にくい、食べ物が飲み込みにくい、呼吸が苦しいといった症状を起こし、時には人工呼吸器が必要になることもあります。症状が軽い場合は自然に回復することもありますが、多くの場合は入院治療が必要になります。

ジカ熱はどのように感染しますか?

ジカウイルスを持った蚊がヒトを吸血することで感染します(蚊媒介性)。
感染したヒトから他のヒトに直接感染するような病気ではありません。しかし、輸血や性行為によって感染する場合もあります。
感染しても全員が発症するわけではなく、症状がないか、症状が軽いため気付かないこともあります。
妊娠中の女性が感染すると胎児に感染する可能性があります。
流行地域からの帰国後の、妊娠を予定しているカップルや女性は、ジカウイルスに感染することがないよう、最低8週間(男性に症状が見られた場合には6か月)、妊娠を控えることを強く推奨されます。

つまり、
「人 → 蚊 → 人」
と感染します。感染の大半は蚊が媒体です。「人→人」に通常の接触では感染せず、性行為や輸血での感染は少数です。性行為での感染は、コンドームの適切な利用で防げます。影響が大きいのは
「蚊/性行為/輸血 → 妊婦 → 胎児 (→小頭症/ギランバレー症候群)」
と胎児が小頭症になるケース
です。
ジカ熱が突然拡大するのは、自覚症状がない人が8割にものぼり、気付かずに蚊を媒介して他人を感染させることが多いためです。

「流行地域から帰国後に最低8週間妊娠してはいけない」という厚労省の勧告は、WHO(世界保健機関)のガイドラインに基づいています。ジカ熱の潜伏期間は2~12日に過ぎませんが、根拠は下記です。

米国のCDCは、「もし、女性がジカウイルスに感染していることが診断されたり、感染したかもしれないと思ったら、それから8週間は妊娠しないように注意すること」、「男性では、6か月間はコンドームを使用してパートナーに感染させないように注意すること」を求めています。
6か月という期間に驚かれるかもしれません。これは、ある40代前半の感染した男性についての追跡試験において、発症した日から血液からは9日、尿からは15日、唾液からは45日、そして精液からは181日までウイルスが検出されたという結果が出ているからです。他にも治癒して62日後の男性の精液からウイルスが検出されたという報告がありますが、いまのところ根拠となっているのは症例ベースにすぎません。今後、新たなエビデンスが出てくるかもしれませんが、今のところ厳しめに対策せざるをえないと思います。

治療方法はありますか?

ジカウイルスに対する特有の薬は見つかっておりません。対症療法となります。

どう予防すればよいでしょうか?

ジカウイルス感染症には有効なワクチンもなく、蚊に刺されないようにすることが最善の予防方法です。

  • 外出する際には長袖シャツ・長ズボンなどの着用により肌の露出を少なくし、肌の露出した部分や衣服に昆虫忌避剤(虫除けスプレー等)を2~3時間おきに塗布する。昆虫忌避剤は、ディート(DEET)やイカリジン等の有効成分のうちの1つを含むものを、商品毎の用法・用量や使用上の注意を守って適切に使用する。一般的に、有効成分の濃度が高いほど、蚊の吸血に対する効果が長く持続すると言われている。
  • 室内においても、電気蚊取り器、蚊取り線香や殺虫剤、蚊帳(かや)等を効果的に使用する。
  • 規則正しい生活と十分な睡眠、栄養をとることで抵抗力をつける。
  • 軽度の発熱や頭痛、関節痛や結膜炎、発疹等が現れた場合には、ジカウイルス感染症を疑って、直ちに専門医師の診断を受ける。
  • 蚊の繁殖を防ぐために、タイヤ、バケツ、おもちゃ、ペットの餌皿等を屋外放置しない、植木の水受け等には砂を入れるなどの対策をとる。

ジカ熱への予防接種はありません。媒介となる蚊を繁殖させない、蚊が繁殖する水たまりを作らないことが重要な予防であり、シンガポール政府も水たまりの除去に必死になっています。。

シンガポールでの状況と、シンガポール政府対応

シンガポールでの感染地域


※上記は筆者作成のまとめ地図

感染地域 Aljunied Crescent / Sims Drive / Kallang Way / Paya Lebar Way Bedok North Avenue 3 Joo Seng Road
感染が疑われる地域 Khatib Camp Sembawang Drive Kranji Road Joo Chiat Place Senoko South Road Toh Guan Road EastLor 101 Changi Elite Terrace Ubi Crescent Jalan Raya Circuit Road
感染者の住居/職場 Punggol Way Aljunied Tagore Avenue Yishun Street 81 Harvey Crescent

シンガポール政府のこれまでの対応

日本政府の対応

日本政府の見解は、「妊婦は可能な限りシンガポール渡航をお控えください」というものです。
下記のアナウンスがされています。

2016年8月29日 外務省: シンガポールにおけるジカウイルス感染症の発生(妊娠中又は妊娠予定の方は可能な限り渡航をお控えください。)(その2)
2016年9月1日 外務省: シンガポールにおけるジカウイルス感染症の発生(妊娠中又は妊娠予定の方は可能な限り渡航をお控えください。)
2016年9月2日 外務省: (感染症スポット情報)シンガポールにおけるジカウイルス感染症の発生(妊娠中又は妊娠予定の方は可能な限り渡航をお控えください。)(その3)

これらはメールでも通知されています。メールを受け取るには、在外邦人を対象にした「在留届電子届出システム(ORRnet)」での登録が必要です。

世界での感染地域は?

2016年8月25日時点で、世界70ヶ国で感染が報告されています。主に中南米と東南アジアです。
f:id:uniunikun:20160901172056p:plain

FAQ よくある質問

ジカ熱の最新情報はどこで手に入れられますか?

最も信頼できる情報源はシンガポール保健省・シンガポール環境庁サイトです。それに加えて、シンガポール地元紙・地元テレビも信頼できます。情報のソースは、必ず確認して下さい。

    • シンガポール環境庁 (NEA): Zika Clusters (患者数や集団感染地など最新情報)
    • シンガポール政府 (gov.sg): Zika Virus
    • シンガポール保健省 (MOH): Press Release
    • Straits Times: Zika
    • Channel News Asia: zika
    • Today: zika

(本ブログ記事も含めて)日本語情報やうわさ話はゴミです。正確性に欠け(日本人ブログやうわさ話)、情報が遅く(日本政府勧告)、居住民にはインパクト判断が大雑把すぎる(日本政府勧告で妊婦への渡航勧告が、政府が責任をとることを避けられるように、シンガポール全域になっている)ためです。「私も知らなかったのですが」「だそうですよ」(出所記述なし)という言動は、本人は善意なのでしょうが、デマになる恐れがあり避けるべきです。

いつジカ熱は収束しますか?

シンガポール政府は、収束見込みを発表していません。

ジカ熱はシンガポール全体に広まりますか?

シンガポール政府は、拡大見込みを発表していません。複数の患者が発生した区域は、アナンスされています。
ジカ熱は東南アジア全体に拡大しています。タイでは国内10県、年初来の感染者数が97人と発表されています。カンボジア、ラオス、ベトナムでも感染者が出ています。東南東南アジアにはジカ熱の感染例が以前にもあり、ここへきての感染拡大が南米での流行と直接関係あるかははっきりしません。

シンガポールから一時退避すべきでしょうか?渡航を避けるべきでしょうか?

渡航を避ける必要はありません。
ジカ感染地域への勧告はWHO(世界保健機関)が出しており、日本政府からの勧告もそれに準拠したものになっています。一部を訳します。

利用可能な証拠に基づき、WHOではジカウイルス感染国、地域、領域への、一般的な旅行や貿易制限は出していない。
Based on available evidence, WHO has issued no general restrictions on travel or trade with countries, areas and/or territories with Zika virus transmission.

妊婦でなければ、退避や渡航延期は不要です。自分が感染することで、蚊を媒介して、他人、特に妊婦を感染させない注意を払って下さい。

私は妊婦です。シンガポールから一時退避すべきでしょうか?渡航を避けるべきでしょうか?

WHOでは妊婦の渡航自粛を勧告しています。

しかしながら、ジカウイルスが発生している地域への旅行は妊婦はさけるように、WHOは勧告する。ジカウイルスに感染した妊婦から生まれる子どもに、小頭症や先天的奇形のリスクが増すことに基づいている。
However, WHO is advising pregnant women not to travel to areas with ongoing Zika virus oubreaks. This advice is based on the increased risk of microcephaly and other congenital malformations in babies born to pregnant women infected with Zika virus.

感染地域に居住や職場があれば、一時退避を含めて検討して下さい。感染地域が職場であれば、在宅でのリモートワークが可能か職場と交渉して下さい。
感染地域外の居住や職場であれば、肌を露出せずに防虫剤を利用し、感染地域を毎日確認して下さい。発熱などジカ熱の症状が出れば、即座に通院して下さい。
ジカ熱の発生地域はシンガポール全域と、日本政府は解釈しています。そのため、シンガポールへの妊婦への渡航自粛勧告を出しています。

日本で購入した防虫剤はシンガポールの蚊にも効果がありますか?

蚊の忌避剤です。DEET、または Picaridin(ピカリジン、イカリジン)入りのものが薦められます。また、蚊のみならず多くの虫を忌避する効果のある薬剤(permethrin,ペルメトリン)が入ったジャケットやスカーフ類も市販されています

ディートやイカリジンは、シンガポールでのジカ熱での外務省文書にも有効と記載されています。しかし、シンガポールの蚊は、日本と違って、これまでのデング熱対策でのペストコントロールを生き残っているため、薬剤により抵抗があると一般的に言われています。

防虫剤は結局どれを買えばいいのですか?ディートとかイカリジンとか分かりません。

日本販売の製品では、下記2つのいずれかを選んで下さい。

現時点では日本で数少ないイカリジンが15%配合の製品だからです。今後、イカリジン15%、ディート30%以上配合の製品が他にも販売されれば、それらも選択肢になります。詳細は下記を参照下さい。

シンガポールでのジカ熱の時系列

日にち 出来事
2016年5月13日 ブラジルに渡航していた48歳男性がジカ熱に感染をシンガポールで確認(共同)
2016年8月27日 ジカ熱感染地域への渡航歴がない人の、国内感染を初めて確認。ほか3人の検査結果待ち。(AFP)
2016年8月28日 ジカ熱国内感染に40人の新規患者を確認し、合計41人になる。Aljunied Crescentで居住か就労をしていた。(AFP)
2016年8月29日 ジカ熱国内感染に15人の新規患者を確認し、合計56人になる。Aljunied CrescentとSims Driveで集団発生。(AsiaX)(日本大使館和訳)
2016年8月30日 ジカ熱国内感染に26人の新規患者を確認し、合計82人になる。新規感染確認者の5人が、Kallang WayかPaya Lebar Wayの居住者か就労者。(AsiaX)(日本大使館和訳)
2016年8月31日 ジカ熱国内感染に24人の新規患者を確認し、再検査で追加確認した9人を加えて、合計115人になる。新規感染者はBedok North。新規感染の1人はJoo Seng Road、1人は北東部Punggol Wayの住民。初の妊婦1名の感染者(MOH)(日本大使館和訳)
2016年9月1日 ジカ熱国内感染に31人の新規患者を確認し、再検査で追加確認した5人を加えて、合計151人になる。新規の3人は新しい場所:Tagore Avenue、Yishun Street 81、Harvey Crescent。2人目となる妊婦の患者を1人確認。 (MOH)(日本大使館和訳)
2016年9月2日 ジカ熱国内感染に38人の新規患者を確認し、合計189人になる。新規の4人は、これまでの発生地点との関連性がないが、居住地や職場は非開示。(MOH)(日本大使館和訳)
2016年9月3日 ジカ熱国内感染に26人の新規患者を確認し、合計215人になる。新規の2人は既存の感染地と関係がない住居勤務地。これまでに国内で確認されたジカ熱は、南米からでなく、アジア原産で東南アジアで拡大している血族と科学技術庁は推定。(MOH)(日本大使館和訳)
2016年9月4日 ジカ熱国内感染に27人の新規患者を確認し、合計242人になる。以前報告した症例と今日の症例を含む新しい感染地帯の可能性がある。2人がJoo Seng Roadに住んでおり、もう1つの症例では既存の感染地帯と関連がない。(MOH)(日本大使館和訳)
2016年9月5日 ジカ熱国内感染に16人の新規患者を確認し、合計258人になる。11人は既存の集団発生地と関係しており、1人はJoo Seng Roadと関係し、残り4人は既存の集団発生地と関わりがない(MOH)。9/6以降、MOHは疑わしい患者を検査結果がでるまで隔離を求めない。シンガポールで発生しているジカ熱は穏やかで、医師の判断が特になければ、入院は不要だ。ジカ熱検査の国民とPRへの補助金を拡大する。(MOH)(日本大使館和訳)
2016年9月6日 ジカ熱国内感染に17人の新規患者を確認し、合計275人になる。10人は既存の集団発生地と関係している。今日確認された1人と以前の1人はBishan Street 12に住み、新しい集団発生地の可能性があり、ベクターコントロールを実施する。(MOH)
2016年9月7日 ジカ熱国内感染に8人の新規患者を確認し、合計283人になる。3人は既存の集団発生地と関係している。今日確認された1人と以前の1人は Elite Terraceに住み、新しい集団発生地の可能性があり、ベクターコントロールを実施する。残4人は既存の感染地と関連がない(MOH)(日本大使館和訳)
2016年9月8日 ジカ熱国内感染に9人の新規患者を確認し、合計292人になる。6人は既存の集団発生地と関係している。今日確認された1人と以前の1人は Ubi Crescentに住むか働いており、新しい集団発生地の可能性があり、ベクターコントロールを実施する。(MOH)(日本大使館和訳)
2016年9月9日 ジカ熱国内感染に12人の新規患者を確認し、合計304人になる。1人は既存の集団発生地と関係していない。(MOH)(日本大使館和訳)
2016年9月10日 ジカ熱国内感染に14人の新規患者を確認し、合計318人になる。8人は既存の集団発生地と関係しており、2人はJalan RayaかCircuit Roadと関係し、残り4人は既存の集団発生地と関わりがない。(MOH)(日本大使館和訳)
2016年9月11日 ジカ熱国内感染に11人の新規患者を確認し、合計329人になる。1人は既存の集団発生地と関係しており、残り10人は既存の集団発生地と関わりがない。(MOH)(日本大使館和訳)
2016年9月12日 ジカ熱国内感染に4人の新規患者を確認し、合計333人になる。(MOH)本日からシンガポール保健省・環境庁のプレスリリースがなくなり、環境庁サイトでのステータス更新になる。
2016年9月13日 ジカ熱国内感染の新規患者はゼロで、合計333人に。 (Today)
2016年9月14日 ジカ熱国内感染の新規患者は8人で、合計341人に。 (ST)
2016年9月15日 ジカ熱国内感染の新規患者は14人で、合計355人に。Fidelio Streetが新しい集団発生地の可能性がある。 (ST)
2016年9月16日 ジカ熱国内感染の新規患者は14人で、合計369人に。Sengkang CentralとSengkang East Avenueが新しい集団発生地の可能性がある。(ST)
2016年9月19日 過去3日間(土~月)のジカ熱国内感染の新規患者は12人で、合計381人に。Hougang Avenue 7が新しい集団発生地の可能性がある。(ST)
2016年9月23日 ジカ熱国内感染の合計387人に(Today)
2016年10月5日 10月5日の一週間で、ジカ熱国内感染の新規患者は2人で、合計401人に。(ST)
2016年10月18日 ジカ熱発生の最初で最大の集団発生地だったアルジャニードクレセントとシムズドライブ地域で、2週間新規患者が出ずに発生が収束した。この地点で298人の患者が発見された。シンガポール全体では先週火曜日に2人、土曜日に11人の患者が報告された。残る集団発生地2つはUbi Avenue 1とJalan Chengkak/Jalan Rayaだ。(Today)
2016年12月16日 ジカ熱の最後の感染地域が除去になった。べドック北通り3で、7人の感染者が報告されていた。12月10日が最後のジカ熱感染者で、その後の報告はない。国立環境局NEAの発表。(ST)
2017年1月9日 2016年12月31日時点で458人のジカ熱患者が報告された。9月は283人、10月43人、11月は12人、12月は4人と減少。17人の妊婦がジカ熱と確認され、これまで4人が出産したが、異常な兆候はない。子どもは3歳になるまで観察される。(シンガポール保健省)


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全員が中国帰化選手のシンガポール五輪卓球~移民大国の複雑な心境~

シンガポール卓球チームは全員が中国からの帰化選手

リオ五輪の卓球女子団体で、日本が3位決定戦を制し銅メダルを獲得しました。3位決定戦の相手はシンガポール。シンガポールは経済国として知られていますが、都市国家であり国民が338万人と極めて少なく、スポーツには選手の母集団が薄く不利です。今回のオリンピック出場選手は、日本からは338人ですが、シンガポールは25人しかいません。
前回のロンドン五輪・前々回の北京五輪で、シンガポールがメダルをとったのは卓球でした。ロンドンでは女性個人が銅メダル、女性団体が銅メダル、北京では女性団体で銀メダルをとっています。
活躍を応援する人ももちろんいますが、国民の反応は冷ややかでした。メダリストの全員が外国籍からの帰化選手だったからです。リオ五輪では、シンガポールから男女含めて5人の卓球選手が出場していますが、全員が中国からの帰化選手です。

シンガポールの五輪卓球メダリスト
選手名 出身 大会:競技:メダル
フェン・ティアンウェイ 中国 黒竜江省 ロンドン:卓球個人:銅、ロンドン:卓球団体:銅、北京:卓球団体:銅
リ・ジャウェイ 中国 北京 ロンドン:卓球団体:銅、北京:卓球団体:銅
ワン・ユエグ 中国 遼寧省 ロンドン:卓球団体:銅、北京:卓球団体:銅

競泳バタフライ100メートル金メダリスト ジョセフ・スクーリング氏

ところが、今回のリオ五輪でシンガポール史上初の金メダリストが生まれました。競泳バタフライ100メートルのジョセフ・スクーリング選手です。米国マイケル・フェルプス選手を破っての堂々の金メダルです。
スクーリング氏は、シンガポール生まれの21歳。シンガポールの学業エリート校アングロ・チャイニーズ・スクール (インディペンデント) に学んでいましたが、14歳でトレーニングのため渡米。現在はテキサス大学の学生です。シンガポールは世界一高額金メダル報奨金S$100万 (約8千万円) を払いますが、スクーリング氏のトレーニング費用は、これまでに親が数億円を負担していると言われています。
初の金メダリストの誕生に、シンガポールは国民も政府も湧いています。例えば、こんな感じ。

すさまじい盛り上がりです。
凱旋パレードでの熱狂。


普段は僕がセルフィーをお願いされるんだけど、今回は僕がお願いしたんだ」シンガポールのリー・シェンロン首相

帰化選手への逆風

これまでも帰化選手に風当たりはありましたが、メダルを逃したこと、自国生まれの金メダリストが出きたことで、更に議論が沸き起こっています。シンガポールで野党を支持するウェブメディア等からの意見を取り上げます。

  • シンガポールが中国から買った卓球チームは、自国で育成された日本に負けた。
  • 手当や中国への帰国費用など帰化選手には良い待遇が与えられているが、自国生まれ選手は経済困窮しクラウドファンディングで遠征渡航費を捻出することもあるのは不公平だ。
  • 男子帰化選手には、自国生まれ選手に義務付けられている徴兵が免除されている。
  • 帰化選手の強化費用を、自国生まれの選手にあてるべきだ。
  • 五輪メダリストの帰化選手リ・ジャウェイ氏は、引退後中国に帰った。
  • 帰化選手がメダルをとるより、自国生まれ選手がたとえ成績は冴えなくとも正々堂々と戦うことを誇りに思う。

States Times Review: Singapore’s China Table Tennis Athletes crash out of Olympics, zero medals won
States Times Review: Olympic Gold Medalist Joseph Schooling: Singapore is “super hard” to live in and train

シンガポール居住者は3/4が中華系で中国人と親和性がある程度ありますが、人口の1/3が外国人にも増加したことで、中国人移民に対しても国民はストレスを明らかにしています。
経済であれば多くの外国人や帰化した国民が活躍し、外国人に比較的寛容な移民国家のシンガポールですが、スポーツでは一転してかたくなになるのが興味深いです。経済でも排外主義がじわじわと広まっていますが、それでも「外資が連れてくる外国人は、シンガポール人の雇用も作っている」「外国人がいるから、シンガポール人の人手が得にくい仕事を頼める」「シンガポールを好きな外国人がシンガポールに帰化する」という認識があるのが主流です。ところがスポーツになると、順位や記録といった成果への評価より、感情論の声が大きくなります

シンガポールでは、優れた外国人運動選手が国籍を取得して帰化するための特別なスキームがあります (Foreign Sports Talent Scheme: FST)。その一方で、シンガポールでは重国籍は許されていません。帰化選手は以前の国籍を放棄してシンガポール国籍を取得しており、単に出場機会や報酬のみでなく腹をくくっているはずです。

リ・ジャウェイ氏は選手でいる時に「なぜシンガポールに来たのか?あなたは自国生まれ選手の成長を窒息させている」「なぜ中国に住みつづけなかったの?」と街中で聞かれたと話しています。その時のリ・ジャウェイ氏の答えは「私はシンガポールが好きだから」とだけ答えたと言っています。国の報奨金制度でS$127万 (約1億円) を7年間で稼いでいますが、「私は傭兵じゃない」とも主張しています。
Straits Times: I'm no mercenary: Li Jiawei

なぜ帰化選手に共感できないのか

帰化選手に共感できないのは、シンガポール人としてのアイデンティティを見つけられないことが理由と、野党支持のウェブメディアが指摘しています。

これらを選手に見出した時、シンガポール人のアイデンティティとして共感するとのことです。
The Online Citizen: That mixed feeling about Foreign Talent Scheme for Olympic medals

国境がなくなる世界へ ~才能ある人から流動化~

  • シンガポールで生まれ、海外でトレーニング (スクーリング氏)
  • 海外で生まれ、シンガポールでトレーニング (シンガポール女子卓球)

シンガポールではこの2つを区別し、前者には強い共感をいだき、後者には冷ややかです。
しかしながら、この2つの違いは決定的でしょうか。スクーリング氏は中学生までをシンガポールで過ごしてから海外に移りましたが、物心が付く前に海外に転出していれば、国民の反応はどうだったでしょうか。帰化選手が、幼少期にシンガポールに渡っており、地元食を好み、シンガポールの教育制度や徴兵を経ていれば、国民の反応はどうだったでしょうか。
また、トップアスリートの帰化選手が来ることで、自国生まれ選手の出場チャンスは減りますが、才能が輸出されるとその地での競技レベルは向上します。自国育ちの選手育成の種をまいているのが帰化選手です。スクーリング氏は高度人材の流出であり、帰化選手は高度人材の導入という解釈もできます。つまり、帰化選手の方が国に貢献している面もある、と考えられます。
帰化選手が招致されず、自国生まれ選手に出場枠が渡り「自国生まれ選手が堂々と戦うことを誇りに思う」と考えてみたところで、メダルや記録をとれず成績がふるわなければ、国内で競技自体が注目されないでしょう。国の支援もスポンサーも減少し、一般国民は「誇りに思う」以前に競技が行われていることも知らなくなるでしょう。スポーツ選手の移民活用が1993年に始まって20年以上たつにもかかわらず、オリンピックに出場できる卓球選手が帰化選手のみでは、自国生まれ選手育成にどう育成しているのかという疑問はありますが、シンガポール卓球協会 (STTA) もバランスで苦渋の決断をしているはずです。

国籍問題で明らかなのは「優秀な人材から流動化していく」ということです。経済でのグローバル人材でもそうですが、それが世界ランキングで可視化されるようなスポーツ選手でも同様で、元中国籍選手が世界中にいる卓球はその最前線だ、ということです。
国籍問題がおきるのは、オリンピックの出場資格が「世界ランキング上位X位まで」ではなく国単位だからです。それによって、選手は国から強化支援を得ることができていますが、帰化では「どこの国の選手なんだ」という事態にもなります。

オリンピックは国対抗でない

国旗掲揚・国歌斉唱があるので勘違いされがちですが、オリンピックは国対抗ではないと、オリンピック委員会自身が言っています。

オリンピックは国対抗ではないの?

「オリンピック競技大会は、個人種目もしくは団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない」オリンピック憲章の第9条には、こう明記されています。
オリンピック中は毎日、国別メダル獲得表が新聞に載りますが、これは読者の関心を高める一助として、メディアが勝手にやっていることで、これについても憲章は「IOCはいかなるものであっても、国別の世界ランキング表を作成してはならない」と規制しています(第71条の1)。
また、開閉会式の入場行進で使われる旗、表彰(メダル授与)で使われる旗、演奏される音楽も、規定上は国旗、国歌ではなく「各NOCの旗/歌」(第69条、70条附属細則)となっています。
要は、オリンピックは、個人の努力の成果をためし、人種・宗教・政治等の国家の枠を超えた相互理解、国際親善を推進するのが大きな目的なので、国対抗になると国家意識が過熱し、逆効果になることを戒めているわけです。

「国対抗でない」というのはオリンピックの理念ですが、オリンピック委員会がこの理念を伝える熱心さは、オリンピック商標取り締まりほどではないように見えます。しかしながら、「国対抗でない」「国家の枠を超えた相互理解」という理念が、帰化選手や重国籍選手の増加というグローバル化の進展で、オリンピック委員会が努力せずとも達成される可能性がでてきました。
現在、オリンピックは理念とは反して事実上は国対抗であるからこそ盛り上がっており、オリンピック委員会も国対抗である現状に有効な対策をうっていません。今後更にグローバル化進展で選手国籍が混沌とすることで理念を達成し、応援する感情を各国民が失いオリンピック人気が凋落すれば、皮肉な状況になります。
「母国出身選手を応援する」ではなく、「素晴らしい競技をする世界中の選手を応援する」ことでオリンピックを楽しまないといけない転換点が近づきずつあるかもしれません。


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国民の1%が参加する建国記念パレードNDPをシンガポールで見てきた

シンガポールで毎年8月9日はナショナルディ (National Day)。建国記念日で祝日です。「建国記念日?それがどうしたの?」と日本に住んでいると思うかもしれませんが、シンガポールのナショナルディは、ノリは米国の独立記念日に近いです。日本の建国記念の日は初代天皇の神武天皇の即位日が根拠で、「たくさんある素通りする祝日の一つ」で盛り上がりません。一方、シンガポールでは、祝賀ムードが強いです。通りのあちこちに「ハッピーバースディ、シンガポール」といった飾りが政府主導で行われます。

ナショナルディの歴史

1965年8月9日、シンガポールはマレーシアから独立しました。「独立」というと響きが良いのですが、マレーシアから独立を勝ち取ったわけでなく、マレーシアから追放されての独立という珍しいケースです。
太平洋戦争で日本がシンガポールを占領し、戦後はマレーシアの一部としてシンガポールは英国領植民地に戻りました。1959年にシンガポールは英国自治領となり、1963年にマレーシア連邦の一角を結成します。
ところが、マレー人優遇政策をしたいマレーシアと、中華系が過半数を占め、民族を平等に扱いたいシンガポールとの間で摩擦が激化。シンガポールとマレーシアの両首脳が、シンガポール独立で合意に至ることになります。独立会見演説で、当時シンガポール首脳だったリー・クアンユー氏の涙は有名です。この独立を発表し、独立した日が1965年8月9日です。
www.youtube.com

ですので、中華系が人口の3/4を占めることから、「中国人がマレー人をのっとった国がシンガポールだ」という理解をしている日本人がたまにいますが、それは間違いです。シンガポール住人はマレーシアから追い出されたのです。リー・クアンユー氏の涙は、迫り来る困難を予期した涙です。
今日もシンガポールまみれ: シンガポール あるある FAQ

ナショナルディパレード NDP

追放されて独立したシンガポールは、独立翌年の8月9日にナショナルディにパレードを初めます。これが今年まで毎年続いています。今年は建国51周年ですので、50回目のナショナルディパレード (NDP) です。現地での観覧や、テレビ中継、ネット中継があります。

国威発揚

シンガポールはマレーシアの一部だったのが政治的に切り離されたため、「シンガポール人」のアイデンティティに欠き、中華系・マレー系・インド系という民族の寄せ集めになることを、リー・クアンユー首相は当時恐れていました。国民意識を持たせるのに使われた主要なツールが、ナショナルディと、1967年に施行されたナショナルサービス (NS)です。NSでは軍隊・警察・消防救急のいずれかに配属されますが、大半は軍です。18歳の全ての男子国民と永住者が対象です。
ナショナルサービスは英国軍の撤退での戦力の空白を埋めるために始まりました。しかし現在では、兵力が整い現実的な戦争の危機が見えておらず、兵器の近代化で徴兵程度の練度の兵の活躍が疑われる中で「外国からのプレッシャーを意識し、同じ釜の飯を食って、集団生活をしつける」ことでシンガポール人としての国民意識を養成する意味合いが大きくなっています。自分達の子どもや兄弟がNSにいくことは、本人のみならず家族・親族を含め、国防や国を意識することにもなります。
ナショナルディパレードは、主催の一つが軍で、軍事色もあります。日本人が「パレード」と聞くとつまらなそうですが、行事全体を通したエンターテイメント色が強いです。オリンピックの開会式に色合いが近いかもしれません。
軍=国防やパレードへの参加・観覧に加えて、ナショナルディには国民意識を持たせる引き締めが行われてきました。有名なのは、住宅街、とくに公団であるHDBでの国旗掲揚です。政府主導で行われてきたこの国旗掲揚は壮観で、日本人に「シンガポールはやっぱり"明るい北朝鮮"なんだ」という勘違いをさせるのに十分なインパクトはあります。(シンガポールは普通秘密選挙があるので、北朝鮮とは政治制度が根本的に異なります)

冷めてきたシンガポール人

低下する国旗掲揚率

徴兵やナショナルディを使って国民意識の養成に成功したシンガポールですが、ナショナルディへの関心は薄れつつあります。これは、独立から51年がたち、世代交代で独立を前提とする層が多数になってきたことや、関心や趣味の多様化でナショナルディの日にも自分達の趣味をする人が増えてきたことです。
その現れの一つが、国旗掲揚の減少です。国旗掲揚が多く見られるのは、大通りの一部などに限られるようになっています。この現象は、シンガポールの最有力紙であり政府系でもあるストレイトタイムズ紙も記事にしています。
Straits Times: Why fewer flats seem to be flying the flag

祝日を利用して海外旅行にでるシンガポール人

ナショナルディとはいえ、通常の休日と一緒で、趣味や旅行に使う人が増えています。そのためマレーシアとの陸路国境は大混雑となり、飛行機は他の祝日同様に売り切れて価格が上昇します。強権と言われるシンガポール政府ですが、この動きを戻すことはできない状況です。
Straits Times: Expect heavy traffic, delays at Woodlands, Tuas checkpoints over the National Day period

2016年ナショナルディパレード

ナショナルディを取り巻く環境は厳しくなってきていますが、現在でもパワーコンテンツになっているのがNDPです。

チケット入手方法

建国記念行事なので基本的に国民が対象ですが、実はNDPのチケットを持っていれば、誰でも入場でできます。ですので、外国人でもシンガポールに住んでいなくても、チケットを入手できれば閲覧可能です。私が知ってるチケットの入手方法はこの4つ。
1. 国民と永住者(PR)は政府に抽選を申し込めます。人気でなかなか当たりません
2. チケットは無償譲渡可能。有償での売買はダメ
3. NDPスポンサー企業が招待
4. 国会議員は参加が義務

NDPは30億円のメガ予算

入場は無料です。公務員は兼業になり測定難しいので人件費を除いて、2011年は費用が S$1,711万 (11億円)でした。それが昨年はS$4,050万(32億円)、今年の予算はS$3,940万(31億円)となっています。昨年は建国50周年で派手にやったことが理由ですが、今年はナショナルスタジアムを会場にしたことが理由です。

爆誕、ナショナルスタジアム

ナショナルスタジアムは、昨年に完成したばかりで、5万5千人を収容可能な開閉式屋根の大競技場です。シンガポールは人口が553万人しかいない国なので、人口の1%をも収容できるおばけ施設です。そしてお値段が高い。ここを会場に選び、リハーサルを含めて長期間借りたことで費用が高騰します。もともと、政府は年に45日間無料で借りることが契約上できるのですが、リハーサルのために35日を更に借り、そのためにS$1,000万(8億円)を払ったと言われています。これは長期間に渡る交渉で散々値切った結果で、3倍弱のS$2,600万(22億円)がスタジアムが当初求めていた金額です。
NDPは本番に加えて、リハーサルやプレビューがあり、そのため27万5千人が観覧可能です。
AsiaX: 建国記念日パレードの費用、昨年は1,700万ドル
Straits Times: What price for NDP at Sports Hub?

ファンパック

会場ではお土産が配られます。今年はビニールリュックに入っていました。これを詰めるために、軍から280人もが何日も動員されています。一般公開でのリハーサルでも配布されるため、30万個も用意されました。兵隊さんの苦労を思うと、涙なしには開けられません。
入っているのは、シンガポールが誇る下水処理水の飲水NewWaterや、協賛企業からのおやつや割引クーポン、国旗のフェイスペンディング、式の進行にあわせて点灯する明かりや、SINGAPOREと書かれたタオル、もちろん国旗が含まれます。
クーポンは現地観覧者以外にもeクーポンとしてネットで公開されており、誰でも使えます。バーガーキング、サブウェイ、文東記あたりが使いやすそう。
スタジアムは売店が閉まっており、着席すると簡単に抜けられないので、助かります。国家行事に協賛企業が多数含まれるのが、とってもシンガポール。
NDP 2016: 300,000 funpacks to be given out at NDP 2016
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ポケモンGo!

シンガポールでポケモンGOは8月6日に始まったばかりで、過熱まっさかり。ナショナルスタジアムにはポケモンGOのジムが立っていました。「ナショナルディにジムで熱いバトルをしよう!」というのがFacebookで出まわって、報道される始末。
当日、ナショナルスタジアムで、ポケモンGOのジムもポケストップは消えていて、ポケモンも現れませんでした。NDPの最中に携帯で遊ばないように、政府が依頼して消したのでしょう。。。
Straits Times: Sports Hub a Pokemon Go gym; NDP organisers warn of events that encourage players to hunt Pokemon

式次第

今年のNDPを現地で閲覧できましたので、そのレポートです。
18時開始のところ、16時前に着いたのですが、最寄り駅は既に混雑開始。太鼓叩いたりしてる人がいて既にお祭りムードです。
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インドネシアのバタム島からマリーナベイサンズをロケット弾で撃つ、というなかなかにクリーンヒットしなそうなテロ計画が直前に発覚したこともあり、セキュリティチェックがあります。警察犬がいて、金属探知機が配置され空港レベルです。
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これが5万5千人で埋まったナショナルスタジアム。壮観です。欠席者をどう管理しているのかが気になりました。席はゾーンだけが決まっていて、そのゾーンのなかで自由席です。
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今年のNDPロゴ。スタジアムの巨大ディスプレイに映しだされています。
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パレード前の前座

司会がいます。シンガポールの地上波テレビ局を持つメディアコープの専属アーチストです。そのしきりで、ウェーブをします。国のイベントで5万5千人がウェーブ、楽しい!
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今年のNDPでは障害者が取り上げられており、国民の一人としてみんなで一緒に進もう、という趣旨でした。NDPが進んだ所で愛国歌の歌詞に合わせて手話をしよう、ということで聴覚障害者がステージに立ちみんなで練習。歌は1986年のナショナルディテーマソング"Count on me Singapore"から。

パレード

行進します。去年は屋外なこともあって、軍の機動部隊など最近買った兵器のパレード参加もあったのですが、今年は屋内で兵士のパレードのみ。戦闘機が空をかっ飛ぶものもなし。国会議員が入場します。そして、リー・シェンロン首相が入場。首相の車は白のレクサスLS600hlです。
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お約束になっている巨大国旗をヘリが運搬するのは実施されましたが、スタジアムからは中継のみで実物は見えませんでした。
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スタジアムでは客席を巨大国旗が動いていきます。なかなかの迫力です。
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大統領入場

トニー・タン大統領。シンガポールで大統領は直接選挙で選ばれますが、実権はなく、日本の天皇と同様に儀礼上の存在です。
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ショウ

今年のNDPのテーマは“Building our Singapore of Tomorrow”(明日のシンガポールを創る)です。過去のシンガポールの伝説上の英雄劇が演じられます。その後は、別のストーリーで、50年後のシンガポールが「空中都市になってほしい」と子どもが期待します。
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屋内ですが花火も上がります。スタジアムの外でもあがっていました。
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Pledgeと国歌斉唱

最後は、Pledgeと国歌斉唱です。Pledgeはシンガポール国民の誓いで、学校では毎日暗唱します。これを聞いて「戦前の教育勅語みたいで、全体主義だな」と思うか、「米国の忠誠の誓い(Pledge of Allegiance: 公式行事で暗唱される)と同じで、国を大事にしているな」と思うかは、あなた次第。
シンガポール遺産委員会: National Pledge

最後に大会委員長が謝意を伝えている時に話していましたが、リハーサルに半年かけたとのこと。練度では日本の紅白歌合戦に勝るとも劣らないでしょう。30億円使って、半年練習したイベントが面白く無い訳がありません。もしチケットを手に入れる機会があれば、是非見てみて下さい。テレビ観戦よりずっと面白いですから。
全編は3時間にもなりますが、ネットで動画が公開されています。
www.youtube.com